元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

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予選最終戦は――――

 試合直前。
 
 ルキウス王がいつものように立っている。

 背後には部下。 そして――――

「ブレイク男爵、帰ってもよいのだぞ?」とルキウス王は訪ねた。

「いえ、この1戦だけは必ず見届けねばなりませんので」

「ふっ……大げさではないか? 確かに我が国最大戦力と言われる剣聖グラハムと宮廷魔術師筆頭エレファ……その2人との戦いだが、それだって予選にすぎぬのだぞ?」

 どこか、お道化たようにいうルキウス王だったが、誰もその言葉に笑う者はいなかった。

「しかし、両者共に遅いではないか」

「おそらく、互いに最強を相手にすると戦術を念入りに立てているのでしょ」

「うむ……そう思うか、ブレイク男爵? おっ! 見ろ! 姿を現したではないか!」

 ルキウス王が指さす方角。剣を腰に帯びた長髪の老人が歩いてい来る。

 防具という防具はなし。 およそ戦場に立つ姿ではない。

 しかし、それを誰が指摘できようか? 相手は剣聖であるぞ。

「我が王、エレファさまも、あちらに……」

 ブレイク男爵がいう方向にも老人が姿を現した。 魔術師というよりも、東洋の仙人に近い服装。 白い服に木でできた杖……よく見ればユラユラと空中浮遊しながら進んでいるではないか。

 よく目を細めて見れば、肉体の内部に留めきれない魔力が老人の体を包んでいる。

 これが剣聖 グラハム――――

 これが宮廷魔術師筆頭 エレファ――――

 ここにいる兵士たちは皆、この2人だけで戦局をひっくり返す現場を目にしているのだ。

 溢れる敬意。 そして畏怖――――

 両者は、ルキウス王に膝を付き、頭を下げる。

「構わぬ、頭を上げろ。そして戦いの準備をせよ」

 王の言葉に両者は従い、立ち上がる。 

 確かめるようにグラハムは剣を、エレファは杖を構える。

 そして――――

「では試合を開始する!」

 その宣言に合わせて、グラハムとエレファは動く。

 ルキウス王に向かって――――この戦いはグラハム対エレファ戦ではない。

「さぁ、こい! 最強2人に勝利して、ようやく俺がこの舞台に上がれるのだ!」

 ルキウス王は剣聖と宮廷魔術師の両者と戦い。

 1対2の変則マッチ。

 エレファは『炎よ』と短詠唱魔法で炎を放つ。 

 ルキウス王は回避。 そのタイミングを狙ってグラハムは抜刀術――――高速移動から剣を走らせる。

 それを簡単にルキウス王は受け、鍔迫り合いに似た状況になる。

 しかし、力負けをしたグラハムは後ろ下がるしかなかった。

「うむ、やはり連携も取れている――――さては貴様ら、隠れて練習しておったな」 

「……もはや、王は私の実力を遥かに超えてますので」とグラハム。

「では、次は私の魔法ですかな?」とエレファは詠唱を開始する。

「闇に包まれし、伽藍洞の世界――――光よ祓え――――『閃光魔術《シャイニング》』」

光の魔法。 発動すれば人間が知覚すら許さぬ一撃が――――

「魔術師対策は、魔を放つよりも早く間合いを潰せ。それはお前の教えであろう」

 一瞬で間合いを詰めたルキウスの剣がエレファの首に密着させる。

「お見事。これが1対1なら私の負けでした」

「むっ!」とルキウスは素早く離れた。背後にグラハムが迫っていたからだ。

「剣聖が敵の背後を狙うか?」

「強敵相手に卑怯などと言っていれませんので」

 高速の攻防。剣聖の剣撃をルキウス王は弾き、隙をついてカウンターを狙う。

 グラハムの頬に赤い筋が通った。

「――――っ! 流石に歳ですかね。反応が遅れました」

「懐かしいな。剣聖と宮廷魔術師の2人に泣きながら鍛えられた幼少期を思い出すぞ」

「もう、既に我らの腕を王は超えられております」

「まったくですね」とエレファも同意。

 そんな2人にルキウス王は笑みを見せる。

「うむ……人の頂上に立つ者。王ならば剣も魔も極めなければならない……そうであったな」

「えぇ、本当に我らを――――大きくなられましたな」

「だが、俺はまだ本気を出してはおらぬ――――いくぞ! 覇王流剣術天地切断」

 何が起きたのか? 離れて見ていたブレイク男爵や王の側近たちにもわからない。

 わかるのは王家に伝わる門外不出の剣術。その技を使ったのだろうという憶測。

 ただ、ルキウス王は宙を斬ったようにしか見えない動作だった。 しかし、その直後、グラハムとエレファは驚きの表情を見せたかと思うと2人とも駆け出していた。

 まるでルキウス王に操られるように無防備に接近して――――当たり前のように――――あっさりグラハムとエレファの両者は斬られた。

「うむ、早く……我らの英雄たちに手当を、峰打ちとは言え骨が折れておるぞ」

 何が起きた理解できず、呆然としていたブレイク男爵を含める側近たちは、その声で正気を取り戻し、倒れた2人の元に駆け出した。

「お見事でしたなぁ」と王に背後から話しかけてくる男……いや、白衣の老人がいた。

 その男は狂った科学者マッドサイエンティスト

 かつて、レナとグリアの2人に人工魔物の討伐を依頼した老人だった。

 なぜ、彼がこんな場所に――――しかし王は「おぉ、科学者か」と親しい挨拶。
  
「例の切り札はどうだ?」と王は訪ねる。

「そうですなぁ……調整は8割くらいで。次戦には使用可能となります」

「できれば、次の試合の前に一度は試してみたかったのだがな」

「ご冗談を。あれの使用に耐えれるならば、相手は――――白龍ジュニアか……トール・ソリットくらいかと」

「珍しいな。お主が自分の作品に相応しい者として人を上げるとはな」

「うむ、少し前に彼には痛い目を見せられまして」

「ほう、では復讐戦リベンジマッチか。安心せよ……お主の力も使い、必ず優勝してみせようぞ!」 
 
ルキウス王は必勝を宣言し、次戦へ思いを馳せた。

  


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