元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

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決着 聖・ヨハネ2世対聖・オーク

 この時、ヨハネ2世は勝ち負けよりも――――

(さて、私とオーク……どちらが勝った方が良いのでしょうか?)

 そういう考えにシフトしていた。

 これは、あくまで予選。 スックラ後継者決定戦に出場して優勝しなければ無意味。

(我々の目的は、迷える信徒たちを導くこと。そのためには後ろ盾としての国が国力を低下させる事を防ぐこと……)

 幸運な事に、この時代に戦える聖者が2人いる事。 どちらかが戦い、仮に死んでも1人は生き残る。

(さて、ここが問題です。不老不死の私なら出場して死ぬ可能性はありません。ならば、私が出場するべきでしょうか? それともオークを出場させ、私は永遠に等しい年月を信徒の導きに使うべきでしょうか?)

 ヨハネ2世は天使を呼び寄せた。 それにオークは反応する。

(……見えている? 本来は不可視の天使を見るほどまで力を手に入れた……成長しているのか? ならば――――)

 ヨハネは片手に不死鳥の炎を宿られる。 反対の手に聖剣と化したナイフ。

 そして、天使を先行させる。 時間差をつけた波状攻撃。

 だが――――

 先行させていた天使が動きを止める。 それどころか前進するヨハネの進行方向を防ぐように移動を開始する。
 
 当然、ヨハネは動きを止めざる得ない。

(何をした、オーク? 体術や拳法と言った理合いではない。まだ見せぬ奇跡があると言うのか? ならば――――)

 だが……ヨハネの思考は、そこで途絶える。

 何者かが背後からヨハネの腰を掴んだからだ。

 「――――っ! 誰が!」と困惑する。 戦うべきオークは前方にいるはず。

 (ならば、今――――背後から攻撃を仕掛けてくるのは何者か?)

 だが、背後から捕縛された瞬間、感じた腕力による締め付け。 それは人間の力ではない。

 腹部に収まっている内臓系統が絞めるという単純な攻撃法で多大なる苦痛を生じさす。 

 ならば、きっと――――背後にいるのは聖・オークなのだろう。

 戦術? 戦略? 戦闘思考? ……あるいは打算?

 そういう考えが苦痛の中で消え去っていく。 

(はて? 果たして無の境地にたどり着けたのはいつぶりだろうか?)

 そんな事を最後の思考に残し、ヨハネ2世は浮遊感……そして、体全体に速度を感じていた。

 岩石落としバックドロップ

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 聖・ヨハネ2世は立ち上がってくる。

 だが、両者は構えない。 戦いは終わった。

「私の負けですね。それでは、頑張って勝ち残ってくださいね」

 背を向けて外に出ていく足取り、それにはダメージが見て取れない。

 ヨハネは誰に聞かせるわけでもなく呟く。

「老兵は死なず、ただ去るのみ……なんて言葉は言いませんよ」

ヨハネの顔には笑みが――――それも邪悪な笑みが浮かんでいる。

「やはり、私は裏から自由に、聖・オークを勝たせるために動くのが性に合ってますね」

 一方――――

 その場に残された聖・オーク。 ヨハネが部屋の外に出ると、その場に座り込む。

 大量の汗。 疲労の色が濃く残っている。

 そんな彼に近づくルキウス王。 

 「うむ、見事であった聖・オークよ。 次戦の報告を待て!」

 それだけ言うと、彼も部屋から出ていく。

 「うむ、現在の勝ち残りは……トール・ソリット、白龍ジュニア、聖・オークの《《4人》》か」

 それから、次の出場者に思いを馳せる。

「コリン・G・ハートとハイド・アトキンの決着もつけてやらねばな。後は――――ブレイク男爵はいるか?」

「……はい。ここに控えています」  

 ブレイク男爵が柱の影から姿を現す。 どうやら、控えていたらしいが……それにしては妙だ。

 ここは教団の総本山である大聖教内部。 いつの間に彼が、誰にも咎める事なく存在できたのか?

 しかし、ルキウス王には、それを当然のようにとらえている。

「さて……このたびの戦い、お前はどうする?」

「どう? ……とは?」

「惚けるか? 貴様とて貴族。貴族とは祖先が戦場に手柄を手した者……それに例外はなし。その矜持ゆえ――――貴様とて、本性は武人であろう?」

「私にも参戦の機会を?」

「うむ、望むのであれば手配してやろう」

「……ならば、1つ願いがあります」

「ほう! 貴殿が意見を口にするか! 愉快、申して見ろ」

「私が戦うならば――――初戦はトール・ソリットとの戦いを所望いたします」

「ほう……」とルキウス王は目を細めた。それから、

「それは、勝機があっても申し出か?」

「無論」と短く答えるブレイク男爵。 

「その決意は、トール・ソリットを幽閉した罪の意識によるものか?」

「――――」と無言の答えだった。 しかし、その瞳には嘘偽りはなく、必勝を誓っている。

「面白い。……貴殿は実戦から離れてどれくらいになる?」

「かつてのスックラ攻略戦が最後……いえ、戦争というのであれば、トール・ソリットの戦いが最後でした」

「あぁ、そうか……貴殿であったな。レナ・デ・スックラを逃走させたトール・ソリットを捕まえ、牢獄に送ったのは」

「はい」

「その腕、僅かでも衰えているならば、錆を落とせ。 再び、武神 アレク・フォン・ブレイクの勇士を楽しみにしておこうぞ!」

 こうして、トール・ソリットとブレイク男爵――――アレク・フォン・ブレイクの戦いが決定したのだった。
 

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