元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

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決着 竜巻鮫との死闘

この日、初めて竜巻鮫シャークトルネードに大ダメージを言える攻撃を与えたのは、グリアの一撃だった。

 竜巻鮫は、その巨体ゆえに銛を突き刺しても、剣で斬りつけても、魔法を放っても、ダメージは通りずらい。

 しかし、闘気を込めた拳による打撃。

 打ち抜かれれば、内部まで浸透される一撃は、竜巻鮫の全身をダメージで震わせた。

「ふざ――――ふざけるな! 人間が!」

 激怒。 竜巻鮫……空と海の絶対的強者。 それが痛みを知り、怒りを知るか?

 巨大な肉体から巨大な魔力が生産される。

「喰らうが良い……我が魔力の刃を!」

 排出される空気。 それが切り味を有する魔力に変換して――――

「……逃げろ!」と言葉と裏腹にトールは前に出た。

 『風刃ブレイド』 

 不可視の刃は周辺一帯に飛ぶ。 トールも、グリアも、レナの立ち位置までも届いた。

 「グリア! 俺の後ろに移動を。竜巻鮫の魔法は俺が切り払う!」

 トールは剣を煌めかす。 しかし、広範囲による膨大な量のの刃。

 それを、有言実行するようにトールは剣をぶつける。

 そして――――

「グリア……大丈夫か? レナは!?」

「は、はい。こっちは大丈夫です」とレナは防御魔法 『華の盾フラワーシールド』を展開させ、自身どころか船そのものを無傷で守り通した。

「――――っ人間……我が魔法を剣技だけで防ぎ切ったか。惜しい……殺すには惜しい人間よな」

「防ぎきった? いや、少しは受けたさ」

 トールは額から赤い雫が流れ落ちていた。だが、彼は余裕を崩さない。

「似ているな。俺と竜巻鮫《お前》……」

「似ている。何がだ?」

「戦い方さ。お前は魔法を使い……『風刃』 つまり剣を使う。だったら――――俺も使わせてもらう」

 トールの内部から魔力が稼働していく。

「剣なら剣で。魔なら魔で……俺は、お前を打倒させてもらうぞ」

「この魔力は我よりも――――否! 貴様ら人間に超えれぬ壁というものを味合わせてやろう! 噛み締め、その絶望を――――『風刃ブレイド』」

「――――いいや? 絶望を噛み締めるのはお前の方だ、竜巻鮫よ――――『風の聖剣エックスカリバー』」

竜巻鮫の風魔法による剣撃は、広範囲に及ぶ。

それに対してトールが使用した風魔法は――――貫通力に特化した魔法の刺突。

無数の風刃を貫き――――吶喊! 

そのトールの雄たけびに呼応するが如く……竜巻鮫の体に届いた。

鮮血。 その巨体に相応しい大量の血液が風魔法に巻き込まれ、空高く舞い上がり……赤い赤い雨として降り注いでいく。

「見事なり。その人間の強さならば……見直そう。もはや、我に油断もなく――――さぁ、存分に殺し合おうぞ!」

「楽しんでる所で悪いけど、もう終わらせてもらう――――レナ!」

「はい!」と声。 

 それはトールの反対後方。つまり竜巻鮫の背後。 自身の防御魔法を階段代わりにして、駆けあがり――――

「この」と杖を振り下ろした。

 膂力。

 鍛錬により手に入れた力ではなく、生来の神から愛された筋力。

 王族の血筋。 長い歴史の中、権力者が血の中に不可思議なモノを入り交ぜたのだろうか?

 その一撃は、もはや人間が繰り出される打撃の部類ではなかった。

 打撃音というよりも炸裂音。

 竜巻鮫の巨体は、くの字に折れ曲がり海へと落下していった。

 そして――――

「おぉ、嵐が消えた。 ならば――――」と船に残されていたハーマン。

 銛を持ち直し、獲物に意識を集中させる。

 彼が望んでいた獲物は竜巻鮫ではない。 伝説と言われる凶悪なる鯨、白鯨モビィデック。 だが、それでも――――彼は純粋なる銛打ちボートスティアラー

 例え、獲物が外道と言われようとも――――

「オイラは狙いは外さない!」

 水面に潜り、隙をついて宙にいるトールたちに反撃を狙う竜巻鮫。

 そして、そのタイミング。

 一気に浮上して天へ舞い上がろうとする竜巻鮫に狙いを定め―――― 

 投擲による一撃が竜巻鮫の体を貫いた。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「あれ? 私は一体、どうしたのでしょうか?」

 レナは目を覚ました。 しかし、気を失っていた前後の記憶がない。

 「貴方、外の獲物を倒した時、自分が放った一撃の勢いのままに海へ落下していったのよ」とグリア。 なぜか、彼女の機嫌は悪そうだった。

「外の獲物ですか?」と船の後ろを覗き込むと――――

「うわぁ! 凄いです!」

 竜巻鮫は捕縛されて船に繋がられて運ばれている最中だった。

「おぉ、筋肉……いや、お嬢ちゃんか。お嬢ちゃん、目を覚ましたか」

「あっハーマンさん、また筋肉って呼んだ」とレナは頬を膨らませた。それから――――

「これって大漁って奴ですね? 大漁旗ってのを掲げるんですよね?」

「おぉ、見たいか? 良い物を見せてもらったお礼だ。掲げる瞬間を良く見ときな!」

「良い物? ですか? あぁ、竜巻鮫を倒した事ですね」

「ん? いやいや」とハーマンは、どこかニヤニヤと笑っていた。

「海に落ちて気を失ったお嬢さんを、あのトールが……」

「?」

「人工呼吸を――――」

「それは内緒だと言ったはずだ」とトールが止めに入っていた。今まで、どこにいたのか?

「え? え?」とそれを見ていたレナは困惑していた。

「じ、人工呼吸? トールさまが誰にですか? そ、それは接吻と同じ事では!?」

「それは――――」とトールは険しい顔で言葉を止めた。

「それは?」

「内緒だ」

「と、トールさま!?」

レナは絶叫したが、トールがそれ以上を口にする事はなかった。

果たして、本当はどうだったのか? それを最後までレナは知る事が出来ずに悶々と陸地に戻る事になった。  
   

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