元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

銛打ちのハーマン

「3か月も嵐が止まずに続いている……」

 ゴクリと喉を鳴らしたのは誰だろうか?

 魔物は単純な戦闘能力以外にも特殊な力を有するモノもいる。

 しかし――――トールは口を開く。

「しかし、3か月も嵐を起こし過ぎる魔物……規格外の怪物だ」

「あぁ、だからアンタも魔物退治なんて止めときな。俺たちゃ廃業だよ! 引っ越して新しい仕事を探さなきゃなんねん」

 その決死の嘆き。トールは、彼らに「その魔物を倒す」と断言する事を躊躇した。

 だが、依頼として受けた以上、何もせずに帰るわけにもいかない。

「せめて、この嵐の中で船を出せる漁師はいるか?」

 漁師たちは驚き、互いに顔を見合わせた。 

「いるわけねぇわな。腕の立つ漁師ほど、嵐は避けるもんだ」

「んだ! んだ!」と訛りの入った同意の声。 

 そんな中、1人だけ――――「いや、アイツはどうだ?」と呟きをトールは聞き逃さない。

「いるのか? だったら紹介してほしい」

「いやいや、ダメだ。アイツは鯨漁に狂っちまった銛打ちボートステアラーだ」

「そりゃ狂ってないと嵐の中、船は出さないんだろ?」

「んだ……そうだけんど……」

「万が一、俺たちが勝ったらどうだ?」

「はぁ?」と漁師たちは呆けた声。

「俺たちが白鯨モビィディックを討伐してみせる」

一度は躊躇したトールだったが、今度は、はっきりと断言してみせた。 

「できるわけねぇべ! あれは人間が戦えるどころものじゃ――――」

 漁師は言いかけて止まった。 トールの後ろに控えていたレナが冒険者として認識票《ドッグタグ》を見せたのだ。

「あんたら、Aランク冒険者!? は、初めて見ただ……」

(このタイミングですよね、トールさま?)

 漁師たちの信頼を得るため、タイミングを見計らって認識票を提示することは、事前に打ち合わせしていたのだが……

(いいや、俺の予想以上に良いタイミングだ)

 トールは笑った。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「本当に、こんな所に住んでいるのでしょうか!」

 近くにいながら、大声で叫ぶレナ。嵐の豪雨で、叫ばないと声が聞き取れないのだ。

「私は嫌よ! ここまで来て留守でしたなんて!」とグリアも声を跳ね上げる。

 3人が来た場所。

 海に沿って歩いて行くと見えた崖の上の家。 

 良く言えば簡素な家。 ぶっちゃけ、ボロ家だ。

 そこら辺に投げれてきた流木を適当に切断して、重ねて、釘を打って作られた家。

 おそらく職人の手は入っていない。 家主の手作りだろう。

 「この風で、家ごと飛んでいきそうだわ」とグリアはため息をつきながら、ノック……と言うよりは乱暴に叩いた。

「――――」と返事はない。 しかし――――

「居留守ね。気配があるもの」

「うむ」とトールは同意。 レナだけわからず、キョトンとしている。

 徐々にグリアのノックという名前の暴力が家を襲う。 加えて怒号……

「も―し―も―し― 私は―冒険者で―あの―鯨を―――殺しにきました―」

「そうか! 資格あり、入れ!」

 いきなり、戸が開く。 

「早く、風と雨が入るだろう!」

「は、はい!」とレナだけが反応して声を上げる。

 中に入ると、所狭しと銛が立てかけてあった。 

 足の踏み場もないが、銛だけは綺麗に手入れされていた。

「ほぉ……鉄も打てるのか?」

「あぁ、あの怪物を倒すにゃ製鉄技術から革命を起こさにゃならねぇ!」

部屋の奥、僅かな光に照らされて男が座っていた。 

「オイラのカンじゃ、オタクらは冒険者だろうよ。それもAランク以上と見た」

「見ただけで冒険者の強さがわかるのか?」

「いいや? ハッタリだよ。本当の事を言えば、俺が最初に冒険者ギルドに依頼を出したからな」

「い、依頼主だったのですか? あなた?」

「うむ、お嬢ちゃん。いい体をしているな」

「え?」と反射的にレナは体を自ら抱きしめるように隠す。

「いやいや、そういう意味じゃねぇわ。オタクが一番、良い筋肉しているからな!」

「わ、私が……ですか? いえ、トールさまやグリアさんと比べたら……」

「いや、どう考えても3人の中で膂力は断トツだろうよ」

 気がつけば、トールとグリアがジロジロとレナの体を見ていた。

「2人とも、そんなに見ないでくださいよ」と恥ずかしそうに顔を下げるレナだった。

「で?冒険者さんたち、名前は? オイラはハーマンって名前のイカレた銛打ちボートスティアラーよ」

「トール。トール・ソリットだ。見ての通り、ただの魔導士だ」

「嘘つけ! その肉体は剣士だろ」とハーマンにすぐ返された。

「む? やはり見ただけで?」

「しらん」とハーマンは短く答える。それから――――

「だが、オイラは銛打ちだ。その筋肉が突く……投擲に関わるものならわかる。もう1人のお嬢ちゃんも剣士だろ? そっちの少年と同じ種類の筋肉だ」

「筋肉……同じ体……」となぜかグリアは興奮していた。

暫く、そんな状態だったが「……おい」とトールの一言で、正気に戻った。

「あぁ、失礼した。私はグリア、グリア・フォン・ブレイクと申す者だ」

「ブレイク……あぁ貴族さまか。 さすが、良い物を食べてらぁ体も平民と作りから違うわ」

「う~ん、そう言われると、なんだか妙な気持だわ」

「おう! それじゃ本題に入ろうぜ! どうやって白鯨を殺すかちゅう本題にな!」 

 そうしてハーマンは、語り始めた。  

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