元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

トールVS人工魔物

 閃光と爆音が入り混じり、影が走る。

 人工魔物に奇襲。高火力の魔法を叩きこんだ人物。

 土煙が薄れ、その姿が明らかになる。

 影はマスクで顔を隠しているが――――どう見てもトール・ソリットの姿だ。

 だが、今の彼を……10才も若返り、装備も服装も魔導士に変わった彼をグリアは――――

(あの姿……どんなに姿が変わっても、わかる。 私にはわかりますトールさま!)

 一目で看破したが、それを声に出す事はなかった。

「やれやれ」とトールはため息を1つ。 

「できたら、飛び出したくはなかったのだが……」 

 グリアに姿を見せるリスクは決して軽いものではない。

「それでも、やらざる得ないか」

 トールが放った『火矢ファイアアロー』の一撃を受けたキメラ。

 叩き込まれた魔法によるダメージは色濃く残っている。

 その眼光は、トールを排除すべき脅威と認識。 

 威圧を放つ。 それに対してトールは、

 両手に魔力が宿る。 それを地面に叩きつけ――――

土刃グランドエッジ』 

地面が変形して大地の刃がキメラに斬りかかっていく。

だが、キメラは顎を大きく開き、

號――――

とキメラの口から業火が吹き出され、迫りくる刃を溶け崩した。

「流石に凄い」とその声はキメラの後ろから。いつの間に背後を取っていたトールは、

「それじゃ文字通りの火力勝負といこうか……『火矢ファイアアロー』」

 キメラも振り向きざまに業火を吐き出す。 

 その威力の比べ合い。 勝るのは、やはりトールだった。

 競り合いに勝った『火矢』をキメラは浴びる。

 全身が炎で焼かれながら、

「GIGOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」

 キメラから次に放たれたのは、風の衝撃。相手を吹き飛ばすための咆哮。

 その副次的な効果か、キメラの身を焼いていた炎が消し飛ぶ。

 トールは宙を走る『空中歩行エアウォーク』を発動。

 空中を駆けあがり回避する。

 キメラの攻撃は、竜種ドラゴン息吹ブレスの領域に近づいている。

「凄い威力だ。直撃したら俺でも危ないな。けど――――」

 トールは、勝機を接近戦に見出す。  

「私たち2人でもあんなにも苦戦していたキメラを……凄い」とレナは呟く。

「そうね……いつでもあの方は――――」

 そう、何かを言い漏らしたグリアに驚くレナ。

 しかし、彼女の表情を見て、不思議と安堵する。

(そうなのですね。グリアさんも、私と同じで――――それじゃ安心ですね)

そんな複雑な感情を渦巻かせている2人を置いて、トールとキメラの戦いは佳境を迎える。

 強烈な息吹ブレスを有するキメラ相手の接近戦。

 しかし、野生動物のモチーフにしたキメラの身体能力。接近戦が容易いはずもない。  

 そして―――― 「いけ! 人工魔物キメラ、切り札を出すのじゃ!」

 科学者が叫ぶと、キメラの尾……蛇になっている部分。その両目が怪しく光る。

 「かかったな、阿保《あほぉ》め! 人工魔物キメラの尾は、蛇髪の怪物メデューサのものを流用しておる! つまりは必殺。 必殺の石化攻撃じゃよ!」

 だが、科学者の言葉は、すぐさま驚愕に変わった。

 トールは身に着けたマントを振るう。 それだけで石化攻撃を無効化してみせた。

「石化完全無効化じゃと! 一体、なんの素材をつかっているんじゃ!?」

 それは、かつての吸血鬼ノーライフキングと倒して手に入れた素材から作られた物。

 石化を含めた異常効果の耐性は高い。

 トールはまるで闘牛士ミノタウロススレイヤーケープを振りながら幻惑させるようマントを使う。

 それに魅了されたように人工魔物キメラは、トールの頭を食いちぎる事を想像して飛び掛かる。

 だが、それは罠だ。

「欲しかったのは、そこ――――一撃で倒せる怪物の粘膜部分」

 トールは自身向けられ、大きく開かれた顎に狙いを定め――――

「文字通りに喰らえよ!」

 固めた拳を叩きむ。それと同時に――――

火矢ファイアアロー

 トールが持つ最大火力の魔法がキメラの口内で爆発を起こした。
  
 超至近距離で放たれた魔弾の一撃。 例えキメラが、高い魔法耐性を有していたとしても――――

 その原型を保てる事も出来ずに崩れ落ち、確認するまでもなく落命していた。

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