元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

グリアの装備。 その思い出

 レナは杖を振るって魔法を発動させる。

聖なる光ホーリーライト

 聖属性の魔法。  十字の光が粘獣に直撃する。

 巨大な粘獣の体が後退する。 けど――――

「これは……ダメージが通っていないのですか!」

 レナの言う通り、粘獣に変化は見て取れない。

「くっくっく……無駄じゃよ。この粘獣はワシが作った人工魔物。通常の方法では攻撃が通らぬよ」

「むっ! やはり、核《コア》を破壊しないと倒せないのですね」

「ホッホッホ……その通りじゃ。ついでじゃ! ここでヒントをやろう。粘獣の核は無色透明……しかも肉体の中を高速で移動している」

「核そのものが移動! どういう構造をして――――いえ、それよりもグリアさん!」

「わかっているわよ! 無色透明って言っても、高速で核が移動しているなら完全に見えないわけじゃない! その軌道が見える――――はず!」

 グリアは接近すると目を凝らす。 

(粘獣の内部……僅かに、核が通った跡が残っている。けど――――速い!)

 その迷いが隙となる。

 粘獣の一部が触手のように変化。鞭のように撓りの一撃がグリアを襲う。

 辛うじて回避する。 恐ろべきは、その威力だった。

「地面が爆発するように砕けて――――くっ!」

 砕けた地面の一部が四方に飛び散りグリアにぶつかる。 

「グリアさん!」

「大丈夫よレナちゃん。直撃は避けたけど……どう攻めたら良いと思う?」

「私が動きを止めます!――――『茨の罠スオントラップ』」

 粘獣の巨体をレナの捕縛魔法が絡みつく。 粘獣は動きを止めた。

「むっむっむ……魔法耐性を付けたが捕縛魔法までは対処できぬか。これは、次に生かせる情報じゃ!」

 科学者はメモを取り始めた。 その余裕――――これで粘獣は倒せる事はないと信じ切っているようだ。

「いいわよ! 今すぐ、その余裕の顔を歪ませてあげるわよ」とグリアは剣を振るう。

 驚くべきは、その剣の軌道。 それは見たレナは――――

「あの動きは、そんな事が!」

「行くわよ! ソリット流剣術――――

 『破龍の舞い』 

 その動きは、トール・ソリットが見せる剣術を同じ――――武器や防具を破壊するための剛剣。

 グリアは、この技をトールから指導された事もなければ、ソリット流剣術を学んだ経歴はない。

 過去、10年間の魔物狩りでトールだけを見続けて来た彼女。

 つまり、それは見取り稽古。

 さらに常軌を逸脱する鍛錬により、独学でトールの技を再現してみせたのだ。

 衝撃に強いはずの粘獣の肉体。 それが連続の剛剣で、凄まじい打撃音を鳴らし、大きく歪んでいく。

 それには生みの親である科学者も唖然として――――

「ば、馬鹿な! せっかくの攻略法を無視する奴がいるか! 冒険者を育てるための試練として作った魔獣なのに……」

「そんなの知らないわよ! 攻略法? 倒すために作られた正攻法なんて力で壊してやるんだから!」

「くっ……いいや、これは美しくない! 美しく……科学的美学がない! ならば、最終手段じゃ! やれ、粘獣《スライム》」

 その命令と共に、攻撃を浴び続けていた粘獣に変化が起きる。

「なにこれ? 霧? 毒でも散布してるなら無駄よ。対策は――――え?」

 喋りながらでも連撃を続けていたグリアの手が止まった。
 
 粘獣もその隙を見逃さない。 鞭のような一撃がグリアに直撃して、彼女を吹き飛ばした。

 「グリアさん! すぐに治癒魔法を」と駆け寄るレナ。

 しかし、グリアは動揺した表情。 さらに粘獣が追撃を放ち、再び彼女を直撃する。

 レナは『茨の罠スオントラップ』を使い、粘獣を拘束してさらなる連撃を防ぐ。

「グリアさん、何がありました? あの霧の効果ですか?」

 しかしグリアは――――

「私の武器と防具が……」

 見れば、彼女の装備は変色して溶けかけている。

「これは酸? いえ、人体への効果がない?」

「うむ、冒険者の防具だけを溶かす液体じゃ。 一部に需要があるから取り入れただけなのだが……これは思ったのと違う効果じゃな」

「ん~」と科学者は悩み。

「何か、精神的な部分――――その鎧が彼女に取っての精神的根幹だったのかのう?」

 その考察は正しい。 鎧は彼女の精神的弱さから身を守るための物。

「この……この鎧は、彼が私を……」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 それは10年前。 初めての魔物狩り。

 護衛から離れた彼女は魔物から襲われた。その時に助けのがトール・ソリットだったが……

 その1か月後。

 「ねぇ……アンタ!」

 「……」 

 「ねぇ!」

 「俺に話しかけているのか?」

 「他に誰がいるのよ。アンタ、喋り方おかしくない?」

 「そうだな……暫く、人とは会話としていないから……」

 「そう、咎人だもんね」

 「そうだ。 そんな咎人と話して大丈夫なのか? ブレイク男爵の娘だろ?」

 「いいのよ。 ブレイク男爵の娘なのだから!」

 「そういうものか?」

 「そういうものなのよ」

 「……」

 「……」

 2人は沈黙した。 トールは沈黙も意に介した様子はなく、グリアが視線を離して遠くを眺めている。

 その様子にグリアは焦れ――――

「ねぇ!」

「ん? なんだ?」

「どう? この鎧と剣は? 先月、アンタに助けられたから無理して作ってもらったの。もう、アンタに助けて貰う必要はないんだからね!」

「そうか……そうだな。 いい装備だ」

「それから! ……助けてくれてありがとう」

 牢獄に閉じ込めれているトールは久しぶりに微笑ましさというものを思い出していた。

 気づけば、グリアの頭を撫で―――― 彼女も抵抗することなく、笑っていた。

 それから彼女は、その剣と装備を体の成長に合わせてサイズを変え、10年間愛用してきた。
  
 それが、今――――破壊されたのだ。

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