元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

雪山で2人……何事もないはずもなく……

レナは上空を見上げながら走っていた。 

 少なくとも彼女はそのつもりだが、そこは試される極寒の大地だ。

 雪に足を取られ、走るどころか歩く事すらままならない。

 さらに乱れた呼吸で肺まで凍り付きそうだ

 けれども――――

(トールさま……必ず私が御救い差し上げます)

 視線は浮上する白龍。 その手に捕まっているトールだ。

 彼等の姿は吹雪の中、雲すら突き抜けて肉眼で見る事もできない。

 それでも、彼女は走る。

 もはや闇雲に目的もなく――――そんな彼女に僥倖が訪れる。

 大きな音。 それから視線で大きな水柱が確認できた。

(あれは――――間違いありません! あそこのトールさまはいます!)

 彼女は急ぐ。 そして、ついにトールの姿を目で捉えた。

「トールさま」と近づくも、全身が水で濡れている事がわかる。

 彼は池に落ちた。

 先ほどの水柱は、その時の物? いや、きっと着水時に、炎の魔法で池の温度を上げていたのだろう。

 だが、池から出た彼の体は白く凍り付い始めている。

 凄まじいとも言えるトールの状態。どうやら、彼に意識はないようだ。

 どの段階からだろうか? 無意識で泳ぎ、池から脱出して、歩いていた。 どの段階で意識を失っていたのだろうか?

 その姿に、レナは「――――っ!」と絶句する。

「と、トールさま! こ、このままでは危険が……」

 そこで彼女は気づく。

 池の周辺では、分厚い氷が砕かれ、溶けている。 そこにある物が目に止まる。

「あれは……ボート? それもスワン型? それじゃ!」

 近くに必ずあるはずだ。  雪で埋もれているが、この近くに――――

「……ここです!」と少し、雪が盛り上がっている場所。

 そこは目的の場所――――ボートの管理室。 小さな建物が雪に隠れていた。

「緊急事態です。ごめんなさい」と無人でありながらレナは謝罪してドアの鍵を壊して中に入る。

 幸い、そこは山小屋のように遭難者が紛れ込んだ時の最低限の用意はされていた。

「暖房……よかったストーブがありました。 燃料も――――残っています」

 すぐに火をつける。 それから――――

「こういった時、お酒がいいと聞きますが……頭部にダメージがある時にアルコールは危険でしたね」

 確かに、ある豪華客船が氷山と衝突して沈没した時、「どうせ死ぬなら」と浴びるように酒を飲んでいた男が、体温が上昇して助かったという例がある。

 しかし、格闘技など頭部のダメージを受けた時、脳は膨らむらしい。
 
 その時、アルコールが入ると――――最悪、死に至る。

「えっと……えっと……次は」と忙しそうにお湯を沸かしたり、食べ物を確認したり、トールの体調を確認したり――――

 それらが終わると

「うん、いけませんね。このまま、濡れた衣服を……乾かさないといけません!」

 不自然にも気合を入れ、大声を出すレナ。 彼女の目に爛々としたものが宿っているように見えるのは気のせいだろうか。

「そ、それでは脱がしますよ」と小さな声でトールに確認を取る。

 それは、彼から確認を取るためというよりも、トールが目を覚まさないか? 確かめるように見えたのは気のせいに違いない。

「凄い! む、胸の筋肉が……!? い、いえ! やましい気持ちはありません! ありませんとも!」

 トールの濡れた上着を脱がせ、乾かすために暖房付近に置く。

「こんなにも冷え切って――――これは非常に危険です!」

 まるで言い訳のような説明口調。 掌でトールの体を摩り始める。

「ま、摩擦で少しでも温かくなればいいのですが……でも、このままではいけませんよね? そうです! いけませんね!」

 そう言って彼女はトールのズボンに手をかけた。

「天国のお父さん、お母さん……レナは悪い子です。 でも、ご安心ください! これからレナは、立派に大人の女性になるのです!」

そして――――

「きゃっ!」と可愛らしく、なぜた嬉しそうな悲鳴をあげた。

「痛いです! わ、私の頬に何かがぶつかって――――」とそこでレナは言葉を止めた。

 何かを凝視する彼女は、こう呟いた。

「す、凄い! こ、これが生命の神秘!」

 ゴクリと喉を鳴らす彼女……それから、自ら意識を正常な状態から乱れさせるため、小屋に常備させてあった酒を一気に飲み始める。

 彼女の顔は赤く染まる。 その光景に『ボフッ!』と頭から煙が上がるような幻影すら見えた。

 それから――――  

「これは触ってもいいのですよね?」とゆっくりとトールの下半身へ手を伸ばした。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

「っ!? お、俺は生きているのか?」

 目を覚ましたトール。 体にはダルさが残っている。

 しかし、普段感じている戦闘によるダメージからの疲労とは違う気もするが、その原因はわからない。

 トールは体を動かす。そこで隣で何かがあって手に当たっている。

 生物のような暖かであり、不思議と凹凸のない壁のような何か。
 
 それを確かめるように動かすと――――

 「んっ……あっ! だめです。トールさま……そこは違う所です」

 誰かの声がして、慌てて手を引っ込める。

「あっ……え? もう少し、楽しんでもいいですのに」と不満げな声。

「誰だ?」と混乱するトールだったが……

「あっ、起きましたか? トールさま」

 隣でレナの声がしたが、すぐにトールは彼女と気づかないほどに声に艶があった。
 
 そして、彼女の姿を見る。 彼女は裸だった。

 裸の姿でトールと1つ同じ毛布に包まっていた。

 所謂、同衾というやつだ。

「なにをした? ――――いや、何をしている?」

「えへっ」と悪戯が見つかった子供のようでありながら、不思議と挑発めいた女性の笑み。

「トールさまの体が冷え切っていたのだ。人肌で温めていました。……もちろん、一晩中です」

「……」とトールは天を仰ぐしかなかった。

 きっと、何か不埒な事はなかった。 そう思い込む。

 しかし、事実はどうだったのか? それは神のみぞ――――あるいはレナのみぞ知る所である

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