元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

狂気の龍 凶悪たる一撃

 龍と言う生き物は、時々狂うと言われている。

 人を超える英知、魔力、生命力、巨体……そして寿命。

 数百年生きた龍は理性によって押さえつけていた闘争心が暴走する事があるという。

 この白龍―――― 『粛清たる白 白龍』も、この北の町で恐れながらも人々から敬意を向けられる存在だった。

 だが、彼は狂った。 闘争心に狂った。

 人ではなく、大型魔物であるホワイトマンモスを襲っていたのは、人間よりも強敵を求めてたからだろうか? それとも、自身を尊む人間を除外する理性を残していたからだろうか?

 だが、それでも白龍はトール・ソリットと戦う。

 彼がホワイトマンモスと戦う姿を見て、白龍は狂っていた。 猛り狂っていた。

 「見よ。あの小さな体で巨大なホワイトマンモスを倒したぞ!

 あれだ! あれこそが我の理想。 自身よりの遥かな強者に打ち勝たずして、何が龍よ! 恐怖を知らずして、恐怖に打ち勝たずして、何が最強よ!

 数百年生き、強敵に巡り合い得た機会もなし。だが――――

 機は得たり、今まさに、我は戦わん!  汝、強敵なり」


 ・・・

 ・・・・・・

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竜の息吹ドラゴンブレス

 龍が放つは最強の一撃。 魔力を込められた息吹は、その空間に、その世界に、強い強い影響を与える。

 白龍がもつ固有の息吹効果は絶対零度。 

 全てが停止する。 ある意味では世界に干渉する一撃。

 それに対してトールは――――

炎の壁ウォール・オブ・フレイム

 魔法の障壁。 大魔術でも、なんでもない……むしろ初級魔法に位置される防御魔法。

 だから、『竜の息吹』を前に障壁の意味を持たず消滅する。

 ――――そう思われていた。 
  
 今までトールが剣技で見せた受け。剣が粉砕する直前に衝撃を僅かに逃がす。

 言ってしまえば、それだけの技だが、トールのそれは1度の刺突を受けるのに、100も、1000も繰り返せば、刺突の威力は限りなく0に近づく。

 理屈ではわかるが、それを行うのは神技と言える。

 それをトールは『炎の壁ウォール・オブ・フレイム』で行ったのだ。

 障壁が霧散する衝撃を下がる事で和らげる。 それを瞬時に万を超える回数を行った。

 初級魔法のはず……しかし、その瞬間のみ、永遠に、そして無限に存在していた。

 だから、防げる。 だから、どのような魔法でも、その障壁を貫く事は叶わない。

 そして――――

 「いくぞ! 白竜――――これが俺の切り札だ」

 トールは、背後に収めていたナイフを取り出す。

 それは、かつてのトールが所有していた愛刀。

 名前は香華刀と言う。 

 迷宮ダンジョンの奥地――――魔物が溢れる魔境では、ごく稀に魔物の体内から希少な金属が取れる事がある。

 なぜ? 魔物の体内から金属なんて!?

 一説によると迷宮ダンジョンには濃厚な魔素マナを生み出している。

 それが魔物の体内に残留し、固体化した物だと言われる。
 
 魔物が魔素により、特殊な力を有すように、迷宮で生まれた金属にも特殊な効果が宿る。

 トールは、それを手にした。 そして信頼できる鍛冶屋によって生まれたのが香華刀である。

 今は、ナイフのように刀身が短くなっているが――――

 その刃は、全てを切り裂く。 むろん、魔物最高強度を持つ竜種の鱗すら容易く。

 「我の鱗を――――血が! おぉ、我にも血が通っていたか! 初めて見るぞ、人間!」

 「俺はトール・ソリットだ、覚えておけ……それが今からお前を打ち負かす男の名前だ」

 「ふあっははははははっ! 愉快だ、まさか――――これが我の全力だと思い違いしているのか?」

 「何を――――」とトールは、それ以上の言葉を発する事ができなかった。

 未知の衝撃がトールを襲う。 穴と言う穴から血液が飛び出すような感覚。

 白龍の肉体に乗っていたトールはバランスを崩し、落下。

 地面へ衝突――――その直前に体を反転させて着地する。

 だが――――

(何をした? 何をされた? 体がまともに動かない……いや、頭も……思考がまとまらない)

 「強かった。 真なる強者 トール・ソリットよ。 もしも、同じ竜種に生まれておけば――――惜しい男よ。いや、それ以上言うまい」

 白龍からの言葉は憐み。 しかし、それを拒否する力すらトールには残されていない。

 「さて、それではもう一度言うとしよう――――さぁ、死ぬがよい!」

 白龍は浮上を開始する。 遥か上空から、落下による加速からの体当たりでトールを圧し潰すつもりらしい。

(……ここまで体が動かないとなると、魔法障壁による防御も精密性が足りない。 回避しようにも体が――――)

トールは上空を見上げる。 すでに白龍の姿は見えないほど上に――――そう思った次の瞬間には、落下してくる白龍の姿が徐々に巨大化して見える。

(なにか……反撃を――――魔法でも剣でもいい。体よ! 動けえぇぇぇぇ!)

 声にならない絶叫。無理やり体を動かさそうとする。

 体内の魔力炉に燃料を投入して、無理やり稼働させる。

 それでも――――

 (間に合わない……か)

 白龍は彗星の如く、体を光らせている。 おそらくは空と宇宙の間まで浮上していたのだろう。

 その一撃は星すら揺さぶらせる。

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