元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

冒険者ギルドとバレた正体!?

 「うむ、懐かしいな」とトールは冒険者ギルドの前で止まった。

 「トールさまも、ここで冒険者になったと聞きました」とレナ。

 彼女も冒険者である。 

 (正体を隠しているとは言え、姫君が冒険者になるとは……)

 最初に聞いた時は、困惑した。

 しかし、危険な仕事に身を挺す理由があるのだろう。 

 なにより――――

(俺とて冒険者だ。その他人に生き方を否定されたくはない。きっと……それは姫様とて同じこと)

 そう自身を納得させたトールだった。すると――――

「お似合いですよ」

「ん? 髪型の事なら……」

「いいえ、その装備です」

「ん……」とトールは自身の服装と確かめる。それを一言で言うならば……

「ずいぶんと軽装ですが」

 彼の言う通りかもしれない。 赤いマントに黒い服装。

 鉄など、身を守るための金属は皆無。 強いて言えば、刃を通さない防刃繊維で編まれた物。

 しかし、マントには――――

「後衛職なら、そんなもんです」

「魔導士の役割は、後ろから強烈な魔法を放って前衛の支援……それはわかるのですが」

「いいえ、それだけではありませんよ。 背後から襲われる事もあるのですから最低限の自衛も必要ですし――――」

(それならなおさら、防具は必要なのでは?)

 トールは、疑問を浮かべて小首を傾げる。 しかし、熱心にレナが解説しているのだ。
 
 口を挟むのはよくない。 そう思い耳を傾けるのだった。 すると――――

「おいおい、いつまで入り口で話し込んでるんだ? 入れないだろ?」

 振り向けば、ガラの悪い冒険者らしく人物が3人。

「あっ! すいません」とレナは慌てて頭を下げる。

それを男たちは、どう感じたかのか? 下種な笑みを浮かべる。それから視線をトールへ動かした。

「見ない顔だな? 新人か?」

「……俺か? そうだな。新しくこの町で冒険者を始めようと思い、ここへ来た。まだ、不慣れゆえにご指導、ご鞭撻の方をよろしくお願いします」

「……へっ、思ったよりわかっている小僧だ。見込みあるぜ、お前」と気を良くしたのか、そのままギルドへ入って行った。

「牢で相手をする連中は、あんな感じの連中しかいないからな」とトールは他者に聞かれないように小さな声で呟いた。

「トールさま……」

「そんな悲しい顔をする必要はありませんよ。 さぁ、ギルドへ入りましょう」

 そしてギルドの中へ。 

 10年ぶりの冒険者ギルド。 建物の構造は、大きく変わっていない。

 依頼の確認や報酬の支払いを行う窓口には、受付嬢たちがいる。

 その横には、依頼の紙が貼りつけられた掲示板。

 2階に続く大きな階段があるが、冒険者は2階へ上る事はない。

 2階は、依頼者などの相談を受ける場所。そのためギルドの重役の部屋がいくつかあるらしい。

 そして、建物の面積を大半を占めるのは、冒険者たちが待機している簡易テーブルと椅子。

 先ほどの柄が悪い冒険者たちも、そこに座りトールたちを睨みつけている。 しかし、睨みつけているのは、3人だけではない。

 新顔の冒険者。 

 いずれ、同じ依頼を受ける臨時的な仲間に――――あるいは永続的な仲間になる可能性もあるため、全員が新入りを観察をしているのだ。

(……懐かしい。流石に俺がいない10年間で当時の冒険者たちは現役を退いたようだが、この雰囲気は心が安らぐ)

 彼らの視線を無視して、受付窓口へ。 受付嬢の顔を見るも、懐かしい顔ぶれはいなかった。

 皆、結婚して辞めたか? それとも出世したか? そう思うと不意に――――

(私もトール君と同じ新人だから……一緒に学んでいこうね!)

 そんな青春の記憶。 手を貸した事がきっかけで、仲が良い新人の受付嬢がいた。

 彼女とは、立場が違うが、それでも戦友のような感情を持っていたのだが……

 「トールさん、あちらです」とレナの案内。 どうやら、立ったままのトールが何かを悩んでいるのかと考えたらしい。

 「あぁ、そうだな。 すいません」と窓口へ。

 「はい、依頼確認ですか? 報酬ですか?」と若い受付嬢。

 「いや、この冒険者ギルドに登録しにきた、冒険者希望者だ」

 「そうですか……それでは、どういった職業を希望ですか?」

 「うむ、魔導士を考えているが、あいにく適正を調べた事はない。こちらで確認は可能かな?」

 「はい、大丈夫です。 では、こちらの水晶に手を触れてください」

 「……」とトールは言われるままに手を伸ばした。

 魔力量を測定する水晶だ。 10年間の鍛錬をこなしたトールではあるが、正確な数値は、どれほどか? 自信がないと言えばウソになる。

 だが、水晶は軋む音。 それどころか、ガタガタと音を立てて震え始めた。

 「こ、これは! 過去に魔力量を測りきれず破壊した人はたくさんいましたが…… 壊さぬように自身の魔力量を正確に制御している? そんなあり得ません!?」

 受付嬢の驚きの声。  それが届いた冒険者たちも騒めき始める。

 「壊してしまうのは忍びないと思ったが、逆に目立ってしまったか。これは、困ったな」

 そんな時――――

 「静かにしなさい」と一喝する女性の声。

 その女性はギルドの2階から降りて来た。 つまり、依頼人かギルドの重役になる。

 しかし、トールには、その女性に見覚えがあった。

 2人の視線が交わる。 すると、その女性は――――

 「トール……トール・ソリット?」

 姿を変えたはずの正体をアッサリ看破してしまった。

 それも、他の冒険者たちにも聞こえる声で……
       

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