縁の下の勇者
79.エディ
「もう全部倒したので通っても大丈夫ですよ」
「おう、ありがとさん」
彼はケントたちがディグアントを討伐している際に通りかかった商人だ。
名前はエディといい王都へ向かう途中、街道で魔物と戦っている冒険者を見つけて、様子見をしていたらしい。
「それにしても兄ちゃんたちすげぇな。
おらぁ魔物のことはそんなに詳しかねぇが、あんな戦い方してる冒険者は見たことねぇ。
まるで魔物が自分からやられに来てるみてぇだった」
「確かにそうかもしれないですね。
まあ、あれはあの状況だからできた戦い方なんです。
いつでも魔物からやられに来てくれたら楽でいいんですけどね」
「そらぁ、ちげぇねーや」
がっはっは、と豪快に笑い飛ばすエディ。
「エディさんは何を扱っているんですか?」
「おらぁ故郷で作った酒を王都へ卸してるんだ。
少し癖があるから人を選ぶが、一度はまっちまった奴ぁ他の酒なんざ飲めねぇってくらい絶賛するいい酒だぞ」
エディは馬車の荷台の覆いを少しずらして酒樽を見せた。
馬車の荷台には酒樽が6つ置かれていた。
「結構ありますね。
これ全部エディさんの故郷で作られたお酒ですか?」
「おうよ!
とはいっても皆が作ったのを馬車の運転ができる俺が代表して卸しに来てるってぇだけで、この酒が全部俺の金になる訳じゃあねーがな」
「そうなんですね。
そうだ、良かったら王都まで護衛しましょうか?
私たちも依頼が終わって帰るところですし、街道も絶対安全じゃないみたいですしね」
ケントはディグアントが出てきた穴の方を指しながら言った。
「そりゃ願ってもねぇ話だが、お前さんたちに出せる金なんかもちあわせちゃいねぇぜ?」
「大丈夫ですよ、私たちも帰るついでですから。
でもそうですね、では依頼料としてエディさんの故郷の話を聞かせてください。
実は私最近この国に来たばかりで、知らないことが多いんですよ」
「そういうことなら任せとけ。
俺の故郷の村はだな、あまり大きくはねぇが土壌に恵まれていてな、野菜作りも盛んなのよ」
エディの話を聞きながらミランダの様子を伺うと、事の流れに着いていけず少し困惑していた。
だがケントと目が合うと「仕方ないわね」とでも言いたげに肩を竦めただけで、質問をしてくるわけでもなく歩きだした。
ミランダの気遣いには毎度感謝してもしきれない。
◇
「お前さんたち、ありがとな。
おらぁこのまま酒を卸しに行くとするわ」
「私たちもギルドへ依頼完了の報告に行くとします。
エディさん、故郷の話をありがとうございました。
とても楽しかったです」
「おうよ!
機会があったら俺らの酒を飲んでみてくれ。
きっと気に入るはずだ」
「はい、今度飲んでみたいと思います」
エディは片手を振りながら、馬車で王都の人混みの中へと消えていった。
「それで?
あの人がどうかしたの?」
エディを見送りながらミランダが聞いてきた。
ミランダからしたら普段それほど積極的に他人と関わろうとしないケントが、突然エディの護衛をすると言い出したことが意外なのだろう。
ケント自身、コミュニケーション能力が高いとは思っていないので、普段だったらこんなことを言い出したりはしない。
だが今回は少し事情が異なった。
「ミランダ、フロスティが話していた違法奴隷のこと覚えてる?」
「ええ、貴族の間で取引されているっていう話よね。
それがどうかしたの?」
「今のエディさんなんだけど、たぶん違法奴隷を運んでいたんだと思う」
「それホントなの!?」
「うん。
エディさんの運んでた樽の内の1つに人が入っていたんだ。
鑑定してみたら称号に奴隷って書いてあったから間違いないはず」
「それで様子を探るためにエディさんに近づいたって訳ね」
「そうなんだけど、ね。
話しているうちに何かボロを出さないかなって思ったんだけど、話せば話すほどエディさんは普通に酒を卸しに来ただけにしか思えなくて。
実際、残りの5つの樽にはお酒が入っていたしね」
「確かに根っからの悪人って感じはしなかったわね。
彼が違法奴隷を扱っている張本人でないとしたら、無自覚に違法奴隷を運ばされているってことなのかしら?」
「その可能性はあるね。
まあ、憶測の部分もあるから、これからエディさんを尾行して本当のことを探ろうと思うんだけど」
「ケントの隠密が凄いことはよく知っているけど、大丈夫なの?」
「目の前で違法奴隷にされている人がいたら、ね。
もちろん戦うつもりは無いし、危なそうだったらすぐに逃げるよ」
「……はぁ、わかったわ。
あまり危険なことはしてほしくないけど、それがケントの良いところなのかもしれないわね。
それに、客観的に考えてケントに害を為せるような奴がそうそういるはずないか」
「あはは……。
それじゃあちょっと行ってくるね。
帰りはいつになるかわからないけど、遅くても明日の内に一度戻るよ。
ああ、それとギルドへの依頼完了の報告をお願いしてもいい?」
「わかったわ。
とりあえずディグアント100体を討伐して、他にもいるかもしれないと伝えておくわね。
気をつけて行ってきて、油断は禁物よ」
「うん、じゃあ行ってくる」
ケントは隠密を発動し、脳内マップを頼りにエディの追跡を開始した。
「おう、ありがとさん」
彼はケントたちがディグアントを討伐している際に通りかかった商人だ。
名前はエディといい王都へ向かう途中、街道で魔物と戦っている冒険者を見つけて、様子見をしていたらしい。
「それにしても兄ちゃんたちすげぇな。
おらぁ魔物のことはそんなに詳しかねぇが、あんな戦い方してる冒険者は見たことねぇ。
まるで魔物が自分からやられに来てるみてぇだった」
「確かにそうかもしれないですね。
まあ、あれはあの状況だからできた戦い方なんです。
いつでも魔物からやられに来てくれたら楽でいいんですけどね」
「そらぁ、ちげぇねーや」
がっはっは、と豪快に笑い飛ばすエディ。
「エディさんは何を扱っているんですか?」
「おらぁ故郷で作った酒を王都へ卸してるんだ。
少し癖があるから人を選ぶが、一度はまっちまった奴ぁ他の酒なんざ飲めねぇってくらい絶賛するいい酒だぞ」
エディは馬車の荷台の覆いを少しずらして酒樽を見せた。
馬車の荷台には酒樽が6つ置かれていた。
「結構ありますね。
これ全部エディさんの故郷で作られたお酒ですか?」
「おうよ!
とはいっても皆が作ったのを馬車の運転ができる俺が代表して卸しに来てるってぇだけで、この酒が全部俺の金になる訳じゃあねーがな」
「そうなんですね。
そうだ、良かったら王都まで護衛しましょうか?
私たちも依頼が終わって帰るところですし、街道も絶対安全じゃないみたいですしね」
ケントはディグアントが出てきた穴の方を指しながら言った。
「そりゃ願ってもねぇ話だが、お前さんたちに出せる金なんかもちあわせちゃいねぇぜ?」
「大丈夫ですよ、私たちも帰るついでですから。
でもそうですね、では依頼料としてエディさんの故郷の話を聞かせてください。
実は私最近この国に来たばかりで、知らないことが多いんですよ」
「そういうことなら任せとけ。
俺の故郷の村はだな、あまり大きくはねぇが土壌に恵まれていてな、野菜作りも盛んなのよ」
エディの話を聞きながらミランダの様子を伺うと、事の流れに着いていけず少し困惑していた。
だがケントと目が合うと「仕方ないわね」とでも言いたげに肩を竦めただけで、質問をしてくるわけでもなく歩きだした。
ミランダの気遣いには毎度感謝してもしきれない。
◇
「お前さんたち、ありがとな。
おらぁこのまま酒を卸しに行くとするわ」
「私たちもギルドへ依頼完了の報告に行くとします。
エディさん、故郷の話をありがとうございました。
とても楽しかったです」
「おうよ!
機会があったら俺らの酒を飲んでみてくれ。
きっと気に入るはずだ」
「はい、今度飲んでみたいと思います」
エディは片手を振りながら、馬車で王都の人混みの中へと消えていった。
「それで?
あの人がどうかしたの?」
エディを見送りながらミランダが聞いてきた。
ミランダからしたら普段それほど積極的に他人と関わろうとしないケントが、突然エディの護衛をすると言い出したことが意外なのだろう。
ケント自身、コミュニケーション能力が高いとは思っていないので、普段だったらこんなことを言い出したりはしない。
だが今回は少し事情が異なった。
「ミランダ、フロスティが話していた違法奴隷のこと覚えてる?」
「ええ、貴族の間で取引されているっていう話よね。
それがどうかしたの?」
「今のエディさんなんだけど、たぶん違法奴隷を運んでいたんだと思う」
「それホントなの!?」
「うん。
エディさんの運んでた樽の内の1つに人が入っていたんだ。
鑑定してみたら称号に奴隷って書いてあったから間違いないはず」
「それで様子を探るためにエディさんに近づいたって訳ね」
「そうなんだけど、ね。
話しているうちに何かボロを出さないかなって思ったんだけど、話せば話すほどエディさんは普通に酒を卸しに来ただけにしか思えなくて。
実際、残りの5つの樽にはお酒が入っていたしね」
「確かに根っからの悪人って感じはしなかったわね。
彼が違法奴隷を扱っている張本人でないとしたら、無自覚に違法奴隷を運ばされているってことなのかしら?」
「その可能性はあるね。
まあ、憶測の部分もあるから、これからエディさんを尾行して本当のことを探ろうと思うんだけど」
「ケントの隠密が凄いことはよく知っているけど、大丈夫なの?」
「目の前で違法奴隷にされている人がいたら、ね。
もちろん戦うつもりは無いし、危なそうだったらすぐに逃げるよ」
「……はぁ、わかったわ。
あまり危険なことはしてほしくないけど、それがケントの良いところなのかもしれないわね。
それに、客観的に考えてケントに害を為せるような奴がそうそういるはずないか」
「あはは……。
それじゃあちょっと行ってくるね。
帰りはいつになるかわからないけど、遅くても明日の内に一度戻るよ。
ああ、それとギルドへの依頼完了の報告をお願いしてもいい?」
「わかったわ。
とりあえずディグアント100体を討伐して、他にもいるかもしれないと伝えておくわね。
気をつけて行ってきて、油断は禁物よ」
「うん、じゃあ行ってくる」
ケントは隠密を発動し、脳内マップを頼りにエディの追跡を開始した。
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