縁の下の勇者
77.2人の思い
ミランダと2人で街道を歩く。
ディグアントの目撃情報があったのは、王都から徒歩で1時間ほど街道を進んだあたりだったはずだ。
もっとも標識があるわけでもないため位置などだいたいであろうし、ディグアントがその場にとどまってくれている保証があるわけでもないので油断はしない。
とはいえ索敵は脳内マップで常日頃から行っているため、慣れてしまった今ではこれといった負担があるわけでもない。
道中、何度も商人と思われる馬車とすれ違った。
王都へと続く街道というだけあって、人の往来も活発なようだ。
ケントたちも馬車を利用すれば目的地までより早くたどり着けるだろう。
実際にこれくらいの距離の依頼の場合、馬車を利用する冒険者もいるし、冒険者ギルドでも有料ではあるが馬車の貸し出しを行っている。
ただし、ランドン伯爵家の馬車の様な揺れを抑える魔道具を積んだ高級な馬車ではないため、揺れは相応のものとなる。
使い続ければいずれその揺れにもなれるのかもしれないが、それは今でなくてもいいだろう。
今回の依頼の距離ならば歩いてもそう時間は変わるまい。
「ねえミランダ、勇者って知ってる?」
「勇者って昔話なんかによく出てくる人のことよね」
「そうそう。
今、この時代に勇者がいるっていう話を聞いたことはない?」
「うーん、そんな話聞いたことないわ。
もし勇者が存在しているとしたら、魔王も復活しているっていうことになるわね。
……そういえばここ数年魔物の討伐件数が増加しているっていう話をギルドで耳にしたような。
もしかして魔王が復活した影響?
突然そんな質問をするってことは、ケントは何か知っているの?」
「ちょっとね。
王都で勇者の称号を持っている人を見かけたんだ。
周知されていないところを見ると、隠しているみたいだね。
まさか自分の称号を把握していないなんてことはないだろうし。
やっぱり勇者の存在と魔王の復活って関係あるの?」
衝撃の事実を耳にして、目を見開くミランダ。
勇者と言えば伝説的な存在であり、それが実在してなおかつ現在王都にいると言うのだ。
驚くのも無理はない。
「……どうかしら。
勇者が魔王を倒すっていう物語を子供のころよく聞いたから、そう思うっていうのもあるかもしれないわ。
でも大昔、実際に実在していた勇者が魔王を討伐したっていう記録も残っているみたいだし、無関係ではないと思うの」
ミランダの話を聞くと勇者も魔王も話の中の人物で、2つの存在の因果関係を証明するには現状情報が不十分だ。
だが、実際に勇者が魔王を倒したという歴史が存在しているならば、勇者が存在する今回も魔王が現れると想定していたほうがいいだろう。
魔王という存在がどれほどの脅威なのかわからないが、警戒しておくに越したことはない。
「……もし魔王が復活したらさ、ケントは魔王と戦うの?」
石ころを蹴飛ばしながらミランダが呟いた。
「目の前に現れて襲われるか、生活が脅かされるようなことでもあれば戦うだろうけど、今のところ自分から戦いに行くつもりはないよ。
せっかく勇者がいるんだから、彼に頑張ってもらうことにするよ。
そもそも魔王なんて存在に俺の攻撃が通じるかもわからないしね」
魔王のステータスが今の勇者と同程度ならば問題ない。
だが、Sランクでない現状を見るに発展途上であるのは間違いないだろう。
そんな勇者が限界まで鍛え、更に強力な仲間と共に挑んでようやく相手になるであろう魔王という存在がどれ程のものなのか想像もつかない。
ミランダに言ったように、ケントの攻撃が通じない可能性だってある。
そんな不確定要素の多い相手に正義感だけで挑みに行けるほどケントはチャレンジャーではない。
「……そっか、なら良かったわ。
ケントとパーティーを組んでからまだ1年も経ってないけれど、それでもケントとの冒険者生活はとても楽しいの。
驚かされることばかりだけれど、そんな毎日がとっても輝いていて。
それこそソロで冒険者をやっていたころとなんて比較にならないくらいに。
今の私には、ケント以外の人とパーティーを組んでいる未来なんて想像できないわ」
少し照れ臭そうに微笑みながら、ミランダは答えた。
「……っ!」
その表情の破壊力に思わず顔を背けてしまう。
顔が赤くなるのが見なくてもわかった。
こうやって言葉にして思いを伝えられるのは非常に面映ゆいが、それ以上に嬉しくて心が温かいもので満たされるのを感じる。
今ならなんだってできてしまいそうな、そんな感じだ。
結論、俺のパートナーがめちゃくちゃ可愛い。
「えっと、俺もミランダとパーティーを組めて、毎日がすごく充実してる!
もし仮に魔王と戦うようなことになったとしても、ミランダとパーティーを解散するつもりはないし、これからもその、ずっと一緒にいたいと思ってるよ!」
「……っ!そう、嬉しいわ」
緊張で声がつっかえるわ上ずるわでダメダメだったし、軽くパニック状態で自分が何て言ったか正直覚えてない。
それでもミランダにはちゃんと伝わったようだ。
それからお互い恥ずかしさで会話が途切れてしまった。
ミランダは下を向いてモジモジしているし、ケントはケントで平静を装っているつもりがその実忙しなく動く視線のせいで動揺しているのが一目瞭然だった。
2人とも目的地へと無言で足を進めていたが、それは決して不快なものではなく心地よい沈黙だった。
だがそんな2人の幸福な時間に終わりを告げるように、脳内マップにディグアントらしき存在が引っかかった。
ディグアントの目撃情報があったのは、王都から徒歩で1時間ほど街道を進んだあたりだったはずだ。
もっとも標識があるわけでもないため位置などだいたいであろうし、ディグアントがその場にとどまってくれている保証があるわけでもないので油断はしない。
とはいえ索敵は脳内マップで常日頃から行っているため、慣れてしまった今ではこれといった負担があるわけでもない。
道中、何度も商人と思われる馬車とすれ違った。
王都へと続く街道というだけあって、人の往来も活発なようだ。
ケントたちも馬車を利用すれば目的地までより早くたどり着けるだろう。
実際にこれくらいの距離の依頼の場合、馬車を利用する冒険者もいるし、冒険者ギルドでも有料ではあるが馬車の貸し出しを行っている。
ただし、ランドン伯爵家の馬車の様な揺れを抑える魔道具を積んだ高級な馬車ではないため、揺れは相応のものとなる。
使い続ければいずれその揺れにもなれるのかもしれないが、それは今でなくてもいいだろう。
今回の依頼の距離ならば歩いてもそう時間は変わるまい。
「ねえミランダ、勇者って知ってる?」
「勇者って昔話なんかによく出てくる人のことよね」
「そうそう。
今、この時代に勇者がいるっていう話を聞いたことはない?」
「うーん、そんな話聞いたことないわ。
もし勇者が存在しているとしたら、魔王も復活しているっていうことになるわね。
……そういえばここ数年魔物の討伐件数が増加しているっていう話をギルドで耳にしたような。
もしかして魔王が復活した影響?
突然そんな質問をするってことは、ケントは何か知っているの?」
「ちょっとね。
王都で勇者の称号を持っている人を見かけたんだ。
周知されていないところを見ると、隠しているみたいだね。
まさか自分の称号を把握していないなんてことはないだろうし。
やっぱり勇者の存在と魔王の復活って関係あるの?」
衝撃の事実を耳にして、目を見開くミランダ。
勇者と言えば伝説的な存在であり、それが実在してなおかつ現在王都にいると言うのだ。
驚くのも無理はない。
「……どうかしら。
勇者が魔王を倒すっていう物語を子供のころよく聞いたから、そう思うっていうのもあるかもしれないわ。
でも大昔、実際に実在していた勇者が魔王を討伐したっていう記録も残っているみたいだし、無関係ではないと思うの」
ミランダの話を聞くと勇者も魔王も話の中の人物で、2つの存在の因果関係を証明するには現状情報が不十分だ。
だが、実際に勇者が魔王を倒したという歴史が存在しているならば、勇者が存在する今回も魔王が現れると想定していたほうがいいだろう。
魔王という存在がどれほどの脅威なのかわからないが、警戒しておくに越したことはない。
「……もし魔王が復活したらさ、ケントは魔王と戦うの?」
石ころを蹴飛ばしながらミランダが呟いた。
「目の前に現れて襲われるか、生活が脅かされるようなことでもあれば戦うだろうけど、今のところ自分から戦いに行くつもりはないよ。
せっかく勇者がいるんだから、彼に頑張ってもらうことにするよ。
そもそも魔王なんて存在に俺の攻撃が通じるかもわからないしね」
魔王のステータスが今の勇者と同程度ならば問題ない。
だが、Sランクでない現状を見るに発展途上であるのは間違いないだろう。
そんな勇者が限界まで鍛え、更に強力な仲間と共に挑んでようやく相手になるであろう魔王という存在がどれ程のものなのか想像もつかない。
ミランダに言ったように、ケントの攻撃が通じない可能性だってある。
そんな不確定要素の多い相手に正義感だけで挑みに行けるほどケントはチャレンジャーではない。
「……そっか、なら良かったわ。
ケントとパーティーを組んでからまだ1年も経ってないけれど、それでもケントとの冒険者生活はとても楽しいの。
驚かされることばかりだけれど、そんな毎日がとっても輝いていて。
それこそソロで冒険者をやっていたころとなんて比較にならないくらいに。
今の私には、ケント以外の人とパーティーを組んでいる未来なんて想像できないわ」
少し照れ臭そうに微笑みながら、ミランダは答えた。
「……っ!」
その表情の破壊力に思わず顔を背けてしまう。
顔が赤くなるのが見なくてもわかった。
こうやって言葉にして思いを伝えられるのは非常に面映ゆいが、それ以上に嬉しくて心が温かいもので満たされるのを感じる。
今ならなんだってできてしまいそうな、そんな感じだ。
結論、俺のパートナーがめちゃくちゃ可愛い。
「えっと、俺もミランダとパーティーを組めて、毎日がすごく充実してる!
もし仮に魔王と戦うようなことになったとしても、ミランダとパーティーを解散するつもりはないし、これからもその、ずっと一緒にいたいと思ってるよ!」
「……っ!そう、嬉しいわ」
緊張で声がつっかえるわ上ずるわでダメダメだったし、軽くパニック状態で自分が何て言ったか正直覚えてない。
それでもミランダにはちゃんと伝わったようだ。
それからお互い恥ずかしさで会話が途切れてしまった。
ミランダは下を向いてモジモジしているし、ケントはケントで平静を装っているつもりがその実忙しなく動く視線のせいで動揺しているのが一目瞭然だった。
2人とも目的地へと無言で足を進めていたが、それは決して不快なものではなく心地よい沈黙だった。
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