縁の下の勇者
76.「黄金の剣」
とくに意図していた訳ではなかった。
単に鑑定されたから、鑑定し返してやろうと思ったに過ぎない。
普段ケントは他人のステータスを見ないよう自制している。
勝手にステータスを見られるのは、相手にとっても気分の良いものではないと思うからだ。
だが、偽物のステータスとはいえ、自分のステータスを覗いた相手ならば、その限りではない。
相手のステータスを覗くということは、自分もステータスを覗かれる覚悟があってしかるべきだと思う。
……いろいろ自分を納得させる理由を並べてはみたが、結局のところいずれSランクとなって人類最強に仲間入りするであろう彼女たちのステータスに興味を惹かれただけだ。
でもって驚愕した。
ステータスはもちろん以前鑑定したゴブリンなどとは比べるまでもないほど高かったが、驚いたのは称号である。
ケントのことを鑑定したちびっこのシスルの称号には「賢者」と記されていたのだ。
賢者といえば、文字通り賢い人のことを指すのかもしれない。
だが、ファンタジーにおいて賢者といえば、魔法使いの上位職であったり、魔道を極めたものであったりに与えられる称号というのが定番だ。
……このちびっこが魔法使いの頂点?
確かにスキルには魔法系のスキルが並んでいるが、スキルレベルXどころかVIIに到達しているものもない。
もしかして賢者の称号は、将来的に魔法を極めるだけのポテンシャルを秘めているという証なのだろうか。
確かに彼女たちは強いとはいえSではなくAランクであるようだし、成長途中なのかもしれない。
シスルのステータスも衝撃だったが、驚かされたという意味ではアイリスのステータスの方が上だった。
まず、アイリスというのが偽名だった。
ただ偽名を使っているだけならまあ、そういう人もいるのだろうくらいで済んだが、問題は本名の方だった。
アリエス・レリエスト。
軽くめまいを感じながら、常識先生を使って調べる。
するとやはりというか、このレリエスト王国の第二王女であるらしい。
つまり、マルティーナの姉ということになる。
なんで王族が冒険者なんてやっているんだよ!と思うが、おそらく称号にある「姫騎士」というのがなにか関係しているのだろう。
それにしてもあまりマルティーナと似ていないな、腹違いとかなのかなと思いながら鑑定しているとその原因が分かった。
アイリスの身につけている指輪の1つに、「仮装の指輪」というものがあったのだ。
おそらくこの魔道具によって姿を変えているのだろう。
王族の身で冒険者をやるには、本来の姿ではやはり都合が悪いに違いない。
思わぬステータスの2人を前に内心少しうろたえているとさらに穏やかではない人たちが来た。
「アイリス、知り合いかい?」
「シスルがこの子たちに興味を持ったみたいで、挨拶をしていたの。
ケントとミランダよ」
依頼の貼ってある掲示板を見ていた「黄金の剣」の残りのメンバーである3人がやってきたのだ。
ここまできたら怖いもの見たさというか、自分の好奇心を抑えられず、3人も鑑定することにした。
今まで散々他人を鑑定することを渋ってきて、ミランダすら鑑定したことがないのにどういうことだと思うかもしれないが、それはそれ、これはこれである。
まずは、180cmはあるであろう長身に引き締まった体をした女性である。
名前はクレマティス、そして称号は「狂戦士」であった。
狂戦士といえば、戦士の上位職として描かれることもある、字の通り戦闘狂であるというイメージだ。
女性に対して失礼かもしれないが、クレマティスの立派な体躯を見ると、魔物相手に大立ち回りしている姿を容易に想像できる。
次に修道服のような格好をした女性である。
名前はサンセ、そして称号は「聖女」であった。
聖女というと、教会の最終兵器的存在で、回復魔法のエキスパートみたいなイメージがある。
そのイメージはあながち間違いではないようで、しっかり回復魔法のスキルを持っている。
だが、そのスキルレベルはVIとケントよりも低い。
きっと、シスルと同じように成長途中なのだろう。
そして極めつけはこいつだ。
「黄金の剣」のリーダーにして、パーティー唯一の男。
名前はバイン、そして称号であるが、ここまでのメンツがそろっているのだからある程度予想していたが、「勇者」であった。
……魔王でも現れるのだろうか。
正直、自分とその周囲に被害が出ないのであれば、魔王とかいてもいなくてもどちらでもいい。
だが、ここで勇者たちと交友を持ち、彼らが魔王に挑んで敗れ、死んだらきっとショックを受けるだろう。
というか、挨拶をしただけである現在でも既に彼らに対して多少なりとも情が湧いてしまっている。
まあ、魔王がいるかもわからないが、彼らには死なないよう強くなってから魔王に挑んで欲しいと思う。
女神様に貰ったスキルがあれば、勇者の力になれるんじゃないかって?
いやいや。
あんなハーレムパーティーと一緒に行動なんてできないから。
魔王に挑む前に、宿屋の隣の部屋から聞こえるベッドのきしむ音で童貞のガラスのハートを砕かれて引きこもる自信がある。
「僕はバイン、よろしくね」
「よろしく」
差し出された手を握り握手を交わす。
バインはそのまま自然なそぶりでミランダにも手を差し出すと握手をした。
女性に自分から手を差し出すとか、童貞を拗らせているケントからしたら信じられない行為だ。
これだからイケメンは!
勇者でハーレムパーティーを築くだけでは飽き足らず、ミランダにも手を出すのか!
……いや、そんな事実は今のところないけどね。
拗らせて器が小さい自覚はあるが、握手をする程度の小さなことでも少し嫉妬してしまう。
別にミランダと恋仲というわけではないが。
いうなれば、そう、娘を嫁に出したくない父親的な心境である。
どこの馬の骨とも知れぬイケメン勇者なんかにうちのミランダは渡さん!
ミランダに手を出してみろ、その時は死んだ方がましだと思うようなあんなことやこんなことを……。
「ケント、どうかした?」
……どうやら脳内愛憎劇を繰り広げている間に「黄金の剣」の皆は依頼を受けに受付へと向かったようだった。
「いや、何でもないよ」
実際のところ、少し声をかけられたくらいでは、ミランダはケントとパーティーを解消したりはしないだろう。
まだ数か月ではあるが、パーティーメンバーとして同じ時間を過ごしてきたのだ。
ミランダの人となりだってそれなりにはわかっているつもりである。
これから先ミランダとの関係がどうなるかはわからないが、互いに幸せだと言える人生を送れるようになればいいなと思う。
単に鑑定されたから、鑑定し返してやろうと思ったに過ぎない。
普段ケントは他人のステータスを見ないよう自制している。
勝手にステータスを見られるのは、相手にとっても気分の良いものではないと思うからだ。
だが、偽物のステータスとはいえ、自分のステータスを覗いた相手ならば、その限りではない。
相手のステータスを覗くということは、自分もステータスを覗かれる覚悟があってしかるべきだと思う。
……いろいろ自分を納得させる理由を並べてはみたが、結局のところいずれSランクとなって人類最強に仲間入りするであろう彼女たちのステータスに興味を惹かれただけだ。
でもって驚愕した。
ステータスはもちろん以前鑑定したゴブリンなどとは比べるまでもないほど高かったが、驚いたのは称号である。
ケントのことを鑑定したちびっこのシスルの称号には「賢者」と記されていたのだ。
賢者といえば、文字通り賢い人のことを指すのかもしれない。
だが、ファンタジーにおいて賢者といえば、魔法使いの上位職であったり、魔道を極めたものであったりに与えられる称号というのが定番だ。
……このちびっこが魔法使いの頂点?
確かにスキルには魔法系のスキルが並んでいるが、スキルレベルXどころかVIIに到達しているものもない。
もしかして賢者の称号は、将来的に魔法を極めるだけのポテンシャルを秘めているという証なのだろうか。
確かに彼女たちは強いとはいえSではなくAランクであるようだし、成長途中なのかもしれない。
シスルのステータスも衝撃だったが、驚かされたという意味ではアイリスのステータスの方が上だった。
まず、アイリスというのが偽名だった。
ただ偽名を使っているだけならまあ、そういう人もいるのだろうくらいで済んだが、問題は本名の方だった。
アリエス・レリエスト。
軽くめまいを感じながら、常識先生を使って調べる。
するとやはりというか、このレリエスト王国の第二王女であるらしい。
つまり、マルティーナの姉ということになる。
なんで王族が冒険者なんてやっているんだよ!と思うが、おそらく称号にある「姫騎士」というのがなにか関係しているのだろう。
それにしてもあまりマルティーナと似ていないな、腹違いとかなのかなと思いながら鑑定しているとその原因が分かった。
アイリスの身につけている指輪の1つに、「仮装の指輪」というものがあったのだ。
おそらくこの魔道具によって姿を変えているのだろう。
王族の身で冒険者をやるには、本来の姿ではやはり都合が悪いに違いない。
思わぬステータスの2人を前に内心少しうろたえているとさらに穏やかではない人たちが来た。
「アイリス、知り合いかい?」
「シスルがこの子たちに興味を持ったみたいで、挨拶をしていたの。
ケントとミランダよ」
依頼の貼ってある掲示板を見ていた「黄金の剣」の残りのメンバーである3人がやってきたのだ。
ここまできたら怖いもの見たさというか、自分の好奇心を抑えられず、3人も鑑定することにした。
今まで散々他人を鑑定することを渋ってきて、ミランダすら鑑定したことがないのにどういうことだと思うかもしれないが、それはそれ、これはこれである。
まずは、180cmはあるであろう長身に引き締まった体をした女性である。
名前はクレマティス、そして称号は「狂戦士」であった。
狂戦士といえば、戦士の上位職として描かれることもある、字の通り戦闘狂であるというイメージだ。
女性に対して失礼かもしれないが、クレマティスの立派な体躯を見ると、魔物相手に大立ち回りしている姿を容易に想像できる。
次に修道服のような格好をした女性である。
名前はサンセ、そして称号は「聖女」であった。
聖女というと、教会の最終兵器的存在で、回復魔法のエキスパートみたいなイメージがある。
そのイメージはあながち間違いではないようで、しっかり回復魔法のスキルを持っている。
だが、そのスキルレベルはVIとケントよりも低い。
きっと、シスルと同じように成長途中なのだろう。
そして極めつけはこいつだ。
「黄金の剣」のリーダーにして、パーティー唯一の男。
名前はバイン、そして称号であるが、ここまでのメンツがそろっているのだからある程度予想していたが、「勇者」であった。
……魔王でも現れるのだろうか。
正直、自分とその周囲に被害が出ないのであれば、魔王とかいてもいなくてもどちらでもいい。
だが、ここで勇者たちと交友を持ち、彼らが魔王に挑んで敗れ、死んだらきっとショックを受けるだろう。
というか、挨拶をしただけである現在でも既に彼らに対して多少なりとも情が湧いてしまっている。
まあ、魔王がいるかもわからないが、彼らには死なないよう強くなってから魔王に挑んで欲しいと思う。
女神様に貰ったスキルがあれば、勇者の力になれるんじゃないかって?
いやいや。
あんなハーレムパーティーと一緒に行動なんてできないから。
魔王に挑む前に、宿屋の隣の部屋から聞こえるベッドのきしむ音で童貞のガラスのハートを砕かれて引きこもる自信がある。
「僕はバイン、よろしくね」
「よろしく」
差し出された手を握り握手を交わす。
バインはそのまま自然なそぶりでミランダにも手を差し出すと握手をした。
女性に自分から手を差し出すとか、童貞を拗らせているケントからしたら信じられない行為だ。
これだからイケメンは!
勇者でハーレムパーティーを築くだけでは飽き足らず、ミランダにも手を出すのか!
……いや、そんな事実は今のところないけどね。
拗らせて器が小さい自覚はあるが、握手をする程度の小さなことでも少し嫉妬してしまう。
別にミランダと恋仲というわけではないが。
いうなれば、そう、娘を嫁に出したくない父親的な心境である。
どこの馬の骨とも知れぬイケメン勇者なんかにうちのミランダは渡さん!
ミランダに手を出してみろ、その時は死んだ方がましだと思うようなあんなことやこんなことを……。
「ケント、どうかした?」
……どうやら脳内愛憎劇を繰り広げている間に「黄金の剣」の皆は依頼を受けに受付へと向かったようだった。
「いや、何でもないよ」
実際のところ、少し声をかけられたくらいでは、ミランダはケントとパーティーを解消したりはしないだろう。
まだ数か月ではあるが、パーティーメンバーとして同じ時間を過ごしてきたのだ。
ミランダの人となりだってそれなりにはわかっているつもりである。
これから先ミランダとの関係がどうなるかはわからないが、互いに幸せだと言える人生を送れるようになればいいなと思う。
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