縁の下の勇者

黒うさぎ

74.違法奴隷

 
「ケントとミランダは、マルティーナに会った後は何をしていたのだ?」


 食事の手を止め、フロスティが聞いてきた。


 伯爵は帰りが遅いらしく、夕食の席を囲んでいるのはケントたち3人だけで、後は部屋の隅に給仕が1人控えている。


 伯爵家の美味しくて高そうなものばかり食べていたら、舌が肥えて元の生活に戻れなくなるのではないか、といらない心配をしてみる。


「冒険者ギルドを見に行っていたよ。
 ランドンにあるのも大きかったけど、やっぱり王都のギルドは大きいね」


「ギルドは国をまたいで活動しているとはいえ、国との関係を全て絶ちきる訳にもいかないだろうからな。
 国内の領地間における力関係を無闇に刺激しないためにも、王都のギルドは国内で最も立派に造られることが多いらしい」


 確かに国内外問わず影響力のあるギルドを誘致し、立派な建物を構えさせることは、領主としてのステータスとなることもあるのだろう。


 建物が立派だからといって依頼が潤沢にあるとは限らないだろうし、維持費もかさむだろうから冒険者にとっても良いことだとは一概には言えないだろうが。


「そういえばギルドで『黄金の剣』を見かけたわ」


「ほう。
 あのAランクパーティーか」


「フロスティも知っているんだね」


「我々の国で活躍するAランクパーティーだからな。
 直接の面識は無いが、以前にランドン伯爵家として父上が依頼をしたことがあってな」


 貴族から依頼が来るとは、流石はAランクパーティーだ。


 冒険者が認められている世界とはいえ、荒くれ者の集まりであると認識されているという側面は、信頼関係において枷となるはずだ。


 依頼する側としても、いくらギルドを通した契約とはいえ、信用できない者には依頼したくないだろう。


 懐に余裕があり、とりうる選択肢が一般人より多い貴族ならなおさらだ。


 それでもなお貴族から依頼が来るということは、信頼と実績を積み重ねてきた証に違いない。


 冒険者ギルドに賄賂が通じるか知らないが、仮に不正して地位を手に入れた者をランドン伯爵が見抜けないとも思えない。


『黄金の剣』は、少なくとも依頼に関しては信用に足るパーティーなのだろう。


「そういえば『黄金の剣』で思い出したのだが、今日会った知人から不穏な噂を聞いてな」


「不穏な噂?」


「ああ。
 なんでも最近、王都で違法奴隷が取引されているらしい」


「違法奴隷か」


 この世界には奴隷が存在する。


 とはいえ基本的に奴隷と呼ばれているのは、死刑にするほどではないが、軽くはない罪を犯した者たちのことである。


 一般的に犯罪奴隷と呼ばれている彼らは、犯した罪の大きさによって、過酷な環境下での労働を強制される。


 例えば、鉱山での採掘や未開の地の開拓などがそれに当てはまる。


 奴隷は『隷属の刻印』と呼ばれる魔導具を用いて刻印を刻まれることで、刻印を刻んだ者に対して絶対服従するという仕組みの基に成り立っている。


『隷属の刻印』はギルドにある『鑑定石』同様、既存の技術では再現不可能な古代の遺物という扱いである。


『隷属の刻印』は極めて凶悪な魔導具であるため、発見され次第、国の管理下に置かれるという決まりだ。


 しかし、何らかの手段で不正に隷属の刻印を刻まれてしまう場合があり、それによって奴隷化した者を違法奴隷という。


「一部貴族の間でコレクションとして扱われているらしくてな。
 同じく貴族に名を連ねる者として情けない限りだが」


「悪趣味ね。
 それで、違法奴隷と『黄金の剣』に何か関係があるの?」


「ああ。
 実は以前にも違法奴隷騒ぎがあってな。
 その時違法奴隷を仕入れていた盗賊を壊滅させたのが『黄金の剣』なのだ。
 だが、当時盗賊は壊滅させたが、肝心の『隷属の刻印』は発見されなかった。
 今回の違法奴隷取引は、以前の連中の生き残りが主導している可能性があるのではと私は思っている」


 確かに『隷属の刻印』はそう簡単に入手できるものではないだろう。


 そして、前回の騒動の際に『隷属の刻印』は見つかっていない。


 その事を踏まえると、フロスティの言う通り同一犯の可能性が高いと思う。


「違法奴隷って結構大事だと思うけど、国は動かないの?」


「確かにそうだが、まだ貴族の間でも噂の域を出ない話だからな。
 一般人は知らないだろうし、まだ国も全てを把握できていないのだろう。
 それに違法奴隷を仕入れているのは盗賊かもしれないが、買っているのは貴族だろうからな。
 事実がどうであれ、国民にとって貴族の不祥事は国の不祥事といっても過言ではない。
 慎重にならざるをえないのだろう。
 国民に違法奴隷の存在を知られていない今は特に、な」


 責任ある立場というのは、自分に非が無くても責任をとらなければならないこともあるということだろう。


 流石に王国で王族を糾弾するようなことは、余程悪政を敷かない限りないとは思うが、誰かしら首を斬られるくらいのことはあるかもしれない。


「そんな一部貴族しか知らないようなことを俺たちが聞いてよかったの?」


「別に国から箝口令を敷かれているわけでもないし、構わんだろう。
 あくまで噂だしな。
 それに違法奴隷の話を聞いたからといって、ケントやミランダが関わるようなことはあるまい」


 フロスティはなんの問題もないように言うが、フラグにしか聞こえない。


「……ミランダ、巻き込まれないように、気をつけようね」


「そうね。
 まあ、ケントといる限り、問題ごとに巻き込まれるのは確定事項みたいなものだから、回避は期待してないけどね」


 あれ、なんだかトラブルメーカーみたいに思われている気がする。


 俺はただ、ひっそり生きたいだけなのに。





















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