縁の下の勇者

黒うさぎ

71.王女の評価

 
 ―マルティーナ視点―


「ふぅ」


 ホーリーにお茶のおかわりを頼み口へと運ぶ。


 ホーリーの入れるお茶はマルティーナのお気に入りだ。


 お茶を入れる技術はもちろん、マルティーナの気分を察してハーブの種類を替えてくれるので、一口飲むだけでリラックスすることができる。


 護衛にメイドと彼女ほど器量のある女性はそうはいないだろう。


「ねえホーリー、彼らのことどう思う?」


「ミランダ様に関しましては先ほど述べた通り素晴らしい才能を秘めています。
 人間性の確認さえできれば、姫様の護衛として推薦させていただきたいほどの逸材だと思います。
 ただ、ケント様に関しましては判断しかねます。
 俄かには信じられませんが、おそらく彼は隠蔽スキルで私の鑑定を欺いていたのだと思われます。
 私の鑑定スキルのレベルはⅤ、それを欺くとなると最低でもレベルⅤ、もしくはそれ以上のレベルの隠蔽スキルを所持していることになります。
 おそらくは隠蔽されているスキルの中に氷魔法があったのではないかと」


「隠蔽スキルですか。
 ホーリーの鑑定を欺くだなんて信じられませんが、実際に目の前で氷魔法を使用されては、その可能性が高いのでしょうね」


 スキルレベルⅤともなれば、どのようなスキルであれその分野において一流であることの証である。


 調理スキルであれば王都に一流の店を構えることができるだろうし、鍛冶スキルであれば歴史に名を刻むような名剣を打つことができるだろう。


 その中でも鑑定スキルは所持している人が少なく、低レベルであっても重宝されるスキルであり、ホーリーの様にレベルⅤともなると大国であるレリエスト王国ですら片手で数えるほどしかいないだろう。


 そんな国内随一の鑑定を欺けるものなど、いったいどれほどいるだろうか。


 隠蔽スキルは鑑定スキル程珍しいスキルではないとはいえ、それでもレベルⅤ以上となるとそうそういるものではない。


 だが実際ホーリーが鑑定したステータスの中に氷魔法は無かったわけで、ケントが隠蔽スキルをレベルⅤ以上に上げていることはほぼ間違いないだろう。


「氷を生みだす魔道具を隠し持っていた可能性もありますが、隠し持てるようなサイズとなるとダンジョン産の物でしょうか。
 まあ、スキルであろうと魔道具であろうと希少であることにかわりはありませんが」


 魔道具の可能性を示唆はしたが、マルティーナ自身は十中八九スキルであると思っている。


 ダンジョンでケントと行動を共にしていたフロスティが何度も見たと言っていたのだ。


 彼女の態度は軽いように見えるかもしれないが、人を見る目は確かだ。


 そんな彼女が氷の『魔法』使いとしてケントを紹介したのだから、スキルによるものだということは間違いないといっていいだろう。


「ラティ、あなたはどう思う?」


 マルティーナは振り返ると、背後に立つ金髪の騎士へと問いかけた。


「おそらく2人ともかなり高位の看破スキルを持っていると思う。
 フェンの隠密に気が付いていたようだった」


 淡々とした調子でラティは答えた。


 一介の騎士が王女に対する話し方としては横柄だが、元々はキッチリとした敬語で話していた。


 だがマルティーナは親しい相手には身分を気にせず、友人として接してほしいとお願いしてあるので、私的な場においては少なくともこの場にいる面々は普段の口調でマルティーナと言葉を交わしている。


 だが、ホーリーだけは頑なに敬語を崩そうとはしなかった。


 もっとも、彼女は誰に対しても敬語なので、これが普段の口調だと言われればそれまでなのだが。


 ホーリー曰く「私はいついかなる時も姫様のメイドです」だそうだ。


 彼女なりの矜持があるのだろう。


「フェンの隠密に?
 本当ですか?」


 部屋の隅に視線を向けると、誰もいなかった場所にふっと1人の騎士の姿が現れた。


「間違いない。
 何度か視線を感じた」


 抑揚の少ない声でフェンが答える。


「2人とも冒険者として魔物との戦闘はしたことがあるのだろうが、おそらく対人経験はほとんどないと思う。
 視線運びが素人だった」


 戦闘はからっきしのマルティーナにはよくわからないが、騎士であるラティやフェンからすれば、隠密を看破していると判断するには視線運びは十分な判断材料なのだろう。


「それほどの力を持つ方々が今まで功績を挙げることもなく、未だDランクパーティーの冒険者だというのは信じがたいですが、何か理由があるのでしょうか」


 有能な人材であることは間違いないので関係を持っておきたいが、彼らがそれを望まない場合はそれもそれで選択肢の1つであると思う。


 特にケントは氷魔法という貴重な能力を持っているようだが、国を挙げてどうしても囲い込みたいというほどでもないだろう。


 オークキングを倒したという話も聞いたが、誇張や誤解が含まれているのではないかと思う。


 オークキングといえば、1体で小さな街くらいなら落とすことができるような歩く災害だ。


 もしそのような魔物が現れたら、場合によっては国の騎士団を出動させて対応させなければならないような国家級の事件にだってなりうる。


 いくら氷魔法という珍しい魔法が使えるからといって1人で、もしくはホーリーが太鼓判を押すミランダと協力してだとしても、オークキングになど勝てるはずもない。


 普段なら一介の冒険者のことなどそれほど気に留めないが、彼らはフロスティと懇意にしているようだった。


 直接話してみて2人とも悪人には見えなかったが、それでも親友に害をなすようなら相応の対応が必要だろう。


 マルティーナはそっとカップを口へと運んだ。



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