縁の下の勇者
63.究極の質問
「ええーー!!どうしてさ!?
転移碑はフロスティが発見したことにしたはずじゃないか!」
「それはそうだが、たとえ随伴していただけだということにしても偉業の一端を担っているのだ。
評されるのは当たり前であろう」
それはまあ、そうなのかもしれないが。
王城へ招かれる新米冒険者とか目立ち過ぎではないか!
「ケントがそういったことが苦手なのはわかっている。
招かれてはいるが、世間への発表は私が発見したということになっているので2人の名前が広まることは無いだろう。
もちろん隠すわけではないので、調べられればすぐに2人の名前に辿り着くだろうがそれは諦めてくれ」
むう、それならさほど騒がれることもない、のか?
まあ、転移碑を見つけてしまった時点でこうなった責任はケント自身にあるのでフロスティに文句を言うのも間違いではある。
「まあ、目立たないならいいか。
というか、せっかく冒険者として名前を売れるチャンスなんだからミランダは名前が広まった方が良かった?」
「別に今回のことはケントの功績であって、私はとくに何もしていないもの。
実力に見合わないことで評価が上がっても、今後の冒険者活動が辛くなるだけだわ。
それにいつか自分の力で凄腕の冒険者として認めてもらう予定だから」
そう言葉にし不敵な笑みを浮かべるミランダの姿は、ただただ美しかった。
何となく冒険者をやっているだけのケントと違って、ミランダには冒険者としての将来の展望がある。
ケントは目立ちたくはないが、それがミランダの将来の足かせになるようなことだけは避けなければならない。
「というわけだから、明日の朝いつもの時間に冒険者ギルドの前で待っていてくれ。
馬車で迎えに行こう」
「わかったよ」
それからしばらく3人で雑談した後、フロスティは冒険者ギルドを去って行った。
◇
翌朝2人がギルドの前で待っていると、フロスティを乗せた馬車がやってきた。
豪華な装飾のされた馬車は、平民が街から街への移動に利用する乗合馬車とは見た目から違っており、流石は伯爵家というだけのオーラを放っている。
「2人とも待たせたな。
さあ、乗ってくれ」
フロスティが馬車から顔を覗かせてそう言ってきた。
フロスティを待つ間ミランダと話していた感じでは、良くて護衛の騎士たちの馬車に便乗、最悪徒歩という可能性もあるという話だったが、どうやらフロスティと同じ馬車に乗せてもらえるらしい。
平民に過ぎないケントたちがフロスティと同じ馬車に乗ってもいいのかと、それとなく御者やお付きのメイドらしき人の様子を窺うが、とくに誰も気にしているようではなかった。
ケントたちとしても快適に旅ができるに越したことは無いので、ありがたく乗せてもらうことにした。
フロスティが気を利かせてくれたのであろう、フロスティと同乗するのはケントたちだけであった。
馬車に乗るフロスティはいつものローブ姿ではなく、ドレス姿であった。
もちろん旅の邪魔になるような装飾の派手なものではなく、シンプルなつくりのドレスではあるが、凛としたフロスティにはむしろその方が似合っていた。
そういえば馬車といい、ドレスといいフロスティの貴族らしい姿を見るのは初めてだ。
フロスティはいつも冒険者の魔法使い然とした服装をして、待ち合わせ場所まで徒歩で来ていたのでそういった姿を見る機会がなかった。
やっぱり貴族なんだなと、すごいと思う気持ちと同時に身分の違いを改めて感じて少し寂しく思う自分もいた。
「どうした、ケント?
そんなにじろじろ見て」
「あっ、ごめん。
フロスティがドレスを着ているところを見るのは初めてだから、ちょっと見とれちゃって」
「そ、そうか!
確かに今までドレス姿を見せたことは無かったな。
ケントはいつものローブ姿よりもこちらの方がいいと思うのか?」
なんと、少し変則的ではあるが人類史における難問の1つ、「どっちの服が似合う?」に出会う日が来ようとは!
数多の男たちが直面し、悩み苦しみ、結局女性の機嫌を損ねてしまうという究極の難問。
まさか自分がこの質問をされることがあるとは思いもしなかったが、ここは光栄であると思っておこう。
質問されたからには正答を導き出さなければならない。
フロスティの求める、否、それ以上の回答をする。
しなければならないのが男の使命というものだ。
頭をフル回転させ、今のケントにできる最高の答えを導き出す!
「そうだなぁ。
ダンジョンに潜っているときは、ローブ姿のフロスティのほうがカッコいいと思うし、貴族令嬢として振る舞うときはドレスの方がきれいだと思うよ」
はい、無理。
「どっちの服の方が似合う?」という究極の質問に対する答えなど、童貞のケントが持っているはずもない。
どちらも似合っているというのは本心だが、当たり障りのない無難な答えならば、大きな失点にはならないだろうという消極的な理由もある。
チャレンジして失敗するくらいならば、現状維持に努めたい次第である。
というかそもそもの話、高感度が高い奴は何を言ってもプラスに補正されるだろうし、高感度の低い奴はどんなに素晴らしい回答でも失点にしかならないのではないかというのは置いておいて。
「そうか、そうか!
ケントはどちらも似合っていると思ってくれているのだな!」
ニコニコしながら答えるフロスティ。
どうやら及第点は貰えたようだ。
良かった。
代わりに隣に座るミランダの視線が痛いが、その視線に対する正しい応対の仕方などケントにはわからないので許して欲しい。
今更とってつけたように冒険者姿を褒めるのも何か違う気がする。
こんなことならもっと早く褒めておけばよかったと思わなくもないが、初対面の女性の服装を褒めることができるほどケントの器は大きくない。
そもそも冒険者姿を褒めるのは女性としてミランダが嬉しいのかどうかわからない。
そういえばミランダの着飾った姿は見たことが無い。
これから王城へ行くわけだし、王城では謁見前に正装のための衣装を貸し出してくれるらしい。
ミランダもおそらくドレスを着たりするのではないだろうか。
その時は、少し照れくさいが素直に褒めてみようと思う。
相手の服装1つ褒めるのにそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさすが、2人が喜んでくれるならそれでもいいのではないかと思えた。
転移碑はフロスティが発見したことにしたはずじゃないか!」
「それはそうだが、たとえ随伴していただけだということにしても偉業の一端を担っているのだ。
評されるのは当たり前であろう」
それはまあ、そうなのかもしれないが。
王城へ招かれる新米冒険者とか目立ち過ぎではないか!
「ケントがそういったことが苦手なのはわかっている。
招かれてはいるが、世間への発表は私が発見したということになっているので2人の名前が広まることは無いだろう。
もちろん隠すわけではないので、調べられればすぐに2人の名前に辿り着くだろうがそれは諦めてくれ」
むう、それならさほど騒がれることもない、のか?
まあ、転移碑を見つけてしまった時点でこうなった責任はケント自身にあるのでフロスティに文句を言うのも間違いではある。
「まあ、目立たないならいいか。
というか、せっかく冒険者として名前を売れるチャンスなんだからミランダは名前が広まった方が良かった?」
「別に今回のことはケントの功績であって、私はとくに何もしていないもの。
実力に見合わないことで評価が上がっても、今後の冒険者活動が辛くなるだけだわ。
それにいつか自分の力で凄腕の冒険者として認めてもらう予定だから」
そう言葉にし不敵な笑みを浮かべるミランダの姿は、ただただ美しかった。
何となく冒険者をやっているだけのケントと違って、ミランダには冒険者としての将来の展望がある。
ケントは目立ちたくはないが、それがミランダの将来の足かせになるようなことだけは避けなければならない。
「というわけだから、明日の朝いつもの時間に冒険者ギルドの前で待っていてくれ。
馬車で迎えに行こう」
「わかったよ」
それからしばらく3人で雑談した後、フロスティは冒険者ギルドを去って行った。
◇
翌朝2人がギルドの前で待っていると、フロスティを乗せた馬車がやってきた。
豪華な装飾のされた馬車は、平民が街から街への移動に利用する乗合馬車とは見た目から違っており、流石は伯爵家というだけのオーラを放っている。
「2人とも待たせたな。
さあ、乗ってくれ」
フロスティが馬車から顔を覗かせてそう言ってきた。
フロスティを待つ間ミランダと話していた感じでは、良くて護衛の騎士たちの馬車に便乗、最悪徒歩という可能性もあるという話だったが、どうやらフロスティと同じ馬車に乗せてもらえるらしい。
平民に過ぎないケントたちがフロスティと同じ馬車に乗ってもいいのかと、それとなく御者やお付きのメイドらしき人の様子を窺うが、とくに誰も気にしているようではなかった。
ケントたちとしても快適に旅ができるに越したことは無いので、ありがたく乗せてもらうことにした。
フロスティが気を利かせてくれたのであろう、フロスティと同乗するのはケントたちだけであった。
馬車に乗るフロスティはいつものローブ姿ではなく、ドレス姿であった。
もちろん旅の邪魔になるような装飾の派手なものではなく、シンプルなつくりのドレスではあるが、凛としたフロスティにはむしろその方が似合っていた。
そういえば馬車といい、ドレスといいフロスティの貴族らしい姿を見るのは初めてだ。
フロスティはいつも冒険者の魔法使い然とした服装をして、待ち合わせ場所まで徒歩で来ていたのでそういった姿を見る機会がなかった。
やっぱり貴族なんだなと、すごいと思う気持ちと同時に身分の違いを改めて感じて少し寂しく思う自分もいた。
「どうした、ケント?
そんなにじろじろ見て」
「あっ、ごめん。
フロスティがドレスを着ているところを見るのは初めてだから、ちょっと見とれちゃって」
「そ、そうか!
確かに今までドレス姿を見せたことは無かったな。
ケントはいつものローブ姿よりもこちらの方がいいと思うのか?」
なんと、少し変則的ではあるが人類史における難問の1つ、「どっちの服が似合う?」に出会う日が来ようとは!
数多の男たちが直面し、悩み苦しみ、結局女性の機嫌を損ねてしまうという究極の難問。
まさか自分がこの質問をされることがあるとは思いもしなかったが、ここは光栄であると思っておこう。
質問されたからには正答を導き出さなければならない。
フロスティの求める、否、それ以上の回答をする。
しなければならないのが男の使命というものだ。
頭をフル回転させ、今のケントにできる最高の答えを導き出す!
「そうだなぁ。
ダンジョンに潜っているときは、ローブ姿のフロスティのほうがカッコいいと思うし、貴族令嬢として振る舞うときはドレスの方がきれいだと思うよ」
はい、無理。
「どっちの服の方が似合う?」という究極の質問に対する答えなど、童貞のケントが持っているはずもない。
どちらも似合っているというのは本心だが、当たり障りのない無難な答えならば、大きな失点にはならないだろうという消極的な理由もある。
チャレンジして失敗するくらいならば、現状維持に努めたい次第である。
というかそもそもの話、高感度が高い奴は何を言ってもプラスに補正されるだろうし、高感度の低い奴はどんなに素晴らしい回答でも失点にしかならないのではないかというのは置いておいて。
「そうか、そうか!
ケントはどちらも似合っていると思ってくれているのだな!」
ニコニコしながら答えるフロスティ。
どうやら及第点は貰えたようだ。
良かった。
代わりに隣に座るミランダの視線が痛いが、その視線に対する正しい応対の仕方などケントにはわからないので許して欲しい。
今更とってつけたように冒険者姿を褒めるのも何か違う気がする。
こんなことならもっと早く褒めておけばよかったと思わなくもないが、初対面の女性の服装を褒めることができるほどケントの器は大きくない。
そもそも冒険者姿を褒めるのは女性としてミランダが嬉しいのかどうかわからない。
そういえばミランダの着飾った姿は見たことが無い。
これから王城へ行くわけだし、王城では謁見前に正装のための衣装を貸し出してくれるらしい。
ミランダもおそらくドレスを着たりするのではないだろうか。
その時は、少し照れくさいが素直に褒めてみようと思う。
相手の服装1つ褒めるのにそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさすが、2人が喜んでくれるならそれでもいいのではないかと思えた。
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