縁の下の勇者
38.お礼の約束
無邪気に喜ぶヴィオラを見ていると少しばかり罪悪感がわいてくる。
ジャイアントバットとの戦いの様子を見るに今の彼らの力では、たとえ小部屋への通路を見つけたとしても壁を壊すことはできないだろう。
もちろん鑑定してステータスを確認したわけではないので実力を隠している可能性は0ではないが、命の危機にあっても使わなかったということは無いとみて間違いないだろう。
本当のことを話してあげたいが、そうすると今度は、ケントたちはどうやって壁を壊したのかということに触れなければいけないわけで。
ケントは今のところミランダ以外に自分のスキルについて話すつもりはない。
それはもちろんギルドに対しても同様であり、ギルドにもヴィオラたちにした話と同じものを話す予定である。
ヴィオラたちには悪いが、ケントが魔剣を持っていても不自然ではない空気になるよう協力してもらおう。
とはいえ今後ケント以外に魔剣を上層で入手する人が現れないとなるとやはり目立つかもしれないが、せいぜいラッキーボーイくらいに思われるだけだと思いたい。
◇
「兄さん…、姉さん…」
オーベルたちと話していると、メヌエットがテントから顔を覗かせた。
どうやら無事目を覚ましたみたいだ。
意識を失っている妹を放置して話し込んでいるオーベルやヴィオラに対して、少し薄情なのではないかと思わないでもない。
だが命がHPとして明確に見える世界だ、回復魔法で全快さえしてしまえば寝ている妹をそっとしておいてあげているくらいの感覚なのかもしれない。
「メヌエット!
調子はどう?」
ヴィオラがメヌエットに駆け寄って声をかける。
うん、薄情っていうのは失礼だったな。
「大丈夫だよ。
…そちらの方々は?」
そう言ってこちらに視線を向けるメヌエット。
「ケントとミランダ。
私たちを助けてくれたの。
ケントはメヌエットに回復魔法もかけてくれたのよ」
ミランダと一緒に会釈する。
「そうなんですか、ありがとうございます。
すみません、ダンジョンを歩いていたところから記憶がなくて。
姉さん、何があったか聞いてもいい?」
「そっか、メヌエット気を失っていたもんね」
そういってヴィオラはメヌエットが襲われたところから現在に至るまでの流れを説明した。
「そっか…。
兄さんも姉さんもごめんね、足を引っ張っちゃったみたい。
ケントさんとミランダさんも助けていただいてありがとうございました」
そう言って頭を下げるメヌエット。
おもちが重力に引っ張られてすばらしい。
「メヌエットのせいじゃない。
俺達も襲われるまで気が付かなかった」
「そうだよ!
今回は危なかったけど次からは油断しないようにすれば大丈夫!」
落ち込むメヌエットにすかさずフォローを入れるオーベルとヴィオラ。
兄妹ということもあるのだろうが、3人は良いパーティーだと思う。
ミランダも微笑ましそうに3人を見ていた。
◇
「メヌエットさんも目を覚ましたようですし、私たちはそろそろ失礼しますね」
そう言ってケントは立ち上がった。
ミランダも続いて立ち上がる。
「待ってくれ、まだ礼について何も話していない」
「いえいえ、こういう時はお互い様ですから。
けどそうですね、では地上に戻ったらおいしいお店を教えていただけませんか。
私、ランドンに来てから食事は宿で摂ってばかりであまり飲食店を知らないんです」
こういう時、基本的にお礼を言ってもらえるだけで満足してしまうケントは、それ以上を貰うとむしろ気を使ってしまう。
心のどこかで、お礼のために助けたみたいで薄情に思えるのだ。
もちろんお礼をしたいという相手の気持ちもわかる。
反対の立場ならケントもお礼をしたいと考えるだろう。
その反する考えの妥協点がこの提案だ。
相手に負担を強いることなく、相手の好みを知ることで仲を深めることができる。
未だ冒険者の知り合いがミランダしかいない(オリヴィアは現役ではないので除外する)ケントにとって知人が増えることは嬉しいことだ。
「それなら任せて!
私たちの行きつけのお店を教えてあげるわ!」
「そうだな、あの店は安くて量が多くてうまい。
冒険者御用達のいい店だ」
「それは楽しみですね」
「きっと気に入ってくれると思いますよ」
はずれを引くのが嫌であまりお店の新規開拓はしないケントだが、3人がこれほど勧める店だ、はずれの心配は必要ないだろう。
「私たちは明日帰る予定ですので、明日の晩にでも案内をお願いしてもいいですか」
「わかった。
ならダンジョンの帰りにギルドに寄ってくれ、そこで待ち合わせしよう」
こうしておススメのお店を教えてもらう約束をしてオーベルたちと別れたケントたちは、昼食を摂るために昨日テントを張ったあたりに移動しダンジョンの壁に背中を預けて座った。
テントは防犯のために片づけてしまったので今はケントの荷物の中だ。
誰も見ていないことを確認してからカップに昨晩のスープの残りを加温してから注ぎ、アイテムボックスから取り出したパンと一緒にミランダに手渡す。
「今更だけど勝手にオーベルたちのお礼の内容決めてごめんね」
「気にしていないわ。
後腐れないようにしたいなら金銭を要求したほうがお互いさっぱりするでしょうけど、彼らは良い人そうだったしね。
私、あまり親しい冒険者がいないから仲良くできるならそのほうが嬉しいわ」
そう言ってはにかむミランダ。
美人のミランダには路地裏のときの金髪や5階層前の安全地帯で絡んできた茶髪のように、言い寄ってくる男ばかりで、男性比率の高い冒険者の世界では交友を広げるのにも苦労をするのだろう。
ケントとしても初めての男友達ができるかもしれないと思うと、明日の晩を前に心に温かいものが広がっていく気がした。
ジャイアントバットとの戦いの様子を見るに今の彼らの力では、たとえ小部屋への通路を見つけたとしても壁を壊すことはできないだろう。
もちろん鑑定してステータスを確認したわけではないので実力を隠している可能性は0ではないが、命の危機にあっても使わなかったということは無いとみて間違いないだろう。
本当のことを話してあげたいが、そうすると今度は、ケントたちはどうやって壁を壊したのかということに触れなければいけないわけで。
ケントは今のところミランダ以外に自分のスキルについて話すつもりはない。
それはもちろんギルドに対しても同様であり、ギルドにもヴィオラたちにした話と同じものを話す予定である。
ヴィオラたちには悪いが、ケントが魔剣を持っていても不自然ではない空気になるよう協力してもらおう。
とはいえ今後ケント以外に魔剣を上層で入手する人が現れないとなるとやはり目立つかもしれないが、せいぜいラッキーボーイくらいに思われるだけだと思いたい。
◇
「兄さん…、姉さん…」
オーベルたちと話していると、メヌエットがテントから顔を覗かせた。
どうやら無事目を覚ましたみたいだ。
意識を失っている妹を放置して話し込んでいるオーベルやヴィオラに対して、少し薄情なのではないかと思わないでもない。
だが命がHPとして明確に見える世界だ、回復魔法で全快さえしてしまえば寝ている妹をそっとしておいてあげているくらいの感覚なのかもしれない。
「メヌエット!
調子はどう?」
ヴィオラがメヌエットに駆け寄って声をかける。
うん、薄情っていうのは失礼だったな。
「大丈夫だよ。
…そちらの方々は?」
そう言ってこちらに視線を向けるメヌエット。
「ケントとミランダ。
私たちを助けてくれたの。
ケントはメヌエットに回復魔法もかけてくれたのよ」
ミランダと一緒に会釈する。
「そうなんですか、ありがとうございます。
すみません、ダンジョンを歩いていたところから記憶がなくて。
姉さん、何があったか聞いてもいい?」
「そっか、メヌエット気を失っていたもんね」
そういってヴィオラはメヌエットが襲われたところから現在に至るまでの流れを説明した。
「そっか…。
兄さんも姉さんもごめんね、足を引っ張っちゃったみたい。
ケントさんとミランダさんも助けていただいてありがとうございました」
そう言って頭を下げるメヌエット。
おもちが重力に引っ張られてすばらしい。
「メヌエットのせいじゃない。
俺達も襲われるまで気が付かなかった」
「そうだよ!
今回は危なかったけど次からは油断しないようにすれば大丈夫!」
落ち込むメヌエットにすかさずフォローを入れるオーベルとヴィオラ。
兄妹ということもあるのだろうが、3人は良いパーティーだと思う。
ミランダも微笑ましそうに3人を見ていた。
◇
「メヌエットさんも目を覚ましたようですし、私たちはそろそろ失礼しますね」
そう言ってケントは立ち上がった。
ミランダも続いて立ち上がる。
「待ってくれ、まだ礼について何も話していない」
「いえいえ、こういう時はお互い様ですから。
けどそうですね、では地上に戻ったらおいしいお店を教えていただけませんか。
私、ランドンに来てから食事は宿で摂ってばかりであまり飲食店を知らないんです」
こういう時、基本的にお礼を言ってもらえるだけで満足してしまうケントは、それ以上を貰うとむしろ気を使ってしまう。
心のどこかで、お礼のために助けたみたいで薄情に思えるのだ。
もちろんお礼をしたいという相手の気持ちもわかる。
反対の立場ならケントもお礼をしたいと考えるだろう。
その反する考えの妥協点がこの提案だ。
相手に負担を強いることなく、相手の好みを知ることで仲を深めることができる。
未だ冒険者の知り合いがミランダしかいない(オリヴィアは現役ではないので除外する)ケントにとって知人が増えることは嬉しいことだ。
「それなら任せて!
私たちの行きつけのお店を教えてあげるわ!」
「そうだな、あの店は安くて量が多くてうまい。
冒険者御用達のいい店だ」
「それは楽しみですね」
「きっと気に入ってくれると思いますよ」
はずれを引くのが嫌であまりお店の新規開拓はしないケントだが、3人がこれほど勧める店だ、はずれの心配は必要ないだろう。
「私たちは明日帰る予定ですので、明日の晩にでも案内をお願いしてもいいですか」
「わかった。
ならダンジョンの帰りにギルドに寄ってくれ、そこで待ち合わせしよう」
こうしておススメのお店を教えてもらう約束をしてオーベルたちと別れたケントたちは、昼食を摂るために昨日テントを張ったあたりに移動しダンジョンの壁に背中を預けて座った。
テントは防犯のために片づけてしまったので今はケントの荷物の中だ。
誰も見ていないことを確認してからカップに昨晩のスープの残りを加温してから注ぎ、アイテムボックスから取り出したパンと一緒にミランダに手渡す。
「今更だけど勝手にオーベルたちのお礼の内容決めてごめんね」
「気にしていないわ。
後腐れないようにしたいなら金銭を要求したほうがお互いさっぱりするでしょうけど、彼らは良い人そうだったしね。
私、あまり親しい冒険者がいないから仲良くできるならそのほうが嬉しいわ」
そう言ってはにかむミランダ。
美人のミランダには路地裏のときの金髪や5階層前の安全地帯で絡んできた茶髪のように、言い寄ってくる男ばかりで、男性比率の高い冒険者の世界では交友を広げるのにも苦労をするのだろう。
ケントとしても初めての男友達ができるかもしれないと思うと、明日の晩を前に心に温かいものが広がっていく気がした。
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