縁の下の勇者
37.3兄妹
「助けてくれたこと、本当に感謝する。
しかし、見ての通り仲間が負傷しているのですぐにでも安全地帯に戻って治療してやりたいのだ。
礼は必ずするのでこの場はこれで失礼する」
そう言って倒れていた女性を背負い立ち去ろうとする男性と、こちらにお辞儀をしてから後を追う女性。
「待ってください。
実は私回復魔法を使えるんです。
もしよろしければ少し様子を見させていただけませんか」
引き留めるケントに一瞬迷惑そうな顔をした2人だったが、ケントが回復魔法の使い手だと知ると大股で詰め寄ってきた。
「それは本当か!
頼む、見てやってくれ」
そう言って背負っていた女性を再び地面に横たえた。
「ミランダ、少し魔物の警戒を頼む」
「わかったわ」
寝かされた女性を見ると薄い菫色の髪をしていて、ローブを羽織った小柄な人だった。
思わずローブを押し上げるほどの胸部装甲に目を奪われそうになるが、今はそんな場合ではないので理性で押さえつける。
女性は首元から出血をしており、あふれた血液によってローブを汚していた。
顔は血色を失い、白くなってしまっている。
ジャイアントバットに噛みつかれたのだろうか。
奴らは空中を移動するため、察知しにくく不意を取られやすいのだ。
鑑定してHP残量を確認したいところだが、他人のステータスを覗くのには抵抗があるし、そんなことをしている時間があったら回復魔法をかけてあげた方がいいだろう。
必要なら鑑定はその後にすればいい。
膝をついて横たわる女性の首元に手をかざし、回復魔法を使う。
実は自分以外に回復魔法を使うのは初めてなので、少し緊張していたりする。
魔法が発動するとすぐに出血が止まり、傷が塞がっていくのがわかった。
女性なのだ、傷跡が残ってはかわいそうだろうと思い念入りに魔法をかける。
ものの数秒で女性の首元にあった傷は消え去った。
顔色もよくなっているので、後は目を覚ますのを待つだけだろう。
「助太刀だけでなく、回復魔法までかけてもらって本当に助かった。
上に戻ったら必ず礼をしよう」
「気にしないでください、たまたま通りかかっただけですから」
回復したとはいえ意識のない仲間を連れた状態では先ほどの二の舞になってしまうということで7階層と8階層の間にある安全地帯まで移動した。
ケントとしても回復したという手ごたえはあるものの、実際に目を覚ますところを見るまでは気になるので、護衛もかねて彼らについて行くことにした。
話をしてみると、どうやらこの3人は兄妹らしい。
長男のオーベルは深い紫の髪を刈り上げ、鍛えられた体躯で戦斧を振り回す戦闘スタイルらしい。
真面目な青年のようだが、感情をあまり顔に出さないタイプらしく、頑固な武人という印象を受ける。
隣にいる女性は長女で双子の姉であるヴィオラ。
妹と同じ薄い菫色の髪を二つ結びにしていて、快活な印象を受ける。
武器は片手直剣のようだ。
双子という割に妹と比較して胸部装甲の厚さがあまりないなと思っていると睨まれた。
ヴィオラとミランダに。
…なぜミランダも睨むんだよ。
そして、怪我をしていたのが双子の妹で末っ子のメヌエット。
彼女は遠距離攻撃をする魔法使いらしい。
今は彼らのテントの中で休んでいる。
彼らは以前から8階層に潜っているようで、今まで特に問題がなかったことが油断に繋がったらしい。
背後から襲い掛かるジャイアントバットに気が付くのが遅れメヌエットが負傷してしまったようだ。
「ダンジョンで油断するなど情けない限りだ。
ケントとミランダが通りかからなかったら3人とも死んでいたかもしれない、本当に助かった。
それにしてもケントはすごいな。
ジャイアントバットを一撃で屠る剣術もそうだが、魔法まで使えるとは。
ミランダのことはギルドやダンジョンで見かけたことがあるから知っていたが、ケントのことは失礼だが知らなかった」
「知らなくても仕方ないですよ、ダンジョンに潜り始めたのは最近ですから。
ミランダとパーティーを組むことになって、サポート役としてダンジョンに潜るようになったんです。
それまでは森で薬草採取する毎日でしたし」
「サポート?
確かに回復魔法が使えるならサポートとして潜るのもわかるが、ケントの剣術なら前に出て戦えるだろ」
「それなんですけどね、私攻撃系のスキルを持っていなくて。
ですからもちろん剣術スキルも持っていないんですよ。
実は後でギルドに報告しようと思っていたんですけど…」
そう言ってケントはルーインブリンガーを見せた。
「その剣は…、まさか魔剣か?」
「そうです。
ギルドからも発表があると思うので教えますが、実はこれ先ほど8階層で見つけたんですよ」
「その話本当なの!?」
今までオーベルに会話を任せていたヴィオラがすごい勢いで食いついてきた。
「ええ、本当です。
先ほども話しましたが私ダンジョンに潜り始めたばかりでして、地図を読み間違えて行き止まりの通路に入ってしまったんですよ。
お恥ずかしながら道を間違えてしまった八つ当たりに行き止まりの壁に蹴りを入れてしまいまして。
そうしたら、突然行き止まりだと思っていたダンジョンの壁が崩れて向こう側に宝箱がありまして。
その中に入っていたというわけです」
「…はぁ、そんなことってあるのね」
どこか魂が抜けたような雰囲気のヴィオラが呟く。
「ていうことは私たちも魔剣を手に入れることができるかもしれないってことよね?!」
「そうですね。
他にもあるかはわかりませんが少なくともここに一振りはあるわけですから、可能性は十分でしょうね」
ケントの返事を聞いて喜ぶヴィオラの姿は小柄な体躯と相まって微笑ましいものだった。
しかし、見ての通り仲間が負傷しているのですぐにでも安全地帯に戻って治療してやりたいのだ。
礼は必ずするのでこの場はこれで失礼する」
そう言って倒れていた女性を背負い立ち去ろうとする男性と、こちらにお辞儀をしてから後を追う女性。
「待ってください。
実は私回復魔法を使えるんです。
もしよろしければ少し様子を見させていただけませんか」
引き留めるケントに一瞬迷惑そうな顔をした2人だったが、ケントが回復魔法の使い手だと知ると大股で詰め寄ってきた。
「それは本当か!
頼む、見てやってくれ」
そう言って背負っていた女性を再び地面に横たえた。
「ミランダ、少し魔物の警戒を頼む」
「わかったわ」
寝かされた女性を見ると薄い菫色の髪をしていて、ローブを羽織った小柄な人だった。
思わずローブを押し上げるほどの胸部装甲に目を奪われそうになるが、今はそんな場合ではないので理性で押さえつける。
女性は首元から出血をしており、あふれた血液によってローブを汚していた。
顔は血色を失い、白くなってしまっている。
ジャイアントバットに噛みつかれたのだろうか。
奴らは空中を移動するため、察知しにくく不意を取られやすいのだ。
鑑定してHP残量を確認したいところだが、他人のステータスを覗くのには抵抗があるし、そんなことをしている時間があったら回復魔法をかけてあげた方がいいだろう。
必要なら鑑定はその後にすればいい。
膝をついて横たわる女性の首元に手をかざし、回復魔法を使う。
実は自分以外に回復魔法を使うのは初めてなので、少し緊張していたりする。
魔法が発動するとすぐに出血が止まり、傷が塞がっていくのがわかった。
女性なのだ、傷跡が残ってはかわいそうだろうと思い念入りに魔法をかける。
ものの数秒で女性の首元にあった傷は消え去った。
顔色もよくなっているので、後は目を覚ますのを待つだけだろう。
「助太刀だけでなく、回復魔法までかけてもらって本当に助かった。
上に戻ったら必ず礼をしよう」
「気にしないでください、たまたま通りかかっただけですから」
回復したとはいえ意識のない仲間を連れた状態では先ほどの二の舞になってしまうということで7階層と8階層の間にある安全地帯まで移動した。
ケントとしても回復したという手ごたえはあるものの、実際に目を覚ますところを見るまでは気になるので、護衛もかねて彼らについて行くことにした。
話をしてみると、どうやらこの3人は兄妹らしい。
長男のオーベルは深い紫の髪を刈り上げ、鍛えられた体躯で戦斧を振り回す戦闘スタイルらしい。
真面目な青年のようだが、感情をあまり顔に出さないタイプらしく、頑固な武人という印象を受ける。
隣にいる女性は長女で双子の姉であるヴィオラ。
妹と同じ薄い菫色の髪を二つ結びにしていて、快活な印象を受ける。
武器は片手直剣のようだ。
双子という割に妹と比較して胸部装甲の厚さがあまりないなと思っていると睨まれた。
ヴィオラとミランダに。
…なぜミランダも睨むんだよ。
そして、怪我をしていたのが双子の妹で末っ子のメヌエット。
彼女は遠距離攻撃をする魔法使いらしい。
今は彼らのテントの中で休んでいる。
彼らは以前から8階層に潜っているようで、今まで特に問題がなかったことが油断に繋がったらしい。
背後から襲い掛かるジャイアントバットに気が付くのが遅れメヌエットが負傷してしまったようだ。
「ダンジョンで油断するなど情けない限りだ。
ケントとミランダが通りかからなかったら3人とも死んでいたかもしれない、本当に助かった。
それにしてもケントはすごいな。
ジャイアントバットを一撃で屠る剣術もそうだが、魔法まで使えるとは。
ミランダのことはギルドやダンジョンで見かけたことがあるから知っていたが、ケントのことは失礼だが知らなかった」
「知らなくても仕方ないですよ、ダンジョンに潜り始めたのは最近ですから。
ミランダとパーティーを組むことになって、サポート役としてダンジョンに潜るようになったんです。
それまでは森で薬草採取する毎日でしたし」
「サポート?
確かに回復魔法が使えるならサポートとして潜るのもわかるが、ケントの剣術なら前に出て戦えるだろ」
「それなんですけどね、私攻撃系のスキルを持っていなくて。
ですからもちろん剣術スキルも持っていないんですよ。
実は後でギルドに報告しようと思っていたんですけど…」
そう言ってケントはルーインブリンガーを見せた。
「その剣は…、まさか魔剣か?」
「そうです。
ギルドからも発表があると思うので教えますが、実はこれ先ほど8階層で見つけたんですよ」
「その話本当なの!?」
今までオーベルに会話を任せていたヴィオラがすごい勢いで食いついてきた。
「ええ、本当です。
先ほども話しましたが私ダンジョンに潜り始めたばかりでして、地図を読み間違えて行き止まりの通路に入ってしまったんですよ。
お恥ずかしながら道を間違えてしまった八つ当たりに行き止まりの壁に蹴りを入れてしまいまして。
そうしたら、突然行き止まりだと思っていたダンジョンの壁が崩れて向こう側に宝箱がありまして。
その中に入っていたというわけです」
「…はぁ、そんなことってあるのね」
どこか魂が抜けたような雰囲気のヴィオラが呟く。
「ていうことは私たちも魔剣を手に入れることができるかもしれないってことよね?!」
「そうですね。
他にもあるかはわかりませんが少なくともここに一振りはあるわけですから、可能性は十分でしょうね」
ケントの返事を聞いて喜ぶヴィオラの姿は小柄な体躯と相まって微笑ましいものだった。
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