縁の下の勇者

黒うさぎ

35.魔剣

 ギルドの地図に載っていないその空間は、10m四方程度のものだった。


 地面や壁、天井を見ても特にかわった様子はなく、いたって普通のダンジョン内の風景だ。


 威力過剰だったケントの放った氷塊が向かい側の壁にも大穴を穿っているが、とくに問題はない。


 ただ一つ、部屋の中央に宝箱があった。


 宝箱は魔物同様にダンジョンが生みだして配置している。


 宝箱の中からは装備品や魔道具の素材などのアイテムが入っており、深い階層ほど強力な効果を持つものである傾向が強い。


「宝箱ね。
 私が見たことある宝箱は木製の物だけだけど、これは違うわね」


 確かに今目の前にある宝箱は黒く光沢のある金属質な物でできているように見える。


「俺は宝箱を見るのが初めてだからよくわからないけど、宝箱の材質って中身と何か関係があったりするの?」


「私も実際に見たことがあるわけじゃないけど、トップランクの冒険者が使用しているような装備の中には木製以外の宝箱から見つけたものもあるらしいわ」


「そうなんだ。
 とりあえず開けてみようか」


 そう言って宝箱に伸ばしかけた手が止まる。


「ねえミランダ、宝箱って開けた瞬間に毒ガスが出たり、矢が飛んできたりするようなトラップが仕込まれていることってある?」


「宝箱にトラップが仕込まれているなんて話は聞いたことないわね。
 私も何度か宝箱を開けたことがあるけど、見たことはないわ」


 宝箱にトラップが仕掛けられているのはよくあるパターンだけど、この世界にはないのかな。


 いや、ダンジョンの壁を破壊した先で見つけた宝箱を開けたことのある人なんていたとしてもごく少数だろう。


 特別な宝箱にだけ罠が仕掛けられていても不思議じゃない。


 ケントは宝箱との間に氷壁を創造し、氷壁越しに宝箱の隙間に差し込んだ氷で蓋を持ち上げた。


「随分と慎重なのね。
 まあでも、ダンジョンでは慎重すぎるくらいが丁度いいのかもしれないわね」


 ただビビっていただけなのに、慎重って言われるとなんかこそばゆい。


 氷でいっぱいまで蓋を持ち上げても特に何も起こらなかった。


 完全に杞憂だったらしい。


 氷壁を消滅させ宝箱を覗き込むとそこには一振りの剣が入っていた。


 漆黒の鞘に収まっているそれは一目見ただけで業物であると理解できるほどの迫力があった。


(とりあえず鑑定っと)


 ~鑑定~
【名称】魔剣 ルーインブリンガー
 破滅をもたらす剣。使用者の魔力を注ぎ込むことで強度と鋭度を増す。


「ミランダさんや、鑑定してみたら魔剣って出たんだけど、魔剣ってよくあるものなの?」


「魔剣ですって?!
 確かに魔剣がダンジョンで見つかったって話は何度か聞いたことがあるけれど、こんな浅い階層じゃなくて20階層以降のような深いところで数年に一度あるかないかよ」


「数年に一度は見つかっているんだね。
 なら俺達が魔剣を持っていてもそんなに目立たないかな?」


「魔剣を持っているのは基本的に20階層より深いところに潜れるような高ランクの冒険者ばかりよ。
 たまに売りに出されることもあるけれど、私たちくらいのランクの冒険者の収入で買えるような金額じゃないわ」


「俺達が持っていると不自然、か。
 なら隠し部屋があってそこで見つけたっていう情報をギルドに報告すれば問題ないかな」


「そうね…、確かにギルドの地図に載っていないエリアがあってそこで見つけたっていう情報も一緒なら、他の冒険者たちはケントが魔剣を持っていることよりも低階層で魔剣を手に入れることができる可能性の方に注目するでしょうね。   
 もしかしたら自分も魔剣を手に入れられるかもって。
 でもいいの?魔剣の入手場所について教えちゃって」


「問題ないよ。
 どうしてもダンジョンの資源を独占したいって思っているわけじゃないしね。
 でも正直なところ隠し部屋があるかもしれないと知ったところで実際に見つけられる人はほとんどいないと思うよ。
 そんなことできる人なら俺より先に見つけているだろうし」


「それもそうね。
 ケント以外にそんなことできる人なんて思いつかないわ」


「ところでお願いがあるんだけれど、この魔剣俺が使ってもいいかな?
 これがあればギルドにも攻撃手段のある冒険者だって認めてもらえると思うんだ」


「もちろんいいわよ。
 その魔剣を見つけたのはケントだしね」 


「ありがとう。
 これでもう他の冒険者から隠れて戦わずに済みそうだよ」


 初めて見る魔剣という存在にケントは心躍らせていた。



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