縁の下の勇者
28.萎縮
今日もダンジョンへ潜ることにした。
今回はいつもミランダが狩場にしている場所まで行く予定だ。
ミランダが一人でダンジョンに潜るときは、いつも日帰りだそうだ。
ダンジョンには各階層を繋ぐスロープの途中に広間がある。
ダンジョンに生息する魔物たちは自分の生まれた階層の魔力濃度を好んでいるのか他の階層へ移動することがない。
そのためスロープの途中にあるこの空間には魔物が来ることはなく、安全地帯と呼ばれている。
冒険者たちは泊りがけでダンジョンに潜る際、基本的にこの安全地帯で寝泊まりする。
「ミランダは泊りがけでダンジョンに潜ったりしなかったの?」
「しようと思ったことはあるんだけど、1人だったしね。
安全地帯に魔物は来ないんだけど、他の冒険者たちは利用するから」
(ああ、なるほど。
確かに女性が一人で寝ているところを見つけたら、善からぬことをする冒険者もいるかもしれない。
寝ているのがミランダのような美人ならなおさらだ。
きっとあられもない姿にされてしまうに違いない)
胸当てのあたりを見ながら納得する。
ミランダはいつも5階層を狩場としているらしい。
日帰りである程度の収入を見込むとなると、この辺りが限界なのだそうだ。
ちなみにランドン北部のこのダンジョンの最高到達階層は34階層らしい。
これが多いのか少ないのかは実際に潜ってみないとケントにはわからない。
ダンジョンを探索するにあたって障害となるものとして1つ目は魔物の存在である。
魔物は下の階層ほど強くなるため、階を更新するごとに探索ペースは落ちていく。
次に食料の問題である。
往復分の食料のことを考えると、階層が深くなるほど大荷物になってしまう。
補給をしようにも下層程強力な魔物がいる以上、屈強な者を補給要因にしなくてはならないためままならない。
そしてボスモンスターの存在である。
ダンジョンには10階層おきに通称ボス部屋と呼ばれる部屋が存在する。
1つの階層がワンフロアのボス部屋として存在するのである。
もちろん他の階層と比べると総面積は少ないが、それでも一辺が百メートルはありそうな巨大な空間だ。
そこに他のフロアにはいない強力な魔物が待ち構えているのだ。
そんな理由もあり、5年前に34階層へたどり着いてから未だに更新されていない。
閑話休題。
いつも利用するだけあり、5階層までの最短ルートは完全にミランダの頭に入っているようだ。
似たような景色が続いているのに迷うそぶりは全くなかった。
ミランダの案内と冒険者の通り道ということで魔物と遭遇しなかったので、昼前には4階層と5階層の間にある安全地帯についた。
時計や日の光はないため俺にはよくわからないが、ダンジョン常連のミランダの体内時計が昼前だと言っているのでそうなのだろう。
俺もこれからダンジョンに潜っていくのならぜひとも身につけたい能力だ。
「ここで少し休んだら魔物を探しに行きましょうか。
ケントなら心配ないと思うけど、5階層にいる魔物は1階層にいる魔物より強いから油断しないで」
「了解、注意するよ」
先輩冒険者からのアドバイスだ、油断しないよう気を付けよう。
壁際に二人並んで座って休む。
安全地帯には他にも数組のパーティーが休憩をしていた。
彼らも日帰りで潜っているのだろうか。
そんなことを考えていると安全地帯にいたパーティーの内の一組が声をかけてきた。
「よ~ミランダ、今日は男連れでダンジョンか」
ミランダに話しかけたのは大剣を背負った男だった。
短い茶髪をツンツンに立たせ、野性味あふれる鋭い顔つきをしている。
半袖から覗く腕は丸太のようだ。
あの腕なら大剣だって振り回せるのだろう。
「ええそうよ。
彼とパーティーを組むことにしたの」
座っているため見上げるようにして面倒くさそうに答えるミランダ。
「おいおいマジかよ、こんな雑魚みたいなガキと組むとか本気か。
俺たちの勧誘は断ったくせに何でこんなのとパーティー組んでるんだよ」
茶髪がこっちを睨んでくる。
俺はミランダの方を向き、「またですか」という呆れを混ぜた視線で見つめる。
するとミランダから「私のせいじゃないわよ」という抗議の視線が返ってきた。
うぉ、ミランダとアイコンタクトをしてしまった。
女性とアイコンタクトとかそこはかとなく興奮する。
いつか目だけじゃなく体でもねっとりとしたコンタクトをとってみたい。
「おいガキ!なにニヤニヤしてやがる」
おっと、顔に出てしまっていたようだ。
「彼は補助系のスキルを使えるから、サポート要員としてギルドから紹介されたのよ」
ミランダが茶髪の注意をケントから逸らしてくれた。
有難いと同時に情けない。
「ふん、やっぱり自分で魔物も倒せない雑魚じゃねぇーか。
なぁミランダ、今ならまだ俺たちのパーティーに入れてやるぜ。
そんな雑魚のことなんか放っておいて、こっちにこいよ」
どうして魔物を倒せないと断言できるのかとか、ミランダに勧誘断られているのに上から目線で誘えるのかとか思っても言わない。
言ってももめるだけというのもあるが、個人的に大きな声で怒鳴ってくるような人が苦手なのだ。
強さ云々の話ではない。
カースト底辺を生きてきた経験が体に染みついており、体が委縮してしまうのだ。
いじめの対象にならないよう無害で目立たないよう過ごす。
いじめの原因はその人の話し方だったり、癖だったりとそんなものであることが多い。
だからいじめられている人を反面教師にそのような振る舞いをしないよう自分の行動を修正する。
そんな生き方をしながら怒声が自分の方に向かないよう注意していたのだが。
この世界に来て気が抜けていたようだ。
どんなに力を手に入れても心がそれに見合うだけの強さを持っていない。
今だってミランダに情けない姿を見せないように平静を装って気張っているが、心臓はバクバクだ。
このままでは精神的にしんどい、離脱しなくては。
「ミランダ、そろそろ行こうか」
「そうね、そうしましょうか」
立ち上がると5階層へ続くスロープの方へ歩き出した。
「無視してんじゃねーぞ!」
後ろから茶髪の怒鳴り声が聞こえる。
が、それだけだった。
手を出されることも考えたが、他のパーティーの目があるため自重したのかもしれない。
安全地帯を出て5階層を目指す。
平静を装ってはいたが怯えていたことにミランダは気が付いていたのではないか。
そう考えると恥ずかしくて、情けなくてミランダの方を見ることができなかった。
今回はいつもミランダが狩場にしている場所まで行く予定だ。
ミランダが一人でダンジョンに潜るときは、いつも日帰りだそうだ。
ダンジョンには各階層を繋ぐスロープの途中に広間がある。
ダンジョンに生息する魔物たちは自分の生まれた階層の魔力濃度を好んでいるのか他の階層へ移動することがない。
そのためスロープの途中にあるこの空間には魔物が来ることはなく、安全地帯と呼ばれている。
冒険者たちは泊りがけでダンジョンに潜る際、基本的にこの安全地帯で寝泊まりする。
「ミランダは泊りがけでダンジョンに潜ったりしなかったの?」
「しようと思ったことはあるんだけど、1人だったしね。
安全地帯に魔物は来ないんだけど、他の冒険者たちは利用するから」
(ああ、なるほど。
確かに女性が一人で寝ているところを見つけたら、善からぬことをする冒険者もいるかもしれない。
寝ているのがミランダのような美人ならなおさらだ。
きっとあられもない姿にされてしまうに違いない)
胸当てのあたりを見ながら納得する。
ミランダはいつも5階層を狩場としているらしい。
日帰りである程度の収入を見込むとなると、この辺りが限界なのだそうだ。
ちなみにランドン北部のこのダンジョンの最高到達階層は34階層らしい。
これが多いのか少ないのかは実際に潜ってみないとケントにはわからない。
ダンジョンを探索するにあたって障害となるものとして1つ目は魔物の存在である。
魔物は下の階層ほど強くなるため、階を更新するごとに探索ペースは落ちていく。
次に食料の問題である。
往復分の食料のことを考えると、階層が深くなるほど大荷物になってしまう。
補給をしようにも下層程強力な魔物がいる以上、屈強な者を補給要因にしなくてはならないためままならない。
そしてボスモンスターの存在である。
ダンジョンには10階層おきに通称ボス部屋と呼ばれる部屋が存在する。
1つの階層がワンフロアのボス部屋として存在するのである。
もちろん他の階層と比べると総面積は少ないが、それでも一辺が百メートルはありそうな巨大な空間だ。
そこに他のフロアにはいない強力な魔物が待ち構えているのだ。
そんな理由もあり、5年前に34階層へたどり着いてから未だに更新されていない。
閑話休題。
いつも利用するだけあり、5階層までの最短ルートは完全にミランダの頭に入っているようだ。
似たような景色が続いているのに迷うそぶりは全くなかった。
ミランダの案内と冒険者の通り道ということで魔物と遭遇しなかったので、昼前には4階層と5階層の間にある安全地帯についた。
時計や日の光はないため俺にはよくわからないが、ダンジョン常連のミランダの体内時計が昼前だと言っているのでそうなのだろう。
俺もこれからダンジョンに潜っていくのならぜひとも身につけたい能力だ。
「ここで少し休んだら魔物を探しに行きましょうか。
ケントなら心配ないと思うけど、5階層にいる魔物は1階層にいる魔物より強いから油断しないで」
「了解、注意するよ」
先輩冒険者からのアドバイスだ、油断しないよう気を付けよう。
壁際に二人並んで座って休む。
安全地帯には他にも数組のパーティーが休憩をしていた。
彼らも日帰りで潜っているのだろうか。
そんなことを考えていると安全地帯にいたパーティーの内の一組が声をかけてきた。
「よ~ミランダ、今日は男連れでダンジョンか」
ミランダに話しかけたのは大剣を背負った男だった。
短い茶髪をツンツンに立たせ、野性味あふれる鋭い顔つきをしている。
半袖から覗く腕は丸太のようだ。
あの腕なら大剣だって振り回せるのだろう。
「ええそうよ。
彼とパーティーを組むことにしたの」
座っているため見上げるようにして面倒くさそうに答えるミランダ。
「おいおいマジかよ、こんな雑魚みたいなガキと組むとか本気か。
俺たちの勧誘は断ったくせに何でこんなのとパーティー組んでるんだよ」
茶髪がこっちを睨んでくる。
俺はミランダの方を向き、「またですか」という呆れを混ぜた視線で見つめる。
するとミランダから「私のせいじゃないわよ」という抗議の視線が返ってきた。
うぉ、ミランダとアイコンタクトをしてしまった。
女性とアイコンタクトとかそこはかとなく興奮する。
いつか目だけじゃなく体でもねっとりとしたコンタクトをとってみたい。
「おいガキ!なにニヤニヤしてやがる」
おっと、顔に出てしまっていたようだ。
「彼は補助系のスキルを使えるから、サポート要員としてギルドから紹介されたのよ」
ミランダが茶髪の注意をケントから逸らしてくれた。
有難いと同時に情けない。
「ふん、やっぱり自分で魔物も倒せない雑魚じゃねぇーか。
なぁミランダ、今ならまだ俺たちのパーティーに入れてやるぜ。
そんな雑魚のことなんか放っておいて、こっちにこいよ」
どうして魔物を倒せないと断言できるのかとか、ミランダに勧誘断られているのに上から目線で誘えるのかとか思っても言わない。
言ってももめるだけというのもあるが、個人的に大きな声で怒鳴ってくるような人が苦手なのだ。
強さ云々の話ではない。
カースト底辺を生きてきた経験が体に染みついており、体が委縮してしまうのだ。
いじめの対象にならないよう無害で目立たないよう過ごす。
いじめの原因はその人の話し方だったり、癖だったりとそんなものであることが多い。
だからいじめられている人を反面教師にそのような振る舞いをしないよう自分の行動を修正する。
そんな生き方をしながら怒声が自分の方に向かないよう注意していたのだが。
この世界に来て気が抜けていたようだ。
どんなに力を手に入れても心がそれに見合うだけの強さを持っていない。
今だってミランダに情けない姿を見せないように平静を装って気張っているが、心臓はバクバクだ。
このままでは精神的にしんどい、離脱しなくては。
「ミランダ、そろそろ行こうか」
「そうね、そうしましょうか」
立ち上がると5階層へ続くスロープの方へ歩き出した。
「無視してんじゃねーぞ!」
後ろから茶髪の怒鳴り声が聞こえる。
が、それだけだった。
手を出されることも考えたが、他のパーティーの目があるため自重したのかもしれない。
安全地帯を出て5階層を目指す。
平静を装ってはいたが怯えていたことにミランダは気が付いていたのではないか。
そう考えると恥ずかしくて、情けなくてミランダの方を見ることができなかった。
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