縁の下の勇者
26.ミランダの実力
ダンジョンの入口は見かけ上はただの洞穴にみえる。
巨大な岩山をくり抜いたような大きな入口を入ると、緩やかなスロープになっており進んでいくとダンジョンの地下1階、第1階層にたどり着く。
ダンジョン内は洞窟のような空間が続いており、壁面や天井、足元の鉱石がほのかに発光しており、視界は日陰にいるくらいには暗いが活動するには十分なだけの光量がある。
「そうだミランダ、お願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
「もしある程度知能があってこちらに敵対する意思のない魔物がいたら見逃して欲しいんだ」
「敵対する意思のない魔物?
そんな魔物がいるの?」
「昨日見せた魔石があるでしょ。
実はあれ、森でゴブリンから貰ったんだ。
見逃してくれるならこれをやるって言われて」
「ちょっと待って、ケント、あなたゴブリンと話せるの?」
「そうみたい。
何となく話しかけたら会話ができたからびっくりしたよ」
「あなたって本当に出鱈目ね…」
「…俺が嘘をついているとは思わないの?
魔物と話せるなんて普通じゃないでしょ」
「これからダンジョンで魔物と戦おうとしているときにそんなくだらない嘘を言うような人じゃないってことくらいわかっているつもりよ。
それともなに、嘘なの?
もし嘘なら私の信頼を裏切ってくれた罰を下さないといけないのだけれど」
「嘘じゃない、嘘じゃない!
少なくとも森にいたゴブリンとは話せたんだ。
だからもしこのダンジョンで会話が成立して、こちらに敵意のない魔物がいたら見逃してくれないかな。
さすがに言葉が通じて敵意のない相手を問答無用で倒すのは精神的にちょっとね」
「わかったわ、見逃すときの判断はあなたに任せる。
でもここはダンジョンで魔物は私たちを殺すつもりで襲ってくるということだけは覚えておいて。
見逃した魔物に背後から襲われて死ぬなんて嫌だからね」
「もちろん、安全を最優先にするよ。
話を聞いてくれてありがとね」
「当たり前のことよ。
私とケントはパーティーなんだから、仲間の意見を聞くのは当然でしょ」
何でもないことのように返事をするミランダ。
(普通『俺魔物と話せるんだ』とか言われても信じられないよな。
ミランダの俺に対する信頼がやけに高い気がするけれど、やっぱり助けたことが理由なのかな。
すぐに助けなかった負い目があるから、あまり気にしないでくれるとありがたいんだけど)
「ケントは初めてのダンジョンだし、今日のところは1階層で様子見するということでいいかしら」
「そうだね、よく考えたら魔物と戦ったことないし、とくに急ぐ必要もないから」
「魔物と戦ったことなかったの?」
「会話できる相手と戦うことに抵抗があったのと、いつも訓練中は隠密を発動していたから魔物に見つかることもなかったんだ」
「本当にすごいわね、あなたの隠密は。
それじゃあ、少し奥まで行きましょうか」
そう言って先導するミランダ。
ダンジョンの最終階層が未踏とはいえ、浅い階層は冒険者たちの手によって完全にマッピング済みだ。
そのため2階層へのルートもわかっているので、そのルートの近くは冒険者の往来が多い。
冒険者が頻繁に通るのでルート沿いではほとんど魔物を見かけることはない。
仮に遭遇しても、人目を気にしてケントが氷で攻撃することはできないが。
そんなわけで、2階層へ降りるだけの実力のない冒険者たちは、2階層へのルートから外れた場所を探索することになる。
ダンジョンは1階層でも広大で、ルートから外れれば魔物は現れるし、他の冒険者と遭遇することもあまりない。
人気のない通路を進んでいくと、突然曲がり角から何かが飛び出してきた。
「初めての相手はゴブリンか」
以前森であったゴブリンのこともあるので、ケントはゴブリンに話しかけてみることにした。
「すみません、私の言葉が通じますか」
「ギャッギャ!」
ゴブリンは手に持っている木の棒を振り回しながらこちらを威嚇している。
「ケント、ゴブリンは何て言っているの?」
「…わからない」
「わからないってあなた…、私の信頼を無下にするつもり?
どんなお仕置きをしてくれようかしら」
「違うって!
森では確かにゴブリンと会話ができたんだけど、このゴブリンの言うことは全然わからなくて」
ミランダのお仕置きが気になるところではあるが、ここは弁明しておく。
それにしてもなぜ、このゴブリンの言葉は理解できないのだろうか。
(とりあえず鑑定してみるか)
ケントはこちらを警戒しているゴブリンを鑑定してみた。
~ステータス~
【名前】なし 【年齢】0 【性別】男
【種族】ゴブリン(影)
【称号】引きこもり
【レベル】1
【HP】10/10
【MP】2/2
【力】F
【耐久】F
【器用】F
【敏捷】F
【魔力】F
【スキル】
なし
(名前がないし、年齢が0歳ってことは生まれて間もないってことだよな。
称号の引きこもりは、ダンジョンから出ないせいかな。
そして一番気になるのは種族にある(影)って部分だけど、普通のゴブリンとは違うのかな)
「それでこのゴブリンは倒してもいいのかしら」
思考の海に片足を突っ込んでいると、ミランダから声がかかった。
確かに戦闘中にすることじゃなかった。
まずはこのゴブリンを倒してからミランダに相談してみよう。
「倒していいよ。
どっちが倒す?」
「私が倒してもいいかしら。
一応私が前衛をやることになっているし、ケントには情けないところしか見られてないからね。
少しは戦えるところを見せておかないと」
おそらく、金髪たちにいいようにされていた時のことを言っているのだろう。
ケントとしてはエミリアを人質に取られていたので仕方のないことだと思うが、ミランダはそうは考えないらしい。
「了解。
ミランダが戦うところは初めて見るから、かっこいいとこ見せてね」
「プレッシャーかけるわね…。
いいわ、見てなさい」
そう言ってミランダは腰に吊っていた剣を構えた。
鉄製と思われる剣はそれほど業物というわけではないだろうが、刃こぼれしていないことからしっかり手入れされているのがわかる。
ミランダが剣を構えたことで戦う決心をしたのか、ゴブリンが木の棒を振り回しながらミランダへ向かって駆けてきた。
対するミランダは動揺する様子もなくゴブリンを待ち構え、横へ一閃した。
ゴブリンの足が止まり、首が胴体から離れ宙を舞った。
ゴブリンの頭が地面に落ちると同時に体ごと霧散し、後には1cmに満たないほどの小さな魔石が落ちていた。
巨大な岩山をくり抜いたような大きな入口を入ると、緩やかなスロープになっており進んでいくとダンジョンの地下1階、第1階層にたどり着く。
ダンジョン内は洞窟のような空間が続いており、壁面や天井、足元の鉱石がほのかに発光しており、視界は日陰にいるくらいには暗いが活動するには十分なだけの光量がある。
「そうだミランダ、お願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
「もしある程度知能があってこちらに敵対する意思のない魔物がいたら見逃して欲しいんだ」
「敵対する意思のない魔物?
そんな魔物がいるの?」
「昨日見せた魔石があるでしょ。
実はあれ、森でゴブリンから貰ったんだ。
見逃してくれるならこれをやるって言われて」
「ちょっと待って、ケント、あなたゴブリンと話せるの?」
「そうみたい。
何となく話しかけたら会話ができたからびっくりしたよ」
「あなたって本当に出鱈目ね…」
「…俺が嘘をついているとは思わないの?
魔物と話せるなんて普通じゃないでしょ」
「これからダンジョンで魔物と戦おうとしているときにそんなくだらない嘘を言うような人じゃないってことくらいわかっているつもりよ。
それともなに、嘘なの?
もし嘘なら私の信頼を裏切ってくれた罰を下さないといけないのだけれど」
「嘘じゃない、嘘じゃない!
少なくとも森にいたゴブリンとは話せたんだ。
だからもしこのダンジョンで会話が成立して、こちらに敵意のない魔物がいたら見逃してくれないかな。
さすがに言葉が通じて敵意のない相手を問答無用で倒すのは精神的にちょっとね」
「わかったわ、見逃すときの判断はあなたに任せる。
でもここはダンジョンで魔物は私たちを殺すつもりで襲ってくるということだけは覚えておいて。
見逃した魔物に背後から襲われて死ぬなんて嫌だからね」
「もちろん、安全を最優先にするよ。
話を聞いてくれてありがとね」
「当たり前のことよ。
私とケントはパーティーなんだから、仲間の意見を聞くのは当然でしょ」
何でもないことのように返事をするミランダ。
(普通『俺魔物と話せるんだ』とか言われても信じられないよな。
ミランダの俺に対する信頼がやけに高い気がするけれど、やっぱり助けたことが理由なのかな。
すぐに助けなかった負い目があるから、あまり気にしないでくれるとありがたいんだけど)
「ケントは初めてのダンジョンだし、今日のところは1階層で様子見するということでいいかしら」
「そうだね、よく考えたら魔物と戦ったことないし、とくに急ぐ必要もないから」
「魔物と戦ったことなかったの?」
「会話できる相手と戦うことに抵抗があったのと、いつも訓練中は隠密を発動していたから魔物に見つかることもなかったんだ」
「本当にすごいわね、あなたの隠密は。
それじゃあ、少し奥まで行きましょうか」
そう言って先導するミランダ。
ダンジョンの最終階層が未踏とはいえ、浅い階層は冒険者たちの手によって完全にマッピング済みだ。
そのため2階層へのルートもわかっているので、そのルートの近くは冒険者の往来が多い。
冒険者が頻繁に通るのでルート沿いではほとんど魔物を見かけることはない。
仮に遭遇しても、人目を気にしてケントが氷で攻撃することはできないが。
そんなわけで、2階層へ降りるだけの実力のない冒険者たちは、2階層へのルートから外れた場所を探索することになる。
ダンジョンは1階層でも広大で、ルートから外れれば魔物は現れるし、他の冒険者と遭遇することもあまりない。
人気のない通路を進んでいくと、突然曲がり角から何かが飛び出してきた。
「初めての相手はゴブリンか」
以前森であったゴブリンのこともあるので、ケントはゴブリンに話しかけてみることにした。
「すみません、私の言葉が通じますか」
「ギャッギャ!」
ゴブリンは手に持っている木の棒を振り回しながらこちらを威嚇している。
「ケント、ゴブリンは何て言っているの?」
「…わからない」
「わからないってあなた…、私の信頼を無下にするつもり?
どんなお仕置きをしてくれようかしら」
「違うって!
森では確かにゴブリンと会話ができたんだけど、このゴブリンの言うことは全然わからなくて」
ミランダのお仕置きが気になるところではあるが、ここは弁明しておく。
それにしてもなぜ、このゴブリンの言葉は理解できないのだろうか。
(とりあえず鑑定してみるか)
ケントはこちらを警戒しているゴブリンを鑑定してみた。
~ステータス~
【名前】なし 【年齢】0 【性別】男
【種族】ゴブリン(影)
【称号】引きこもり
【レベル】1
【HP】10/10
【MP】2/2
【力】F
【耐久】F
【器用】F
【敏捷】F
【魔力】F
【スキル】
なし
(名前がないし、年齢が0歳ってことは生まれて間もないってことだよな。
称号の引きこもりは、ダンジョンから出ないせいかな。
そして一番気になるのは種族にある(影)って部分だけど、普通のゴブリンとは違うのかな)
「それでこのゴブリンは倒してもいいのかしら」
思考の海に片足を突っ込んでいると、ミランダから声がかかった。
確かに戦闘中にすることじゃなかった。
まずはこのゴブリンを倒してからミランダに相談してみよう。
「倒していいよ。
どっちが倒す?」
「私が倒してもいいかしら。
一応私が前衛をやることになっているし、ケントには情けないところしか見られてないからね。
少しは戦えるところを見せておかないと」
おそらく、金髪たちにいいようにされていた時のことを言っているのだろう。
ケントとしてはエミリアを人質に取られていたので仕方のないことだと思うが、ミランダはそうは考えないらしい。
「了解。
ミランダが戦うところは初めて見るから、かっこいいとこ見せてね」
「プレッシャーかけるわね…。
いいわ、見てなさい」
そう言ってミランダは腰に吊っていた剣を構えた。
鉄製と思われる剣はそれほど業物というわけではないだろうが、刃こぼれしていないことからしっかり手入れされているのがわかる。
ミランダが剣を構えたことで戦う決心をしたのか、ゴブリンが木の棒を振り回しながらミランダへ向かって駆けてきた。
対するミランダは動揺する様子もなくゴブリンを待ち構え、横へ一閃した。
ゴブリンの足が止まり、首が胴体から離れ宙を舞った。
ゴブリンの頭が地面に落ちると同時に体ごと霧散し、後には1cmに満たないほどの小さな魔石が落ちていた。
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