縁の下の勇者

黒うさぎ

24.Eランクパーティー

「おはよう、ミランダ。
 そこに座ってもいい?」


「おはよう。
 ええ、いいわよ」


 朝、朝食を摂るために1階の食堂に降りていくと、ちょうどミランダが朝食を摂っているところだった。


 転移してから食事はいつも独りだったが、昨日ミランダとパーティーを組むことになり、こうして一緒にご飯を食べられると思うと感慨深いものがある。


 正面で食べているミランダの姿を見ていると、改めてパーティーを組んでよかったと思う。


「…どうしたの、あまり見られると気になるんだけど」


「ごめん、誰かと一緒にご飯を食べられることが何だか嬉しくて」


「昨日の夜も一緒に食べたじゃない」


「そうだけどさ。
 でもやっぱりいいなぁって思って」


「…ケントはこの辺りの、少なくともランドンの出身ではないわよね。
 ここに来る前はどこにいたの?」


「えっと…、ずっと遠くの国、かな。
 ごく普通の家庭に生まれて、幸せに暮らしていたんだけど、ある日突然一人で生きていかなければいけないことになっちゃったんだよね。
 一人でも何とかなるかな~って思っていたんだけど、少し寂しかったみたい」


 転移してから未知のことばかりで、寂しがっている余裕もなかったケントだが、ほのかな幸せを感じて少し感傷的な気分になってしまったらしい。


(いけない、いけない。
 せっかくの朝食が台無しだ。
 ここは気分を入れ替えて、ミランダのおもちでも拝むとしよう。
 胸当てをしていないから、いつもより自己主張が激しくてまったくけしからんな!)


「ミランダはどうして冒険者をやっているの?」


「私の場合は他にできることが思いつかなかったからからかな。
 私が小さいときはよかったんだけど、段々家計が苦しくなってきちゃって。
 私は末っ子で、家を継ぐ予定もなくて身軽だったから口減らしのために自分から家を出たの。
 家族には止められたんだけどね、生活が苦しくなっていくのに家族のために何もしてあげることができなくて、そんな自分が嫌になっちゃったのかもしれないわね」


 そう言って寂しそうに微笑むミランダ。


(…どうやら話題の振り方を間違えたらしい。
 俺は「いつかSランク冒険者になって世界に私の名を轟かせるわ!」的な微笑ましい話を聞きたかったんだけど。
 これはあれか、俺がホームシックをにおわせるようなことを言ったから、ミランダも腹を割って話そうとか思っちゃったのか。
 仲間としてミランダのことを知りたいとは思うけど、朝からそんな話しをしなくてもいいじゃないか、原因は俺だけど。
 空気が重いよ!ミランダの乳並みに重量感があるよ!)


「ミランダは家族のことを助けたいって思っているの?」


「…わからないわ。
 もちろん助けることができたらそれが一番でしょうけど、私の冒険者としての稼ぎなんてたいしたことないし、家族のために何もしてあげられないのはあの頃のまま。
 どうしたいのか自分でもよくわからないわ」


「そうか。
 もしやりたいことがわかったら教えてね。
 俺にできることなら力になるから」


「ケント…、ありがとうね。
 あっ、ケントのご飯が来たわよ。
 今日はケントのダンジョンデビューなんだからしっかり食べて元気をつけておかないとね」


 そういって残っていた料理に手を付けるミランダ。


 ミランダの性格からいってケントに迷惑はかけられないとか思っていそうだが、まだ話すようになって2日の仲だ。


 素直に頼ってもらえるくらいの関係を築けるよう精進しよう。


 エミリアの運んできてくれた料理を食べながら、ケントはこの世界に来て初めての目標を抱いていた。


 ◇


 ケントたちはダンジョンへ行く前にギルドへ来ていた。


 本来ダンジョンへ行くだけならばギルドに顔を出す必要はない。


 しかし、昨日薬草を届けたときにオリヴィアから、昇格のための手続きに時間がかかるため、また明日来てほしいと言われていたのだ。


「おはようございます、オリヴィアさん」


「おはようございます、ケントさん、ミランダさん。
 ケントさん、ケントさんの昇格が無事承認されました。
 これで今日からEランクです、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「それでは書き換えを行いますのでギルドカードを提出してください。
 それから一応本人確認のために鑑定石を使用させていただきますね」


 ケントはリュックサックに手を入れあたかもその中から取り出したかのようにカモフラージュしながら、アイテムボックス内のギルドカードを取り出す。


 そして鑑定石に手をのせた。


 ケントの偽ステータスは以前から変わっていない。


 魔物を倒すことができないケントのレベルが上がっているのは不可解だと思ったからだ。


 どうやらスキルを行使するだけでもレベルは上がるようだが、魔物を倒して得られる経験値と比べると微々たるものらしい。


「はい、本人確認ができました。
 それではこちらがギルドカードです、ご確認ください」


 ケントは受け取ったギルドカードを見た。


 見た目はほとんど変わっていないが1か所、Fの文字があった場所にEの文字が記されていた。


 こうして昇格してみるとなかなか嬉しい。


「おめでとう、ケント」


「ありがとう、ミランダ」


「次にお2人のパーティーランクです。
 ミランダさんはDランクですが、初めてパーティーを組まれますし、ケントさんはEランクに上がったばかりであるということを考慮してEランクパーティーとさせていただくことになりました」


「わかりました。
 個人のランクを上げるのは大変かもしれませんが、パーティーランクが上がるように頑張りたいと思います」


「ミランダさん、ケントさんのことよろしくお願いしますね」


「ケントなら大丈夫でしょうけど、任されたわ」


「改めてこれからよろしくね、ミランダ」


「こちらこそ、ケントがいれば高位ランクパーティーだって夢じゃないわ」


「…お2人とも1日で随分打ち解けたんですね」


「ええ、まあ。
 これから一緒に戦う仲間ですから」


「そうですか…。
 あのケントさん、私に対してももう少し砕けた話し方でいいですよ」


「いいんですか、そのオリヴィアさんはお仕事中なわけですし」


「構いません。
 皆さんそうしていますし」


「そうなの、ミランダ?」


「ケントみたいに接する人は少ないわね。
 私もさん付けはするけど、それだけでも珍しいほうだし」


 この世界の人たちはフランクな人が多いのだろうか。


 親しい間柄でなくてもため口で話すとかなかなかの勇気だと思う。


「じゃあこれからはそうするよ、オリヴィアさん」


「さん付けも不要です」


「あぁ、うんオリヴィア」


 既視感のあるやり取りだが細かいことは気にしない。


 ミランダのさん付けはいいのかとか思うがそれも気にしない。


「そうだオリヴィア、今日はダンジョンに行くことにしたんだ」


「ダンジョン、ですか。
 ミランダさんもいらっしゃるので大丈夫だと思いますが、無理はしないでくださいね」


「今日は様子見のつもりだから大丈夫だよ」


「ならいいのですが。
 ミランダさん、ケントさんのこと本当によろしくお願いしますね」


「え、ええ、わかったわ」


 オリヴィアの圧にたじろぐミランダ。


(そんなに俺は頼りないだろうか。
 確かに攻撃手段はないことになっているけど)


「じゃあ、行ってきますね」


「はい、気を付けてくださいね」


 オリヴィアに見送られながらケントたちはダンジョンに向かうのであった。



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