縁の下の勇者
22.活動方針
「目立つのが嫌?
ケントも冒険者なんだから上のランクになりたいって思うことはあるでしょ。
その氷の魔法を使って依頼を受けるようになればもっと上のランク、ケントならBやAランクの冒険者にだってきっとなれるわ」
「確かに上のランクに憧れはするけどね。
でも俺は、すごいけどまあざらにいるよなってくらいの冒険者になりたいんだよ。
氷の魔法なんて目立つものを使ってランクを上げると、どうしたってみんなに期待されるでしょ。
俺は気の小さい人間だからね。
そんな期待のされ方をするとプレッシャーに負けそうになるほど心が弱いんだ。
だから極力目立ちたくないんだよ」
他人に期待されるということは、それだけ自分のことを認めてもらえているということなので良いことなのかもしれない。
しかし、期待が大きければ大きいほどそれに応えられなかったとき、比例して落胆や失望も大きくなるだろう。
誰も使っていない氷魔法の第一人者として、もし担ぎ上げられるようなことになれば、地位や名誉は得られるかもしれないが、その分責任が付きまとうだろう。
元来小市民のケントにはその責任は重すぎる。
つつましくとも自由な生活こそが幸せな人生なのではないかとケントは思う。
「そういうものかしら。
私はもっと堂々としていてもいいと思うけど。
でも確かに氷の魔法が使えるってことが厄介な貴族とかに知られたら、面倒ごとに巻き込まれるかもしれないわね。
そう考えると秘密にしたままでもいいのかもしれないわね」
「わかってくれて嬉しいよ」
「それでこれからどうするの。
まさか薬草採取だけで生きていくつもりじゃないでしょ」
「1人の時はそれでもいいかなって思っていたんだけどね。
俺は攻撃のできるスキルを持っていないことになっているから、魔物を狩って魔石の換金をしようにも、自分で倒せないのにどうやって魔石を手に入れたのかっていずれ目を付けられそうだしね。
でもミランダがパーティーを組んでくれたおかげで、これからは怪しまれずに魔石を換金できそうだよ」
「そう。
ならこれからの活動は魔物討伐も行っていくとして、活動場所はどうする?
この森かダンジョンか、護衛依頼を率先して受けるパーティーなんかもあるわね」
「そうだなぁ~。
ミランダはどこがいいと思う?冒険者の先輩として」
「そうね~、ケントが攻撃魔法を使うところを他人に見られないようにするという前提条件があるから、常に人の目のある護衛依頼は無理ね。
人の目が一番少ないのはこの森だと思うけど、魔石を得るためには魔物と遭遇する必要があるわよね。
森で魔物と遭遇するのは完全に運任せだし、遭遇率を上げるために奥地に行こうにも私たち2人だけだと見張りを立てる必要もあるから野営も大変でしょうし。
残りはダンジョンだけど、ダンジョンは定期的に魔物が発生するから安定して魔石を得ることができるわ。
そしてダンジョンにはランドンの冒険者の大半が潜っているから浅いところだとよく遭遇するわね。
でも冒険者の間には魔物は早い者勝ちっていう暗黙の了解があるから、もし戦闘中に会うことがあってもすぐに違う道へ行くと思うわ。
それにある程度深い階層になると冒険者の数も疎らになるし、野営もダンジョンには安全地帯があるからそこなら少なくとも魔物に襲われる心配はないわ。
もちろん見張りは立てる必要があるけれど、それでも森よりかは安心して休めると思うわ。
そんな理由で私のおすすめはダンジョンね。
パーティーメンバーが増えたら森や護衛依頼なんかを受けてみてもいいかもしれないわね」
ミランダがいつから冒険者をやっているのか知らないが、Dランクになるまでに培われた経験に裏打ちされた意見だと思う。
「じゃあ明日からはダンジョンに潜ってみようか。
俺もランドンにいるならダンジョンに行ってみたいしね」
「なら、そうしましょうか。
同じ宿に泊まっているから待ち合わせも宿の食堂でいいわよね?」
「そうだね。
それでここまで来たならついでにゴーレムと戦闘訓練していこうと思うんだけど、ミランダはどうする?」
「そうね~、見学させてもらおうかしら」
「了解。
ミランダのほうに攻撃がいかないように注意はするけど、念のため少し離れて見ていて」
「わかったわ」
ミランダが距離をとったことを確認してから、ケントはゴーレムに向かい合うように立ち戦闘を始めた。
ケントとゴーレムは互いに隠密を発動し水魔法で攻撃をした。
訓練をしていて気が付いたことだが、ゴーレムの攻撃は同じ水魔法のはずなのにアクアゴーレムの時は水での攻撃のみ、アイスゴーレムの時は氷での攻撃のみだった。
そのため水と氷の両方で攻撃できるケントに比べゴーレムの攻撃はやや単調になりやすいかと思ったが、それぞれ攻撃に様々な工夫がなされていて意外に参考になることが多い。
例えば、アイスゴーレムの場合攻撃のベースは氷弾を撃ってくることが多いが、それに気をとられているといつの間にか足元を凍らされていてバランスを崩したところに集中砲火を食らったりする。
それにゴーレムの防御もなかなか崩しにくい。
攻撃をすると水や氷の壁で防ぐことはあるが、最も厄介なのが空間魔法による防御である。
攻撃に対してアイテムボックスの口を開き攻撃を全て収納してしまうのである。
スキルレベルの低いアイテムボックスなら容量もそれほど大きくないので物量で押し切れるが、空間魔法Ⅵともなるとなかなか膨大な容量があるようで瞬間的に飽和させることができない。
それに氷の壁で防御しているときにアイテムボックスの中身を捨てたりしているので、アイテムボックスの容量オーバーを狙うこともできない。
そして何より隠密Ⅵは察知しにくいことこの上ない。
ケント自身に隠密を見破るスキルはないが、自らも隠密を発動しているおかげか何となくだがゴーレムの位置はわかる。
しかしそれでも見つけにくいことにかわりはない。
ゴーレムはケントをほとんど察知できていないようだが周囲に波状攻撃を放ち、ケントが防いだ手ごたえがあるほうへ集中砲火するので油断はできない。
もちろんステータスが優っているケントが本気で波状攻撃をすればゴーレムを瞬殺することはできるが、それをすると周囲の風景が変わりそうだし何より訓練にならないので自制している。
そんなこんなで今日も実入りのある訓練を終えたケントはミランダに声をかけた。
「そろそろ帰ろうか」
「……」
おっと、隠密解除してなかった。
隠密を解除してから仕切り直して。
「そろそろ帰ろうか」
ビクッ
「…急に目の前に現れないでよ。
戦闘が始まると思った瞬間からケントとゴーレムの姿が消えて、見えないけど攻撃音や氷の破片が散っているから闘っていることは何となくわかったけど」
「あぁ、俺隠密のスキルを持っているから。
あとあのゴーレムも」
「そこにいることがわかっているのに見つけられない隠密っていったいスキルレベルいくつなのよ…」
どこかげんなりしたミランダを連れてケントは帰路へとつくのであった。
ケントも冒険者なんだから上のランクになりたいって思うことはあるでしょ。
その氷の魔法を使って依頼を受けるようになればもっと上のランク、ケントならBやAランクの冒険者にだってきっとなれるわ」
「確かに上のランクに憧れはするけどね。
でも俺は、すごいけどまあざらにいるよなってくらいの冒険者になりたいんだよ。
氷の魔法なんて目立つものを使ってランクを上げると、どうしたってみんなに期待されるでしょ。
俺は気の小さい人間だからね。
そんな期待のされ方をするとプレッシャーに負けそうになるほど心が弱いんだ。
だから極力目立ちたくないんだよ」
他人に期待されるということは、それだけ自分のことを認めてもらえているということなので良いことなのかもしれない。
しかし、期待が大きければ大きいほどそれに応えられなかったとき、比例して落胆や失望も大きくなるだろう。
誰も使っていない氷魔法の第一人者として、もし担ぎ上げられるようなことになれば、地位や名誉は得られるかもしれないが、その分責任が付きまとうだろう。
元来小市民のケントにはその責任は重すぎる。
つつましくとも自由な生活こそが幸せな人生なのではないかとケントは思う。
「そういうものかしら。
私はもっと堂々としていてもいいと思うけど。
でも確かに氷の魔法が使えるってことが厄介な貴族とかに知られたら、面倒ごとに巻き込まれるかもしれないわね。
そう考えると秘密にしたままでもいいのかもしれないわね」
「わかってくれて嬉しいよ」
「それでこれからどうするの。
まさか薬草採取だけで生きていくつもりじゃないでしょ」
「1人の時はそれでもいいかなって思っていたんだけどね。
俺は攻撃のできるスキルを持っていないことになっているから、魔物を狩って魔石の換金をしようにも、自分で倒せないのにどうやって魔石を手に入れたのかっていずれ目を付けられそうだしね。
でもミランダがパーティーを組んでくれたおかげで、これからは怪しまれずに魔石を換金できそうだよ」
「そう。
ならこれからの活動は魔物討伐も行っていくとして、活動場所はどうする?
この森かダンジョンか、護衛依頼を率先して受けるパーティーなんかもあるわね」
「そうだなぁ~。
ミランダはどこがいいと思う?冒険者の先輩として」
「そうね~、ケントが攻撃魔法を使うところを他人に見られないようにするという前提条件があるから、常に人の目のある護衛依頼は無理ね。
人の目が一番少ないのはこの森だと思うけど、魔石を得るためには魔物と遭遇する必要があるわよね。
森で魔物と遭遇するのは完全に運任せだし、遭遇率を上げるために奥地に行こうにも私たち2人だけだと見張りを立てる必要もあるから野営も大変でしょうし。
残りはダンジョンだけど、ダンジョンは定期的に魔物が発生するから安定して魔石を得ることができるわ。
そしてダンジョンにはランドンの冒険者の大半が潜っているから浅いところだとよく遭遇するわね。
でも冒険者の間には魔物は早い者勝ちっていう暗黙の了解があるから、もし戦闘中に会うことがあってもすぐに違う道へ行くと思うわ。
それにある程度深い階層になると冒険者の数も疎らになるし、野営もダンジョンには安全地帯があるからそこなら少なくとも魔物に襲われる心配はないわ。
もちろん見張りは立てる必要があるけれど、それでも森よりかは安心して休めると思うわ。
そんな理由で私のおすすめはダンジョンね。
パーティーメンバーが増えたら森や護衛依頼なんかを受けてみてもいいかもしれないわね」
ミランダがいつから冒険者をやっているのか知らないが、Dランクになるまでに培われた経験に裏打ちされた意見だと思う。
「じゃあ明日からはダンジョンに潜ってみようか。
俺もランドンにいるならダンジョンに行ってみたいしね」
「なら、そうしましょうか。
同じ宿に泊まっているから待ち合わせも宿の食堂でいいわよね?」
「そうだね。
それでここまで来たならついでにゴーレムと戦闘訓練していこうと思うんだけど、ミランダはどうする?」
「そうね~、見学させてもらおうかしら」
「了解。
ミランダのほうに攻撃がいかないように注意はするけど、念のため少し離れて見ていて」
「わかったわ」
ミランダが距離をとったことを確認してから、ケントはゴーレムに向かい合うように立ち戦闘を始めた。
ケントとゴーレムは互いに隠密を発動し水魔法で攻撃をした。
訓練をしていて気が付いたことだが、ゴーレムの攻撃は同じ水魔法のはずなのにアクアゴーレムの時は水での攻撃のみ、アイスゴーレムの時は氷での攻撃のみだった。
そのため水と氷の両方で攻撃できるケントに比べゴーレムの攻撃はやや単調になりやすいかと思ったが、それぞれ攻撃に様々な工夫がなされていて意外に参考になることが多い。
例えば、アイスゴーレムの場合攻撃のベースは氷弾を撃ってくることが多いが、それに気をとられているといつの間にか足元を凍らされていてバランスを崩したところに集中砲火を食らったりする。
それにゴーレムの防御もなかなか崩しにくい。
攻撃をすると水や氷の壁で防ぐことはあるが、最も厄介なのが空間魔法による防御である。
攻撃に対してアイテムボックスの口を開き攻撃を全て収納してしまうのである。
スキルレベルの低いアイテムボックスなら容量もそれほど大きくないので物量で押し切れるが、空間魔法Ⅵともなるとなかなか膨大な容量があるようで瞬間的に飽和させることができない。
それに氷の壁で防御しているときにアイテムボックスの中身を捨てたりしているので、アイテムボックスの容量オーバーを狙うこともできない。
そして何より隠密Ⅵは察知しにくいことこの上ない。
ケント自身に隠密を見破るスキルはないが、自らも隠密を発動しているおかげか何となくだがゴーレムの位置はわかる。
しかしそれでも見つけにくいことにかわりはない。
ゴーレムはケントをほとんど察知できていないようだが周囲に波状攻撃を放ち、ケントが防いだ手ごたえがあるほうへ集中砲火するので油断はできない。
もちろんステータスが優っているケントが本気で波状攻撃をすればゴーレムを瞬殺することはできるが、それをすると周囲の風景が変わりそうだし何より訓練にならないので自制している。
そんなこんなで今日も実入りのある訓練を終えたケントはミランダに声をかけた。
「そろそろ帰ろうか」
「……」
おっと、隠密解除してなかった。
隠密を解除してから仕切り直して。
「そろそろ帰ろうか」
ビクッ
「…急に目の前に現れないでよ。
戦闘が始まると思った瞬間からケントとゴーレムの姿が消えて、見えないけど攻撃音や氷の破片が散っているから闘っていることは何となくわかったけど」
「あぁ、俺隠密のスキルを持っているから。
あとあのゴーレムも」
「そこにいることがわかっているのに見つけられない隠密っていったいスキルレベルいくつなのよ…」
どこかげんなりしたミランダを連れてケントは帰路へとつくのであった。
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