縁の下の勇者

黒うさぎ

18.パーティー

 ミランダたちを助けて数日。


 ケントは薬草採取とゴーレム相手に特訓をする日々を過ごしていた。


 宿代と食事代とその他生活必需品を賄える最低限の代金分の薬草しか採取していないためあまり貯蓄は増えないが、宵越しの金を持たない生活というのも冒険者らしくていいだろう。


 宿屋は継続でエミリアの家の宿屋に部屋を借りている。


 あんなことがあったのでエミリアのことが心配だったが、その日の晩に宿へ戻るとエミリアが笑顔で手伝いをしていたので少しほっとした。


 ミランダとエミリアの関係だが実はミランダもこの宿に泊まっているらしい。


 夕食を摂っているときに見かけたのだ。


 どうやらミランダが宿を利用しているうちにエミリアと仲が良くなったようだ。


 2人はケントが助けたことなど知らないだろうが、すぐに助けなかったことが後ろめたく少し顔を合わせづらい。


 宿を替えようかとも思ったが宿に金を落とすことでエミリアへの罪滅ぼしとすることにした。


 勝手に罪悪感を抱いているだけなので勝手に自己満足することで精神衛生の安定を図ることにしたのだ。


 ミランダについては…また困っていることがあったら助けることにしよう。


 そもそも一方的に知っているだけでまだ知り合ってすらいないのだ。


 そんな相手に罪滅ぼしをする手段が思いつかなかった。


 少しもやもやするが仕方のないことだろう。


 そういえば金髪の青年たちのパーティーはギルドから除名処分を言い渡されたらしい。


 ミランダともめているだけならば内輪での問題として処理されただろうが、一般人のエミリアをさらったことはさすがに擁護することもできなかったらしい。


 かばう気持ちは全くないが、良いシチュエーションを見せてくれたことには感謝する。


 そんなことを考えるとミランダたちへの罪悪感で自己嫌悪に陥るのだが。


 話はかわるがゴーレムとの訓練で新たな発見をした。


 どうやら闘う相手の本気度によって経験値効率が変わるらしい。


 待機状態のゴーレムを倒すより、本気で攻撃してくるゴーレムを倒すほうがより多く経験値を得られる気がする。


 というのもレベルを上げることに必要な経験値は数値として見ることができないので感覚から察するしかないのだ。


 とはいえ本気のゴーレムを相手にするほうがレベルの上がる速度が早いのは確かなのでおそらく間違いはないだろう。


 問題なのはアイスゴーレムがスキルレベルⅥの魔法を使ってくるということだ。


 俺と俺の劣化版ステータスのゴーレムに共通していえることだが、攻撃力に対してHPや耐久が低い。


 俺よりゴーレムのほうが、ステータスが低く、またとどめは刺さないよう命令してあるがそれでもなかなかのスリルだ。


 怪我をしたこともあり普通では続けることのできないような訓練だが、回復魔法Ⅹがあるおかげで継続できている。


 俺のレベル上昇に合わせてゴーレムのステータスも上昇しているので油断はできないが。


 そんなこんなでルーチン化しつつある日課を消費するため冒険者ギルドに採取依頼を受けに来た。


「おはようございます、オリヴィアさん。
 いつものお願いします」


「おはようございます、ケントさん。
 薬草採取の依頼ですね」


 笑顔で依頼を承認してくれるオリヴィアさん。


 出会ったときは少しもめてしまったが、今では受付嬢と冒険者として良好な関係を築けていると思う。


 しかしあの笑顔はずるい。


 勘違いしてしまいそうになる。


 ろくに女性と話すことのなかった元男子高校生の童貞としては、たとえ営業スマイルであってもこちらに好意があるのではないかと勘繰ってしまう。


 そして勘違いして告白なんてした暁には「そういう対象には思えないの」とか言われて切り捨てられるのだ。


 過去の経験から断言できる。


 どうして笑顔でボディータッチしてくるんだよ!


 勘違いしたって仕方がないだろ!童貞なんだから。


 はあ…。


 それはともかく、


(あぁ~、今日もオリヴィアさんはエロいな~。
 主張の控えめな2つのおもちも、机越しに覗くくびれたウエストもエロい)


「ところでケントさん、実は良いお知らせがあります」


「良いお知らせですか」


(まさか控えめなおもちを触る権利を売ってくれるのか!
 いいだろう、言い値で買ってやる!)


「今日の依頼の達成をもってEランクへ昇格できますよ」


「本当ですか。
 これで初心者は卒業というところですかね」


「そうですね。
 それでですが、そろそろパーティーを組まれてはいかがですか。
 Eランクの依頼となりますと、採取系のものでも低ランクのものとはいえ魔物と遭遇する可能性が十分にあります。
 ケントさんの隠密の技術が優れていることはもちろん理解していますが、それでも万が一ということもありますし。
 攻撃手段のある方が仲間にいるだけで依頼も格段に楽になると思いますよ」


「パーティー、ですか」


 ケント自身いずれはパーティーを組みたいと思っている。


 しかし、ケントはあまりコミュニケーションが得意ではないと思っている。


 話しかけられたり、事務的なことだったりならば問題なく会話はできる。


 だが、相手がボッチならともかくグループの中に話しかけていくような社交性は備えていない。


 以前オリヴィアさんから聞いた話だとパーティーを組むにはどこかのパーティーへ入るのがいいようだ。


 もちろん一からメンバーを集めてパーティーを組んでも問題ないが、あいにく今のケントにはそのような知り合いはいない。


 とはいえいつまでもそんなこと言っているわけのはいかないだろう。


 現状攻撃手段を持たない新人がいつまでもパーティーを組まないでいるのは少し不自然だ。


 このまま続けていると悪目立ちしてしまうかもしれない。


 目立つことだけは避けなくては。


 …仕方ない、腹をくくるか。


「そうですね。
 オリヴィアさん、私をパーティーに入れてくれるような方を紹介していただいてもよろしいですか」


「はい、もちろんです!」


(おぉ~、いい笑顔。
 そりゃなかなかパーティーに入ってくれない問題児がついに入ることにしたんだから嬉しいんだろうな。
 ご迷惑をおかけしてすみません。
 お詫びにおもち増量を手伝わせてはくれないだろうか)


「実はですね、すでにお願いしている方がいるんですよ。
 あっ、噂をすればというやつですね」


 そういってオリヴィアさんの視線の先、ギルドの入口のほうを見ると、そこには紅の髪を揺らしながら歩くミランダの姿があった。



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