縁の下の勇者

黒うさぎ

4.盗賊の襲撃

 とりあえずランドンへと続く街道を目指すことにした。


 温かな風が心地よい。


 季節的には春のようだ。


 常識さんによるとこのあたりにも四季が存在するらしい。
 もっとも魔法なんてものがある世界なので四季があるからといってこの星が公転しているとは限らないが。(そもそも星が球体かも怪しい)


 ケントは道中暇なので水魔法でいろいろ試しながら歩いていた。


 すでに手元から連続的につながった状態であれば水の形状を自由に変えられるようになっていた。
 今は鞭のようにしならせて遊んでいる。


(現状攻撃手段が水魔法だけだからな。ぱっと思いつく攻撃方法は高圧の水をぶつけるとか大量の水で窒息させるとかかな。そういえば氷って作れないのかな。氷って要するに水の分子がほとんど動いていない状態だよな。よし、者ども、静まれ~!)


 ケントは手のひらから湧き出ていた水に念じてみた。


 するとあっという間に手のひらの上の噴水のように湧き出ていた水が凍り、キノコのような氷のオブジェに変化した。


(こりゃすげーな。打ち出して攻撃にも使えるし、標的を凍らせることもできる。簡易冷蔵庫でも作れば食品の日持ちも良くなるだろうし。
 氷ができるってことは気化させることもできるはずだよな)


 そう思いキノコ状の氷のオブジェに(者ども、働け~!)と念じると瞬時に水に戻りそして、


(あっちぃ~~!)


 沸騰したのであった。


 ケントは慌てて手を振り熱湯を払ったが、熱湯は地面に落ちる前にすべて空気中に霧散してしまった。


(あ~びっくりした。でもこれで攻撃のレパートリーが広がったし、温かいものを飲んだりできるし、それに風呂にも入れるかもしれないな)


 手を氷で冷やしながらも満足げなケントであった。










 しばらく歩いていると街道が見えてきた。


 ランドンへ向かう馬車の姿も見える。


(……あの馬車動いてないよな)


 ここからならランドンまで30分ほどの距離なので休憩するのは少しおかしい。


 馬車に何かトラブルでも起きたのだろうか。


 そんなことを考えながら馬車のほうへ歩いて行くと金属音が聞こえた。


(まさか襲われているのか?)


 念のため全力で隠密を発動した後、馬車に駆け寄った。


 馬車の陰に隠れながら反対側に回り込むと、騎士らしき格好の人達がこれまた絵にかいたような盗賊たちと戦っていた。


 見る限り個々の戦闘能力は騎士のほうが上にみえるがあまりに数の差がありすぎた。


 騎士は4人いたが、1人に対して盾と剣を持った盗賊が2人ずつついている。そしてその盗賊の背後から10人がかりで矢による援護を行っていた。


 騎士は馬車を守るため馬車から離れることができず、二手に分かれて弓兵の盗賊を倒しに行こうにも盾を持った盗賊たちに行く手を阻まれて攻めることができずにいる。


 せめてもの救いは馬車が囲まれていなかったことだが、矢による攻撃を最大限生かすためにあえて囲まなかったのかもしれない。


(これはまたお約束の状況だな。よく見ると豪華な馬車だし、これは盗賊を退けて馬車の中にいる貴族令嬢に見初められてしまうパターンか?)


 ネット小説を読むことが好きだった健斗は異世界転移ものもいくつも読んでいる。
 その中に現状と似たような場面が出てくることが多々あった。


(主人公たちは勇んで盗賊を倒し令嬢と仲良くなっていたが…。
 そもそも馬車の中に令嬢がいるとは限らないし、悪役貴族の可能性もあるしな。そんなのに目をつけられたらろくな目に合わない気がする。
 それにもし令嬢がいたとしても、こんな打算してお近づきになったら後ろめたくて耐えられぬ…。
 かといって見捨てたらそれはそれで後悔に押しつぶされそうだからな。隠密状態で援護するか)


 隠密の効果を確認できていないので馬車の陰に隠れた状態で奥にいる弓を持った盗賊たちを見やる。


 水魔法を発動させ地面すれすれに薄くシート状に拡げた水を弓兵に向って伸ばす。


 このあたりも街道を挟んで草原が広がっているためおそらく気が付くことはないだろう。


(まあ、気が付いたところでとっさに対処できるとは思えないけど…)


 魔法を使える盗賊がいればどうにかできるかもしれないが、馬車を襲撃する際に使わなかったことを考えるとおそらくいないのだろう。


 シート状の水が弓兵の足元にたどり着いたことを確認すると、


(先兵たちよ!派手に暴れるがよい。ただし隊列から離れることは認めん!)


 ケントが念じると弓兵たちの足元の水だけが突然高温に熱せられた。
 その上気化しないので靴から浸み込み弓兵の足に熱湯がまとわりつく。


 突然足元を襲った熱さに弓を引いているどころではなくなった弓兵たちは悲鳴を上げながら足をばたつかせた。


(先兵に告ぐ!その場で待機)


 熱い足を必死にばたつかせていた弓兵たちは突然足元が凍ったことで足をとられ派手に転倒してしまう。


(先兵よ、最後の命令だ!数秒だけ暴れたのち再び待機)


 氷が数瞬の間溶けたことで転んだ弓兵たちは手や背中をシート状の水に浸してしまう。
 そして次の瞬間には再び凍り、弓兵たちは地面に倒れた状態で拘束されてしまった。


(これでしばらくは援護射撃できないだろう。念のためもう少し拘束を強くしておくか)


 そう考え追加で水を送り地面から10cm程まで弓兵を覆う形で凍らせた。


(これでよし。ここから抜け出せるような奴なら後ろで弓なんて引かずに前に出て戦っているはず)


 弓兵の拘束を終えたケントは騎士たちのほうを見た。


 突然援護射撃が止まったことに盗賊たちが浮足立ったことを騎士たちが見逃すはずもない。
 元から戦闘能力で優っていた騎士たちは援護射撃のない動揺した盗賊など相手ではなかった。


 すぐさま目の前の盗賊たちを切り捨て、拘束された弓兵のもとへ向かいとどめを刺した。


(うわぁ~、容赦ないな。やっぱり盗賊は問答無用で討伐するものなのかな)


 ケントとて生死の瀬戸際なら相手を殺すだろうが、平和な日本で生活していたケントには人殺しは最終手段である。


 そのため今回も攻撃ではなく拘束を選択したのだ。


(まあ、一段落したみたいだし、気づかれる前にランドンへ向かいますか)


 隠密状態のままケントは足早にランドンへ向かうのであった。



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