完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~
36.完全無欠少女、対談!
「魔王を連れてきたわ!」
ミエリィの言葉を聞いた瞬間、ふぅっと己を蝕んでいた死への恐怖が薄れていくのを感じた。
話の内容自体はふざけるなと言ってやりたいところだが、ミエリィの存在を認識するだけでこうも変わるとは、俺は既に末期なのかもしれない。
だが、末期だろうが何だろうが、先まで感じていた感覚を払拭できたのだから良しとしよう。
「突然の訪問、失礼する」
ミエリィの背後に立っていた美丈夫が言った。  
「我は魔族の長、いや魔王と名乗った方がわかりやすいか。
本来ならば会談の際に名乗る予定だったのだか、この馬鹿に無理矢理連れてこられた。
礼を欠いたことは謝罪するが、文句があるようならこいつにいってもらえるとありがたい」
本当にミエリィと魔王が知り合いだったのかとか、魔王を無理矢理連れてこれるミエリィって、とかいろいろ言いたいことはあるが、それよりも俺は今この場で起きていることをどこか現実の出来事だと受け入れられないでいた。
魔王が普通に話している。
その当たり前であろう光景が、俺にはひどく非現実的に見えた。
魔族が人族と同じ言語で話をするということは、知識としては知っていた。
だが俺は、魔族は人族とは違う、まったく別の生き物なのだと心のどこかで思っていた。
ミエリィが魔王と友達だと言っていたのも、言い方は悪いが魔物と戯れているというようなニュアンスで受け入れていた。
スライムにすら友達になろうとするようなやつだ。
魔王と友達だといってもミエリィが一方的に言っているのだと思っていた。
勿論人族と長きに渡り争ってきた魔王の知性がスライム並だと思っていたわけではない。
ただ、魔族は人族ではない生き物。
人族にとっては別の生物であり、魔物と同様の存在だと思っていた。
だが、実際はどうだ?
確かに醸し出すオーラや角の有無など人族との相違点はある。
しかし、突然の訪問を謝罪する態度や、ミエリィの暴走を揶揄するような言動など人族のそれと変わりないのではないか。
互いに争うことが常識となり、日常となっていたせいで気がつかなかったのではないか。
いや、知ろうとすらしなかったのではないか。
今、俺が対峙しているのは、言葉の通じない存在ではない。
本当にわかり合えるのかは、今はまだわからない。
それでも互いに寄り添うように踏み出すことができれば、決して交わることなどないと言われた線も重なることができるのではないかと思えた。
◇
ソリスの考えていたシナリオでは、魔族との休戦を進めるための後見人として王を説得した後、人族の使者としてミエリィと2人で魔王の元へと訪ねるつもりだった。
ウィリムス王国の第三王子ならば、人族の使者としても申し分ないだろう。
ソリスが先んじて魔王の人となりを確認することで、魔王と各国の要人たちが会談を行うことの実現性を見極める予定だった。
しかし、凡人であるソリスの予定などミエリィの前ではないに等しい。
事前にミエリィと打ち合わせをしていなかったのがいけないのだが。
想定していた段階を2、3段階すっ飛ばしていきなりの魔王とウィリムス王の対談。
魔王という人物がソリスのイメージよりも人間臭いということはわかったが、だからといって対談がうまくいくとは限らない。
話し合うことができるというスタートラインに立ったにすぎないのだ。
丁度応接室にいたということもあり、そのまま魔王とウィリムス王の密談が開始されることになったのだが……。
ソリスの予想を越えてくるのはなにもミエリィだけではなかったらしい。
「ほう、これが人族の酒か。
この喉を焼くような刺激、それでいてスッキリとした味わい…。
魔族の酒がこの世の極みだと思っていたが、このようなものが存在していたのか」
「魔族の酒もなかなか。
これは果実を原料にしているわけではなさそうだが……」
「それは麦の仲間から造られたものだ」
「なんと、麦から酒が!
穀物の類いは主食として食することはあったが、まさか酒にするとこのような味わい深いものになるのか」
「ウィリムス王よ、貴殿はなかなかわかる奴ではないか。
我の回りに居るものは酒を飲まないものが多くてな。
人と飲むなどいつ依頼か」
「魔王こそ、その酒の良さがわかるとは良い趣味をしておるわ。
強い酒の良さが分かる者がなかなか居なくての。
こうして酌み交わすことのできる相手と出会える日がこようとは、長生きはするものだな」
「何を言っている、ウィリムス王よ。
貴殿などまだまだ若造よ。
人生を語るには早いのではないか?」
「おっとこれは一本取られた!
わしより年上の爺、婆はもっとシワシワな者ばかりだからのう。
お主のような若造の見た目で年上とは、これは面白い!」
がっはっは!と酒を酌み交わしながら豪快に笑う魔族と人族の王。
(父上が笑い転げる姿などこれまで見たことないぞ……)
普段の厳格な姿からは想像もつかない、陽気なウィリムス王の姿に顔がひきつるのを感じる。
ことの発端は対談の共としてウィリムス王が秘蔵の酒を持ち出したことにある。
それを受けて魔王もどこからともなく酒を取り出し、現在に至るというわけである。
それにしてもお互い王だというのに無警戒に互いの出したものを飲むのはどうかと思う。
まあ、魔王ほどの存在ならば毒など効かないのかもしれないし、魔王ほどの存在なら毒など使わずとも殺すことができるのだから毒は使わないだろうという双方の考えがあるのだろうが。
人族と魔族、互いの未来を決める第一歩となる会談が行われるはずだった応接室は、既に宴会場と化している。
どうしてこんなことになっているのであろうか。
ミエリィの言葉を聞いた瞬間、ふぅっと己を蝕んでいた死への恐怖が薄れていくのを感じた。
話の内容自体はふざけるなと言ってやりたいところだが、ミエリィの存在を認識するだけでこうも変わるとは、俺は既に末期なのかもしれない。
だが、末期だろうが何だろうが、先まで感じていた感覚を払拭できたのだから良しとしよう。
「突然の訪問、失礼する」
ミエリィの背後に立っていた美丈夫が言った。  
「我は魔族の長、いや魔王と名乗った方がわかりやすいか。
本来ならば会談の際に名乗る予定だったのだか、この馬鹿に無理矢理連れてこられた。
礼を欠いたことは謝罪するが、文句があるようならこいつにいってもらえるとありがたい」
本当にミエリィと魔王が知り合いだったのかとか、魔王を無理矢理連れてこれるミエリィって、とかいろいろ言いたいことはあるが、それよりも俺は今この場で起きていることをどこか現実の出来事だと受け入れられないでいた。
魔王が普通に話している。
その当たり前であろう光景が、俺にはひどく非現実的に見えた。
魔族が人族と同じ言語で話をするということは、知識としては知っていた。
だが俺は、魔族は人族とは違う、まったく別の生き物なのだと心のどこかで思っていた。
ミエリィが魔王と友達だと言っていたのも、言い方は悪いが魔物と戯れているというようなニュアンスで受け入れていた。
スライムにすら友達になろうとするようなやつだ。
魔王と友達だといってもミエリィが一方的に言っているのだと思っていた。
勿論人族と長きに渡り争ってきた魔王の知性がスライム並だと思っていたわけではない。
ただ、魔族は人族ではない生き物。
人族にとっては別の生物であり、魔物と同様の存在だと思っていた。
だが、実際はどうだ?
確かに醸し出すオーラや角の有無など人族との相違点はある。
しかし、突然の訪問を謝罪する態度や、ミエリィの暴走を揶揄するような言動など人族のそれと変わりないのではないか。
互いに争うことが常識となり、日常となっていたせいで気がつかなかったのではないか。
いや、知ろうとすらしなかったのではないか。
今、俺が対峙しているのは、言葉の通じない存在ではない。
本当にわかり合えるのかは、今はまだわからない。
それでも互いに寄り添うように踏み出すことができれば、決して交わることなどないと言われた線も重なることができるのではないかと思えた。
◇
ソリスの考えていたシナリオでは、魔族との休戦を進めるための後見人として王を説得した後、人族の使者としてミエリィと2人で魔王の元へと訪ねるつもりだった。
ウィリムス王国の第三王子ならば、人族の使者としても申し分ないだろう。
ソリスが先んじて魔王の人となりを確認することで、魔王と各国の要人たちが会談を行うことの実現性を見極める予定だった。
しかし、凡人であるソリスの予定などミエリィの前ではないに等しい。
事前にミエリィと打ち合わせをしていなかったのがいけないのだが。
想定していた段階を2、3段階すっ飛ばしていきなりの魔王とウィリムス王の対談。
魔王という人物がソリスのイメージよりも人間臭いということはわかったが、だからといって対談がうまくいくとは限らない。
話し合うことができるというスタートラインに立ったにすぎないのだ。
丁度応接室にいたということもあり、そのまま魔王とウィリムス王の密談が開始されることになったのだが……。
ソリスの予想を越えてくるのはなにもミエリィだけではなかったらしい。
「ほう、これが人族の酒か。
この喉を焼くような刺激、それでいてスッキリとした味わい…。
魔族の酒がこの世の極みだと思っていたが、このようなものが存在していたのか」
「魔族の酒もなかなか。
これは果実を原料にしているわけではなさそうだが……」
「それは麦の仲間から造られたものだ」
「なんと、麦から酒が!
穀物の類いは主食として食することはあったが、まさか酒にするとこのような味わい深いものになるのか」
「ウィリムス王よ、貴殿はなかなかわかる奴ではないか。
我の回りに居るものは酒を飲まないものが多くてな。
人と飲むなどいつ依頼か」
「魔王こそ、その酒の良さがわかるとは良い趣味をしておるわ。
強い酒の良さが分かる者がなかなか居なくての。
こうして酌み交わすことのできる相手と出会える日がこようとは、長生きはするものだな」
「何を言っている、ウィリムス王よ。
貴殿などまだまだ若造よ。
人生を語るには早いのではないか?」
「おっとこれは一本取られた!
わしより年上の爺、婆はもっとシワシワな者ばかりだからのう。
お主のような若造の見た目で年上とは、これは面白い!」
がっはっは!と酒を酌み交わしながら豪快に笑う魔族と人族の王。
(父上が笑い転げる姿などこれまで見たことないぞ……)
普段の厳格な姿からは想像もつかない、陽気なウィリムス王の姿に顔がひきつるのを感じる。
ことの発端は対談の共としてウィリムス王が秘蔵の酒を持ち出したことにある。
それを受けて魔王もどこからともなく酒を取り出し、現在に至るというわけである。
それにしてもお互い王だというのに無警戒に互いの出したものを飲むのはどうかと思う。
まあ、魔王ほどの存在ならば毒など効かないのかもしれないし、魔王ほどの存在なら毒など使わずとも殺すことができるのだから毒は使わないだろうという双方の考えがあるのだろうが。
人族と魔族、互いの未来を決める第一歩となる会談が行われるはずだった応接室は、既に宴会場と化している。
どうしてこんなことになっているのであろうか。
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