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完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~

黒うさぎ

25.完全無欠少女、奇襲!

 森に入ってしばらく、俺たちの班は安定して魔物を討伐することができていた。


 俺とハイトが遠距離からの攻撃、エリスが近距離から討ち漏らしの掃討、エルが奇襲に対する警戒と防衛を行うことで鉄壁の布陣を敷くことができた。


 ミエリィは一応エリスと同じく討ち漏らしの掃討役だが、まだ一度も魔物を倒していない。


 俺たち4人で事足りているというのもあるだろうが、一番の原因はミエリィに魔物を倒す気が全くないことだろう。


 討ち漏らしを倒せる機会があっても一切魔法を使う素振りを見せないどころか、暢気に魔物に近づいて話しかけたりしている。


 以前の演習の際に見た黒竜のような魔物の友達がいるからこその行動だろうが、普通の魔物はそもそも人の言葉を理解できない。


 無防備に近づくミエリィは魔物にとって格好の獲物であり、何度も襲われかけてはエリスに助けられていた。


 さらに俺たちが攻撃するタイミングで飛び出したりもするため、誤ってミエリィに誤射してしまったこともあった。


 あの時は肝を冷やしたが、結果的に俺たち程度の魔法では彼女のことを傷つけることはできないと証明されただけだった。


 余裕があるから良いものの、いざ手強い魔物が現れたときにあの調子だとミエリィはともかく、俺たちは全滅しかけない。


 ミエリィが俺たちなんかより強いことは承知しているが、だからといって何でも許されていいわけではないだろう。


 それに効かないと分かっていてもクラスメイト、それも意中の相手であるミエリィを攻撃してしまうのはあまり気分の良いものではない。


 仕方ない、ここは俺が1つ注意してやろう。


「おい、ミエリィ。
 貴様、やる気はあるのか。
 無いのならば引っ込んでいろ」


「やる気ならあるわよ。
 私、魔物さんたちとお友だちになりたいもの!」


 瞳をキラキラさせながら答えるミエリィ。


 そんなミエリィと俺を見比べたエルが慌てて言葉を挟んでくる。


「ちょっとミエリィちゃん!
 ミエリィちゃんが魔物と友達になりたいっていうのはわかるけど、今は演習中だから、ね。
 また今度お休みの日にでも友達になりに来ればいいんじゃないかな」


「確かに演習は大切ね。
 わかったわ、魔物さんとお友だちにになるのはまた今度にするわ!」


 俺とエルの意見を受け入れたミエリィはしかしながら以後の戦闘でも相変わらず魔物を攻撃することはなかった。


 だが、不用意に魔物に近づくことはなくなったので、魔法を誤射せずに済むのはありがたい。


 魔物との戦闘ですらこうなのだ、魔族との戦闘にでもなれば確実に友達になろうとして、攻撃をしたりしないだろう。


 優しさはミエリィの美点かもしれないが、戦時においては明らかに邪魔な感情だ。


 ミエリィとて自分の優しさのせいで仲間の命が散るのは本意ではないだろう。


 やはりミエリィは前線ではなく、俺の妃として安全なところにいる方がいい。


 俺の妃なら強いからといって無闇に戦場へと狩り出されるようなことはないだろう。


 跳ねるように歩いているミエリィを見ながらそう思った。


 ◇


 特に油断したわけではなかった。


 いつどこから魔物が襲ってきても対処できるはずだった。


 だがそれは俺の驕りであり、そのせいで王族としてかつてない失態を犯す破目になってしまった。


 初めはこれといって変わった様子はなかった。


 正面の茂みから現れた魔物の群れを相手にそれぞれの役割を果たしていた。


 俺とハイトが魔法を放ち、エリスが斬り込む。


 そのとき、突然左から異なる魔物が襲いかかってきたのだ。


 それが魔物たちの作戦なのか、それとも偶然なのかはわからないが奇襲を受ける形となった俺たちは、しかしながら警戒していたエルの魔力障壁によって難なく防ぐことができた。


 危なげなく奇襲を防ぐことができたことを誇らしく思っていると今度は右方から敵の気配がした。


 ハイトとエリスは未だ正面の魔物の群れと戦闘中だし、エルは左方の敵を抑えていて手が離せそうもない。 


 ミエリィは戦闘中だというのに野草をつついて遊んでいる。


 仕方ない、俺が対処するしかないか。


 俺は敵の気配がする方へと注意しながら足を進めた。


 気配といっても何となく敵がいるような気がするだけであり、正確な場所がわかるほど俺の戦闘センスは優れていない。


 そんな俺でも感じ取れる気配なのだからそれほど遠いということはないだろう。


 闇雲に魔法を放っても倒せるだろうが、それだと必要以上に辺りを荒らしてしまうことになる。


 せめて敵を視界に収めてから攻撃したい。


 この辺りの魔物ならそれでも問題なく倒せるだろう。


 その考えこそが慢心だった。


 俺は木陰から飛び出してきた相手に魔法を放とうとして、その正体を知った瞬間反射的に魔法を止めてしまった。


 魔物だと思っていた相手は、しかし俺たちと同じ人間だったのだ。


 なぜこんなところに人が?


 そんなことを考えている間に彼我の距離はみるみる縮まって行く。


 そして相手が棒のようなものを振り上げているのを見て、ようやく自分を害そうとしていることに気がつき慌てて魔力障壁を正面に展開する。


 ガキンッ


 硬質な音が森に響く。


 間一髪防御が間に合ったようだ。


 胸を撫で下ろした次の瞬間、ボフッと顔に何かが当たり煙に包まれる。


 いったい何が?


 煙に巻かれながらその何かが飛んできた方へ視線を向けるとそこにはもう一人男が立っていた。


 くそっ、仲間がいたのか!


 相手の手の内がわからない以上、2対1では分が悪いかもしれない。


 一度距離をとるために後方へ飛び退こうとしたその時、俺は膝からその場に崩れ落ちた。


 頬に固い地面を感じる。


 おかしい。


 体に力が入らないし、意識が朦朧としてきた。


 ……そうか、さっきの煙は……眠り……薬、か……


 ……ミエリィたちは……無事……だろうか……


 薄れ行く意識の中、最後に見たのは俺を見下ろす男たちの姿だった。



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