【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.46
見慣れた景色が見えるにつれて、だんだん寂しい気分になってくる。
夜の公園や夏祭りでの出来事が、本当は夢で見たことなんじゃないかって思えてくる。そのくらい、あの時間の現実味がなくなってる。
車がしばらく走ったところで、地元の駅が見えてきた。
「駅前で大丈夫?」
「はい」
由上さんのお父さんに聞かれてうなずく。
あぁ、現実世界に戻ってきてしまった。
ゆっくりと停車した車内でみんなにお礼を言って車を降りようとしたら
「待ってるから、送っていけば?」
由上さんのお父さんが由上さんに言った。
「ち、近いので大丈夫です」
「いや、いいよ、送ってく」
傍らに置いた私の荷物を持って、由上さんが腰を浮かす。
どうしようと初音ちゃん、立川くんのほうを見たら、ゆっくりウンウンうなずいてる。送ってもらえってことなんだなって察して「お願いします……」小さく言うしかなかった。
ドアを開けて車を降りる。すぐあとから私の荷物を持って由上さんが車を出た。
「こっち来んの初めてだわ」
「そうですか。用事ないと地元駅以外使わないですもんね」
「そうなんだよね。こんな感じなんだね」
「はい」
由上さんと並んでいつもの道を歩く。なんだか不思議な感じ。
「こっち暑いね」
「そうですね。あ、日傘、さしますか?」
「お、持ってる?」
「こっちのバッグの中に」
由上さんが持ってくださっているのとは別の、お財布とか鍵、小物が入ったショルダーバッグから日傘をとりだして開く。
「オレ持つよ」
「荷物も持っていただいてるので……」
「オレのが背、高いから大変でしょ」
「じゃあ、荷物、ありがとうございました……」
「あー、そうなるよね?」
「両方持っていただくのは申し訳ないです」
「じゃあ、日傘はさしてもらう。荷物は近くまで持っていくよ」
「はい、ありがとうございます」
折衷案を採用してもらって、私が日傘をさして二人に影を作る。
「ひみつきち……」
ぽつりと呟いたら由上さんに聞こえてたみたいで、ふっと笑われた。
「す、すみません」
「ううん? 良く覚えてるなって思っただけ」
うん、もちろん覚えてる。だって、嬉しかったから。
そう言えたらいいのかもだけど、伝える勇気が持てなくてうつむいて歩くしかない。
まだサヨナラしたくなくて、でも車を待たせてしまっているし……ちょっとだけ時間に抵抗して、いつもより少しだけゆっくり歩いてみる。
由上さんはその速度に合わせて歩いてくれてる。
お祭りの帰り道で言ってもらった私の進路について、考えたことがあった。
「夏休み中、図書室に通おうかなって思ってます」
「音ノ羽の?」
「はい」
「へぇ、夏休みも開いてるんだ」
「平日だけ。部活で学校開けるとき、一緒に開けてくれるんです」
「知らなかった」
「そうですよね。なのでけっこう穴場なんです」
「へぇ~、いいね」
「はい。たくさん本読んで、本気で編集者を目指そうかなって思って」
「そうなの? オレの言ったことなんて気にしないでいいのに」
「いえ、自分だったら絶対思いつかなかったですし、本を創る人になってみたいって本当に思えたので」
「そう。なら良かった」
由上さんが猫の笑顔でこちらを向いた。日陰なのにまぶしいその笑顔を、ずっと見ていたいって思う。
でも、あと少しで家が見えてしまう。家に着いたら由上さんと一緒に過ごす時間が終わりを告げる。
すごく名残惜しくて、でも言わないわけにはいかなくて……
「ここで、大丈夫です」
寂しい気持ちを押し殺して告げた。
「そう?」
「あの角まがるとすぐなんです」
「そっか。じゃあ、これ」
「ありがとうございます」
傘を閉じて、由上さんから旅行バッグを受け取った。
「とても楽しかったです。誘ってくださって、ありがとうございました」
「こちらこそ、天椙さんが来てくれて、楽しかった」
離れがたいけど、もう帰らないとならない。……由上さんもそう思ってくれてたらいいな。
二人で手を振りあって、逆方向に歩き出す。
今日を最後に会えなくなるってわけじゃないのに、すごく寂しい。卒業して本当にお別れってなったら、どれほど寂しいんだろう。
ショルダーバッグから鍵を出して家のドアを開けた。中に入ってドアを閉めたら、そこはもう現実世界。いつもの日常だった。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
リビングからママの声が聞こえる。
「お洗濯物、洗濯かごに入れておいてねー」
「はーい」
自室に戻って、心地よい疲労を感じながら荷ほどきをする。
あー、終わっちゃったなー。
もっと大事に噛みしめておけば良かったなって思うけど、もう遅い。
日記とチェックリストをノートに戻しながら、自分なりにちゃんと大事に過ごせたよって自分を慰めてみる。だってだって、可愛いって言ってもらえたし。ちょこっとだけど手ぇ繋いだし!
あと、ライバルって、ライバルって……そういう意味だって、思っていいのかなぁ。きゃー!
心の中で大騒ぎしつつ荷物を全部片付けてから、初音ちゃんと一緒に選んだおみやげをママに渡しに行った。
「あらありがとう」
「みんなで食べよ」
買ってきたのは民宿があった地域の銘菓。甘いからおねーちゃんの疲れにもいいかなと思って選んだ。
「そうね。楽しかった?」
「うん、すごく。許可してくれてありがとう」
「いいのよ。みぃちゃんだったら変なこともないだろうし」
「ないよ、そんなの」
「でしょ? だからいいよーって言ったの。おねぇちゃんでも許可したけど、今年は受験生だからね」
「そうだ、進路、決めたの」
「あらそう。進学する?」
「うん」
それから、ママに進路についての報告をした。
ママは「やっぱりパパに似てるのね~」ってしみじみしてた。パパが出版社に勤めてるのは知ってるけど、どんな仕事をしてるかまで聞いたことはなかった。
「きっとパパ喜ぶわよ。わからないことがあったらいっぱい聞いてみたらいいわ」
弾む声で言うママに、「なれるかわからないけど」って自信のない声で言ったら、きっと大丈夫、頑張ってって言ってくれた。
* * *
夕飯のあとにみんなで食べたおみやげの銘菓は評判が良くて実際に美味しくて胸をなでおろした。
進路について、まだパパやおねーちゃんにはナイショ。なるって決めたけど、どうなるかわからないから。
お風呂からあがってスキンケアしたりヘアケアしたり、初音ちゃんに教えてもらったリンパマッサージしてみたり……なんだかむやみに活力が湧いてくる。
夏休みはまだ序盤。明日から早速図書館に行き始めようと思う。
まだ少しだけ残ってた課題を終わらせて、ルーズリーフを取った。
昨日箇条書きにした日記の補足をしつつ、今日の日記も書く。
公園で聞いたときは緊張しててスルーしちゃったけど、ライバル増えちゃうって言ってたよね。ライバルって、そういうことだよね。
でもハッキリ言われたわけじゃないし、確信は持てない。勘違いだったら恥ずかしいし……。
日記は“記録”として書くことにして、あまり深く考えないようにした。
考えすぎると次に会うとき、絶対緊張してしまうから。
思い返しながら日記を書き終えて、明日の予定を大体決めた。
心とは逆に身体は案外疲れていて、今日は眠ろうとベッドに入る。電気を消して思い返すのはこの二日間のこと。
一泊二日の小旅行だったけど、色々凝縮されていて展開に着いていけずにいる。また今度、四人で遊園地行くんだよね。そのときどういう顔したらいいだろう。意識しすぎないようにしないと……。
そのときはなに着ていこう。アクティブに動くからスカートじゃないほうがいいよね。スニーカーでパンツルックとかかな。体の線があんまりでないやつがいいな。メイクはどうしよう。アトラクション待ってる間、汗で落ちちゃったりするかなぁ。
たくさん考えて悩んで……デートするときってこんな感じかなって思う。
津嶋くんとのおでかけのときは、ここまで悩んだりしなかったのに……。
なんかもう、憧れとかじゃないのかな……。
ふと思って、いや違う違う。そういうのじゃなくて……チェックリストは『好きな人に』ってなってるけど、好きとかそんなの大それてて……私なんかじゃ、周りの人がきっと納得しない……。
暗い中まぶたを開けて考えていたら急にしょんぼりしてきて、慌ててまぶたを閉じた。楽しかった二日間のことを思い浮かべたら、初音ちゃんも立川くんも一緒だったのに、どうしても由上さんの姿ばかりが浮かんでしまう。
それってもう、好きってことだよ。
ウトウトし始めた脳内で誰かが言った。
好きだとしても、好きだとは言えない。もっと可愛くてオシャレで魅力的で、素敵な女の子になるまでは……。
夜の公園や夏祭りでの出来事が、本当は夢で見たことなんじゃないかって思えてくる。そのくらい、あの時間の現実味がなくなってる。
車がしばらく走ったところで、地元の駅が見えてきた。
「駅前で大丈夫?」
「はい」
由上さんのお父さんに聞かれてうなずく。
あぁ、現実世界に戻ってきてしまった。
ゆっくりと停車した車内でみんなにお礼を言って車を降りようとしたら
「待ってるから、送っていけば?」
由上さんのお父さんが由上さんに言った。
「ち、近いので大丈夫です」
「いや、いいよ、送ってく」
傍らに置いた私の荷物を持って、由上さんが腰を浮かす。
どうしようと初音ちゃん、立川くんのほうを見たら、ゆっくりウンウンうなずいてる。送ってもらえってことなんだなって察して「お願いします……」小さく言うしかなかった。
ドアを開けて車を降りる。すぐあとから私の荷物を持って由上さんが車を出た。
「こっち来んの初めてだわ」
「そうですか。用事ないと地元駅以外使わないですもんね」
「そうなんだよね。こんな感じなんだね」
「はい」
由上さんと並んでいつもの道を歩く。なんだか不思議な感じ。
「こっち暑いね」
「そうですね。あ、日傘、さしますか?」
「お、持ってる?」
「こっちのバッグの中に」
由上さんが持ってくださっているのとは別の、お財布とか鍵、小物が入ったショルダーバッグから日傘をとりだして開く。
「オレ持つよ」
「荷物も持っていただいてるので……」
「オレのが背、高いから大変でしょ」
「じゃあ、荷物、ありがとうございました……」
「あー、そうなるよね?」
「両方持っていただくのは申し訳ないです」
「じゃあ、日傘はさしてもらう。荷物は近くまで持っていくよ」
「はい、ありがとうございます」
折衷案を採用してもらって、私が日傘をさして二人に影を作る。
「ひみつきち……」
ぽつりと呟いたら由上さんに聞こえてたみたいで、ふっと笑われた。
「す、すみません」
「ううん? 良く覚えてるなって思っただけ」
うん、もちろん覚えてる。だって、嬉しかったから。
そう言えたらいいのかもだけど、伝える勇気が持てなくてうつむいて歩くしかない。
まだサヨナラしたくなくて、でも車を待たせてしまっているし……ちょっとだけ時間に抵抗して、いつもより少しだけゆっくり歩いてみる。
由上さんはその速度に合わせて歩いてくれてる。
お祭りの帰り道で言ってもらった私の進路について、考えたことがあった。
「夏休み中、図書室に通おうかなって思ってます」
「音ノ羽の?」
「はい」
「へぇ、夏休みも開いてるんだ」
「平日だけ。部活で学校開けるとき、一緒に開けてくれるんです」
「知らなかった」
「そうですよね。なのでけっこう穴場なんです」
「へぇ~、いいね」
「はい。たくさん本読んで、本気で編集者を目指そうかなって思って」
「そうなの? オレの言ったことなんて気にしないでいいのに」
「いえ、自分だったら絶対思いつかなかったですし、本を創る人になってみたいって本当に思えたので」
「そう。なら良かった」
由上さんが猫の笑顔でこちらを向いた。日陰なのにまぶしいその笑顔を、ずっと見ていたいって思う。
でも、あと少しで家が見えてしまう。家に着いたら由上さんと一緒に過ごす時間が終わりを告げる。
すごく名残惜しくて、でも言わないわけにはいかなくて……
「ここで、大丈夫です」
寂しい気持ちを押し殺して告げた。
「そう?」
「あの角まがるとすぐなんです」
「そっか。じゃあ、これ」
「ありがとうございます」
傘を閉じて、由上さんから旅行バッグを受け取った。
「とても楽しかったです。誘ってくださって、ありがとうございました」
「こちらこそ、天椙さんが来てくれて、楽しかった」
離れがたいけど、もう帰らないとならない。……由上さんもそう思ってくれてたらいいな。
二人で手を振りあって、逆方向に歩き出す。
今日を最後に会えなくなるってわけじゃないのに、すごく寂しい。卒業して本当にお別れってなったら、どれほど寂しいんだろう。
ショルダーバッグから鍵を出して家のドアを開けた。中に入ってドアを閉めたら、そこはもう現実世界。いつもの日常だった。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
リビングからママの声が聞こえる。
「お洗濯物、洗濯かごに入れておいてねー」
「はーい」
自室に戻って、心地よい疲労を感じながら荷ほどきをする。
あー、終わっちゃったなー。
もっと大事に噛みしめておけば良かったなって思うけど、もう遅い。
日記とチェックリストをノートに戻しながら、自分なりにちゃんと大事に過ごせたよって自分を慰めてみる。だってだって、可愛いって言ってもらえたし。ちょこっとだけど手ぇ繋いだし!
あと、ライバルって、ライバルって……そういう意味だって、思っていいのかなぁ。きゃー!
心の中で大騒ぎしつつ荷物を全部片付けてから、初音ちゃんと一緒に選んだおみやげをママに渡しに行った。
「あらありがとう」
「みんなで食べよ」
買ってきたのは民宿があった地域の銘菓。甘いからおねーちゃんの疲れにもいいかなと思って選んだ。
「そうね。楽しかった?」
「うん、すごく。許可してくれてありがとう」
「いいのよ。みぃちゃんだったら変なこともないだろうし」
「ないよ、そんなの」
「でしょ? だからいいよーって言ったの。おねぇちゃんでも許可したけど、今年は受験生だからね」
「そうだ、進路、決めたの」
「あらそう。進学する?」
「うん」
それから、ママに進路についての報告をした。
ママは「やっぱりパパに似てるのね~」ってしみじみしてた。パパが出版社に勤めてるのは知ってるけど、どんな仕事をしてるかまで聞いたことはなかった。
「きっとパパ喜ぶわよ。わからないことがあったらいっぱい聞いてみたらいいわ」
弾む声で言うママに、「なれるかわからないけど」って自信のない声で言ったら、きっと大丈夫、頑張ってって言ってくれた。
* * *
夕飯のあとにみんなで食べたおみやげの銘菓は評判が良くて実際に美味しくて胸をなでおろした。
進路について、まだパパやおねーちゃんにはナイショ。なるって決めたけど、どうなるかわからないから。
お風呂からあがってスキンケアしたりヘアケアしたり、初音ちゃんに教えてもらったリンパマッサージしてみたり……なんだかむやみに活力が湧いてくる。
夏休みはまだ序盤。明日から早速図書館に行き始めようと思う。
まだ少しだけ残ってた課題を終わらせて、ルーズリーフを取った。
昨日箇条書きにした日記の補足をしつつ、今日の日記も書く。
公園で聞いたときは緊張しててスルーしちゃったけど、ライバル増えちゃうって言ってたよね。ライバルって、そういうことだよね。
でもハッキリ言われたわけじゃないし、確信は持てない。勘違いだったら恥ずかしいし……。
日記は“記録”として書くことにして、あまり深く考えないようにした。
考えすぎると次に会うとき、絶対緊張してしまうから。
思い返しながら日記を書き終えて、明日の予定を大体決めた。
心とは逆に身体は案外疲れていて、今日は眠ろうとベッドに入る。電気を消して思い返すのはこの二日間のこと。
一泊二日の小旅行だったけど、色々凝縮されていて展開に着いていけずにいる。また今度、四人で遊園地行くんだよね。そのときどういう顔したらいいだろう。意識しすぎないようにしないと……。
そのときはなに着ていこう。アクティブに動くからスカートじゃないほうがいいよね。スニーカーでパンツルックとかかな。体の線があんまりでないやつがいいな。メイクはどうしよう。アトラクション待ってる間、汗で落ちちゃったりするかなぁ。
たくさん考えて悩んで……デートするときってこんな感じかなって思う。
津嶋くんとのおでかけのときは、ここまで悩んだりしなかったのに……。
なんかもう、憧れとかじゃないのかな……。
ふと思って、いや違う違う。そういうのじゃなくて……チェックリストは『好きな人に』ってなってるけど、好きとかそんなの大それてて……私なんかじゃ、周りの人がきっと納得しない……。
暗い中まぶたを開けて考えていたら急にしょんぼりしてきて、慌ててまぶたを閉じた。楽しかった二日間のことを思い浮かべたら、初音ちゃんも立川くんも一緒だったのに、どうしても由上さんの姿ばかりが浮かんでしまう。
それってもう、好きってことだよ。
ウトウトし始めた脳内で誰かが言った。
好きだとしても、好きだとは言えない。もっと可愛くてオシャレで魅力的で、素敵な女の子になるまでは……。
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