【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.45

 夕ご飯を食べ終わったらミオさんがやってきて、お風呂を案内してくれた。家族用のお風呂だけど二か所あって、男女でわかれているらしく「気にせずゆっくり入ってね」とのこと。
 広い浴室とバスタブは清潔に保たれていて、のびのび入ることができた。服を着て、脱衣所に置かれていたドライヤーで髪を乾かし、持参したスキンケアセットで肌を潤して部屋に戻るともう布団が敷かれていた。
 思わず「至れり尽くせりだぁ」って言ったら、初音ちゃんに笑われた。
 私と入れ替わりに初音ちゃんがお風呂へ向かう。
 ふすまで仕切られた部屋で一人になったから、バッグからルーズリーフを取り出した。いつものノートじゃなくて、何枚かだけ。忘れないうちに日記を書けるように持ってきてたのだ。家に帰ったらノートに差し込むんだ。
 さて、と思い返しながら今日の出来事を書いていくけど、嬉しいことが多すぎて脳が処理できてない。
 とりあえず箇条書きにして、家に帰ってから細かい部分を思い出しながら書き加えることにした。
 日記を書き終えて、ノートから抜いて持ってきていたチェックリストのページを開く。
 50個の項目を指でなぞって、白い四角を二か所、ペンで塗る。

 ■「可愛い」って言ってくれる
 ■さりげなく手をつないでくれる

 公園での出来事を思い出したらドキドキしてきた。
 ふすま一枚を隔てた向こうの部屋に由上さんがいるのも不思議な感じ。
 さっきまで二人でお祭り行ってたんだよね……。浴衣着て、少しだけど手ぇ繋いで……カワイイって、言ってもらえて……。
 すごい進歩だなぁって素直に思う。
 そんなに良くしてもらえるほど努力してないのにいいのかな、とも思う。
 なんだかじっとしていられなくなって、ルーズリーフをバッグに入れて、布団の上に寝ころんだ。そして腹筋をしてみる。
 10回くらいしたところで、廊下を歩く音が聞こえた。
「開けるね~。お、腹筋してる。えらいね」
 廊下に続くふすまから初音ちゃんが戻ってきた。
「う……ん。な、んか……ちょっと……」
「せっかくお風呂あがりなのにまた汗かいちゃうよ~」
 初音ちゃんはクスクス笑いながらふすまを閉める。
「そっか。なにも考えてなかった」
 言われて、起き上がるのをやめそのまま寝転がる。
「お風呂上りはリンパマッサージがいいよ。むくみ取れるよ」
「えー、そうなんだ。ネット見たら載ってるかな」
「私のやり方でいいなら一緒にやる?」
「うん、教えてもらいたい」
「よし、一緒にやろー」
 初音ちゃんが片側の布団に座って「まずはねー」リンパマッサージ講座を開いてくれた。
 終わってみれば確かに、足のだるさとかが軽減される感じ。今日は慣れない下駄で疲れたから余計にわかりやすい。
「おー、これ気持ちいい」
「でしょ? おすすめ」
 なんて喋りながら足や手、デコルテのマッサージをしていると、ふすまの向こうで話し声が聞こえた。会話の内容まではわからないけど、なにか喋っているのはわかる。
 こっちの声も向こうに聞こえてるのかな、って思ったら、ちょっと内容に気をつけなきゃって気持ちになる。
「初音ちゃん、これ毎日やってるの?」
「うん、たまにさぼっちゃうけどねー。きもちいいからさ」
「確かに気持ちいい」
「ネットで調べると色々出てくるから、自分に合ったのやるといいよ」
「うん、そうする。ありがとう」
「いえいえ~」
 そういえばメイクをしていない初音ちゃん、初めてだけどすごく可愛い。普段からノーメイクでもいいのでは? って思うけど、初音ちゃんにとってのメイクはきっとオシャレの一部なんだろうなとも思う。
 私も初音ちゃんみたいにナチュラルにオシャレできる人になれたらいいな。
「8月入ったら遊園地だね、楽しみ」
「うん、楽しみ」
 終業式の日に決めたお出かけの予定がまだ先に控えているとか、すごく充実した夏休みだなぁ。
 嬉しくて、ニヤニヤしながら布団に入る。
「明日、午後出発って、蒼和ちゃんのおじさん言ってた」
「うん。なんか悪いな」
「いいんだよ、おじさん運転好きだから」
「そっか」
「そうそう」
 由上さんのお父さんは、私たちを送ってからまたこちらに戻ってくる予定らしい。
「電気消しちゃうね」
「ありがとう」
 初音ちゃんが立ち上がって電気のヒモを引いた。カチッカチッと音がして、電気が消える。同時に、部屋を仕切るふすまから細い光が漏れた。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
 静かになった部屋にぼそぼそと喋る“音”が光と共に漏れてくる。
 隣の部屋で、由上さんと立川くんはなにを話しているんだろう。
 由上さんの気配を感じながらウトウトし始める。
 そういえば……。
 寝しなに公園での出来事を思い返して思い出した。
 美好さん、お祭り会場来てたんだよね。あの視線ってやっぱり……いやでも、暗がりだったし、私もいつもとは違った見た目だったし、きっと私には気付いてないよね。
 由上さんにはもしかしたら気付いているかもしれない。私だったら多分、由上さんに気付くはず。すれ違う人も由上さんを見て振り返ったりしてたし、すれ違った女の子たちがキャーってなってたし。
 どこにいても目立つ由上さんと、どこにいても目立たない私。
 だったら、誰か一緒にいたことはわかっても、私だとは気付かないんじゃないかな。美好さんって視力いいのかなぁ。うーん……わからない。
 わからないことは考えても答えが見つからないから、今日はもう楽しくて嬉しかったことだけを思い返すことにした。
 美化しちゃわないようにだけ気を付けて、今日の由上さんとの出来事を反芻する。
 嬉しくて、楽しくて、思わず笑みがこぼれてしまって……そのまま眠りについたら、とても幸せな夢を見た。と思う。
 憶測なのは、目が覚めたら忘れてしまっていたから。
 でもなんだかいつもより目覚めが良くて気分も良くて、きっといい夢見てた。

 爽やかな気持ちで身支度を整えて、用意してくださった朝食の焼き魚定食を四人でいただいた。
 とても美味しくて、普段よりちょっと多めに食べてしまった。
 後片付けだけはかろうじてお手伝いできて、やっとホッとできた。

 午後になって由上さんのお父さんが出してくださった車に乗り込む。
 由上さんのご家族やおじいさん、おばあさん、ミオさんが見送りにきてくれて、また来年も来てねって言ってもらえた。
 本当にそうなるといいなって思いながら手を振って民宿をあとにした。

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