【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.44

 一通り屋台を見て少し遊んで、お祭りを満喫して民宿に戻ることにした。

 帰り道、少し遠回りをして星空を楽しみながら歩く。
 由上さんが東京の大学に行こうと思っていると言った。ちょっと前まで悩んでたけど、つい最近決めたって。東京に出て、自分の力を試してみたいんだそう。
 私はまだ将来のこと考えられなくて…もう決めてるなんてすごいですって言ったら、
「天椙さんなら色々選択肢あるでしょ。勉強できるし、良く本読んでるみたいだし、小説家とか?」由上さんから意外な案が出た。
「そんな、物語をイチから作るの、難しいです」
「そっかー。じゃあ、本を作る人は? 雑誌とか、出版社に勤めてさ」
「編集者、ですか?」
「そうそう。それならずっと、なにかしらの本に携われるんじゃない?」
「編集者……」
 思ってもみない道だった。でもそれなら……
「ちょっと、興味あるかも、です」
「うん。なんか、似合う気がする。とか言って、無責任だったらごめんね?」
「全然! ありがとうございます!」
 なんだか急に視界が開けた気がした。
 自分だけで考えても、きっとそんなの無理だって否定してた。でも……。
 由上さんに言われると、なんだか自信が湧いてくる。無理かもしれないけどやってみようって気持ちになる。

 いままでたくさんの本に助けられた。パパが勤めてる出版社で発行した本が家には何冊もあって、私は本に囲まれて育ってきた。
 中でもお気に入りで良く読む童話や小説、高校生になるまで読んだことがなかった雑誌。そういう本に出会えてなかったら、私はきっといまみたいな幸せを感じることができなかった。
 だから、私みたいにどうしていいかわからなくて困っている人を助けられる本を作りたい。そう思えた。

「やっぱり由上さんはすごいです!」
「えぇ? そう?」
「はい!」
「参考になったなら良かった」
 歩みと共にカラコロと鳴る下駄の音が、私を応援してくれてるように聞こえた。

 * * *

 民宿に到着して少し休んでたら、立川くんと初音ちゃんが帰ってきた。
 両手にどっさりと屋台で買ったらしき食べ物を持ってる。
「わ、すごいね」
「うん、みんなで食べようと思って~」
「食べる分払うよ」由上さんの提案にウンウンうなずいていたら
「いいよ~。パパからお小遣いもらってきたんだ。その代わりミイナちゃん、一緒に写真撮って?」初音ちゃんが首をかしげた。
「それはいいけど……」
「その写真を送るって条件でもらってきたお小遣いだから」
「え、そうなの?」
「そう。今年は女の子のお友達も一緒だよって言ったらパパ喜んじゃってさぁ」
「でも初音ちゃん、お友達たくさんいるでしょ?」
「いるけど、蒼和ちゃんの田舎に一緒に来たいくらい仲いいコはミイナちゃんしかいないから」
「え、すごく嬉しい」
「そうなの、私も嬉しいの。って話をしたら、写真撮って送って、って」
「そういうことなら喜んで」
「ということなので、蒼和ちゃん撮ってよ」
「いいよ。スマホ貸して」
「いいよ、蒼和ちゃんので撮って送ってよ。どうせミイナちゃんの浴衣姿、撮っておきたいでしょ?」
 初音ちゃんの言葉に、私も由上さんもギョッとする。
「おま、枚方さぁ」
「いーから早く! 早く着替えて早く食べようよ! 冷めちゃうから!」
 初音ちゃんに急かされて由上さんは自分のスマホを構えた。
 う、なんか緊張する。
「はい、撮るよー。せーの」
 カシャリ。
「どれどれ、見せて」
 初音ちゃんと立川くんが画面をのぞき込む。
「お、良く撮れてんじゃん」
「蒼和ちゃんにしては上出来だねぇ」
「一言多いんだよ」二人の言葉に由上さんが苦笑してから、私に少し困ったような笑顔を向けた。「これ、グループメッセに送っていい?」
「はい、ぜひ」
 由上さんが画面をタッチしてほどなく、みんなのスマホが鳴った。メッセの新着音だ。
 表示された写真の中、可愛い笑顔の初音ちゃんの隣で、私はなんともいえないはにかみを浮かべている。これは……家族には見せたくないかも……恥ずかし……。
「ありがとー。じゃ、うちらは洋服に着替えよー。三咲たちはそれ、準備しててほしー」
「はいはい」
「おっけー」
 由上さんと立川くんの返事を聞いて、初音ちゃんはにっこり笑ってふすまを閉めた。途端に初音ちゃんがそっと近づいてきた。
「ね、蒼和ちゃんとなんかあった?」
 初音ちゃんにコソコソ声で聞かれて、どこまで話そうか悩んで、でも自分でも夢だったんじゃないかって思ってるから、濁して返事をする。
「あ、あった、ような……うん、少し」
 指先に残る由上さんの手の感触を思い出してモジモジしてしまった。
「そっか。じゃあ一緒に来てもらって正解だった」
「うん、誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
 二人でふふふと笑って、着替えを始めた。

* * *

 洋服に着替え終わってふすまを開けたら、座卓の上にずらりと屋台食が並んでいた。
「わ、豪華」
 たこ焼きや焼きそばなんかの主食から、チョコバナナ、リンゴ飴なんかのデザートまである。屋台で買ったままのパッケージに入っていて、なんだか気分が盛り上がる。
「いいよねー、夢だよねー」
 初音ちゃんが指を組んで顔の下で左右に揺らす。
「取り皿もらってくるわ」
「あ、俺も行くよ」
「なんでもいい?」
「うん、プラでも紙でもいいよ」
「ん」
 由上さんが小さくうなずいて、立川くんと一緒に部屋を出て行った。
「いいのかな」
「いーのいーの。蒼和ちゃん昔ここ住んでたんだし、もういっこの自分ちみたいなもんだよ~」
「そっか。初音ちゃんも小さいころ遊びに来てたんだっけ?」
「うん、小学生くらいのころね。中学のころは蒼和ちゃんたちがお手伝いしてたから、夏休み中はお手伝いに来てたよ」
「そうなんだ」
「うん、ちょこっとだけどね」
「へぇ~」
 いいなぁ、って少し思う。
 当たり前だけど、初音ちゃんや立川くんは私が知らない由上さんを知っている。
 いまみたいにピンク色の髪じゃないときの由上さんは、どんな感じだったんだろう。
「蒼和ちゃんはね~、小学校のころから野球ばっかでね」私の考えを見透かしたように初音ちゃんが話し始めた。「少年野球のチームに入ってた」
「そうなんだ」
「うん。坊主頭のただのやんちゃな男の子だったよ。中学のときは離れちゃってたから良く知らないけど、やっぱ野球ばっかやってたみたい」
「そっか~。好きなんだね、野球」
「うん。いまはもう無理みたいだけど」
「そうだよね。好きなことできないってもどかしいだろうな」
「うん。まぁでもいまは女の子たちにキャーキャー言われて、それはそれでいいんじゃないかな、っと。ごめん」
「うん? 全然? ホントのことだから」
 由上さんがその状況を楽しんでいるかどうかは別にして、実際キャーキャー言われてるし、言われるだけの魅力があるとも思うし。
 廊下を歩く足音が近づいてきて、私たちは会話を止めた。
「お待たせ~」
 由上さんがビニール袋をいくつか持って戻って来た。立川くんはペットボトル三本を抱えてる。
「飲み物ももらっちゃった」
「わぁい、やった! 澪ちゃん?」
「そう」
 床にペットボトルを置きながら立川くんが笑顔を見せる。
 由上さんはテキパキとお皿や割り箸を配ってくれた。あまりの手際の良さに、手伝う隙もなかった。
「よし、食べよう」
 いただきまーす、と四人で言って、思い思いに屋台食を取り分けて食べる。
「んー、美味しい。屋台のもの食べるの久しぶり」
 ソースの味を堪能しながら言ったら、隣で初音ちゃんがうなずいた。
「こういうのってお祭り会場で食べるから美味しいんだなって思ってたけど、みんなで食べるのも美味しいね」
「うん。落ち着いて食べられるし、美味しいし楽しい」
 ねーって初音ちゃんと意気投合していたら
「今日は深夜の通販って言わないの」
 向かいの席で由上さんが立川くんに聞いた。
「だってそうっぽくないもん。通販っぽいのは蒼和と天椙さんのやりとりだけ」
「そんなん言われたら感想言えないじゃんね」
「そうですね。ちょっと遠慮しちゃいます」
「いや別に言ったら? 感想。ただ俺は『まただよ』って顔するだけだから」
「それされるからやりづらいって話してんだけど」
 由上さんと立川くんが言いあいしているのを、初音ちゃんがお母さんみたいな顔で見守ってる。きっと子供のころからこういう関係性なんだろうなって思ったら、私も優しい顔で見守っていたみたいで
「ミイナちゃん、“お母さん”みたいな顔してるよ」
 って初音ちゃんに笑われた。

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