【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.37
期末試験まであと少し。授業も普通にあって、けっこう忙しい。
席、遠くなって正解だった……かも?
席替えしてすぐは由上さんのこと気にしちゃうかなって思ってたけど、視界に入らないと自然と授業に集中できた。
それに……隣の席だとできなかった“ふり”ができる。
女子が由上さんを呼ぶ声や楽しそうに会話する声が聞こえても、見ないふり、聞こえないふり、気にしてないふり。そうすれば、私の中ではなにも起こっていないのと一緒。クラスが違っていた一年のころと一緒。
気持ちが揺れることもかき乱されることもない“平和”が得られる。
誰かに目をつけられたりしない、誰かの特別になったりもしない、ただのモブ。私にはそれが合ってる。だから、由上さんと美好さんが楽しそうにしゃべってるのも、気にしない……!
うぅ……。
由上さんや立川くん、初音ちゃんに心配かけたくなくて表には出さないけど、内心けっこうダメージ受けてる。
教室にいてもまたモヤモヤしちゃうなぁ、と考えて、今日の昼休みは久しぶりに屋上でご飯を食べることにした。
もう暑くなってきているから私以外誰もいない。
(落ち着く……かも)
さすがに日焼けが怖いから、サブバッグの中から日傘を出して広げる。
今年度から導入した小さなレジャーシートを柵の土台、段差になっている部分に敷いて座る。太陽光にさらされたコンクリートは熱されていて、レジャーシート越しでも熱さが伝わってくる。
岩盤浴ってこんな感じかな。
脇と柵で日傘を固定して、膝の上に置いたサブバッグからスーパーで買ったパンを取り出した。
傘、やっぱりちょっと邪魔だなぁ。でもママもおねーちゃんも『紫外線は美容の敵!』って言ってたし、新しい日傘、可愛いから試してみたかったし……。
由上さんとお話できない寂しさを紛らわせるように色々考えるけど、やっぱり寂しい。
贅沢になっちゃったなぁ、と考えながら日傘の影に隠れてパンを食べる。
食堂の生徒用冷蔵庫で冷やしてたからヒンヤリしてる。本当はレンジを使おうかと思ってたけど、由上さんのファンクラブの女子たちが固まってご飯を食べていて、私に気付いた途端に会話をやめたから気まずくなってそそくさと食堂を出てしまった。
これじゃ結局、中学の頃と一緒なんだよなぁ……私が根本的に悪いってことなのかなぁ……。
憧れの人と喋ることは、そんなにも悪いことなのだろうか。
確かにお話している間、その時間は独り占めしてしまっているかもしれない。それでも、それ以上を望んでもいないし、そういう人、私だけじゃないはず。
もしかしたら彼女たち、由上さんと二人でおしゃべりしてる女子全員にああいうことしてるのかな。そうだとしたらすごいパワフル。私にはできない。それだけ由上さんのことを想ってるということなのかな。だとしたら、私なんて到底敵わない……。
考え出したらお昼ご飯が喉を通らなくなってしまった。
パンで良かった。残しても持ち帰りやすい。
はぁ、と息を吐いて、食べかけのパンをビニール袋に戻していたら
「いたいた」
頭上から声が振ってきた。
聞き覚えのある声に慌てて日傘をずらしたら
「よ、由上さん……」
屋上の片隅でぽつんと座る私に、由上さんが笑いかけていた。
「トナリいい?」
「は、はいっ」
日傘を持ってずらして、由上さんが座れるようにスペースを作った。座った由上さんも日陰にいられるように、日傘をかざす。
「もうすぐ昼休み終わっちゃうから手短に言うね」
こちらを向いた由上さんは、いつもより真剣な表情で……
「はい……」
思わず私も神妙な顔つきになってしまう。
「オレら連絡先知らないじゃん、お互いの」
「はい…」
「だから、交換しよう? メッセのID」
「え……えっ」
「やってない、とかないよね、メッセ」
「ないです、やってます」
「どっち」
私の曖昧な返答を聞いて、由上さんがおかしそうに笑う。
「やってます、メッセ。IDあります」
「そっか、良かった」
慌てて膝の上に置いたサブバッグからスマホを取り出そうとするけど、日傘が邪魔をする。
あたふたしていたら由上さんが猫の笑顔になって、傘の柄を持ってくれた。
「す、すみません」
小さく謝って、バッグの中からスマホを取り出す。向きなおったら、由上さんは手に自分のスマホを持っていた。傘を持つのとは逆、開いた右手で操作している。
「コード出すから読み込んでもらってい?」
「はい」
冷静を装う私。でも多分、気付かれないようにしているのは無駄な努力だ。
スマホを持つ手が震えていて、心臓がバクバク跳ねているのが見てわかる。
由上さんは慣れた手つきでスマホを操作して、私に画面を向けた。私は自分の手に持ったスマホのカメラレンズをその画面に向ける。私のスマホは一秒も経たないうちにコードを読み込んで、【sowaさんのIDを登録しますか?】と問いかける。【はい】の項目をタッチして、【友達】を追加すると、トーク画面が表示された。
画面上部に【sowa】の文字が見えた途端、スマホが輝いて宝物のように見えた。
「できた?」
由上さんの問いに、私はウンウンうなずいて返答する。
「そしたら、いっこ、なんでもいいから送ってみて?」
「あっ、はっ、はい」
アイコンをタップしてスタンプを選ぶ……けど、慌ててるからなにを選んでいいかわからない。それでも変なのを送りたくなくて、超集中してひとつの絵柄を選んだ。送ったのは、三毛猫が『よろしくネ!』と言っているスタンプだ。
すぐ隣でポコン♪ と音がして「おっ、きた」由上さんが言って、スマホを操作した。「よし、オレも登録完了~」
由上さんもなんだか嬉しそうに笑っていて、少し心が通じているような……きっと、錯覚、だろうけど……。
「これで、また二人だけで話せるね」
「えっ……はい……」
驚く私に向けて由上さんは笑顔を浮かべて、そして少し考えてから、口を開いた。
「いまから言うこと、誰にもナイショね?……最近さ、二人で話してると美好が来るでしょ? あれさ、天椙さんと仲がいい人増えるのはいいことだなぁ、って思うんだけど、オレとしてはちょっと……さみしいっていうか……取られちゃうっていうか……なんか……。だから、連絡先交換できないかなーって思ってて。だから、できて良かった」ふ、と息を吐いて、由上さんが照れくさそうに顔を伏せた。
「マジで誰にも言わないでね?」
こちらを見て困ったように笑った由上さんのその顔が幼く見えて、可愛くて……きっと私もいま、おんなじような顔をしているはずで……。
「はい」
ふと笑ったら、心が軽くなった気がした。
「……私も、少し…寂しかったです」
たったそれだけの素直な気持ちを伝えるのが恥ずかしくて、少し、なんて嘘をついた。由上さんも同じ気持ちでいてくれたことがとても嬉しくて、笑みが止まらない。
「なにも用事なくても送るかもだから、天椙さんもそんな感じで」
「はい」
高校の入学祝いに買ってもらったスマホを、これまで以上に大事に両手で包んでうなずいた。
私から連絡なんて大それたことはできそうにないけど、いつか由上さんから連絡が来るかもってワクワクできるのが嬉しかった。
小さな日傘の影が二人の秘密基地みたいだって由上さんが笑った。
もう、もう、抑えられないくらいの感情が沸き上がって、わーって叫びたくなって、頭の中が由上さんでいっぱいだ。
ほどなくして予鈴が鳴って、いつかのように別々に教室に戻る。
二人だけの秘密をかかえながら、先に屋上を去る由上さんの背中を見て、並んで歩いても引け目を感じないような女の子になりいたいって、とても強く思った。
席、遠くなって正解だった……かも?
席替えしてすぐは由上さんのこと気にしちゃうかなって思ってたけど、視界に入らないと自然と授業に集中できた。
それに……隣の席だとできなかった“ふり”ができる。
女子が由上さんを呼ぶ声や楽しそうに会話する声が聞こえても、見ないふり、聞こえないふり、気にしてないふり。そうすれば、私の中ではなにも起こっていないのと一緒。クラスが違っていた一年のころと一緒。
気持ちが揺れることもかき乱されることもない“平和”が得られる。
誰かに目をつけられたりしない、誰かの特別になったりもしない、ただのモブ。私にはそれが合ってる。だから、由上さんと美好さんが楽しそうにしゃべってるのも、気にしない……!
うぅ……。
由上さんや立川くん、初音ちゃんに心配かけたくなくて表には出さないけど、内心けっこうダメージ受けてる。
教室にいてもまたモヤモヤしちゃうなぁ、と考えて、今日の昼休みは久しぶりに屋上でご飯を食べることにした。
もう暑くなってきているから私以外誰もいない。
(落ち着く……かも)
さすがに日焼けが怖いから、サブバッグの中から日傘を出して広げる。
今年度から導入した小さなレジャーシートを柵の土台、段差になっている部分に敷いて座る。太陽光にさらされたコンクリートは熱されていて、レジャーシート越しでも熱さが伝わってくる。
岩盤浴ってこんな感じかな。
脇と柵で日傘を固定して、膝の上に置いたサブバッグからスーパーで買ったパンを取り出した。
傘、やっぱりちょっと邪魔だなぁ。でもママもおねーちゃんも『紫外線は美容の敵!』って言ってたし、新しい日傘、可愛いから試してみたかったし……。
由上さんとお話できない寂しさを紛らわせるように色々考えるけど、やっぱり寂しい。
贅沢になっちゃったなぁ、と考えながら日傘の影に隠れてパンを食べる。
食堂の生徒用冷蔵庫で冷やしてたからヒンヤリしてる。本当はレンジを使おうかと思ってたけど、由上さんのファンクラブの女子たちが固まってご飯を食べていて、私に気付いた途端に会話をやめたから気まずくなってそそくさと食堂を出てしまった。
これじゃ結局、中学の頃と一緒なんだよなぁ……私が根本的に悪いってことなのかなぁ……。
憧れの人と喋ることは、そんなにも悪いことなのだろうか。
確かにお話している間、その時間は独り占めしてしまっているかもしれない。それでも、それ以上を望んでもいないし、そういう人、私だけじゃないはず。
もしかしたら彼女たち、由上さんと二人でおしゃべりしてる女子全員にああいうことしてるのかな。そうだとしたらすごいパワフル。私にはできない。それだけ由上さんのことを想ってるということなのかな。だとしたら、私なんて到底敵わない……。
考え出したらお昼ご飯が喉を通らなくなってしまった。
パンで良かった。残しても持ち帰りやすい。
はぁ、と息を吐いて、食べかけのパンをビニール袋に戻していたら
「いたいた」
頭上から声が振ってきた。
聞き覚えのある声に慌てて日傘をずらしたら
「よ、由上さん……」
屋上の片隅でぽつんと座る私に、由上さんが笑いかけていた。
「トナリいい?」
「は、はいっ」
日傘を持ってずらして、由上さんが座れるようにスペースを作った。座った由上さんも日陰にいられるように、日傘をかざす。
「もうすぐ昼休み終わっちゃうから手短に言うね」
こちらを向いた由上さんは、いつもより真剣な表情で……
「はい……」
思わず私も神妙な顔つきになってしまう。
「オレら連絡先知らないじゃん、お互いの」
「はい…」
「だから、交換しよう? メッセのID」
「え……えっ」
「やってない、とかないよね、メッセ」
「ないです、やってます」
「どっち」
私の曖昧な返答を聞いて、由上さんがおかしそうに笑う。
「やってます、メッセ。IDあります」
「そっか、良かった」
慌てて膝の上に置いたサブバッグからスマホを取り出そうとするけど、日傘が邪魔をする。
あたふたしていたら由上さんが猫の笑顔になって、傘の柄を持ってくれた。
「す、すみません」
小さく謝って、バッグの中からスマホを取り出す。向きなおったら、由上さんは手に自分のスマホを持っていた。傘を持つのとは逆、開いた右手で操作している。
「コード出すから読み込んでもらってい?」
「はい」
冷静を装う私。でも多分、気付かれないようにしているのは無駄な努力だ。
スマホを持つ手が震えていて、心臓がバクバク跳ねているのが見てわかる。
由上さんは慣れた手つきでスマホを操作して、私に画面を向けた。私は自分の手に持ったスマホのカメラレンズをその画面に向ける。私のスマホは一秒も経たないうちにコードを読み込んで、【sowaさんのIDを登録しますか?】と問いかける。【はい】の項目をタッチして、【友達】を追加すると、トーク画面が表示された。
画面上部に【sowa】の文字が見えた途端、スマホが輝いて宝物のように見えた。
「できた?」
由上さんの問いに、私はウンウンうなずいて返答する。
「そしたら、いっこ、なんでもいいから送ってみて?」
「あっ、はっ、はい」
アイコンをタップしてスタンプを選ぶ……けど、慌ててるからなにを選んでいいかわからない。それでも変なのを送りたくなくて、超集中してひとつの絵柄を選んだ。送ったのは、三毛猫が『よろしくネ!』と言っているスタンプだ。
すぐ隣でポコン♪ と音がして「おっ、きた」由上さんが言って、スマホを操作した。「よし、オレも登録完了~」
由上さんもなんだか嬉しそうに笑っていて、少し心が通じているような……きっと、錯覚、だろうけど……。
「これで、また二人だけで話せるね」
「えっ……はい……」
驚く私に向けて由上さんは笑顔を浮かべて、そして少し考えてから、口を開いた。
「いまから言うこと、誰にもナイショね?……最近さ、二人で話してると美好が来るでしょ? あれさ、天椙さんと仲がいい人増えるのはいいことだなぁ、って思うんだけど、オレとしてはちょっと……さみしいっていうか……取られちゃうっていうか……なんか……。だから、連絡先交換できないかなーって思ってて。だから、できて良かった」ふ、と息を吐いて、由上さんが照れくさそうに顔を伏せた。
「マジで誰にも言わないでね?」
こちらを見て困ったように笑った由上さんのその顔が幼く見えて、可愛くて……きっと私もいま、おんなじような顔をしているはずで……。
「はい」
ふと笑ったら、心が軽くなった気がした。
「……私も、少し…寂しかったです」
たったそれだけの素直な気持ちを伝えるのが恥ずかしくて、少し、なんて嘘をついた。由上さんも同じ気持ちでいてくれたことがとても嬉しくて、笑みが止まらない。
「なにも用事なくても送るかもだから、天椙さんもそんな感じで」
「はい」
高校の入学祝いに買ってもらったスマホを、これまで以上に大事に両手で包んでうなずいた。
私から連絡なんて大それたことはできそうにないけど、いつか由上さんから連絡が来るかもってワクワクできるのが嬉しかった。
小さな日傘の影が二人の秘密基地みたいだって由上さんが笑った。
もう、もう、抑えられないくらいの感情が沸き上がって、わーって叫びたくなって、頭の中が由上さんでいっぱいだ。
ほどなくして予鈴が鳴って、いつかのように別々に教室に戻る。
二人だけの秘密をかかえながら、先に屋上を去る由上さんの背中を見て、並んで歩いても引け目を感じないような女の子になりいたいって、とても強く思った。
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