【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.25
今日は昨日と違ってみんなバラバラに帰った。
初音ちゃんは部活、立川くんは初音ちゃんの帰宅待ち、由上さんは横野くんの相談に乗ってる。
横野くん、もう明日明後日には髪色変えてそうな勢いだったな。フットワーク軽いって大事だよね、と対極にいる人間の私は感心するしかできない。
今日は帰ったら宿題やって日記書いてー、と考えながら電車に揺られていたらメッセが来た。津嶋くんだ。
シマ{まだ学校?〕
違うよー、と思いながら、違うよ、と打つ。
〔違うよ。電車の中。}みーな
シマ{もう帰り道か〕
〔うん、帰り道。もうすぐ着きます。}みーな
シマ{そっか。一緒に帰らない?って言おうとしてたのに〕
クラス違っても誘ったり連絡するって言ってたの、ホントだったんだ……。
少し驚きながら、どう返信しようか悩む。
ごめんね、は違うし、また今度、もちょっと……うぅーんと悩んでいたら、新たに文章が表示された。
シマ{また機会があったら誘うわ〕
シマ{そんでどっか遊び行こう〕
あう。うん、とも、ううん、とも返答しづらいぞ。でももう既読付いちゃってるし、なんとか言葉を絞り出して返信した。
〔わかりました。ありがとうございます。}みーな
うわ、すごい業務的な感じになっちゃった……。津嶋くん、スマホの向こうで苦笑してそうだな……。
なんでこう、うまく立ち回りできないんだろう。
今日はドキドキしたりガッカリしたり、気持ちの上下が激しくて忙しい。
あぁ、今日こそ図書室に行くべきだったのかも。んー、でもなー。そこで津嶋くんに一緒に帰ろって言われたら、断る理由なくなっちゃうしなー。
別に一緒に帰るのがイヤってわけでも津嶋くんがイヤってわけでもないんだけど、なんとなく、うーん……由上さんには見られたくない……。
とか考えてたら、地元の駅に着いた。
人との交流が増えると考えることも増えるんだ。
いままでは人との交流が少なくて悩んでいたのに、今度は関わりが増えて悩んでる。
いつでも生きてる限り悩みは尽きないんだ、とか哲学っぽいことを考えながら歩いていたら家に着いていた。
リビングでソファに座っているママに「ただいま」と言ったら
「おかえり。そうだみぃちゃん」
返事と共に呼び止められた。
「なにー?」
「もしかして、ママのヘアトリートメント使った?」
「あっ……うん、ごめん」そういえば使ったあとの戻した場所、違ってたかもと思い返す。それとも香りで気付いたのかな?
「いいのいいの、いいんだけど、ずっと使うならみぃちゃんの好みにあったやつ選んだら? って言おうと思って」
「あー、うん。それはありがたいけど……」言いつつ脳内に浮かんだのは、お財布の中身だ。
「お小遣いから買わなくていいわよ? ママがみぃちゃんに合わせればいいだけだから、一緒がイヤなら別に買ったげるし」
「え、ありがとう。いいの?」
「いいのいいの~。おねぇちゃんだってたまに追加でおねだりしてくるんだし」
「え、そうなの?」
それは初耳。
「あ、ナイショにしてたか。うん、そうよ。たまーにだけどね。二人ともお小遣いは限られてるし、趣味に関してはそれでまかなってもらいたいけど、みぃちゃんだって年頃の女の子だし、気になる子の一人や二人いるでしょ?」
ママの言葉で由上さんの顔が浮かんでドキリとする。
私に限らず、世の中の女子高生には“気になる人の一人や二人”がいるのが一般論なんだろうけど、なんだか見透かされたような気がした。
「だからみぃちゃんの場合は、コスメ関係とかお洋服とか、たくさんはダメだけど相談してくれたら少しくらい融通するわよ。特にみぃちゃんはいままでそういうのに関心なかったんだから」
「う、すみません」
「ううん~? ママ、みぃちゃんはおねぇちゃんに負けない可愛い女の子になれると思ってるのよー? でもそういう話してるとき、みぃちゃん楽しくなさそうだからさぁ」
「……確かに、前までは……」いまでも前のめりになるほどの興味はないけど、少しくらいは気をつけなきゃな、とは思ってる。
「少しでも興味出てきたなら、いまのうちに知識も含めて興味持ってもらいたいなって思って」
ママは若いころアパレル関係のお仕事をしていて、そういうことに関しての知識や興味がある。おねーちゃんはママの血を引いてるなって思うけど、私は絶対、出版社に勤めてるパパの血を引いてる。
「みぃちゃんが嫌じゃなかったら、今度一緒にお買い物行こうか。予算の上限はママが決めるけど、必要なもの揃えに行こ」
「えっ、嬉しい」
「じゃあどんなのが欲しいかリサーチしておいてね」
「うん! ありがとう!」
お礼を言ったらママも嬉しそうにしてて、私もさらに嬉しくなった。
自室に戻って部屋着に着替えて、さっそく出た宿題と予習復習を終わらせたらもう夜ご飯の時間。
家族そろって食べてお風呂に入って、明日の支度をしてから日記を書く。
今日も朝から盛りだくさんで、順を追って思い出しながら書いていく、のだけど……朝の由上さんとのやりとりで止まってしまう。
初音ちゃんが気付いた理由が“津嶋くんに触られた感覚を由上さんのそれで上書き保存して”だとしたら、そんなことあるわけない。って考えてたら、本当に起こった出来事だったのかが曖昧になった。ということも含めて書き進めることにした。
由上さんがヤキモチとか考えられない。由上さんが他の男子と同じ“普通の男子高校生”だとしても、相手、私だよ? 校内でもモブな私。
厚意じゃなくて好意を抱いてもらえてるなんて考えるの、ちょっと…自意識過剰なんじゃないかな……と書いていたら少し悲しくなってきた。
なら前向きに受け止めて、私は私で努力して自信つければいいんだよね。
その一歩として……ママと一緒に行くショッピングでおねだりするものを厳選しようと決めた。
日記を書き終えてページをめくる。
チラホラ埋まってきた四角のマーク。増えれば自然と自信がつくものだと思っていたけどそうでもないみたい。
いつもと同じように指でなぞって、体験済みにできる項目を探す。
今日は……これ、かな……。
少し自信はないけど、頭を洗ってもなお思い起こせる感触と熱を信じて、四角の枠内を黒く塗りつぶした。
■触ってきてくれる
■頭をポンポンなでなでしてくれる
きっと、多分、あれは現実……。
改めてそう認識したら、また恥ずかしくなってきた。顔が熱くなったのは、それまで否定してきたその出来事を受け入れて、その瞬間にその光景がフラッシュバックしたから。
けれど驚きすぎて、見たはずのその姿を思い出せない。由上さんはどんな顔をしていたんだろう。どんなことを思って、どんな感情で……。
だめだ、考えれば考えるほどわからない。なんだかもう、ずっとずっと由上さんのことばかり考えていて、それってもう……。
うぅ~と頭の中でうなってベッドに横たわる。少し、ほんの少しだけ、自信持っていいかな。期待していいかな。
初音ちゃんに聞いたら、いいよ~って言ってくれるかな。
あぁ、楽しいな。
わからないことも考えすぎることもたくさんあるけど、楽しいな~!
なぜだかわからないけど叫びたい気分。
たのしー! しあわせー! って。
由上さんのことを考えると胸が熱くて、息苦しくて、なんだかよくわからなくなるときがあるけれど、それも含めて、由上さんのことを知ることができてよかったと思ってる。
誰かのことを“好き”って、こんな感じなのかな。
初音ちゃんも立川くんも、いつもこんな感情を抱えてるのかな。すごいな。
まだまだ子供の私には受け止められるほどの器がないみたいだけど、いつか……。
想像するだけで耳まで熱くなる。
ダメだ、このまま考えてたら眠れなくなる、もう寝よう。
時計を見たらいつもより少し早いけど、部屋の電気を消して布団をかぶった。
消したばかりの照明がほのかに青く光る。じわじわ消えていく青色と一緒にまぶたを閉じる。
『上書き保存しといて』
由上さんの声と一緒に、ふっと笑った由上さんの顔がよみがえった。
そうだ……笑顔だった……。
いつもの楽しそうな笑顔とも、困ったような笑顔とも、猫の笑顔とも違う、とっても優しくて、いつくしむような……。
頭をポンと触られた。驚いて、隣に立つその手の主を見たら、
「上書き保存しといて」
ふっと笑って、クラスメイトに挨拶をしながら窓際の席に行ってしまった。
ふいに浮かんだ風景。それは寝る前の脳内で起こった、その日一日の整理作業。
起きたらきっと忘れてしまう現実と夢の狭間でよみがえった記憶を、何度も何度も繰り返し再生して…そのまま……眠りに、ついた……。
* * *
初音ちゃんは部活、立川くんは初音ちゃんの帰宅待ち、由上さんは横野くんの相談に乗ってる。
横野くん、もう明日明後日には髪色変えてそうな勢いだったな。フットワーク軽いって大事だよね、と対極にいる人間の私は感心するしかできない。
今日は帰ったら宿題やって日記書いてー、と考えながら電車に揺られていたらメッセが来た。津嶋くんだ。
シマ{まだ学校?〕
違うよー、と思いながら、違うよ、と打つ。
〔違うよ。電車の中。}みーな
シマ{もう帰り道か〕
〔うん、帰り道。もうすぐ着きます。}みーな
シマ{そっか。一緒に帰らない?って言おうとしてたのに〕
クラス違っても誘ったり連絡するって言ってたの、ホントだったんだ……。
少し驚きながら、どう返信しようか悩む。
ごめんね、は違うし、また今度、もちょっと……うぅーんと悩んでいたら、新たに文章が表示された。
シマ{また機会があったら誘うわ〕
シマ{そんでどっか遊び行こう〕
あう。うん、とも、ううん、とも返答しづらいぞ。でももう既読付いちゃってるし、なんとか言葉を絞り出して返信した。
〔わかりました。ありがとうございます。}みーな
うわ、すごい業務的な感じになっちゃった……。津嶋くん、スマホの向こうで苦笑してそうだな……。
なんでこう、うまく立ち回りできないんだろう。
今日はドキドキしたりガッカリしたり、気持ちの上下が激しくて忙しい。
あぁ、今日こそ図書室に行くべきだったのかも。んー、でもなー。そこで津嶋くんに一緒に帰ろって言われたら、断る理由なくなっちゃうしなー。
別に一緒に帰るのがイヤってわけでも津嶋くんがイヤってわけでもないんだけど、なんとなく、うーん……由上さんには見られたくない……。
とか考えてたら、地元の駅に着いた。
人との交流が増えると考えることも増えるんだ。
いままでは人との交流が少なくて悩んでいたのに、今度は関わりが増えて悩んでる。
いつでも生きてる限り悩みは尽きないんだ、とか哲学っぽいことを考えながら歩いていたら家に着いていた。
リビングでソファに座っているママに「ただいま」と言ったら
「おかえり。そうだみぃちゃん」
返事と共に呼び止められた。
「なにー?」
「もしかして、ママのヘアトリートメント使った?」
「あっ……うん、ごめん」そういえば使ったあとの戻した場所、違ってたかもと思い返す。それとも香りで気付いたのかな?
「いいのいいの、いいんだけど、ずっと使うならみぃちゃんの好みにあったやつ選んだら? って言おうと思って」
「あー、うん。それはありがたいけど……」言いつつ脳内に浮かんだのは、お財布の中身だ。
「お小遣いから買わなくていいわよ? ママがみぃちゃんに合わせればいいだけだから、一緒がイヤなら別に買ったげるし」
「え、ありがとう。いいの?」
「いいのいいの~。おねぇちゃんだってたまに追加でおねだりしてくるんだし」
「え、そうなの?」
それは初耳。
「あ、ナイショにしてたか。うん、そうよ。たまーにだけどね。二人ともお小遣いは限られてるし、趣味に関してはそれでまかなってもらいたいけど、みぃちゃんだって年頃の女の子だし、気になる子の一人や二人いるでしょ?」
ママの言葉で由上さんの顔が浮かんでドキリとする。
私に限らず、世の中の女子高生には“気になる人の一人や二人”がいるのが一般論なんだろうけど、なんだか見透かされたような気がした。
「だからみぃちゃんの場合は、コスメ関係とかお洋服とか、たくさんはダメだけど相談してくれたら少しくらい融通するわよ。特にみぃちゃんはいままでそういうのに関心なかったんだから」
「う、すみません」
「ううん~? ママ、みぃちゃんはおねぇちゃんに負けない可愛い女の子になれると思ってるのよー? でもそういう話してるとき、みぃちゃん楽しくなさそうだからさぁ」
「……確かに、前までは……」いまでも前のめりになるほどの興味はないけど、少しくらいは気をつけなきゃな、とは思ってる。
「少しでも興味出てきたなら、いまのうちに知識も含めて興味持ってもらいたいなって思って」
ママは若いころアパレル関係のお仕事をしていて、そういうことに関しての知識や興味がある。おねーちゃんはママの血を引いてるなって思うけど、私は絶対、出版社に勤めてるパパの血を引いてる。
「みぃちゃんが嫌じゃなかったら、今度一緒にお買い物行こうか。予算の上限はママが決めるけど、必要なもの揃えに行こ」
「えっ、嬉しい」
「じゃあどんなのが欲しいかリサーチしておいてね」
「うん! ありがとう!」
お礼を言ったらママも嬉しそうにしてて、私もさらに嬉しくなった。
自室に戻って部屋着に着替えて、さっそく出た宿題と予習復習を終わらせたらもう夜ご飯の時間。
家族そろって食べてお風呂に入って、明日の支度をしてから日記を書く。
今日も朝から盛りだくさんで、順を追って思い出しながら書いていく、のだけど……朝の由上さんとのやりとりで止まってしまう。
初音ちゃんが気付いた理由が“津嶋くんに触られた感覚を由上さんのそれで上書き保存して”だとしたら、そんなことあるわけない。って考えてたら、本当に起こった出来事だったのかが曖昧になった。ということも含めて書き進めることにした。
由上さんがヤキモチとか考えられない。由上さんが他の男子と同じ“普通の男子高校生”だとしても、相手、私だよ? 校内でもモブな私。
厚意じゃなくて好意を抱いてもらえてるなんて考えるの、ちょっと…自意識過剰なんじゃないかな……と書いていたら少し悲しくなってきた。
なら前向きに受け止めて、私は私で努力して自信つければいいんだよね。
その一歩として……ママと一緒に行くショッピングでおねだりするものを厳選しようと決めた。
日記を書き終えてページをめくる。
チラホラ埋まってきた四角のマーク。増えれば自然と自信がつくものだと思っていたけどそうでもないみたい。
いつもと同じように指でなぞって、体験済みにできる項目を探す。
今日は……これ、かな……。
少し自信はないけど、頭を洗ってもなお思い起こせる感触と熱を信じて、四角の枠内を黒く塗りつぶした。
■触ってきてくれる
■頭をポンポンなでなでしてくれる
きっと、多分、あれは現実……。
改めてそう認識したら、また恥ずかしくなってきた。顔が熱くなったのは、それまで否定してきたその出来事を受け入れて、その瞬間にその光景がフラッシュバックしたから。
けれど驚きすぎて、見たはずのその姿を思い出せない。由上さんはどんな顔をしていたんだろう。どんなことを思って、どんな感情で……。
だめだ、考えれば考えるほどわからない。なんだかもう、ずっとずっと由上さんのことばかり考えていて、それってもう……。
うぅ~と頭の中でうなってベッドに横たわる。少し、ほんの少しだけ、自信持っていいかな。期待していいかな。
初音ちゃんに聞いたら、いいよ~って言ってくれるかな。
あぁ、楽しいな。
わからないことも考えすぎることもたくさんあるけど、楽しいな~!
なぜだかわからないけど叫びたい気分。
たのしー! しあわせー! って。
由上さんのことを考えると胸が熱くて、息苦しくて、なんだかよくわからなくなるときがあるけれど、それも含めて、由上さんのことを知ることができてよかったと思ってる。
誰かのことを“好き”って、こんな感じなのかな。
初音ちゃんも立川くんも、いつもこんな感情を抱えてるのかな。すごいな。
まだまだ子供の私には受け止められるほどの器がないみたいだけど、いつか……。
想像するだけで耳まで熱くなる。
ダメだ、このまま考えてたら眠れなくなる、もう寝よう。
時計を見たらいつもより少し早いけど、部屋の電気を消して布団をかぶった。
消したばかりの照明がほのかに青く光る。じわじわ消えていく青色と一緒にまぶたを閉じる。
『上書き保存しといて』
由上さんの声と一緒に、ふっと笑った由上さんの顔がよみがえった。
そうだ……笑顔だった……。
いつもの楽しそうな笑顔とも、困ったような笑顔とも、猫の笑顔とも違う、とっても優しくて、いつくしむような……。
頭をポンと触られた。驚いて、隣に立つその手の主を見たら、
「上書き保存しといて」
ふっと笑って、クラスメイトに挨拶をしながら窓際の席に行ってしまった。
ふいに浮かんだ風景。それは寝る前の脳内で起こった、その日一日の整理作業。
起きたらきっと忘れてしまう現実と夢の狭間でよみがえった記憶を、何度も何度も繰り返し再生して…そのまま……眠りに、ついた……。
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