【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.24

 初音ウブネちゃんと一緒に教室に戻ったら、教室の奥のほうに男子のグループがいた。クラスメイトの男子 (確か横野ヨコノくん)と、立川くん、そして……。
「あ、戻ってきたじゃん、枚方さん」
「あー、ほんとだ。なんだ、天椙さんと一緒だったんだ」
「あれ? ごめん、なんか連絡くれてた?」
 立川くんに言われて初音ちゃんが上着のポケットからスマホを出した。
「いや、どっちにしろ会えるだろうと思ってメッセはしてないよ」
 初音ちゃんと立川くんの会話を、横野くんと一緒に聞いているのは由上さんだ。
教室こっち来たときにはもういなかったって、オレらのとこ来てさ」
「俺ら枚方さんカノジョの代わりかよって話してたとこ」
 由上さんの説明に横野くんがかぶせた。
「そういうつもりじゃなかったんだって、別に」
「あらあら、そんなにさみしかったの?」
 初音ちゃんが頭を撫でようと手をあげると、立川くんが「やめてよ」それを避けた。
「なーによ、いいじゃん。今度は誘うよ~」
「うん、いいんだけどね、別に。まぁ今度は来るとき連絡入れるよ」
「うん」
 そんな二人の会話を聞いていた横野くんが由上さんに言った。
「いいよなー、イチャイチャできる相手がいるって」
「そうね」
「うらやましいわ」
「そうね」
「いや、由上は別にモテてんだからいいじゃん」
「モテ……そういうんじゃないんじゃない?」
「いやぁ、そういうのでしょ。女子にちやほやされてるじゃん。いいよなー。俺も髪色変えようかなぁ」
「色変えるだけでモテるもん?」
 横野くんの言葉に立川くんが問う。
「わかんね。由上は中学のときはどうだったん?」
「別にフツーの男子中学生よ? 髪も校則に従って黒かったし。いや、いまもフツーだけど、見た目が派手なだけで」
「そうなの?」
「うん」
 そうなんだ……。
 実は密かに近くで聞いていた私も内心で思う。
「へぇ~、そうなんだ。やっぱあますぎさんみたいな真面目な人でも、由上みたいなヒト、気になるの?」
「ふえっ?」
 横野くんから急に振られて、変な声が出てしまった。
「きっ、気に……?!」
 なるよ、とか言えるわけないじゃん!
「女子全員がそうってわけじゃないだろうけどさ、やっぱ目ぇ惹くんでしょ?」
「それは、はい。遠目にも、見……気付きやすいというか……」
 あぶない。見つけやすいって言いそうになった。探してるのバレバレじゃない。
「目立つ? やっぱ」
 由上さんが自分の髪をつまんで言った。
「そう、ですね。ピンクの髪は、由上さんでしか見たことがないので」
「そっか」
「でもそれだけで人気なわけじゃないでしょ?」
「いや、どうだろう。珍しいだけじゃないの? そういうのさすがに聞いたことない」
 そりゃ、由上さん本人は知らないだろうな…。いいとこもたくさんあるから、見た目のかっこよさも相まって人気なんだけど。
「女子から見てどうなの?」
 横野くんが初音ちゃんと私に聞いた。その場で会話に参加している女子が私たちしかいないからだ。
「えー? わたしちっちゃいときから一緒だったから、よくわかんない。高校デビューしちゃって~としか思わないなぁ」
「おい」
 幼馴染の容赦ない感想に、由上さんがツッコミを入れる。
「あますぎさんは?」
「えっ、う……」思わず詰まって、いやいやちゃんと言わなきゃって思い直す。「優しいとことか、勉強も運動もできるとことか、そういうのも人気の要素なんじゃないか……っていうのを、聞いたことあります」
 最後の言葉は完全に付け足しだ。本当に聞いた話もあるけど、ほとんど自分の意見。ただ、それを素直に伝えるのは恥ずかしい。
「だよねー。でもやっぱ中身も重要かぁ。ゆうて由上、顔もスタイルもいいもんなぁ」
「え? そぉ?」
 由上さんがまんざらでもなさそうな笑顔で照れるそぶりを見せた。
「そうだよ。整ってるし、シュッとしてるしさー。髪色だけ変えても無理かー。どう思う?」
 横野くんの視線は私に向けられている。うーん、と悩んで「似合っていれば、それでいいのでは……」見た目に関してなにか言えるようなことを自分ではしてないけど、素直に思ったことを伝えてみた。
「そっか。俺に似合う色ってなんだろ」
「そういうアプリなかったっけ? 髪色だけ変わるとか」
「あ、わたし入ってるよー」
 立川くんの問いに初音ちゃんが手を挙げた。そのままスマホを操作してアプリを立ち上げる。
 そういえばおねーちゃんもそういうアプリで加工した写真をSNSに載せてた気がする。
 質問者の横野くんと、立川くん、初音ちゃんがキャッキャしながら教室の後方で撮影会を始めた。
 それを見守る私と由上さんの目が合う。
 初音ちゃんとの屋上での会話が脳内再生されて、恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまった。
 へ、変に思われたかな……。
 心配になって横目でうかがったら、由上さんは撮影会中の三人を見て感想を述べたり笑ったりしてた。
 や、やっぱり思い過ごしというか、自意識過剰というかなんというか……きっと『上書き保存しといて』だって私の空耳で……でも触られた感覚と熱は不意によみがえって……なんだかもうよくわからなくなってきて、考えるのをやめた。
「なぁなぁ、あますぎはどの色が似合うと思う?」
 横野くんがスマホをかざしてきた。その中には六色の髪色になっている横野くんが表示されている。全部見比べて、顔色とか顔立ちとのバランスを見ると右上の写真が一番よさそう。
「うーん……金髪、かなぁ……」
「お、一番やりやすそうな色」
「入門編って感じかもね~」初音ちゃんが言った。
「由上はそれ、どういう風に色入れてるの?」
「んー? 色抜いて、その写真くらいの金髪にしてからピンク入れてる」
「ヘアサロン?」
「うん。切ったりしなくていっかってときは自分で入れたりしちゃうけど」
「え、そんな手軽なの」
「うん。市販のでできるよ。あー、でも最初はサロン行ったほうがいいかもね。やり方知らないとムラになったりするかも」
「だよなー。失敗したら嫌だしなー」
「良ければサロン紹介するよ」
「え、マジで? ちょっと考える!」
「うん」
「連絡先教えてよ」
「いいよ。電話かメッセか、まぁなんでもいいや」
「りょりょ」
 由上さんと横野くんはスマホを操作して、連絡先の交換を始めた。
「俺そろそろ戻んなきゃ」
「あー、そうだねぇ」
 立川くんの言葉に初音ちゃんが時計を見た。そろそろ昼休みが終わるらしい。
「初音、今日は帰りは?」
「今日部活なんだよね、ごめん」
「あぁ、書道部」
「うん。だから遅くなるよ」
「じゃあどっかで待ってようか。家まで送るし」
「ホント? じゃあ終わったら連絡するね」
「ん」
 じゃあねと言い残して、立川くんは教室をあとにした。
「あー、俺もカノジョほしー!」
「つくりゃいいじゃん、いないわけじゃないんでしょ?」
「そーだけど、そうそう上手くいくもんじゃないからさー」
 席が前後の横野くんと由上さんはそのまま席に着いた。結局私は最終的にモブ状態になってみんなの会話に入ることができず、ただニコニコと話を聞いているだけになってしまった。
 あー、私ってこうだよねって、なんでかちょっとしょんぼりした気分で着地して、自席に戻って午後の授業の準備をする。
 っていうか、初音ちゃん部活入ってるんだなぁ。
 さっき色々お話したのにそういう基本的な情報も知らなくて、まだまだお話したいことがたくさんあるなぁと思う。
 二年になってからまだ二日しか学校に来てないのに、イベント盛りだくさんって感じ。海馬から記憶が漏れ出てしまいそう。
 しかもこのあとさらに授業を受けるとか、“リア充”とか“陽キャ”とか言われる人たちの記憶力ってどうなってるんだろう。記憶力良すぎじゃない?
 なんだか妙なことに感心しながら、午後の授業を受けるのだった。

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