【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.23
授業終わりのチャイムが鳴って、号令と共にみんなが席を立つ。そのままゾロゾロとどこかに移動して行った。さて私はどうしよう、と考えていたら、
「あーますーぎさんっ」
背後から肩をポンッと叩かれた。思わず背筋を伸ばして「はいっ」勢いよく返事して振り返ったら、枚方さんがニコニコしながら立っていた。
「お昼しよー」
そうだ。朝の約束を果たすのだった。
「う、うん」
考えてみたらお友達と一緒にお昼ご飯を食べるのは高校生になってから初めてで、少しドキドキする。
「聞かれたくない話になりそうなら、あんまり人がいないとこがいいかなぁ」あごに指を当てて考える枚方さんに
「枚方さんは、なに食べるの?」質問を投げる。
「今日はお弁当~」掲げた右手に小さなトートバッグ。
「あ、私も。じゃあさ、紫外線とかイヤじゃなかったら、屋上とかどうかな?」
「えっ、いいかも! 今日お天気いいし、絶対気持ちいいよね、行こ行こ」
「うん」
可愛い女の子のお友達と一緒にお昼ご飯食べるとか、一年のときはできなかったな。嬉しいなぁ。
枚方さんと同じように小さなバッグを持って二人で教室を出た。会話をしながらいつものルートに入る。一年のときより一階分階段を多く登らないといけないけど、それも苦にならない。
見慣れた鉄扉を開けて屋上に出る。
「へー! いい眺め~!」
自分が褒められたみたいな嬉しさを感じながら、屋上の一角に枚方さんを案内した。一年のころ通い詰めた屋上は、相変わらずほとんど人がいない。
「お昼にも開放されてるの知らなかったなぁ」
「言われてないから、みんな知らないみたいなんだよね」
「天椙さんはどうやって知ったの?」
「うーんと……偶然?」
「そーなんだ。これはいい場所だよー」
実は一年のときみんながいるところで一人ご飯するのがイヤでさまよってて見つけたんだけど、さすがにそれは言えなかった。
「あ、待っててね」
バッグの中から小さく折り畳んだレジャーシートを出した。今年から導入の新グッズ、満を持して登場って感じ。
「わぁ、用意いいね!」
「ハンカチとかでほこり払ってたんだけど、このほうが楽だなって気付いて」
100円均一ショップで買った、少しクッション性のあるレジャーシートを柵の付け根、床より少し高く作られたコンクリートの段差に敷いた。
「狭いかもだけど」
「嬉しい。ありがとう」
二人で並んで座る。うん、いい感じ。ご飯食べるスペースも割と確保できる。
「よーし、食べながらおしゃべりしよう」
枚方さんが膝にバッグを置いて、お弁当の包みを開けた。
「わ、カラフルで美味しそう」
「ありがとー。うち、おばぁちゃんと二世帯なんだけどさ、おばぁちゃんがこういうの好きで作ってくれるんだよね」
「へぇ~! 色彩センスがいいおばあさまなんだね」
「ありがとー。帰ったらおばぁちゃんに伝えておく」
「うん」
ふふっと笑いながら私もお弁当箱を取り出す。
「天椙さんは手作り?」
「ううん? ママが作ってくれるの」
「そーなんだ。わぁ、美味しそう」
「ありがとう」
今日のお弁当は昨日夕飯で出たハンバーグをお弁当用に小さく作ったものとブロッコリー、ニンジンのグラッセ。それにコーンバターライス。
「からあげとハンバーグ交換しない?」
「うん、いいよ。そういうの嬉しい」
「それは良かった」
それぞれ一つずつお箸で持って、相手のお弁当箱に入れる。
うわー、こういうの憧れてた! 嬉しくてニヨニヨしちゃう。
「わぁい、ありがとう! いただきまーす」
「こちらこそありがとう! いただきます」
二人で並んでお弁当を食べて、味の感想を言い合ったりお互いのことを話したりする。すごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまう。
「「ごちそうさまでした」」
同時に言って、お弁当箱を片付ける。こんなに楽しいお昼休み、初めてかもしれない。嬉しくて、心が弾む。
「さてさて、じゃあ朝の話を聞こうかな」
「うっ」
飲んでいたお茶を噴き出しそうになって、口をおさえた。
「話したくなかったら無理には聞かないよ?」
「……うまく、説明できるか、わからないんだけど……」
「うんうん」
枚方さんはニコニコと笑みを浮かべながら、たどたどしい私の話を聞いてくれる。でも記憶がおぼろげだから、話せたのは少しだけ……。
「“上書き保存”……」
枚方さんがポツリとつぶやく。
「うん、多分、そう言ってて……」
人に聞かれないように言ってたっぽい声量だったし、まさかなにか言われると思ってなかったからうっかり聞き逃しそうになったくらい。
「ソワちゃんと会ったのって、下駄箱のとこなんだよね?」
「うん」
「その前は?」
「え?」
「誰かと会ったりしなかった?」
「え…うん…津嶋くんに遭遇して、駅から下駄箱まで一緒に行ったけど……」
「そのとき、つしまくんとなんかなかったの?」
「え…あ……」
思い出して、髪を触る。
そうだ。頭ぐしゃぐしゃされて、そのあと……。
思い出して、ようやく由上さんの言葉の意味がわかった。
そ、そ、そういうこと……?!
顔がブワッと熱くなる。手のひらや身体の数か所からジワッと汗が湧き出て熱くなる。
その反応で枚方さんは私が気付いたことに気付いたみたい。頬杖をついてニヨリと笑う。
「ソワちゃんはヤキモチやきだねぇ~」
歌うように言って、ミルクティーの缶ボトルを開けた。
「えっ、えっ、なんで?」
両手で顔を挟みながら慌てる私の隣で、枚方さんがミルクティーを飲む。その顔はとても嬉しそうだし、楽しそう。表情そのままの口調で「なんでだろうねぇ~」コンビの芸人さんのネタみたいなことを言う。
「えっ、いやっ、だって」
そんなことして、由上さんになんの得があるの?
「感想は?」
「……そんなことして、由上さんになんの得が……?」
「損得勘定じゃないでしょー」
私の回答に枚方さんが笑った。
「え、でも……」
意図がわからなくて疑問でしかないのだけど、枚方さんにはわかってるんだろうか。
「もー、天椙さんは面白いなぁ」
「そ、そう?」
「うん。純情すぎる。そのままでいてほしいけど……」
「けど?」
「うーん、もうちょっと、ナイショ」
「えぇー」
「あ、ソワちゃんに『なんでそういうことしたの?』とか聞いちゃだめだよ? ソワちゃん恥ずかしがり屋だから」
「え、う、うん」
そんなの聞く勇気ないけど、うん、確かにそれは聞かないほうがよさそうな予感。でも答えが出ないの、ちょっとモゾモゾする。
「ひ、枚方さんは、なんで由上さんがそういうことしたのか、わかるの……?」
「うーん、なんとなくね」
「そうなんだ……」
由上さんの考えに見当がつかないのは、私の人間関係の経験値が低いからなのか、それとも枚方さんの洞察力が鋭いのか……。
「まぁまぁ、あんまり難しく考えすぎないでよ。ソワちゃんだって、いまは崇め奉られてるけど普通の高校男子なんだしさ」
考え込む私に、枚方さんが明るく、冗談めかして声をかけてくれる。
「う、うん……」
「そのー、さっきの、誰くんだっけ」
「津嶋くん?」
「そーそー。つしまくんとおんなじようなもんだよ」
「そう、なのかな」
「うん、多分ね」
「そっかぁ……」
枚方さんはそう言ってくれるけど、やっぱりいまいち信じられない。枚方さんがどうこうじゃなくて、自分の自信や経験のなさが原因だ。
「あ、そうだ。天椙さんに聞こうと思ってたことがあったんだ」
「うん、なぁに?」
「名字だとよそよそしいからさ、ミイナちゃんって呼んでいい?」
「も、もちろん!」
「ミイナちゃんは呼びやすい呼び方でいいからね」
「え、じゃあ……うぶねちゃん……?」
「うん、それで」
「うん」
思っていたより嬉しそうな声が出た。実際嬉しいからいいんだけど、いまの私、犬だったら絶対尻尾ブンブン振ってる。
目が合って、えへへと二人で照れ笑いした。
「あーますーぎさんっ」
背後から肩をポンッと叩かれた。思わず背筋を伸ばして「はいっ」勢いよく返事して振り返ったら、枚方さんがニコニコしながら立っていた。
「お昼しよー」
そうだ。朝の約束を果たすのだった。
「う、うん」
考えてみたらお友達と一緒にお昼ご飯を食べるのは高校生になってから初めてで、少しドキドキする。
「聞かれたくない話になりそうなら、あんまり人がいないとこがいいかなぁ」あごに指を当てて考える枚方さんに
「枚方さんは、なに食べるの?」質問を投げる。
「今日はお弁当~」掲げた右手に小さなトートバッグ。
「あ、私も。じゃあさ、紫外線とかイヤじゃなかったら、屋上とかどうかな?」
「えっ、いいかも! 今日お天気いいし、絶対気持ちいいよね、行こ行こ」
「うん」
可愛い女の子のお友達と一緒にお昼ご飯食べるとか、一年のときはできなかったな。嬉しいなぁ。
枚方さんと同じように小さなバッグを持って二人で教室を出た。会話をしながらいつものルートに入る。一年のときより一階分階段を多く登らないといけないけど、それも苦にならない。
見慣れた鉄扉を開けて屋上に出る。
「へー! いい眺め~!」
自分が褒められたみたいな嬉しさを感じながら、屋上の一角に枚方さんを案内した。一年のころ通い詰めた屋上は、相変わらずほとんど人がいない。
「お昼にも開放されてるの知らなかったなぁ」
「言われてないから、みんな知らないみたいなんだよね」
「天椙さんはどうやって知ったの?」
「うーんと……偶然?」
「そーなんだ。これはいい場所だよー」
実は一年のときみんながいるところで一人ご飯するのがイヤでさまよってて見つけたんだけど、さすがにそれは言えなかった。
「あ、待っててね」
バッグの中から小さく折り畳んだレジャーシートを出した。今年から導入の新グッズ、満を持して登場って感じ。
「わぁ、用意いいね!」
「ハンカチとかでほこり払ってたんだけど、このほうが楽だなって気付いて」
100円均一ショップで買った、少しクッション性のあるレジャーシートを柵の付け根、床より少し高く作られたコンクリートの段差に敷いた。
「狭いかもだけど」
「嬉しい。ありがとう」
二人で並んで座る。うん、いい感じ。ご飯食べるスペースも割と確保できる。
「よーし、食べながらおしゃべりしよう」
枚方さんが膝にバッグを置いて、お弁当の包みを開けた。
「わ、カラフルで美味しそう」
「ありがとー。うち、おばぁちゃんと二世帯なんだけどさ、おばぁちゃんがこういうの好きで作ってくれるんだよね」
「へぇ~! 色彩センスがいいおばあさまなんだね」
「ありがとー。帰ったらおばぁちゃんに伝えておく」
「うん」
ふふっと笑いながら私もお弁当箱を取り出す。
「天椙さんは手作り?」
「ううん? ママが作ってくれるの」
「そーなんだ。わぁ、美味しそう」
「ありがとう」
今日のお弁当は昨日夕飯で出たハンバーグをお弁当用に小さく作ったものとブロッコリー、ニンジンのグラッセ。それにコーンバターライス。
「からあげとハンバーグ交換しない?」
「うん、いいよ。そういうの嬉しい」
「それは良かった」
それぞれ一つずつお箸で持って、相手のお弁当箱に入れる。
うわー、こういうの憧れてた! 嬉しくてニヨニヨしちゃう。
「わぁい、ありがとう! いただきまーす」
「こちらこそありがとう! いただきます」
二人で並んでお弁当を食べて、味の感想を言い合ったりお互いのことを話したりする。すごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまう。
「「ごちそうさまでした」」
同時に言って、お弁当箱を片付ける。こんなに楽しいお昼休み、初めてかもしれない。嬉しくて、心が弾む。
「さてさて、じゃあ朝の話を聞こうかな」
「うっ」
飲んでいたお茶を噴き出しそうになって、口をおさえた。
「話したくなかったら無理には聞かないよ?」
「……うまく、説明できるか、わからないんだけど……」
「うんうん」
枚方さんはニコニコと笑みを浮かべながら、たどたどしい私の話を聞いてくれる。でも記憶がおぼろげだから、話せたのは少しだけ……。
「“上書き保存”……」
枚方さんがポツリとつぶやく。
「うん、多分、そう言ってて……」
人に聞かれないように言ってたっぽい声量だったし、まさかなにか言われると思ってなかったからうっかり聞き逃しそうになったくらい。
「ソワちゃんと会ったのって、下駄箱のとこなんだよね?」
「うん」
「その前は?」
「え?」
「誰かと会ったりしなかった?」
「え…うん…津嶋くんに遭遇して、駅から下駄箱まで一緒に行ったけど……」
「そのとき、つしまくんとなんかなかったの?」
「え…あ……」
思い出して、髪を触る。
そうだ。頭ぐしゃぐしゃされて、そのあと……。
思い出して、ようやく由上さんの言葉の意味がわかった。
そ、そ、そういうこと……?!
顔がブワッと熱くなる。手のひらや身体の数か所からジワッと汗が湧き出て熱くなる。
その反応で枚方さんは私が気付いたことに気付いたみたい。頬杖をついてニヨリと笑う。
「ソワちゃんはヤキモチやきだねぇ~」
歌うように言って、ミルクティーの缶ボトルを開けた。
「えっ、えっ、なんで?」
両手で顔を挟みながら慌てる私の隣で、枚方さんがミルクティーを飲む。その顔はとても嬉しそうだし、楽しそう。表情そのままの口調で「なんでだろうねぇ~」コンビの芸人さんのネタみたいなことを言う。
「えっ、いやっ、だって」
そんなことして、由上さんになんの得があるの?
「感想は?」
「……そんなことして、由上さんになんの得が……?」
「損得勘定じゃないでしょー」
私の回答に枚方さんが笑った。
「え、でも……」
意図がわからなくて疑問でしかないのだけど、枚方さんにはわかってるんだろうか。
「もー、天椙さんは面白いなぁ」
「そ、そう?」
「うん。純情すぎる。そのままでいてほしいけど……」
「けど?」
「うーん、もうちょっと、ナイショ」
「えぇー」
「あ、ソワちゃんに『なんでそういうことしたの?』とか聞いちゃだめだよ? ソワちゃん恥ずかしがり屋だから」
「え、う、うん」
そんなの聞く勇気ないけど、うん、確かにそれは聞かないほうがよさそうな予感。でも答えが出ないの、ちょっとモゾモゾする。
「ひ、枚方さんは、なんで由上さんがそういうことしたのか、わかるの……?」
「うーん、なんとなくね」
「そうなんだ……」
由上さんの考えに見当がつかないのは、私の人間関係の経験値が低いからなのか、それとも枚方さんの洞察力が鋭いのか……。
「まぁまぁ、あんまり難しく考えすぎないでよ。ソワちゃんだって、いまは崇め奉られてるけど普通の高校男子なんだしさ」
考え込む私に、枚方さんが明るく、冗談めかして声をかけてくれる。
「う、うん……」
「そのー、さっきの、誰くんだっけ」
「津嶋くん?」
「そーそー。つしまくんとおんなじようなもんだよ」
「そう、なのかな」
「うん、多分ね」
「そっかぁ……」
枚方さんはそう言ってくれるけど、やっぱりいまいち信じられない。枚方さんがどうこうじゃなくて、自分の自信や経験のなさが原因だ。
「あ、そうだ。天椙さんに聞こうと思ってたことがあったんだ」
「うん、なぁに?」
「名字だとよそよそしいからさ、ミイナちゃんって呼んでいい?」
「も、もちろん!」
「ミイナちゃんは呼びやすい呼び方でいいからね」
「え、じゃあ……うぶねちゃん……?」
「うん、それで」
「うん」
思っていたより嬉しそうな声が出た。実際嬉しいからいいんだけど、いまの私、犬だったら絶対尻尾ブンブン振ってる。
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