【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.17

 そして4月。
 チェックリストを埋めるために日記を読み返したり過去を思い出したりしていたら春休みが終わっていた。
 日記を読み返しているとそのときの記憶も鮮明になるし、一年の間にけっこう交流持てたんだなぁって実感するだけで、なんだか自信がわいてきた。
 学校や授業にも慣れたし、もし二年で初めて同じクラスになる人がいたら、仲良くなれるように頑張ってみようかな、なんて思える。
 そのときの私の振舞いは、いままで話していたときの由上さんがお手本だ。
 津嶋くんとお出かけするときのために少しずつ集めていたスキンケア用品やメイク道具を使って自分磨きなんかもしたりして、人生で一番充実した春休みだったんじゃないだろうか。

「いってきまーす」
 新二年生の朝、思いのほか元気な挨拶と共に家を出る。
 約二週間ぶりに乗る電車内には音ノ羽の生徒がちらほら。始業式だからみんな制服を着ている。きっと明日になったら、みんな私服になるんだろうな。
 私だけ制服着てたら、やっぱりまた逆に目立ってしまうのだろうか。
 うーん、本格的に私服登校考えようかな…毎日じゃなくても、たまには……。
 別に制服着るのがアイデンティティってわけでもないし、ただ面倒なだけだし……。入学から一年経って後輩ができるとなると、やっぱり少し考えてしまう。
 とはいえ部活に入っているわけでもないし、多分そんなに親しくするような後輩はできないと思う。まぁ後輩に限ったことでもないけど。
 うぅーんと悩んでいたら、学校の最寄り駅に着いていた。
 一年ぶりの桜並木の中、すっかり通いなれた道を進む。
 満開の花とは違う桜色を探すけど、見つけることはできなかった。
 いつもと違う時間の電車だったからかな。いつもみたいに朝の挨拶したかったな……と思いながら玄関前に貼り出されているクラス割表を見に行く。
 一年前、ここで初めて由上さんを見たんだよなー。あのときはお話しできるなんて思ってもなかったなぁ。
 少し感慨深くなりながら自分の名前を探す。
 “あますぎ”は比較的先頭集団に書かれているからすぐに見つけた。いつもはここで終わりだけど、今年は違う。
 自分の名前が載っているのと同じ紙の中を50音順にたどっていく。
 ……か、さ、たー…あ、立川くん、今年は違うクラスだ……。うーん、ちょっと困る……かも? また気軽にお話しできる人がいるといいけど……。
 あれ、津嶋くんも別のクラスみたい。うーん、これはホントにお話しできる人をイチから見つけないとならないかも……。
 少し思案しつつクラス割の確認を続ける。た…な、は、ま、や……やー、ゆー、よ……あっ!
 一年前、目の前を通り過ぎたピンク色がそう見えたように、紙に書かれた名前が輝いて見えた。

 今年一年はクラス合同の授業がなくても大丈夫。
 だって、同じクラスで同じ授業を受けられる。

 さきほどまでの不安はどこかへ吹き飛んで、心の中は明るくウキウキした気持ちでいっぱいだ。
 もう一度割り当てられたクラスを確認して、校舎の中へ入る。靴を履きかえ、去年より一段下がったフロアまで階段でのぼって、教室のプレートを確認してから今年一年使うことになる教室に入った。
 新しい座り順が白板に掲示されている。最初はお決まりの50音順。
 指定された登校時間より早く着いたからか、教室内にはまだ私しかいない。
 駅前とか玄関周辺にはちらほら生徒がいたから、誰かと待ち合せたりしているのかもしれない。
 今年はそういうお友達、できるといいなー。そしたら由上さんに気を遣わせることもなくて……そしたらもう、お話ししたりしてくれなくなっちゃうかな。
 嬉しさと背中合わせに存在していた不安はひとまず置いておいて、指定された席に座る。その席は教室の出入り口付近にあって、由上さんの席とは対角線上の真逆の位置。それでも、もしかしたら朝の挨拶ができるかも、とドキドキしながら待っていると
「あ、おはよう」
 入口付近から声が聞こえた。由上さんだ。
 制服を着ていて少し新鮮。
「おはようございます」
 犬だったら尻尾をぶんぶん振っている勢いで朝の挨拶を返す。今日から一年、登校したら確実に毎日挨拶できるんだって思ったらすごく嬉しくなった。けど。
「おっ、噂のあますぎさん?」
 由上さんの背後から、小柄で可愛い女子がぴょこんと現れた。動きと一緒に毛先をカールさせたポニーテールが揺れる。
「う、うわさ?」
 驚いて聞き返す私に答えようとした由上さんと、小柄な女子はすぐあとに入ってきた新しいクラスメイトと挨拶を交わして移動した。出入口をふさいでいたからだ。
 二人はそのまま私の席の近くに立ち止まった。
「はじめまして、わたし枚方ヒラカタ初音ウブネっていいます」
 ぴょこんと頭を下げたその子につられて、私も小さく頭を下げる。
「初めまして、天椙アマスギ光依那ミイナです」
 立ってる二人に座ってる私。礼儀的にどうかと思うけど、立ち上がるタイミングを逃してしまった。
「はじめまして~、由上ヨシカミ蒼和ソワです」
 少しおどけて言う由上さんに、「もう知ってるから」とヒラカタさんがツッコミを入れた。
 ずいぶん親しそうだけど、どういった関係性なんだろう。いまも一緒に来たみたいだし……。
 どう聞こうかと考えていたら、
「オレの幼馴染で、三咲の彼女」
 由上さんが紹介してくれた。
「あぁっ! 噂の……!」
 モヤモヤ気分は一気に晴れて、これまで立川くんにチラホラ聞いてた“カノジョ”の話が脳内を駆け巡る。
「あれ? わたしも噂されてた」
 笑いながら言ったヒラカタさんの笑顔と声がとてもチャーミングで、私は彼女を一気に好きになってしまった。
「立川くんに度々聞いていて」
「そうなんだね~。三咲、去年も今年も別のクラスになっちゃったからなぁ」
「去年はなんで三咲んとこ行かなかったの」
「私のクラス、二人と逆側の端っこだったし、ほかのクラスなんてそんなに入り浸るもんじゃないよ~、ソワちゃんじゃないんだからさ」
 ヒラカタさんが笑いながら由上さんの背中を叩く。由上さんはバツが悪そうな表情を浮かべながらも、その言葉や動作を受け入れている。
 “蒼和ちゃん”って、なんだか新鮮……幼馴染だから……だよね?
 少しだけ引っかかって考える私の目の先で、ポニーテールが揺れた。
「あますぎさん?」
「はいっ」
「ずっとソワちゃんから話聞いてて気になってたんだ~。これからよろしくね」
「こ、こちらこそ」
 差し出された小さくて細く白い手に手を重ねて握る。
 由上さんとは違った人懐っこさが愛らしいヒラカタさんはとても魅力的で、きっとお友達もたくさんいるだろうし、こういう人になりたいなぁって思った。

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