【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.10

「えっと……三河ミカワくんと北条ホウジョウくんは……」
「あいつらこのあと予定あるからって言って帰ったわ」
「予定……」
 いまからやる体育祭の打ち合わせは“予定”じゃないってこと……?
 思っても、言わない。集まってくれた三人には関係のないことだ。
「そう、ですか……じゃあ、今日は四人で…」
「いーけど、早めに終わらせてほしー。俺このあと彼女と待ち合わせしてっから」と桐生キリュウくん。
「あー、オレも」星野ホシノくん。
「みんなやる気ねー」笑ったのは津嶋ツシマくんだ。
 つられて桐生くんと星野くんもウヒャヒャと笑う。
(文字に起こしたら、語尾に生えてるんだろうな)
 怒りも苛立ちも失望も感じず、ただ感想として思う。
 普段から交流を持っていたらもう少し違っていたのかもしれない。けど今更後悔しても遅い。
「じゃ、じゃあまずは、どんなことをやるか、決めたいのですが……なにかご要望があれば……」
「えー? 特にないかなぁ」
「くじで当たっちゃっただけだしな」
「な。あますぎさんだってそうでしょ?」
「まぁ確かに……」否めない質問をされ、思わず肯定する。
「じゃあテキトーにやったらよくね?」
「流行ってるダンスとか踊っとく?」
「チアリーダーっぽく女装でもする?」
「えー、さみーべ、ふたつの意味で」
 けらけら笑い合う三人に向かっておずおずと手を挙げて「はい」発言権を求めた。
「……どうぞ」顔を見合わせ、代表して桐生くんが促してくれる。
「……中途半端が一番寒くないですか」
 三人は少し面食らって、言葉をなくした。静けさを消すように、私は言葉を続ける。
「くじで当たっちゃっただけ、とはいえ、クラスの代表なんですし、一生に一回だけの経験かもですし、せっかくなら、きちんと、カッコよくやりたい……です」
 自分の両手の指をもじもじ絡め合いながら絞り出した声に反応はない。
 怖くて目線があげられない。どんどん鼓動が速くなっていく。顔もジワジワ熱くなってきた。
 やっちゃったかなぁ……。
 自分で思っていたより前のめりな発言に、私、案外やる気だったんだーって驚いてたら、うーん、と桐生くんが唸った。
「そうだな。どうせやるんだったら、ちゃんとやるかぁ」
「ん~、卒アルとかにも写真載りそうだしなぁ」
「カッコ良くやったら、津嶋おまえにも彼女できんじゃね?」
「いねーのバラすなし」
「みんな知ってんし」
「うっせーなぁ」
 普段から仲がいいらしい三人がガヤガヤ話し出す。
 男の子同士が仲良くキャッキャしてるのって、なんかいいよねって思って少し笑ってしまったら、三人の会話が止まってしまった。注目を浴びて、慌てて下を向く。
「ごめんなさい、変な意味ではなくて……」
「いや、うん。気にしてねーから」津嶋くんは少し口をとがらせながら言って、カーゴパンツのポケットに手を突っ込んだ。「…せっかくだし、メッセ交換しない? ここのメンバーと、あと三河と北条も入れて、応援団でグループ作ろうよ」
「えっ」なんという急展開。「それは……ありがたいけど……」
 少し戸惑いながら答えると、津嶋くんは左手で小さくガッツポーズした。桐生くんと星野くんは、そんな津嶋くんをニヤニヤ眺めてる。
 “友達”増えるの嬉しいのかな。人数の多い少ないがステータスだったりするのかも?
 体育祭までの間に何度か連絡を取り合うだろうし、理由は置いといてかなりありがたい。
 近くに置いてあったバッグからスマホを取り出して、アプリを立ち上げる。
「えっと……」
 新しい“友達”を追加するのが久々すぎて、やり方を忘れてた。ちょっとショックだ。
「画面の右上に三本線あるっしょ?」
「あ、うん」
 モタモタしている私を見かねてか、津嶋くんがレクチャーしてくれた。
 慣れてるんだなぁ。優しいし見た目もかっこよくて、モテるんだろうなぁ、なんて思いながら操作していくと、無事登録できた。
「ありがとうございます!」
 嬉しくてニコニコしていると、
「オレもいい?」
「あ、俺も」
 星野くんと桐生くんもスマホを取り出して、操作し始めた。
「はい、もちろん」
 たったいま覚えた(思い出した)ばかりの手順で二人のIDも登録する。
「三河と北条には、明日からちゃんとくるように、おれが言っておくから」
「助かります。お願いします」
 急に協力的になった津嶋くんに笑顔でおじぎすると、同じようにお辞儀をして
「かしこまりましたでございます」
 変わった敬語で応じてくれた。

 それから30分くらい、応援合戦でなにをするか打ち合わせして、今日は参加できなかった三河くんと北条くんからいい返事がもらえたらそれで進めよう、という話になった。
 そこにたどり着けただけで、達成感を味わってしまう。いやいやまだ早いよ、と思いつつも、帰り道は安堵の気分に包まれていた。
 津嶋くんが駅まで一緒に帰ろうと言ってくれたけど、今日のことを先生に報告する必要があるからと丁重にお断りして、別々に帰った。暗くなってきてるから心配してくれたんだろうな。話してみたら案外いい人だな。
 ふふっと思い出し笑いをしながら玄関へ行ったら、そこに津嶋くんが待っていた。
「おう」
「えっ」
「暗くなるとあぶねーから、どっかまで送ってくわ」
「で、でも」
「いーから、ほら」
 行こうと言い残して、津嶋くんが歩き始めた。
「う、うん」
 あわてて私も靴を履き替えて、少し小走りにそのあとを追った。
 アワアワしながら歩く私を時々振り返りながら、津嶋くんが話題を振ってくれる。
 まさかこんな風に男子と一緒に帰る時が来るとは……!
 思ってもない急展開に戸惑いつつお話ししてたら駅前に着いた。帰りの方向が同じで、ホームで別々になるのも変だったから途中まで一緒に帰った。
「また明日」
「うん、また明日」
 先に降りる津嶋くんと手を振りあって、電車がホームを出たと同時にほぅと息を吐いた。
 誰かとずっとお喋りするの、楽しいけど疲れる……。
 緊張はしなくなったから敬語は出ないけど、やはりどこかで気遣ってしまう。いや、気遣いは大事なんだけど、なんていうのか……嫌われたらどうしよう、って考えがずっとどこかに小さく残って、言葉を選びすぎてしまう。
 別に津嶋くんが好きとかそういうのじゃなくて、“誰かに嫌われる”のが怖い…らしい。津嶋くんと喋ってて気付いた。そうか、だから人と関わるのが苦手なんだ。
 なんだか少し、気持ちが軽くなった。きっと由上さんはそういうことを思わないからみんなと気軽にお話しできるし、人が集まってくるんだろうな。
 あれ。結局由上さんのことに着地しちゃった……。
 おかしいなぁと思いながらホームに降り立つ。
 “猫の笑顔”の由上さんを思い出しながら、明日から体育祭まで、応援団長として頑張ろう!
 そう誓って、家路についた。

* * *

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