【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.9
夏休みが終わって新学期になって、宿題を提出したり夏休みボケを解消してたら、すぐに体育祭の役割分担を決める時期になってしまった。
イベント毎の役割分担は“公平を期すために”という担任・相良《サガラ》先生の意向で、よほどの専門知識や技能 が必要でない限り、くじ引きで決めることになっていた。
それは入学して少し経った日に、クラスの全員に相良先生から告げられたクラス内のルール。
委員会や生徒会なんかは立候補制だったけれど、年に一度行われる学園祭や体育祭のクラスでの出し物は先生が作ったくじ引きで決まる。
なるべく目立ちたくない私は、(なるべく目立たない役を……!)と天の神様に願いながらくじ箱に手を入れる。
全員がくじを引き終わったところで、先生が手を叩いた。「よーし、みんな行き渡ったなー。せーので開けて、役割が呼ばれるまでノーリアクションだぞー」
「はーい」
バラバラではあるけどみんなが返事すると、先生は嬉しそうにうなずく。
「よーし、じゃあ見ようか~。せーの、はいっ」
先生の合図と同時に、クラスの全員が四つ折りのメモ用紙を開く。
――小さな紙に書かれた文字を見て、私は生まれて初めて、神様を恨んだ。
* * *
学校全体で決められた役職が呼ばれていく。まずは裏方。
実行委員会や会場設営、用具準備、得点掲示の担当者名が白板に書かれていくけど、希望していた裏方役で私が挙手できるものはない。
だって、メモ用紙に書かれていたのは……。
「よーし、じゃあ次!」先生が変わらぬ語気で白板に書かれた役割を読みあげた。
おずおずと手を挙げた私に、まずは先生、そしてクラスメイトの視線が集まる。一瞬おいて、サワサワと小声が混ざり合った音が教室に舞い始めた。
「お! 天椙が引いたかー! いいねいいね、くじ引きにした甲斐あったわー!」
先生は嬉しそうに言って、私の名字を白板に書いた。
確かに自薦他薦だったら、私が選ばれること、ないもんね……。
苦笑しながら白板とメモ用紙を見比べた。うん、間違いない。
“天椙”と書かれた文字の横、そこには地味でおとなしい私に到底似つかわしくない四文字が並んでる。
・応援団長 天椙
これから体育祭までの間、団員をまとめつつ演目内容や方針を決め、応援合戦対策をしなければならない。そして当日には、全校生徒の前で応援合戦の演目を披露するのだ。
ああー、明日から体育祭が終わるまでの間になにか起こって休校…ううん、体育祭が中止になるだけでいい。そうならないかなぁ~! なんて小学生のような願いもむなしく、毎日きちんと朝はやってきて、学校もいつも通り始まるのだった。
知ってる。現実世界で奇跡がそうそう起こらないのも、天変地異や異世界転移が自分の身近にないことも、それがかけがえのない幸せだってことも。
それでも、いつもは爽やかに感じる“寝起きのいい身体”が、今日は少々恨めしく感じる。
鼻からふしゅーとため息を吐きながら身支度を整え、電車に乗って学校へ向かう。
落ち込んでいても、地元駅から離れる距離と比例して心が騒ぐ。視線が勝手にピンク色を探してる。
見つけられる確率は5分の2程度。
(同じクラスだったら、たくさん見つめられるのになぁ……)
決して“たくさんおしゃべりできるのになぁ”なんて思わない。だってきっと、由上さんの世界で、私はモブだから。由上さんは、そんなモブにも優しくしてくれる、海のように心の広い人だから。
駅から教室までの間で目当ての人を見つけることができなくて、ちょっとガッカリしながら席に着く。
朝のニュースでやってた占い、1位だったのにな。なんて乙女チックなことを考えてみる。
もし見かけることができていたら、応援団長なんて身分不相応な役割だってなんとかできるんじゃない? って気分になりそうなのになぁー。
雨の時期も終わってしまって、私はまた屋上や人目に付かないどこかの片隅でお昼ご飯を食べるようになった。人の目もあるし、由上さんとの交流は入学したころと同じく、ほぼなくなってしまった。
それに、いまはまだ大丈夫だけど冬になったらどうしよう。外でご飯食べるの寒いよなぁ。食堂かどこかの片隅に居場所を見つければいいかな。
ふぅ、と息を吐いて、文庫本に挟んだ小さなメモ用紙を開く。中に書かれているのは【応援団長】の四文字。昨日引いたそのくじは、夢のようにはなくならず、現実を教えるために手元に残ってる。
応援団は団長を含めて全部で六人。五人の団員はくじ引きだったにもかかわらず全員男子で、しかも必要最低限の会話しかしたことない人ばかりだった。……立川くん以外の人は、ほとんどそうなんだけど……。
プリントを集めるとか、日直の仕事だとかで話した印象は、そっけないというか、私が悪いのかもしれないけど、会話が弾むようなことはなかった。
みんな身ぎれいで制服も私服もおしゃれに着こなしちゃうような、モテそうな人たちばかりで(私以外みんなそうだけど)、私なんかに協力してくれるかなって不安になる。
応援団長やりたいって人、たくさんいるんじゃないかな……先生に相談して誰かと代わってもらおうかな……そんな考えが頭をよぎるけど、それじゃまた逃げることになる。
夏休みに遊ぶような友達ができなかったのだって、努力しなかった自分のせいじゃん!
考えた言葉が自分に刺さる。うぅ、悲しい……。
くじで引いたのもなにかの思し召しかもしれないし、ここは頑張ろう! いや、でもなぁー。
前向きと後ろ向き、正反対の考えが私の気持ちを綱引きしてる。
いくらなんでも“みんなでやる”体育祭だし、みんな協力してくれるよね! うん。できる限り、いや、それ以上に頑張ってみよう。それが自分を変えるキッカケになるかもしれないんだから。
なんて思っていたころが懐かしい。数時間前のことだけど。
イベント毎の役割分担は“公平を期すために”という担任・相良《サガラ》先生の意向で、よほどの専門知識や技能 が必要でない限り、くじ引きで決めることになっていた。
それは入学して少し経った日に、クラスの全員に相良先生から告げられたクラス内のルール。
委員会や生徒会なんかは立候補制だったけれど、年に一度行われる学園祭や体育祭のクラスでの出し物は先生が作ったくじ引きで決まる。
なるべく目立ちたくない私は、(なるべく目立たない役を……!)と天の神様に願いながらくじ箱に手を入れる。
全員がくじを引き終わったところで、先生が手を叩いた。「よーし、みんな行き渡ったなー。せーので開けて、役割が呼ばれるまでノーリアクションだぞー」
「はーい」
バラバラではあるけどみんなが返事すると、先生は嬉しそうにうなずく。
「よーし、じゃあ見ようか~。せーの、はいっ」
先生の合図と同時に、クラスの全員が四つ折りのメモ用紙を開く。
――小さな紙に書かれた文字を見て、私は生まれて初めて、神様を恨んだ。
* * *
学校全体で決められた役職が呼ばれていく。まずは裏方。
実行委員会や会場設営、用具準備、得点掲示の担当者名が白板に書かれていくけど、希望していた裏方役で私が挙手できるものはない。
だって、メモ用紙に書かれていたのは……。
「よーし、じゃあ次!」先生が変わらぬ語気で白板に書かれた役割を読みあげた。
おずおずと手を挙げた私に、まずは先生、そしてクラスメイトの視線が集まる。一瞬おいて、サワサワと小声が混ざり合った音が教室に舞い始めた。
「お! 天椙が引いたかー! いいねいいね、くじ引きにした甲斐あったわー!」
先生は嬉しそうに言って、私の名字を白板に書いた。
確かに自薦他薦だったら、私が選ばれること、ないもんね……。
苦笑しながら白板とメモ用紙を見比べた。うん、間違いない。
“天椙”と書かれた文字の横、そこには地味でおとなしい私に到底似つかわしくない四文字が並んでる。
・応援団長 天椙
これから体育祭までの間、団員をまとめつつ演目内容や方針を決め、応援合戦対策をしなければならない。そして当日には、全校生徒の前で応援合戦の演目を披露するのだ。
ああー、明日から体育祭が終わるまでの間になにか起こって休校…ううん、体育祭が中止になるだけでいい。そうならないかなぁ~! なんて小学生のような願いもむなしく、毎日きちんと朝はやってきて、学校もいつも通り始まるのだった。
知ってる。現実世界で奇跡がそうそう起こらないのも、天変地異や異世界転移が自分の身近にないことも、それがかけがえのない幸せだってことも。
それでも、いつもは爽やかに感じる“寝起きのいい身体”が、今日は少々恨めしく感じる。
鼻からふしゅーとため息を吐きながら身支度を整え、電車に乗って学校へ向かう。
落ち込んでいても、地元駅から離れる距離と比例して心が騒ぐ。視線が勝手にピンク色を探してる。
見つけられる確率は5分の2程度。
(同じクラスだったら、たくさん見つめられるのになぁ……)
決して“たくさんおしゃべりできるのになぁ”なんて思わない。だってきっと、由上さんの世界で、私はモブだから。由上さんは、そんなモブにも優しくしてくれる、海のように心の広い人だから。
駅から教室までの間で目当ての人を見つけることができなくて、ちょっとガッカリしながら席に着く。
朝のニュースでやってた占い、1位だったのにな。なんて乙女チックなことを考えてみる。
もし見かけることができていたら、応援団長なんて身分不相応な役割だってなんとかできるんじゃない? って気分になりそうなのになぁー。
雨の時期も終わってしまって、私はまた屋上や人目に付かないどこかの片隅でお昼ご飯を食べるようになった。人の目もあるし、由上さんとの交流は入学したころと同じく、ほぼなくなってしまった。
それに、いまはまだ大丈夫だけど冬になったらどうしよう。外でご飯食べるの寒いよなぁ。食堂かどこかの片隅に居場所を見つければいいかな。
ふぅ、と息を吐いて、文庫本に挟んだ小さなメモ用紙を開く。中に書かれているのは【応援団長】の四文字。昨日引いたそのくじは、夢のようにはなくならず、現実を教えるために手元に残ってる。
応援団は団長を含めて全部で六人。五人の団員はくじ引きだったにもかかわらず全員男子で、しかも必要最低限の会話しかしたことない人ばかりだった。……立川くん以外の人は、ほとんどそうなんだけど……。
プリントを集めるとか、日直の仕事だとかで話した印象は、そっけないというか、私が悪いのかもしれないけど、会話が弾むようなことはなかった。
みんな身ぎれいで制服も私服もおしゃれに着こなしちゃうような、モテそうな人たちばかりで(私以外みんなそうだけど)、私なんかに協力してくれるかなって不安になる。
応援団長やりたいって人、たくさんいるんじゃないかな……先生に相談して誰かと代わってもらおうかな……そんな考えが頭をよぎるけど、それじゃまた逃げることになる。
夏休みに遊ぶような友達ができなかったのだって、努力しなかった自分のせいじゃん!
考えた言葉が自分に刺さる。うぅ、悲しい……。
くじで引いたのもなにかの思し召しかもしれないし、ここは頑張ろう! いや、でもなぁー。
前向きと後ろ向き、正反対の考えが私の気持ちを綱引きしてる。
いくらなんでも“みんなでやる”体育祭だし、みんな協力してくれるよね! うん。できる限り、いや、それ以上に頑張ってみよう。それが自分を変えるキッカケになるかもしれないんだから。
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