雷霆の英雄と聖王子 〜謀略により追放された口下手な雷は、家族思いで不器用な王子を影から助ける〜
19.雷霆の右手
「お、おおお、お前……お前お前お前ェ!!」
「……まさかお前も魔族だったとはな」
しかも原初のそれとは、分霊とはいえ随分と大物が出て来たものだ。
今も奴から送られてくる『絶対服従』の思念が頭の中でバチバチと弾けている。
魔族は下位、中位、高位、最高位、原初の五段階の階級に分けられ、その上下関係は絶対であり、自分より上位の同族には逆らえない――
「――まぁ、例外はあるがな」
「貴様宝具を隠し持っていたのかッ!! それで我らの同族をッ!!」
火山が噴火する様に現出した百の巨腕――恐らく、奴の本体から無理やり召喚しているのであろうそれらを真正面から雷光を放つ事で纏めて消し飛ばす。
巨腕が消え去り、盛大に顔を引き攣らせたウーゴ……ウーゴ、小さくなったか? まぁ、その、ウーゴが見える。
「何故だ! 何故貴様がそれを扱えるッ?!」
腰の剣帯から数本ほどアビーに作成して貰った短剣を取り出し、磁力で右腕の上部へと並べ浮かせて待機させる。
「――半分は人間だからな」
バチバチと音を立てて帯電し始めたそれらを、ウーゴに向かって殴り付けるように射出――音すらも置き去りにし、稲光が糸を引きながら短剣という質量が奴の肉を削り取っていく。
やはり短剣があると予想外の方へと散らばってしまう電撃を一つの方向へと纏めやすい……アビーに感謝だな。
「ガァァァアア!!!!」
一々煩いな……ウーゴはこんな奴だっただろうか? それともこれが本性か?
「何が半分は人間だァ!! 見ろその腕を! 使う度に貴様の肉も焼いているではないかッ!!」
「……」
「それに王子があれだけ探し求めていた遺失物を、宝具を傍で隠し持っていたお前が今さら何を味方面しているッ?!」
そうだな、確かにこの右手を使う度に俺の肉は焼かれ、右半身は常に雷に打たれた時特有の火傷がある。
リオンがあれだけ、家族の為に命がけで探していた物の一つをずっと傍で隠し持っていた事も許されることではないのかも知れない。
だが、魔族とのハーフである俺はこの右手が無ければずっと奴らの傀儡として生きていくしかなく、またいずれ魔の部分が人の部分を喰らい尽くして正気ではなくなってしまうだろう……言い訳にすらならないが。
だが、そうだな……俺の行為が悪であり、リオンから責められるというのであればそれを甘んじて受け入れよう……ただ――
「――お前には関係ない」
「――ッ!!」
俺を断罪して良いのはミレーユ様であり、リオンであり、ミーア殿下だ。お前じゃない。
「それがムカつくんだよォ!! いつもいつも一言だけで済ますその性根が気に入らなかったァ!!」
地面に向かって打ち出した雷光で相手の目を眩まし、視線が途切れた事を確認しつつ疾走する。
岩塊の如き質量でありながら隼の様な速度で迫る巨腕はもはや砲撃のそれに等しい。
それらを掻い潜り、一気に懐まで飛び込んだ俺に対して呆けた面を晒すウーゴに対し、アビーの武具を芯として纏めた、限界まで圧縮された高密度の電撃を頭上から振り下ろす。
「――雷槌」
手にした武具のみならず、その場の大地を放射状に砕き割って方々に四散しては火花を散らす稲光……リオン達の元へと向かわない様にある程度の方向誘導はしつつ、その場から跳び離れる。
そのすぐ後に先ほどまで俺が居た空間を巨腕が柏手をする様に押し潰す……存外に分霊と言えども原初の魔族はしぶとい。
「許さん! この俺をここまでコケにするとは……だが見切ったぞッ!!」
そうか、奇遇だな。俺もお前の底を見切った――次で殺す。
「お前の電撃は脅威だが、見たところそれは右手からのみ出せるもの!つまり右手に注視さえすれば怖くはない!」
勝ち誇るウーゴから視線を外し、リオン達の方を確認する。
どうやら先ほどの攻撃に巻き込まれる事は無かったようで、意識を取り戻したヴィルヘルムとコーデリアを庇う様にリオンが立っていたのを見て思わず苦笑してしまう。
「何処から来るか分かっている攻撃など捌く事は容易い!」
俺の弱点を見付けたとはしゃぐウーゴに視線を戻すが、もはやもうコイツに対する興味はとうに失せた。
最初は友を害した事に憤りはしたが、今はもう早くコイツを処理してリオン達を安全な場所へと送りたい。
確かに俺の右手は制約やデメリットは多く、右手からしか魔族特攻の雷霆を出せないというのもその一つではある。
「そうか、なら――」
まぁ、だからなんだという話ではある。
「――これを凌いでみろ」
バチンッ! と音を立てて弾かれる様にウーゴの目の前へと瞬時に移動し、無数に見える程の残像を残す高速で右手の照準を奴の顔へと合わせ続ける。
「なぁッ?!」
最初の不意打ちでマーキングは済ませてある……お前の出来の悪い頭に付与された磁気に向かって、俺の右手は引かれ続ける。
「避けられな――」
「――お前を排除する」
ここまで近ければ芯となるべき武具は必要ない――ただ限界まで溜めた雷霆を放つだけで良い。
「――砲電」
身の危険を感じさせるような駆動音をがなり立て、俺の右手は極雷を解き放つ――
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