雷霆の英雄と聖王子 〜謀略により追放された口下手な雷は、家族思いで不器用な王子を影から助ける〜

たけのこ

12.鬼子母神


「――なんだその目は」

 アレンと別れてからあの場に居た魔王崇拝者達のまとめ役の男――名をディルクと言うらしい――に徹底的に上下関係を叩き込み、オレ達を捕まえたという体で自らの拠点に案内させた。
 その作戦は驚く程に上手くいき、奴隷商会内での舐め回すような視線は不快だったが、こうしてその先にある魔王崇拝者達の拠点の一つへと辿り着く事が出来た――

「あ、アリ、サ……ちゃ……ん……?」

 ――が、オレは今とても怒っている。

 それは何故か? ここまで来る道中で奴らが人間の屑だって事を散々見せつけられたからだ。
 まだ他にも子どもが居るかも知れない、何処かに隠されているのを見落としていたら人質にされてしまうと我慢して来たが――

「――お前、オレの前で子どもに手を出したな?」

 牢の中で震え、身を寄せ合う傷と泥に塗れた子ども達を見た時もブチ切れそうだったが、コイツ……オレの目の前で反抗的な態度を取っているからという理由で小さな男の子を蹴りやがった。

「……だからなんだ?」

「もう我慢出来ねぇってんだよ……」

 あぁ、大丈夫だ、オレは冷静だ……冷静のはずだ……ここまでの道中で捕らわれていた人達の数は把握したし、拡張した知覚能力で気配を探ったところこの周辺以外に人間の気配はしねぇ。
 自由に動き回ってる気配はどうせ魔王崇拝者達だろう……だったらもう我慢する必要はねぇよなぁ?

「アビゲイル、子ども達の守りは任せたぞ」

「は、はひっ……」

 彼女の返事を待たずして、形だけ付けられた手錠を引き千切る。

「なっ?! お、お前なにを――」

 甲高い音を立てて破壊されたそれを見て、酷く動揺する看守の顔面に拳を振り抜きながらオレは叫ぶ――

聖神の加護イノセント・ギフト――素手殺一番ステゴロいちばんッ!!」

 全身から一気に溢れ出る魔力が細胞の一つ一つを包み込み、限定的にオレの肉体は人のそれを超越する。
 鋼鉄よりも硬く、木々の枝葉よりもしなやかに振るわれた拳が看守の顔を爆散させてなお衝撃波を辺りに撒き散らした。

「――天誅ゥ」

 多分、今のオレの顔は人様に見せられない程に恐いと思う……爆散した看守の顔と併せて小さな子が見たら泣いてしまうと思うので、アビゲイルが鉄のカーテンで子ども達を守りながら視界を塞いでくれているのは非常に有り難い。

「あわわ……」

 ゴキゴキと首と拳を鳴らしながら歩を進め、目に付く敵を拳一つで爆散させながら牢を手刀で破壊していく。
 そんなオレの様子に慌てながらも、牢に使われていた鉄でゴーレムの様な存在を作り出すという器用な真似をしながらアビゲイルは子ども達を連れてオレの速度に着いて来る。
 とりあえず囚われた者たちを全て助け出したら一旦外に出るか……潜入する前に連絡を入れておいたから、ミーア殿下なら人手を寄越してくれているはずだ。

「全員助けたその時がお前らの終わりだァ……」

 何故かアビゲイルの隣りで一緒になって震えているディルクに呆れつつも途中寄り道をして別のフロアに囚われたいた人達を救出しながら来た道を戻る。

「なっ?! お、お前なんで上がってきて――」

「――るせぇ! 黙ってろ!」

 地下から奴隷商会内へと戻ると焦ったような会頭が走って来るのを手加減した顎への一撃で黙らせる……コイツは重要参考人だから生かしておかねぇとな。
 うん、こういう判断ができるんだからオレはまだ冷静だな。冷静なハズだ。

「おい! 居るならさっさと出て来い!」

「……大声を出さなくてもいいですよ、先輩」

「おぉ、カレンか」

「いつの間にしてキレてますね……」

 私のすぐ近くから唐突に現れたように姿を見せた後輩……同じくミーア殿下の護衛を担当している一人に子ども達を一旦預ける。

「お前まで抜けてミーア殿下は大丈夫なのか?」

「事が全て終わるまでミレーユ様と一緒に居られるそうです」

「そうか」

 お二人の護衛騎士が同じ場所に集まるなら大丈夫か……というより、自分の兄が魔王崇拝者なんていうよく分からん危険思想の持ち主に狙われているという情報の方が大事なんだろう。

「じゃあオレは戻るわ」

「また行くんですか?」

「あぁ――」

 カレン的には自分が抜けた代わりに一旦ミーア殿下の護衛に戻って欲しいんだろうが、そんな事をあの姫様が望むはずもない。

「――行って、さっさと解決させてくる……その方がミーア殿下も安心するだろ」

「……なるほど、お気を付けて」

「ん」

 所在なさげに右往左往するアビゲイルを肩に担ぎながらまた奴隷商会内から奴らの拠点へと舞い戻る……オレが感じ取れなかっただけで、他にも子ども達が捕まってるかも知れねぇからな。
 首根っこを掴んで引き摺るディルクはもう居ないと喚いているが、オレから逃れたいだけの方便かもしれねぇ。

「おいコラ、少しでも長く生きたかったら道案内しろや」

「わ、分かりましから姉御!」

 ったく、イライラすんなぁ……さっさとこの鬱憤を晴らすべくいっちょ暴れてやるか。
 アレンとリオン殿下の方は無事か? まぁ、アレンが付いてるなら大丈夫だとは思うが、アイツも抜けてるところがあるからな。

「居たぞ! 侵入者だ!」

「殺せ!」

 ま、難しい事を考えるのは後にして、だ――

「誰が、誰を、殺すってぇ……?」

 ――今は目の前の害悪をぶち殺す事だけに集中するとしよう。

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