雷霆の英雄と聖王子 〜謀略により追放された口下手な雷は、家族思いで不器用な王子を影から助ける〜

たけのこ

11.内と外から


「――なるほどな」

 七度目の電流によってやっと素直になった男から聞き出せた情報に拠れば、コイツらは今リオン殿下が調査依頼を受けている人攫いに関する拠点の管理と、同時にリオン殿下達の襲撃を任されていたらしい。
 これでウーゴが魔王崇拝者、もしくはその関係者だという事が確定したな……確かこの人攫いの調査依頼をリオン殿下に薦めていたのはウーゴ本人だ。
 そもそもこんなところで最近聖王都を騒がせている人攫いの犯人が魔王崇拝者達だという事が判明するとは思わなかったが、今度は逆に魔王崇拝者達は子どもと王子を攫って何をするつもりなんだという疑問が湧いて出てくる。

「なぜ攫う?」

「じ、実験としか聞いていない!」

 右手で軽くバチバチとスパークさせると焦った様に答えを返してくれるが……はて、拠点を一つ任されるくらいの人物ではなかったか?

「管理を任されているんじゃないのか?」

「き、拠点とは言っても数多ある入口の一つに過ぎない!」

「詳しく」

「ひっ! 分かった! 喋るからその電気は辞めてくれ!」

「お前次第だ」

 俺の右手から視線を離す事なく、途中でつっかえながらも男は素直に情報を語ってくれた。
 それに拠ると商会や民家などを隠れ蓑として、その奥から続く地下通路の先に本当の拠点があるらしい。
 そしてコイツらは奴隷商人に扮する事で攫った子ども達の一時的な保管場所として機能していると……要はその後の交渉をしやすくする為に、自分の地位を高く誤認させようと大袈裟に言っただけをただの下請けだ。

「他に攫った人達を閉じ込める場所はあるか?」

「な、ない……そもそもこの国で奴隷商人の認可を得るのが厳しいのは知ってるだろ?」

 そうだな、ウーゴが宮廷内部に伝手を持っていたとしても奴隷の取り締まりが厳しい聖王国ではそう何度も認可書の偽造や口利きなんかは出来ないだろう。

「そこに子ども達が全員居るのか?」

「あ、あぁ……既に大半は連れて行かれた後だがな」

「……そうか」

 連れて行かれた先に何があるのかは分からないが、実験という単語を聞くにろくなものではないだろう。
 子ども達の生死は……楽観視しない方が良いだろうな。

「ぶっ潰す!」

「まぁ待て」

「ひゃん!」

 子ども達の現状に怒髪天を衝く勢いで気炎を揚げるアリサの肩を掴み、押し留めるが……同じ失敗を先ほどしたばかりな気がするな。

「……すまん」

「……いい、冷静になれた」

「……そうか、助かる」

 とりあえず咳払いを一つして気持ちを切り替える……とにかく子ども達が生きていると仮定し、人質に取られる可能性があるので慎重に行くべきだと伝えればアリサは理解してくれるだろう。
 それに、アリサでなくとも王子達に対して子ども達を盾に取られても面倒だ。リオン殿下は確実に武器を捨て、無抵抗になるだろうからな。
 まぁ、その時はその時で俺が独断で子ども達と一緒に敵を排除する事はできるが……なるべくリオン殿下やアリサの前でそんな事はしたくない。

「さて、どうするか……」

 俺もアリサも敵を排除したり要人を警護する事は得意だが、不特定多数の子どもの引率をしながらの戦闘など経験した事がない。
 アリサは孤児院を経営しているが、当然の事ながらその警備については別の者を雇っている。
 そもそも彼女の加護は戦闘に特化し過ぎているからな。

「あ、の……その、私な……ら、子ども……達を、守れま……す……」

「む?」

「なの、で……私、が……わざ、と捕まっ……て、救出……しま、す……」

「……いいのか?」

「は、い……」

 アビゲイルが自分から提案するなど珍しいな……だが、せっかく勇気を出して慣れない事をしてくれたのだから、ここは彼女の厚意に甘えるとしよう。
 それに彼女の加護であれば、広範囲に鉄のカーテンを被せる事で防御も容易かろう。

「だったら私はアビゲイルと一緒に捕まるか」

「そうか、俺は王子達に付くが……気を付けろ」

 確かにこういう時に人手があると楽になるな……ミーア殿下と、快く俺達に雇われてくれたアビゲイルには感謝せねばなるまい。
 これで王子達からは目を離さず、別ルートから不確定要素を排除できる。

「おう、こっちは気にすんな! ……って事でお前らのアジトに案内しろ」

「ひっ!」

 魔王崇拝者の男にメンチを切るアリサを眺めながらも、人質救助が無事に成功する様に祈る。
 仮に、もしも……別の場所にも攫われた人達が居たりして上手く行かなかった場合は――

「では行ってくる」

「おう、こっちは任せろ」

「アレ、ン君も……気を付け、て……」

「あぁ」

 ――俺が責任を持って全てを排除しよう……例えみんなに嫌われ非難されようとも、俺は優先順位を間違えない。

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