雷霆の英雄と聖王子 〜謀略により追放された口下手な雷は、家族思いで不器用な王子を影から助ける〜

たけのこ

4.ミーア姫殿下


『あ、そうだ。ちょうどいい機会だからミーアにこれを届けてね』

 あの後いくつかの情報共有を行い、王子達の足取りを追おうとした所でミレーユ様からその場でしたためた手紙を渡された。
 それ自体は良いのだが、後宮という場を我が者顔で歩く見知らぬ人物――まぁ、俺の事だが――が居るためか、かなり良くない注目を集めている。
 俺自体あまり表に出て来る様な仕事はしていない為に、顔を知らない者が多いのだろう。

「止まれ、何者だ」

 この様に、目的の部屋を守る近衛兵に殺気すら向けられながら止められる程だ。
 もう仕方がない事だが、通して貰わねば困るので何とかしよう。

「アレンだ」

「……所属は何処だ」

「ここだ」

「……何の用で参った」

「使いだ」

 うむ、簡潔に必要な事を述べられたな。
 俺も頑張ればこのくらいは出来るという事か。

「……悪いがお前の様な怪しい者を通す訳にはいかん」

「……そうか」

「……」

「……」

 ……うむ、先ほどのはただの勘違いであり、非常に情けない自惚れだった様だ。
 そもそも簡潔に伝えられたといっても、その内容を信じて貰わねば話にならないだろう。

「……まだそこに居るつもりか?」

「あぁ」

「粘っても通す訳にはいかん」

「そうか」

「……」

「……」

「……確認だけはして来よう」

「助かる」

 この近衛兵が柔軟な対応ができる者で助かった。
 忍び込む事は容易いが、部屋の主はミーア殿下だ……最悪の場合そこに居るであろう知り合いに殴り殺される。
 それを避ける為、どうにか入れて貰えないかとあれこれ言葉を考えていたが不要になったな。
 とりあえずノックをして部屋の中へと声を掛ける近衛兵の彼女に内心で感謝しておこう。

「ミーア様、アレンと名乗るミレーユ様の使いだと言い張る人物が訪ねてきておりますが……」

『……通して頂戴』

「かしこまりました」

 ……取り次ぎを行って貰ったのには感謝をしているが、完全に不審者扱いだったな……まぁ、文句は言うまい。

「先ほどは失礼した。だがそちらも誤解される言動は慎む様にお願いしたい」

「……あぁ」

 そうか、俺は誤解されるのか――





「――久しぶりですわね、アレン様」

「あぁ」

 そう言って俺を招き入れるのはミレーユ様の娘にして、リオン殿下の妹君であるミーア姫殿下だ。
 リオン殿下と同じく、初代聖王の血を濃く受け継いだ証の真っ白な髪に銀色の瞳が特徴的で、何処か人を惹きつけるカリスマとも言うべき魅了を持った少女でもある。
 そんな彼女がどこか困った様な笑いを含んだ挨拶に返事をしながらも、視線の鋭い彼女付きの侍女にミレーユ様からの手紙を渡す。

「エリザ、彼の言葉遣いや態度は気にしなくて構いません」

「……かしこまりました」

 その一連のやり取りを経て、侍女からの鋭い視線は鳴りを潜める……なるほど、俺のミーア殿下に対する言葉遣いを咎めていたのか。
 よくよく見てみればこの侍女の顔に見覚えはないし、俺と殿下が城から離れてから入ってきた人物なのだろう。
 リオン殿下に付きっきり、という訳ではなくなったし、これからもこういう事が増えるのかも知れないな。

「……ふむ、なるほど……大体の事情は分かりました」

 部屋の中に立つ護衛騎士や文官、側仕えなどのミーア殿下の側近達に睨まれながらという居心地の悪い中で待っていると、ミレーユ様からの手紙を読み終わったらしいミーア殿下が声を上げる。

「幾つか聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」

「あぁ――いえ、はい、構いません」

「ふふっ、公式の場ではないのですから楽にして良いのですよ」

「……助かる」

 自分達の敬愛する主人に対して、見知らぬ男が気安く話し掛けている状況は良い気分はしないだろうと気を遣ってみたのだが、やはりミーア殿下からも無理をしている様に見えたらしく逆に気を遣わせてしまった。
 だが、まぁ……その代わりと言ってはなんだが、彼女が聞きたい事について誠心誠意頑張って話すとしよう。

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