ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜
変化(シン編・レイド編)
「さて……俺に変わった以上、負けたまま終わるわけにはいかないからな……」
シンがそう呟きながら、冷たい雰囲気になった顔をアニムスに向けた。
纏っている莫大な魔力とその不気味な雰囲気を恐れ、アニムスは距離を取った。
「おいおい……顔見て逃げるなんて失礼じゃないか?」
「……っ!?」
アニムスの行動を読んでいたかのようにシンは既にアニムスの背後にいた。
予想外の動きに驚きを隠せず、振り向きざまに拳が出てしまった。
「声掛けただけでこれかよ、あいつには珍しく随分と嫌われてんじゃねぇか」
その拳すらも軽く避けニヤニヤと怪しい笑いを浮かべながら言葉を吐いた。
この眼……全て見透かされているかのような目が怖い……
今までのシンの目の奥から感じられた闇が表に出てきたような感覚に襲われる。
この予想していなかったシンの変化が今後の計画に支障をきたすかもしれない。
やっぱりシンはここで倒しておかないといけない……レイドが封じられている以上私がやるしかない……
「戦術級闇魔法【影人】」
アニムスは一度破られたはずの魔法をもう一度使用した。
しかし、前回と違い周りの魔力に溶け込むような仕掛けを施していた。
これならば魔力を薄く広げて探知することはできない。
今のシンと正面から戦うのはリスクが高すぎる。
この【影人】の使い方はもっと大切な場面で使いたかったけど……
「……なるほど、魔力を広げても無駄だと言うことか……」
シンは一度破った方法を試してみるがそれが無駄だと言う事をすぐに理解し、魔力を薄く広げるのをやめた。
その様子を見ていたアニムスはシンの背後からゆっくりと手を向けて魔法を放つ準備をした。
いかに優れた魔法使いであろうとも意識外からの攻撃は防ぐことはできない。
剣士ならば常軌を逸した反応速度で防げる者はいるかもしれないが、それを身体能力が低い魔法使いができるとは思えない。
それに雰囲気は変わったとしても肉体が強化されたわけではない……この状況下で負けるはずはない……
アニムスは何時でも魔法をシンに放てる状態で止まっていた。
誰が見ようともアニムスの勝利で終わるはずの状態、それなのにもかかわらず、アニムスは何か不安がある様子だった。
念のために星の瞳で未来を見ようとしたのに未来が見えてこない。
星の瞳の未来予知が覚醒してからあまり時間が経っていないけれどこんなことは初めてだからどうしても警戒してしまう。
「どうした?攻撃しないのか?」
その様子を見ていたかのように不気味な笑みを浮かべながらシンが独り言を吐いた。
見えていないはずの自分の様子をなぜか当てられたアニムスは不安がより増し、攻撃ができなくなってしまった。
「何を迷っているか知らないが、何もしない奴に時間を食われるのは癪だ、そっちが攻撃しないって言うならこっちから行かせてもらうぞ」
そう言いながらシンは振り向き人差し指をアニムスにピンポイントで向けた、
その迷いのない様子は本当に自分は見えていないのか?という疑問をアニムスに持たせた。
見えているはずがない……【影人】は完璧のはず…
「自分の魔法は完璧のはず……そう思ったか?」
「……っ!?」
シンが悪い笑みを浮かべながら見えていないはずのアニムスに向かって言葉を放つ。
その不気味なシンの様子から何かを感じ取ったアニムスはすぐさま防御魔法を発動する。
「戦術級雷魔法【雷流】」
「戦略級闇魔法【冥府送り】」
シンの人差し指に集まった膨大な魔力が雷へと変化しアニムスに襲いかかる。
それと同時にアニムスは【影人】が解除され、その代わりに目の前に黒い大きな穴が出現し雷を吸収した。
「人差し指じゃ級を超えられないか……ならば二本指でどうだ?」
シンがそう言いながら中指を立てて合計二本の指をアニムスに向ける。
二本の指がアニムスに向かった瞬間、シンの雷の大きさは二倍以上になりアニムスの魔法の黒い大きな穴の大きさを軽く超えた。
ど、どうして……雰囲気が変わっただけなのに……体は変わっていないのに……
さっきまで同じ魔法の威力だったのに……!
アニムスは攻撃が当たる瞬間に魔力で全身を防御してダメージを少しでも減らした。
「どうして級を超えて押されているかが不思議な様子だな……」
「……っ!?」
思考を読んだかのようなシンの言葉にアニムスは驚きを隠せなかった。
「今まではお前たちのボスをおびき出すためにお前の捕獲がミッションに入っていた、いくら計画が順調だろうと仲間が捕らえられると言う不測の事態が起きてしまえば全てを白紙に戻す事が出来る、お前たちの仲間意識は相当なものだからな……特にお前たちのボスは」
「…じゃあ、なんでいきなり」
「なんで……簡単な話だ、ゴミの計画など俺の知った事ではない」
吐き捨てるかのように言葉を放つシンを見てアニムスは複雑な表情を向ける。
「ゴミが計画したモノにこの俺がつき合ってやる義理は存在しないからな、それに……この俺を見下しながら敵意を向けた貴様を無事で済ますなど以ての外だからな」
不気味な笑みを浮かべながら敵意をアニムスに向ける。
その様子に少しの恐怖を感じたアニムスは後ずさりをする。
「あ……あなたは……いったい……?」
「……そうか、こっちの世界の奴らは俺みたいな奴に慣れていないのか」
「性格もシンとは全然違う……二重人格にしても魔力の質まで変わるなんて見たことない……」
「二重人格なんてモノと一緒にするな、俺が人格を二つ持っている理由それは……倉間 真の為に化学によって生み出された人格……最初の人工人格補填用精神体、No.0001を埋め込まれたからだ」
◆
人工人格補填用精神体……通称MAPC
火星に移住することを決めた人類は一つの問題にぶつかっていた。
全ての人類を移住させると言う事は刑務所に統監されている犯罪者たちも同じ宇宙船に乗り込む必要性があった。
犯罪者の中には凶悪な犯罪者も数多くいる。一般市民と同じ船に乗った場合、何かが起きるのは必然だろう。
この問題を解決すべく白羽の矢が立ったのは一人の天才だった。
その天才は人工的に精神体を作り出し、それを人格に問題のある者にそれを埋め込むという計画を打ちたてた。
人権といった問題を投げかけた者もいたがそれを考慮している時間は人類には存在しなかった。
その天才はすべての国から援助金を貰うと早速人工精神体の作成に掛かった。
しかし、いくら全ての国から選ばれた世界最高峰の天才とはいえど人工的に精神体を作るのは簡単ではなかった。
数年がたち、天才は試行錯誤の末に精神生命体を作り出すことに成功した。
しかしその数日後に天才は事件に巻き込まれ命を失ってしまった。
国のトップたちは天才の死を嘆きながらも、完成したMACPを解読するように世界中の研究者、科学者に指令を出した・
だが、作り出されたはずのMACPは天才の研究室には存在しなかった。
人工生命体の在りかが分からない国のトップたちは頭を抱えていた。
天才が残した研究資料があったがそれを解読できる者は世界中の研究者、科学者を探しても誰一人としていなかった。
犯罪者は見捨てようと言う結果に至るであっただろう議会が開催される数日前に在りかが分かると主張する少年が日本に現れた。
ほとんどの人物が信じない中、その少年は誰も解読する事が出来なかった研究資料を英訳して議会に送りつけた。
その研究資料にはMACPの作り方が描かれていた、疑いながらもその通りに開発チームが開発を進めるとMACPが本当に生まれた。
そうして人類は天才を失ったがそれを補てんするかのように表れたもう一人の天才によって問題を解決した。
その証拠に、火星に移住した後の人類は犯罪が一度も起きた事がない。
少しでも危険思想を持つ者が現れると、その者にはMACPを埋め込み、善の心を補てんするからであった。
◆
「性格を補填する以外に凡人どもが俺のような才能を得るためにも埋め込む者がいる。もとからほかの奴とはケタの違う才能がある俺がそれを持っているんだ、多少才能があったとしても象の前では蟻は無力だ」
「よく言っている意味が分からない……けど時間は少し稼げた……」
シンがMACPの説明をしている間にアニムスは上空に大きな魔法陣を作り出していた。
その魔法陣には今までの二人の攻撃とはケタ違いの魔力が込められていた。
「戦闘中におしゃべり……雰囲気が変わっても傲慢な性格は変わっていなかった……」
「くっくっくっ……」
「何を笑っているの」
「いや、こっちの世界でも俺は傲慢だと言われるんだなと思ってな」
シンは笑いながら人差し指をアニムスに向ける。
「無駄、もう魔法は完成している。貴方の魔法より私の魔法の方が早い」
「早いどうのこうのは関係がない、蟻がいくら力や智恵を振り絞っても強大な物には勝つことはできない」
「一度死んでその傲慢な態度が治るように願って……災悪級闇魔法【無限重力】」
シンの頭上の大きな魔法陣が回転し始め、凄まじい程の重力が魔法陣の真下にかかる。
その凄まじい程の重力によって地面は地下深くへと沈みこみ大きな黒い穴が地上に出来上がる。
「はぁ……はぁ……」
一瞬で大量の魔力を消費したアニムスは呼吸を乱しながら四つん這いになり顔を下に向けた。
「……なるほど、ゴミはゴミでもリサイクルできる程度なら使えるゴミだったか」
「な、なんで……?」
自分の攻撃をくらったはずのシンの声が横から聞こえたアニムスは驚きよりも恐怖が勝ってしまった。
恐怖を露わにして、体を小刻みに震わしながら魔法が解除され、疑問を小さく投げかけた。
「蟻の攻撃は少しは痛みを感じる場合がある。だが……脅威になる事は決してない。それだけの話だ」
未だに震え続けている無抵抗なアニムスに向かってシンは二本の指を向ける。
「今の貴様なら簡単に捕獲はできるが、ここで殺しておいた方が後から来るやつと楽しめそうだ」
そう言いながら魔力を二本指に集めて魔法を放つ準備をした。
アニムスは抵抗する気すら、恐怖にのまれてしまい動く事が出来なかった。
「抵抗もなしか……やはりつまらないな……戦術級爆裂魔法【業爆】」
魔法名を言い終わった瞬間にアニムスの場所で大爆発が起きる。
普通の人間では欠片すら残らない程の爆発で砂埃が大きく立つ。
「……次会った時は殺すと言ったはずだが」
爆発が起きた場所には何もなく、その代わりに誰もいなかったはずのシンの横にアニムスをお姫様だっこしたレイドが現れた。
それすらも予想通りかの様にシンは驚きもせずに少し笑みを浮かべているだけだった。
「全く、本来の計画ではこいつは足止めをくらっているはずだろ?あのゴミはどうした?」
「……大丈夫かアニムス」
シンの問いかけを無視するようにレイドは気絶しているアニムスに声をかける。
その態度が癪に障ったシンは無言で人差し指を二人に向けて魔法を放つ。
「……レ、レイド……?」
か細く、すぐにでも消えてしまいそうな声でレイドの名前をアニムスは呼んだ。
そんなアニムスの様子を見たレイドは噛みしめる力を強くして、怒りをあらわにする。
「少し待っていろ。すぐに終わらせてベッドで寝かしてやるから」
そう言いながらその場所から一瞬で横の気の目の前に移動して、木を背もたれにしてアニムスを座らせ、元いた位置に戻る。
シンの魔法をついでかのように避ける態度がさらに癪に障ったシンはレイドに次は二本指で魔法を放った。
「この世界は……俺の、俺の大切な存在を何回傷付ければ気がすむんだ!」
レイドは怒りをぶつけるかのように叫びながら振り返りざまに剣を抜き、魔法を真っ二つにした。
「シン……お前が持っている神玉はいらない、一秒でも早くこの世から葬り去ってやる」
「俺も同じ意見だ、ここまでゴミに舐められた態度を取られたのは餓鬼の時以来だ、すぐに殺してやるよ」
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