ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

苦戦(レイド編)

 
「風精霊剣技【風連撃】」




 クルスが腰に掛けている二つの剣のうちの一つを鞘から取り出し攻撃を仕掛けた。
 レイドもその攻撃を認識するなり、腰に掛けてある黒い剣を抜き、戦闘態勢に入った。




「上級剣技【大流し】」




 剣を大ぶりして、荒々しくクルスの攻撃を防いだ。
 凄まじい威力で剣を弾かれたクルスは勢いに体を任せ、レイドの顎に向けて下から攻撃を放った。




「風精霊拳技【風脚】」




 大きく振り上げた足が風に乗りながらレイドの顎に向かっていく。
 そのキレのある攻撃を片手で防ぎ、足を掴んだ。
 レイドはお返しとばかりに足を掴んでいる方の腕を大きく振り、地面にたたきつけようとする。




「初級風魔法【風弾】」




 叩きつけられる瞬間にレイドの両足に向けて風の弾を放った。
 両足が後ろに弾かれることによってバランスを崩し、前方に倒れかける。




「風精霊拳技【風脚】」




 バランスが崩れ、叩きつける威力が半減したと同時に両手を地面に付き、掴まれていない方の足で攻撃を放つ。
 レイドは攻撃が来る事を察知し、掴んでいる足を離し、クルスと同じように地面に手をついて、空中で体を反転させた。
 そして正面から向かってくるクルスの攻撃を腕をクロスして受け止めた。






【神玉解放】した状態ならば神玉のタイプ上、近接戦闘では風の神玉よりも破壊の神玉の方が有利なはずだ。
 しかし、認めたくはないが今押されているのはクルスではなく俺だ。
 クルスがいかに【神玉解放】に慣れていたとしても、俺も成り立てというわけではない。
 何かをしていると考えるのが正しいか?






「戦闘中に考え事か? 随分と余裕じゃないか」


「はっ……ボンボン相手には考え事しながらがちょうどいいんだよ」




 クルスは距離を取りながらレイドを挑発した。
 その挑発に挑発で返すように口角を上げながら言った。




「破壊の神玉を持っているだけあって、近接戦闘では流石の自信だな」


「……契約の神玉は神玉の特性まで知れるのか、プライベートもくそもないな」


「世界を脅かすテロリスト集団のトップだ、何しても誰も怒らねぇよ」




 クルスが話しながらゆっくりとレイドに両手の手のひらを向けた。




「そう……例え殺してもな」




 クルスから溢れ出る緑のオーラが両手に集まっていく。
 その光景を見たレイドは警戒心を高め、攻撃に備えた。




「前戦った時はこの技で瀕死になっていたな、あの時より遥かに強くなった一撃……耐えられるか?」


「……やってみればわかる事だ」


「そうか、ならお言葉に甘える事にしよう、風精霊魔法【風龍】」




 クルスの両手から凄まじい大きさの風の龍が現れ、レイドに襲いかかった。
 地面をえぐりながら向かってくる風の龍にレイドは剣を向ける。




「戦術級剣技【一点突き】」




 レイドが全身を使い体重を乗せながら剣の先を風の龍にぶつける。
 その攻撃により風の龍は四方八方に簡単に散り、普通の風へと戻った。




「油断したな、レイド!」


「………っ!?」




 散り散りになった風の中から突如として現れたクルスに反応が遅れる。
 クルスの右手には先ほどとは比べ物にならない程の力が集まっているように見えた。




「風精霊魔法【豪風龍】」




 クルスの右手に黒い風が集まりだし、何かを作り出していく。
 そして黒い風によって作り出された龍が防御の体制が整っていないレイドに襲いかかる。




「……!!」




 黒い風の龍は周りのモノを吹き飛ばしながらレイドを包み込んだ。
 そして地面を激しく削り飛ばした後に空へと消えていった。




「最初に使った技は【風龍】、風精霊魔法とは言っているが普通の魔法でも再現が可能な魔法だ。もちろん精霊を使った方が強いがな」


「………」


「しかし、さっき使った【豪風龍】は魔法での再現が不可能なうえに神玉を持っていなければ発動することは難しいだろう」


「………」


「加えて【神玉解放】を使っているから威力も倍増している……随分と効いただろ? レイド」


「はぁ……はぁ……」




 ニヤニヤとしながら説明するクルスの数メートル先にいたのは、上着が破れ、頭や腕から血を流し、息切れをしているレイドだった。
 いつものレイドにある余裕はそこにはなく、肩で息をしながらクルスを睨みつけていた。




「あの距離から、さらに防御せずにくらって死なないのは流石と言ったところだ、だが既に【神玉解放】を保っていられるほど体力は残っていないようだがな」




 クルスの言う通り、レイドから溢れていた黒いオーラは無くなり、明らかに神玉の力を解放していなかった。




「とはいえ、あの技を使ったら【神玉解放】を俺も保っていられないがな」




 クルスはそう言って、【神玉解放】を解除して、持っている剣を地面に刺した。
 その様子を未だに呼吸を乱しながらレイドは見ていた。




「【神玉解放】が切れているのは同じだが、不利なのは素人からしても歴然だ」


「はぁ……はぁ……」


「さらに悪い知らせだ、俺の持っているもう一つの剣を知っているか?」


「はぁ……はぁ……」




 クルスはそう言いながらもう一つの剣……風刀を鞘から抜いた。
 風刀を見たレイドはより顔を険しくし、クルスを睨んだ。




「風刀、剣を使う物ならば一度は効いた事のある伝説の剣だ、初代風の国の王はこの風刀と神玉だけで一つの国を作り上げた」


「はぁ……はぁ……」


「風刀の効果は普通なら知らないが、お前の事だ少しは知っているだろ?」


「はぁ……はぁ……」




 クルスが笑いながら魔力を剣に集め出す。
 その様子を相変わらず険しそうに見つめているレイド。




「【風楼】」




 振られた風刀の周りに濃い緑のオーラがまとう。
 何も起きないまま数秒が経つと、いきなり血を吐きながらレイドが地面に膝をついた。




「……っ!」




 心臓の部分を押さえながら、痛みに耐えるように声を漏らした。
 整いつつあった呼吸がまた乱れ始め、拳を強く握る。






 風刀に備わっているスキル【風楼】……精神体を直接攻撃するのは知っていたが、攻撃が見えもしないとは厄介だな。
 単なる予想だが緑のオーラで攻撃しているのが可能性として高いな。
 見えない攻撃となれば魔力を察知するのがセオリーだが【風楼】はスキルだからな……魔力を察知したところでなにも意味がないだろう。






 傍から見ると痛みによる怒りと焦りで内心は溢れかえっているように見えるが、レイドは冷静だった。
 的確に状況判断をしながら、勝率の一番高い戦闘方法を探し続けている。




「何もしてこないとは、既に限界が来たのか?」


「はぁ……はぁ……」


「苦しそうだな、俺はお前と違い優しいんでな、すぐに楽にしてやる」




 クルスはそんな事を言いながらもう一度、風刀を勢い良く振った。
 その瞬間、レイドは血でぬれた黒いシャツを破り捨てながらいた場所から即座にいなくなった。




「……動けないふりに騙されると思ったか?」




 クルスの数メートル後方にいるレイドに煽るように話しかける。
 露わになったレイドの上半身には傷がいくつもあった。




「その体、俺と戦った後も死線をくぐりぬけてきたみたいだな」


「……当たり前だ、貴様のように今の立ち位置に満足などしていないからな」


「目指し続けた場所がここで俺に殺されることとは随分と滑稽だな」


「隙をついた一撃が当たった程度で調子に乗るなよ……」




 レイドから消えたはずの黒いオーラが再度出始めた。
 その様子を感知したクルスは不敵な笑みを浮かべながら振り向いた。




「まだそんな余力を残していたか……だが、その程度でこのダメージの差が埋まると思うか?」


「……戦争まで残しておくはずだったんだがな」




 レイドがそう小さく呟いた瞬間、ダメージを負う前より多くの黒いオーラがあふれ出した。
 その異様な戦闘能力の増加にクルスは顔をしかめた。




「どこに隠していやがった……」


「……契約の神玉でもスキルまでは見れないらしいな、あの一撃で有利に持っていく予定だったんだろ? 【神玉解放】を解除してまで」


「スキルだと……?」


「残念だったな、その行動があだとなる」




 レイドが不敵な笑みを浮かべると、右目に模様が浮かび上がり黒いオーラが禍々しいオーラに変化した。
 雰囲気が変わったレイドを見て、クルスは風刀をしっかりと構えた。




「どうした顔から余裕が無くなっているようだが」


「……少し予定外な事態が発生しただけだ、ただ想定内だがな」




 レイドが煽った口調で話しかけると、クルスが笑いながら返した。
 その返しと同時に、クルスのはるか後方から大きな闇の渦が出現した。




「あっちも盛り上がっているようだな……さて、二回戦と行こうか」




 レイドが黒い剣に禍々しいオーラを剣に纏わせて構えた。

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