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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

嫉妬愛(レイド編)

 
「うぁぁぁぁ!!」


「化け物だ! 逃げろぉ!」




 頼りにしていた暗殺集団の団長が殺された事によって騎士たちはパニック状態だった。
 殺せと命令された敵が目の前にいるのにもかかわらず剣も捨て背中を見せ全速力で逃げていた。
 その姿には子どもたちが憧れるような騎士道など微塵もなかった。




「うぁぁぁぁぁ……」




 先頭を走っていた騎士の声が段々と小さくなり、地面に倒れた。
 仲間が死んだ事にも気がつかなかった騎士たちが死体を超えると、たちまち全員、もれなく地面に倒れた。




「し、死んでる……」




 倒れた仲間の体を起こし、顔を見た騎士が小さく呟いた。
 その小さな呟きによって、パニック状態だった騎士たちの足が止まった。




「やっと気がついたか、スキル【嫉妬愛ジェラシーラブ】の効果に」




 団長を殺害したと同時にレイドが発動した【嫉妬愛ジェラシーラブ】は使用者より遥かに弱い魂を一定距離離れた瞬間、奪い取る。
 その効果によって、神玉持ちであるレイドよりも遥かに魂の弱い騎士達はたちまち死亡した。




「……って事だ、死にたくなきゃ逃げない事だ」


「に、逃げなければ殺さないのか……?」




 勇気ある騎士のひとりがレイドに問いかけた。
 その質問に返事することなく、レイドは勇気ある騎士に近づいた。




「その答えはノーだ」




 レイドが横に発動させた【空間倉庫】から短剣を取り出し、騎士の喉を掻っ切った。
 動脈を切られた騎士は傷口から勢いよく血を噴き出し、地面に倒れた。




「今回の戦いに関与したノーム国の者は全て殺す、例外は存在しない」


「に、逃げても死、戦っても死……どうすればいいんだよ!」


「嫌だ!死にたくない!嫌だ!」


「「「うぁぁぁぁ!」」」




 レイドの言葉によって動きはしないものの、再度パニック状態になった。
 パニック状態になった騎士たちはレイドに戦いを挑む者、逃げだす者、自殺する者などがいた。
 しかし、どの選択肢を選んだとしても、レイドに漏れなく魂を取られていた。






 他の種族に比べて人間の魂は上質なようだな。
 本来ならば意味が無い程に有象無象の魂なのだが、十分力が高まっていく。
 これなら【嫉妬】を手に入れるのも早そうだな。






 レイドのスキルと攻撃によって騎士たちの数は既に半数を切っていた。
 騎士たちの中には逃げだす者も戦う者も自殺を選ぶ者もいなかった。
 ただその場所で命乞いをし続ける者と、気が狂ってしまった者しかいなかった。




「……抵抗する者はいなくなったか、後は作業だな」




 レイドが短剣を取り出し命乞いをしている騎士に近づく。
 そして躊躇いの欠片もなく、無慈悲に短剣で騎士を攻撃した。




「初級風魔法【風弾】」




 何処からか放たれた風の弾によってレイドの振りかざした腕が弾かれ、騎士に攻撃が届く事は無かった。
 自分の腕を簡単に吹き飛ばした者の正体を知るために、レイドが視線を移動させた。




「……随分と懐かしい奴がいるな」


「全くだ、相変わらず暴れているようだな、レイド」




 レイドの視線の先、木の太い枝の上には緑髪の強気な青年……クルスが立っていた。
 クルスは認識されると、木の枝から飛び降り、レイドと向かい合った。




「一体何の用だ? 今は戦争の準備で忙しいんじゃないのか?」


「あぁ、お前のおかげで最近はずっと忙しかったぜ、来年あたりになるはずだった戦争がこんな早くなるんだからな」


「……戦争が始まったのに俺の前にいていいのか?」


「当たり前だ、戦争の相手はお前達、神玉持ちのテロリスト集団なんだからな」


「……お前、何しやがった」




 クルスの予想外の答えに不機嫌な様子で睨みつけながら質問をした。
 その不機嫌な様子を楽しむようにニヤニヤしながらクルスが説明を始めた。




「お前達の予定ではノーム国の戦力を落とす事によって人間の国の力関係が崩れる、ノーム国は攻め落とされどこかの国が力を得る。そうすることによって戦争を予定より早く起こそうとした、準備してない段階で戦争が始めれば勝ったところで消耗は激しい、国は負けないために最後の手段である隠してきた神玉使いを表に出す。それがお前達の狙いだったわけだ」


「……」


「単体でお前達と対抗できるのは限られてくる。一部の神玉使いの神玉は奪われてしまう可能性が高い。本来ならば協力するのがセオリーだが戦争時ではそうはいかない。随分と考えられた戦略だな、お前たちの手のひらで踊るところだった、契約の神玉がいなければな」


「……契約の神玉、見ていやがったな」




 レイドが握っている拳をさらに強く握った。
 その悔しそうな様子を見たクルスが口角を上げながら話を続けた。




「それで俺がやった事だっけか、お前たちの目的が分かってた俺達は横暴を繰り返してきた問題だらけのノーム国を切り捨て、その時間に人間連合を作り出した、魔族に対するじゃない、お前たちに対抗するための人間連合だ」


「ノーム国を切り捨てたのに、何故この場所に現れたんだ?」


「アニムスとグレイヴだっけか? ノーム城の宝物殿に大量に保管されている特級魔石を取りに行ったんだろ、いったいなんの魔道具を作るかは知らないが、もし大量の一般騎士を大量に殺すような兵器だったら不味いからな、阻止させてもらうことにした、その邪魔をされないように足止めしているわけだ」


「……俺じゃなければ、支援系ならば倒せると思ったのか? 俺の仲間をあまり見くびるなよ」


「見くびってなどいない、お前たちの強さは俺も十分知っている、だからこそ俺の知っている中でも最強の仲間をぶつけたんだ」


「最強の仲間だと……?」


「あぁ……」






 ◆






 魔法の力で浮いている飛行船によって空からノーム城に向かっていた。
 その中では魔力を完全に抑えたアニムスが真剣な表情で椅子に座っていた。




「心配しなくても良いかと、レイド殿は約束を破りませんから」


「分かってる、頭ではわかってるんだけど……」


「勘ですか、アニムス殿の勘はよく当たりますが、今回は当たらない事を願うばかりですね」


「うん……グレイヴ」




 アニムスが返事すると同時に魔力を少しづつ解放した。
 戦闘状態に入ったアニムスを見たグレイヴがようやく外の異変に気がついた。




「アニムス殿、これほどの魔力の持ち主は神玉持ちでしょうか? ノーム国にはいないと想定していましたが予想を超えてきた、ということでしょうか?」


「違う、この魔力には神の力がない、この魔法使い自身の力、ノーム国にはこんな魔法使いいなかった」


「では一体……」


「誰でも関係は無い、予定通り私が相手する、グレイヴは魔力の出力を最大にして回収を急いで」


「……わかりました、御気をつけて」


「うん、上級闇魔法【闇雲】」




 アニムスは返事だけをして魔法で作り出した黒い雲に乗り、飛行船の外に出た。
 それと同時にグレイヴが魔力の出力を最大にして、飛行船の速度を上げた。




「二人で来なかったか、ならば倒してすぐ向かわないとな」


「やっぱり……」




 アニムスは風魔法を巧みに扱い空中に浮いているシンを見ながらつぶやいた。




「シン、グレイヴの邪魔はさせない」


「あの時の少女……アニムス、そこをどいてくれないか?」


「私に仲間を裏切れと言っているの?」


「二度も自分の妹と同じぐらいの少女を傷付けることはしたくない」


「一度の敗北で随分と舐められてる……成長する事を教えてあげる、上級闇魔法【闇刃】」




 アニムスの振った腕から黒い刃がシンに放たれた。
 その攻撃に向かってシンが人差し指を向け、魔力を操作した。




「上級雷魔法【雷撃】」




 シンから放たれた雷によってアニムスの攻撃が相殺された。
 相殺によって生まれた煙がはれると、シンの視界にはアニムスは既にいなかった。




「戦略級闇魔法【闇の扉】、戦術級闇魔法【暗黒槍】」




 シンの後ろに音もなく移動していたアニムスから漆黒の槍が放たれる。
 体に触れる寸前に気がついたシンは、三本指を向け魔法を発動する。




「上級雷魔法【雷撃】」




 シンの指先から放たれた雷によって、アニムスの攻撃がかき消された。
 魔法がぶつかり合ったことによって、魔力が四方八方に吹き飛び、動物が逃げ始めた。






 なるほどな……これじゃすぐに向かうのは難しそうだな。
 やはりチャーラさんの言う通りか、俺の想定以上に神玉使いの成長速度は速いらしい。




 シンがやっと真剣な表情になり、魔力を解放し始めた。
 抑えつけていた魔力が表に出たことにより魔力の嵐が吹き荒れた。






 ◆






 前方から凄まじい量の魔力を感じたレイドが歯を食いしばる。
 その様子をずっと楽しそうにクルスは見ていた。




「シン……お前達、手を組んでいたのか」


「ようやく魔力で気がついたか、シンの実力はお前も知っているだろ?」


「……前回アニムスが負けたのは神玉の差だ、前と同じような結果になると思うなよ」


「成長しているのはそっち側だけじゃないのさ」




 クルスが急加速してレイドとの距離を詰める。
 その間に、地面に落ちていた騎士の剣を拾い上げ、その剣で攻撃を仕掛けた。




「中級剣技【連撃】」


「初級剣技【流し】」




 クルスの攻撃の一撃目をレイドは軽く受け流し、二撃目を受け止めた。
 体重を乗せた重い一撃を、レイドは片手で簡単に受け止めていた。




「俺の足止めが目的なのに攻撃を仕掛けてくるか……」


「当たり前だ、足止めが一番の目的だが、ここでお前を倒してしまえば戦争する意味もなくなるわけだからな」


「……お前に俺が倒せるとでも」


「当然だ、勝機が無ければ戦いなど挑まない」


「……用意された玉座に座り続けた者とより高き玉座を狙い続けた者の違いを教えてやろう」




 レイドが言葉を発した瞬間に凄まじい程の殺気があふれ出した。
 その殺気によって命乞いをしていた騎士や気が狂ってしまった騎士や動物のほとんどが気を失ってしまった。
 本当ならばレイドは殺気の方向をコントロールできるが、邪魔が入らないようにわざと殺気を振る巻いていた。




「破壊の力、今こそ力を解放しろ【勇者解放】」




 レイドの全身から黒い、禍々しいオーラが出現し、嫌な雰囲気に包まれた。
 その普通の人ならば逃げ出したくなるような様子を見てクルスは笑みを浮かべていた。




「一瞬で終わらせてやる、上級剣技【一閃】」




 レイドが腰に掛けてある黒い剣を抜いて攻撃を放つ。
 衝撃波のように放たれた斬撃がクルスに向かっていく。




「風の力、今こそ魂と融合しろ【神玉解放】、風精霊魔法【風撃槍】」




 クルスの全身から緑のオーラが溢れると同時に、風の槍が放たれた。
 その風の槍によっていとも簡単にレイドの攻撃はかき消され、レイドに向かって放たれた。




「……っ!? 戦略級剣技【龍通り】」




 予想以上の攻撃に驚きながら両手で剣を持ち、攻撃を上に流した。
 上に流された風の槍が雲を貫通し、大きな穴を作った。




「【勇者解放】なんて出し惜しみすんなよ、どうせ【神玉解放】を使えるんだろ?」


「……」




 クルスが【神玉解放】を使えるのは予想以上だな。
 しかし、こんな序盤で使う理由が分からない。
【神玉解放】は消耗の速さが【勇者解放】とは比べ物にならない。
 短期決戦が狙いか? なんにせよ、【神玉解放】の状態のクルスに勝つにはこちらも使うしか方法は無いか……




「仕方ねぇ……容赦はしない、破壊の力、今こそ魂と融合しろ【神玉解放】」




 レイドから一瞬で殺気が無くなり、かわりに禍々しい雰囲気があふれ出した。
 本気になったレイドを見てクルスは笑いながら、腰に掛けた風刀を鞘から抜いた。




「始めようぜ、今度こそ殺してやる」


「それはこっちの台詞だ、わざわざ戦争前に神玉をくれるとは優しいじゃないか」




 こうして二度目のレイドVSクルスが始まった。

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