ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

交渉(レイド編)

 
 ノーム国は民は貧しく、貴族は裕福な国であり、悪評が後を絶たない。
 国王自身も好き勝手をやっており、年々、他の国へと逃亡する民が多くいる。




「レイド、少し急ぎすぎ」


「……」




 レイドとアニムスの二人はノーム国の大通りを速足で歩いていた。
 先を磯でいるようにも見えるレイドにアニムスが注意をした。




「この魔道具で力を制限されてるんだから、一応、警戒しないと」


「わかっている、警戒していないわけじゃない」




 レイドはんそんな事を言いながらも未だに速足で都市の中心へと向かっていた。
 その様子を見たアニムスはため息をもらしながらも後ろからついて行った。






 ◆






 王城の前に付いたレイドとアニムスは騎士によって豪華な部屋に招待された。
 その部屋の中に入り、椅子に座って少し待っていると、全身に豪華な装飾がされた肥った男が入ってきた。




「ふぅ、ふぅ……お主がレイドか……」




 汚い呼吸をしながら部屋で座っているレイドを見てそう言った。
 そしてレイド達の目の前に来て指をさしながら大声で言う。




「おい! なぜ俺が座っていないのに座っているんだ!」




 座っているレイドを見て機嫌を損ねたのか唾を飛ばしながら大声で叫ぶ。
 そんな叫びなど聞こえないかのごとくレイドとアニムスは無視をした。




「貴様ら! ノーム国王である、ノーム・イガウ様の事を無視するなどどういうつもりだ!」


「……」




 無視されたことでさらに不機嫌になったノームは唾を撒き散らしながら叫ぶ。
 しかし、その叫びもレイドとアニムスは無言で返した。
 その態度でノームは顔を赤くして叫ぼうとした瞬間、ノームの視界にアニムスが移る。




「……おいそこの貴様」


「……」


「貴様だ貴様! 隣の女だ!」




 レイドの隣に座っている、赤茶色の可憐な少女……アニムスを指さしながらそう言った。
 アニムスはノームの大将が自分に変わった事に驚きながら無言を続けた。




「本来なら俺を無視した時点で死刑確定だが、貴様が俺の妾になるなら許してやってもいいぞ」




 ノームが下品な笑い声を上げながらそう言った。
 アニムスは小さな体をしていて、女性というよりは少女のような体だった。
 ロリコン趣味のノームにはアニムスの外見がドストライクだった。




「ぐふっ……今日の夜、俺の部屋に来るんだ……!」


「チッ……」




 興奮で呼吸を乱し、下品な笑い声を上げながらアニムスを誘った。
 その瞬間、レイドが舌打ちをして、一瞬で距離を詰めノームの胸ぐらをつかんだ。




「な、何をする……!」


「貴様! ノーム様から手を離せ!」




 胸ぐらをつかまれるという初めての体験にノームが焦りながら叫ぶ。
 近くに控えていた騎士らしき者がレイドを睨みながら近づいてきた。




「近寄るな、雑魚」


「……っ!」




 レイドが鋭い目を騎士に向けると騎士は恐怖で動きを止めてしまった。
 そして視点を騎士からノームの顔に移し、威圧する。




「おい、豚野郎、アニムスは俺の仲間だ、手を出すなら相応の覚悟はしておけよ」


「ひっ……」




 低い声で威圧しながら忠告をすると怯えながら首を縦に振った。
 そして、レイドは胸ぐらから手を離して椅子に座った。




「ど、どういうことだ……制限の魔道具をつけたんじゃないのか……!」


「付けています……制限しきれないほどの実力だと……」


「使えんゴミめ……!」




 手を離してもらったノームは近くの騎士に小さな声で確認を取った。
 騎士が説明をすると吐き捨てるように悪口を言った。




「まぁいい、その力が俺の物になるんだからな」




 ノームが騎士から視線をレイドへと移す。
 そして用意しておいた紙を目の前にある机に置いた。




「これが契約書だ、内容は送った通りだ、早くサインをしろ」


「……アニムス」


「燃やせ、初級炎魔法【着火】」




 レイドが契約書を見ることもせずにアニムスの名前を呼ぶ。
 呼ばれたアニムスは魔法で紙を燃やした。




「な、何を……!」


「陳腐な魔法だな、たかが一国の魔道士程度の隠蔽魔法が俺らに通じると思ったか?」




 レイドが閉じていた目を開けると、そこには紺色の目ではなく金色の目があった。
 見た物が自分にどう影響するかを色で判断することができる能力で契約書に細工されているのがわかっていた。




「契約書は両者がサインをした瞬間、契約を破ることができなくなる魔道具、チャーラと言われる占い師によって作られた交渉には必須の魔道具だ」


「多分、私達を騙していいように使えるようにしたかった、浅はかな戦略」




 レイドが机に足を乗っけてノームに顔を近づける。
 そして不敵な笑みを浮かべながら殺気を放った。




「教えといてやる、俺達は対等じゃない、少しでも逆らうなら国が生贄になると思え、ゴミども」


「ご、ゴミ……俺をゴミ呼ばわりだと!? 殺せ! 殺せ!」




 馬鹿にされたノームが体を震わせながらも騎士たちに指示を出した。
 しかし、控えていた騎士達は全身が激しく震えて身動きが取れていなかった。




「何をしている! 早く動け!」


「か、体が震えて……身動きができません!」




 戦闘の心得がある騎士たちはレイドの殺気により無意識に命の危機を感じ、体が硬直していた。
 全くと言って戦闘をした事のないノームはレイドの力がわからないため、震えるだけで動けていた。




「ちゃんとした契約書を出してもらおうか、俺は気が短いんだ、すぐに用意しろ」


「俺に命令など何様のつもりだ!」


「はぁ……馬鹿は見せなきゃ分からないか……」




 レイドは呆れてため息をつきながら腰の剣を鞘から抜いた。
 剣を抜いた瞬間、部屋の空気が息苦しくなり、何人かの騎士は気絶してしまった。




「剣を抜いたぞ! は、はやく! 早く何とかしろ!」


「無理です! か、体が動きません!」


「戦術級剣技【空斬】」




 レイドはベランダに出て、城の庭にある監視塔に向かって攻撃を放った。
 凄まじい速度で剣を振った事により斬撃が監視塔に向かっていく。




「もう一度言う、ちゃんとした契約書を持ってこい」




 レイドがそう言いながら剣を鞘に戻す。
 それと同時に飛ばした斬撃が監視塔の根元を切り、地面の倒れさせた。




「あ、あぁ……」




 想定していた以上の力にアニムス以外の部屋にいる人たちが驚く。
 体を震わしながら地面を這っているノームをレイドが睨むと、ノームは契約書を取りに部屋から出た。






 ◆






 契約書を新しく作り直したノームは不機嫌そうに廊下を歩いていた。
 その隣には怪しそうな笑みを浮かべた執事のような男がいた。




「何なんだ、あの男は! 国王である俺に対する敬意が感じられない! 我らがノーム国を敵に回す恐ろしさも知らんのか!」


「まったく、ノーム様の言う通りです」


「そうだろ! 俺の凄さがわかるほどの脳があれば楽だったんだがな、猿相手に交渉は難しい」


「ノーム様の言う通りです!」




 ノームが愚痴を言っていると執事はおだてるように肯定だけをしていた。
 それでいい調子になったノームは何か思いついた顔になる。




「そうだ……俺の凄さが伝わればいいんだ、何か伝える方法はないか?」


「そうですね……あの気難しそうな女性を落としてみてはどうでしょうか? 女性ならばノーム様の男としての素晴らしさが伝わるかと」


「うーむ、それもそうだな」




 調子を良くしてしまったノームはアニムスを口説くことにした。
 一度レイドに忠告されたことなど忘れて。




「今、戻ったぞ!」




 ノームが元気よく扉を開けて部屋に入った。
 部屋にいたのは椅子に座っているレイドとアニムス、それと床で気絶している騎士だった。




「まだ気絶しているのか、使えんゴミどもが!」




 ノームは近くで倒れていた騎士の頭を蹴って吐き捨てた。
 それを見たレイドの眉毛がピクリと少し動いた。




「それで、持って来たんだろうな、ちゃんとした契約書を」


「はい、こちらにあります」




 レイドが鋭い目を向けて質問すると、横に控えていた執事が契約書を出した。
 その契約書には隠蔽魔法がかかっておらずちゃんとした契約書だった。




「これでいいのだろう?」


「お前たちは馬鹿なのか? 一度、騙そうとしたんだ、対価を増やしてもらわなければならない」


「調子に乗りよって……!」


「お待ちください、ノーム様」




 レイドが当たり前のことを言うかのごとく対価の増額を要求した。
 要求されたノームは拳を強く握る。それを見た執事が止めるように囁きかけた。




「何だ……!」


「報酬を増やしたとしても問題はありません、女性を手にしてしまえば仲間になり、結果的には戻ってくるのですから」


「……それもそうだな」




 執事の提案でノームは一気に笑顔になって納得した。
 咳払いを一回はさんでレイドに話しかけた。




「仕方あるまい、了解した、要求を飲もう」


「……なら話は終わりだ、戦争が始まったら、この魔道具に話しかけろ」




 レイドは【空間倉庫】から一つの魔道具を取りだした。
 その魔道具は【通信テレパシー】が付与されており通話できる魔道具だった。




「じゃあな、俺達は帰らせてもらう」


「待て、女を帰らせては男が廃る、豪華な一日を過ごさせてやろう」




 ノームはアニムスに自分の事を凄いと思わせるために城に泊るように言った。
 その魂胆がわかっていたアニムスは心底嫌そうな顔をした。




「私た……「泊めてくれるってなら泊めさせてもらおう」……えっ?」




 アニムスが断ろうとした瞬間、その言葉を遮ってレイドが反対の事を言った。
 その言葉に驚いたアニムスは少し声が漏れてしまった。




「むふぅ……やはり、貧乏には羨ましいようだな」




 レイドの言葉で気を良くしたノームは気持ち悪く笑った。
 そして、少し時間が経って夕食の時間になった。




「さぁ、食べるがよい!」




 沢山の料理人と使用人が横に控え、大きな部屋にバイキングのように料理が置かれている。
 レイドとアニムスの方を向いて手を広げながら高らかに言った。




「大丈夫だとは思うけど、毒には気をつけて」


「分かっているさ」




 アニムスはもう一度確認するかのようにレイドに注意をした。
 レイドは用意された食事から視線をずらすことなく返事をした。




「はぁ……大丈夫かな」




 返事をするなり食事へと向かったレイドを見ながらため息を吐いた。
 そんなアニムスに興奮気味にノームが近づき、話しかけた。




「おい女、俺が持って来てやったぞ、この蟹はな南の大陸でしか手に入らない物で金貨二枚もするんだ貧乏には食べられない高級食材だ、それでこの肉はな……」




 ノームが食材に指をさしながら食材を集めた凄さを語り始めた。
 その語りをアニムスは無視してレイドの元へと向かった。




「おい、聞いているのか! おい!」




 離れようとするアニムスを止めようと手を伸ばすが避けられ逃げられてしまった。
 自分から逃げたということに怒り、歯を食いしばっていた。




「レイド、何食べてるの?」


「……ん?」




 アニムスがもぐもぐして口を一杯にしているレイドに話しかけた。
 レイドは振り返って、口に詰めていた物を飲み込んで返事をした。




「えーと、確か「すし」とか言う物だ、世渡人が持ってきた料理って本で見て興味があったんだ、どれも上手いから食べてみろ」


「これって生なの? 魚って火を通さないと危ないんじゃ?」




 生魚を食べる習慣が無いアニムスは少し引きながら質問をした。
 すると、聞いてもいないのにノームが説明を始めた。




「生魚が危ないのは日数が経つからで、新鮮な物は高いからあまり出回らない、貧乏人は食べた事もないだろう、それに対して俺は経済力もあるし顔もよく、頭もい……」


「レイド、これは?」




 ノームが得意げに自分語りをしている間に二人は違う食材の場所まで移動していた。
 二度も無視されたことによりノームは顔を赤くして怒っていた。




「俺の事を無視しやがって……! 絶対に許さん!」




 食事が終わったレイドとアニムスは警戒しながらも城の部屋に泊ることになった。
 流石は王城なだけあり、ふかふかなベッドと豪華な机などがあった。
 アニムスはベットの上で目を閉じて、レイドの目に座り寄りかかっていた。




「レイド、あった」




 アニムスが突然、目を開けてレイドにそう言った。
 その言葉を聞いたレイドはアニムスの頭をなでた。




「良くやった、やっぱり違ったか?」


「うん、保管されてた奴を見たけどレイドの目的の物じゃなかったよ」


「そうか……」




 アニムスは固有魔法の一つ【精神隔離】で精神を体と分離し、保管されていた禁術の本を読んだ。
 その本に書かれていた禁術はレイドが求めていた禁術ではなかった事を告げられてレイドは少し残念そうな顔をしていた。




「レイド、戦争に参加するの?」


「いや、禁術が違う以上、俺達が協力する意味は無くなった、引き続き神玉を集める」


「裏切るとレイドがいるって報告されるかも」


「もし人族が協力して俺達を討伐しに来た場合は魔法陣魔法で隠れ家ごと転移をする」


「でも戦争に神玉使いが集まるかもしれない」


「なに……?」




 レイドは初めて耳にしたアニムスの情報に顔をしかめた。
 そしてレイドは机の上にある水晶のようなものを睨んでからアニムスに質問をした。




「星の瞳か?」


「うん、戦争に参加すれば神玉使いと戦うことになるみたい、神玉を集めるにはちょうどいいかも」


「それなら戦争に参加するの良いかもしれない、帰ったら話合ってみるか」


「うん」




 アニムスとレイドは顔を見ながらそう言った。
 その微笑ましい様子を歯を食いしばりながら魔道具でノームは見ていた。




「声までは聞けんが俺の事を無視してイチャイチャしよって、女は俺に従ってればいいものを」


「ノーム様、私から一つ提案が」


「なんだ!」


「ノーム様の男らしさが見て分からないならば体で教え込むのはどうでしょう?」


「なるほど! 名案だ!」




 ノームは下品な笑みを浮かべながら叫んだ。






 ◆






 夜になると、足音と気配をなくす魔道具をつけたノームと執事がレイドとアニムスの部屋に侵入した。
 そしてアニムスには魔道具をつけ、レイドには毒ガスを嗅がせた。
 魔道具には消音と睡眠が付与されており、レイドの毒ガスには痺れと睡眠効果があり意識を戻さないようにした。




(所詮は魔法使いの女だ、俺の筋力で十分押さえつけられるはずだ……)




 ノームはそんな事を考えながら服を脱ぎ始めた。
 そして執事がアニムスの服をゆっくりと脱がし始めた。




(服越しでもわかる、素晴らしい体だ、俺の正妻にしてやってもいい……)




 そして、執事がローブを脱がし終え、シャツへと手をかけた。

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