ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜
火の復活(シン編)
シンとチャーラはジュエリニアの大通りで話していた。
「これから風の国に向かいます、風の国は違う大陸にありますし、直線に他の都市は無いので風魔法で向かいたいと思います」
「そんな高度な風魔法を私は使えないよ?」
「魔力の操作を練習していたので二人ぐらいなら一緒に飛べるはずです」
「本当!? 私、一回でもいいから空を飛んでみたかったんだ!」
シンの言葉で心底嬉しそうにチャーラがとび跳ねた。
そして、シンは念のために隠蔽魔法をチャーラにもかけ、風魔法で浮遊する。
「これで他の人からは見えないはずです」
「凄ーい! 本当に飛んでる」
チャーラがシンの話を聞かずに空中で足踏みをする。
シンは小さくため息をついてから風の国に向かった。
「凄い速さだね、馬車とか船より何倍も早く着きそう! ……そういえば、何でシンは私のところに馬車で来たの?」
「本当ならチャーラさんを迎えに行くときも使おうとしていたんですが、その場合は魔力操作が練習できなかったので帰りは馬車になっていましたね」
「そうなんだ……私も運が良かったみたいだね」
シンとチャーラはこの後も風の国に到着するまで他愛のない話を続けた。
◆
風の国の門の前に着陸すると、そこにはクルスと従者のファーム、幾つかの騎士が出迎える準備をしていた。
予定よりもはるかに速く到着したのにもかかわらず、準備ができている事にシンは驚きを覚えた。
「早かったな、突然近くに現れたから驚いたぞ」
「何でいることがわかったんですか?」
「それはな……」
クルスがファームの方を向くと、騎士から渡された箱をファームが開けた。
その箱の中には水晶玉があり、薄く輝いていた。
「これは隣にいるチャームが作り出した神具だ、神玉を持っている者が近くに来れば光るようになっている」
「なるほど……」
シンは神具の水晶玉をマジマジと見ながら納得した。
そんなシンの隣に立っているチャームは真剣なまなざしでクルスを見たいた。
「はじめまして……かしら?」
「いや、父上の時に一度だけ会っている」
「覚えているんだ、あの時は凄く小さかったから覚えてないと思ってたよ」
チャーラが薄い笑顔を浮かべながら頭を下げた。
クルスがチャーラの言葉を否定すると、チャーラはすぐに頭を上げた。
「風の国の誓いを果たしに来たよ……100年前の約束通りに……」
「感謝する」
チャーラがポケットから指輪を取り出してそう言った。
その言葉を聞いたクルスは頭を下げる。それと同時に従者や騎士も深く頭を下げた。
「そんな堅苦しくならないでよー、それで? 戦争には協力するけれど、具体的には何をすればいいの?」
「俺への契約の結びなおし、それと風刀エアの契約解除を頼みたい」
「……」
チャーラが笑いながら質問をすると真剣な表情でクルスが答えた。
クルスの返答によってチャーラの顔から笑顔が消えた。
「クルス……」
「何だ?」
「あなたは戦争にどの程度干渉する気なの?」
二人の神玉使いの真剣な雰囲気で空気が張り詰める。
その異様な空気を悟ったシンは水晶玉から二人へと視線を移動した。
「心配するな、神玉をなくしてまで過度な干渉はしない、だが俺が戦争の舞台に立てば奴は現れる、俺はそう考えている」
「……レイドと戦うつもりなの?」
「……」
チャーラの質問をクルスは無言で返した。
その無言から何かを悟ったチャーラは小さく頷いた。
「言っても聞かなそうだね……仕方ないからクルスに従うよ」
「感謝する」
チャーラが諦めた表情を浮かべながらそう言った。
クルスと従者たちは再度チャーラに深く頭を下げた。
「……シンにも感謝しよう、約束通り戦争時にはジュエリニアを守り通す事を誓う」
クルスは頭を上げるなりシンの方向を向いて目を見ながら握手を求めた。
シンも差し出された手を握って、クルスの誓いに応えた。
「シンを待っている者がいる、ここから西に行った場所で待つと言っていた」
「待っているものですか……?」
シンは頭を回転させて待っていそうな人物を頭の中から探す。
(アルカか? いや、ジュエリニアにいるはずだしな、トーマスもない、わざわざこの場所に来ている……全く見当がつかないな)
シンは頭をかきながら悩んでいた。
そんなシンを見たクルスはシンのん背中を叩いた。
「行けば分かる、考えてるぐらいなら正解を見てこい」
「……それもそうですね」
シンはそう呟いて、一礼をし、西へと向かった。
クルスとチャーラはシンを見送った後に、王城へと向かった。
◆
シンが風魔法で西に向かってから少し経つと草原に立つ二つの人影を見つけた。
風を操り地面に着地したシンは待っていた人たちに話しかけた。
「まさか貴方だとは思いませんでした、ベールさん、それとアルカ」
「お久しぶりです、シンさん」
「二年ぶりだな、シン」
草原にいたのは魔道具なしで立つベールと、木の陰に立っているアルカだった。
剣を腰に掛けており、魔道具なしで立つ姿にシンは少し驚いていた。
「誰かに直してもらったんですか?」
シンがベールを直した際には剣を持って立つことはおろか、魔道具が無ければ手も握れなかったと認識していた。
しかし、目の前にいるのは重い剣を腰に掛け普通に立っているベールの姿、誰かに直してもらったと考えるのが合理的だった。
「……シン、俺と戦え」
「えっ……?」
ベールの突然の言葉にシンは思わず声を出してしまう。
「いきなりどうしたんですか?」
「俺と戦え、ただそれだけだ」
「でも、体の方は……」
「言っても無駄なら……俺から行く!」
ベールが腰の剣を抜いてシンに襲いかかる。
キレのある攻撃に驚きながらもシンは風魔法で距離を取った。
「いきなりなんですか」
「戦いが始まったら話は必要ない!」
ベールはそう叫びながらシンとの距離を詰めた。
その殺気の籠った本気の攻撃を見たシンは魔力を集めて臨戦体勢を取った。
「【炎の精霊剣】」
ベールの掌が剣に触れた瞬間、剣に炎が纏い始めた。
その剣で襲いかかってきたベールにシンが人差し指を向ける。
「戦術級水魔法【水槍の雨】」
「炎精霊剣技【炎舞】」
シンが魔法を発動した瞬間、ベールの四方八方に水の槍が出現し、ベールに向かって発射した。
その水の槍の猛攻をベールは踊るような剣さばきで全て相殺した。
「本気なんですか?」
「話はいらないと言っているだろ!」
シンが本気のベールを見て質問をした。
しかし、その質問を無視してベールはシンに襲いかかった。
「アルカは良いのか!? 兄が無茶するのを止めはしないのか!」
シンが勝負を黙って見ているアルカの方を向いて叫んだ。
アルカは握っている手を震えさせながら答えた。
「シンさん、お願いします! ベール兄様と戦ってあげてください!」
「本気なのか……」
予想とは反対の言葉に歯を食いしばりながら呟く。
そんなやり取りをしている間にベールは既に間合いまで詰めていた。
「炎精霊剣技【炎連斬】」
「上級土魔法【硬土壁】」
ベールの鋭い連撃をシンは土の壁を作り出し防いだ。
目の前に出現した土の壁に驚きもせずベールは攻撃を続けた。
「炎精霊剣技【炎重斬】」
ベールが剣を後ろに引き体全体を使って重い一撃を放つ。
その強力な一撃によりシンが作り出した土の壁が粉々になった。
「くっ……」
シンは粉々になった岩と剣に纏っている炎の熱に襲われる。
目の前にいる殺意の籠った目をしているベールを改めて見て、戦う決意をした。
「後悔、しないでくださいよ」
シンが拳を強く握りながらそう言うと、体から出る魔力が膨れ上がった。
その戦闘合図とも取れる様子にベールは思わず笑顔になった。
「やっとやる気か、炎精霊剣技【炎連斬】」
「上級風魔法【風避】」
ベールが一瞬で二回目の前のシンを攻撃した。
しかし、攻撃が当たったシンは風で作られた偽物で、本物は6mほど後ろに移動していた。
「炎精霊魔法【炎龍】」
シンを見つけたベールは手を向けて魔力を溜め、魔法を放つ。
ベールの手から大きな炎の龍が出現し、シンに襲いかかった。
「水精霊魔法【水龍】」
シンが二本指を放たれた炎の龍に向けて、魔法を放つ。
水の龍が出現し、炎の龍と当たった瞬間、水が一瞬で水蒸気になり爆発を起こした、
「……!」
離れた場所にいたアルカですら爆風に襲われ腕で顔を隠した。
そんな爆発の中に躊躇なくベールは突っ込み。シンとの距離を詰めようとしていた。
「本気を出してもらうぞ、炎の力よ、今こそ解放しろ」
「なっ……!?」
シンは聞き覚えのある詠唱を耳にして思わず声を出す。
ベールの周りに炎の精霊が集まり、炎へと変化する。
「【勇者解放】」
ベールの髪と目が真っ赤に染まり、剣身と目の上の模様が赤く輝きだす。
【勇者解放】という言葉を聞いたシンは額に汗を流した。
(どういうことだ……前に会った時には模様はなかった、俺が旅をしている時に手に入れたということだ、だが体が治っていない状態で神玉を得るチャンスもなければ、直した精神で神玉に耐えられるはずが無い……一体どうなってんだ……!)
シンはそんな事を考えながらも魔力を高めていく。
前から向かってくる神玉持ちの敵の攻撃に備えて。
「炎精霊剣技【黒炎斬】」
剣身が紅い剣の周りに黒い炎が纏わりついた。
その攻撃を体を後ろにそらしギリギリ回避し、下からベールの腹に人差し指を向ける。
「上級雷魔法【雷撃】」
「炎精霊剣技【火流し】」
ベールが体を捻りながら炎の道を作り出し、雷を通らせ、横に受け流した。
そして捻りを無駄にしないように、そのままシンを攻撃した。
「上級無属性魔法【障壁】」
ベールの攻撃に反応し、シンが二本指を向けて魔法を発動する。
シンの魔法によって魔力の壁が発生し、ベールの攻撃を防いだ。
「炎精霊魔法【黒炎渦】」
攻撃を防がれたベールは魔力の壁に剣を突き立て魔法を発動する。
剣を中心とした黒い炎の渦が発生し、魔力の壁を粉々にした。
「炎精霊剣技【黒炎槍】」
魔力の壁が無くなったことにより突き立てていた剣の先端がシンに襲いかかる。
ベールが剣技を発動した瞬間、黒い炎の渦が剣に纏い、黒い炎の槍を作り出した。
「戦術級闇魔法【闇渦】」
シンが三本指で闇の渦を作り出した。
目の前にできた闇の渦によってベールは上空へと吹き飛ばされる。
「やらなきゃやられるか……死んでも恨まないでください、災害級雷魔法【雷龍】」
シンが右手を大きく広げて魔法を放つ。
その手から出現した大きな雷の龍は上空にいるベールに容赦なく襲いかかる。
「黒く燃えろ【黒炎龍】」
ベールが剣を鞘の中にしまい、両手を向かってくる雷の龍に向けて魔法を放つ。
両手から放たれた黒い炎の龍はシンが放った雷の龍を相殺した。
「完全に魔力を解放していないとはいえ五本指だぞ、相殺されるとは完全に想定外だ……」
シンが相殺された自分の魔法を見ながら小さくつぶやく。
そんなシンとは反対にベールは冷静に着地した。
「神玉を解放せずに互角か……やはりシンの方が何枚も上手か」
ベールが呟くと同時に溢れ出る殺気を収めた。
その様子をシンは警戒しながら見ていた。
「いきなりすまなかった、神玉使いとしてシンの実力を知っておきたかった」
「そうなんですか、びっくりしましたよ」
嘘をついていないことを目から確認したシンは警戒心を解いた。
そして張り詰めた空気から抜け出したのか、深く息を吐いた。
「ふぅ……それにしても神玉なんてどうしたんですか?」
「それはだな……」
「シンさん! ベール兄様! 大丈夫ですか!?」
ベールが説明を始めようとした瞬間、アルカが心配するような表情をしながら向かってきた。
「後で話す事にしよう、時間のある時に」
「そうですね……」
シン奈ぱいそうな顔をしているアルカを近くで見た2人は暗い話をしまいと笑ってそう言った。
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