ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

戦争(シン編)

 
「ついに着いたか……」




 シンは馬車から出て到着した街並みを眺めて呟く。
 一年間と言う長い年月を費やし目的地の南の都市サウスに到着した。




「時間があるわけじゃないからな、契約の神玉使いを早く探さなければ……」




 シンがそう呟いて町の大通りを歩き出した。
 その瞬間、シンは後ろから何者かに肩を掴まれた。




「……シンさんですね?」


「……何者だ」




 肩を掴まれるほど近い距離になるまで認識できなかったと言う事実でシンは警戒心を上げた。
 シンが低い声で威圧するように掴まれた手を握りながら言った。




「契約の神玉使いを探しに来たのでしょう?」


「……本当に何者だ?」


「これを見せればわかりますか?」


「……!?」




 正体不明の人物が長い袖を捲ると、腕の部分に神玉の模様があった。
 その模様を見たシンは全てを察して、警戒を解いた。




「そうか……あなたがチャーラさんですか」


「正解、長い旅で疲れたでしょう? 私の家に招待するよ」




 チャーラはシンにそう言って、大通りを歩き始めた。
 シンはそんなチャーラの後ろについて行った。




「ここが私の家、見た目は綺麗だけど中は散らかってる期待しないでね」


「はぁ……」




 シンは案内された予想以上に大きい家に感動して声を漏らした。
 二人はそのまま家の中に入り、玄関から一番近い部屋に入った。




「えーと、椅子はここかな……この本は……いいや、横にどかしておけば」




 部屋の中は整理整頓がまったくされておらず、服や紙、本などが床に散らばていた。
 椅子の上に置かれた本をチャーラが適当にどかしてシンに座るように指示をした。




「座っていいよ、散らかってるけど汚くはないから」


「はい」




 シンは指示に従って目の前の椅子に座った。
 そして周りにある大量の本を感嘆のため息を漏らしていた。




「じゃあ、何から話そうか、倉間 真さん」


「……なんで名前を知っているんですか?」




 シンは旅に出たときに見つけた手紙を見たときからの疑問をぶつけた。
 チャーラは薄い笑みを浮かべながら返答した。




「手紙は見たんだよね?」


「はい、一応目は通しました」


「なら私の能力は知ってるよね」


「【契約】と星の瞳ですか」




 チャーラは被っているフードをはずしてシンに目を見せた。
 その目は銀色で神秘的な雰囲気を醸し出していた。




「そう、この星の瞳でシンの情報を調べさせてもらったってわけ」


「そこまで強力なんですか?」




 元々、シンはこの世界の住人じゃない。
 そのことからシンは星の瞳は前世まで見れないと考えていた。




「普通の星の瞳じゃ世渡人の前の情報は見れないよ、でも私は特別だからね」




 チャーラは自慢げに、でもどこか悲しそうに言った。




「こんな話してても進まないからね、私に何か用があって来たんでしょ?」


「はい、風の国の王クルス・ゼフィロス様からの伝言を伝えに来ました、風の国の誓いを今こそ果たしてくれ、とのことです」


「……もう来たんだ」




 シンはクルスからの伝言をチャーラに伝えた。
 伝言を聞いたチャーラは小さく暗い顔で呟いた。




「戦争が始まるようだけどシンはどうするつもりなの?」


「チャーラさんは私の目的も知っているのですか?」


「そうだね……何のためにかは知らないけど神玉を100個全て集めようとしているのは知っているよ」


「戦争が起きれば神玉使いはでてくるのでしょうか?」




 シンはクルスのことを思い出しながら質問をした。
 クルスのように勇者ではない物が神玉を持っているのならば戦争に出てくると考えたからであった。




「必ず出てくる、今回の戦争はいつもと違う」


「いつもと……?」


「シンなら知っているでしょ? 何度もこの世界は同じ戦争をしているって」


「はい、ですがいつもと違うというのは?」


「今回の戦争は魔族を倒していないのに行われる」




 シンは「魔王」という単語を聞いた瞬間に小さい頭痛に襲われた。




「普通なら魔王や幹部を倒すのに神玉使いが動いて、魔族を殲滅するために人族が消耗する。その状態で行われる戦争は規模が小さい、参加しない国も多いからね」


「今回は休戦条約で消耗する前に終わってしまった……」


「そう、今回の戦争は歴史で一番大きい戦争になる。それがわかっている国や神玉使いはここぞとばかりに出てくるはず」




 チャーラの言う通り人族側は余力を残した状態でいる。
 今の状態で戦争が起きたとしたならば全ての国が参加する可能性が高かった。




「神玉を持っているのは勇者だけ、と言うのは混乱しないための情報操作、国のトップ達は神玉の存在を知っている者が多い。世界の仕組みまでは知らないけれどね」


「この戦争で神玉の奪い合いも行われるといことですか……」


「とはいえ、参加してくる神玉使いは少ないだろうけどね、人の下に付くような存在じゃないからね」


「参加する神玉使いはどんな人がいるのでしょうか?」


「そうだね……」




 シンに質問されたチャーラは思い出すかのような仕草で説明を始めた。




「一人目はクルスだね、ゼフィロス様が干渉を嫌うから大技を一発、二発ぐらいしかやらないだろうけどね」


「……あのレベルが二発ですか」




 実際にクルスの本気の一撃を見たシンはとっさに被害を考えてしまった。
 神玉使いでもない者が直撃すれば何も残らないであろう強力な一撃。




「二人目は金属の神玉使いガーべ・メタル、ガーべは単体性能は高いけど戦争となると王様を守ることに集中するはず」


「金属の神玉使い……」


「三人目は緑の神玉使いジール・クロノス、固有魔法の一種の植物魔法のエキスパートだね」


「緑の神玉使い……」




 シンはチャーラからの情報を頭の中にメモした。




「この三人ぐらいかな普通に出てくるとしたら」


「普通に……? 普通じゃない場合があるのですか?」


「うん、少し未来を曲げる可能性のある存在がいてね、そいつがどう動くかによって全てがひっくり返ることもあり得る」


「そんな奴が……一体、どんな存在なんですか?」




 未来を曲げると聞いたシンは悔い気味に質問した。
 その質問をされたチャーラは笑みをこぼしながら返答した。




「シンも知っている人物だよ」


「私が知っている人物……?」


「そう、その名前はレイド、反逆の神玉使いレイド・ロキ」


「レイド……!」




 シンはレイドの名前を聞いた瞬間、拳を強く握った。
 目標は違えど目的は同じ、神玉を全て集めるための最大の障害になりえる存在。




「レイドだけは私の目でも集中しないと見えない、加えてレイドが動くたびに未来が大きく変わる、レイドがもし戦争に参加したとなれば神玉使いが集まる可能性も十分あり得る」


「神玉使いが集まった場合はどうなるんでしょうか?」


「……考えたくもないような悲惨な結果になる、私の目で見た最悪の結末より酷い結末に」




 チャーラは拳を強く握りながらそう言った。




「シンはレイドと対面して何か感じた?」


「そうですね……強い、その一言が一番似合うような人物でした」


「レイドには勝てそう?」


「……今の私なら確実に勝てると思います」




 シンは自信満々にそう宣言した。
 三年前のシンに比べ今のシンは全てが勝っている。
 レイドがいくら強いとはいえ、負けることはないと思っていた。




「会ったのは三年前だっけ?」


「そうですね、それぐらい経ったと思います」


「じゃあ、知らないだろうけど、今のレイドはクルスより強いよ」


「……!?」




 チャーラの言葉にシンは衝撃を覚えた。
 旅の出発前に力の差を教えてきたクルスよりも強いという情報はにわかにも信じられなかった。




「今のレイドは最低でも合計で3つの神玉を持っている、反逆と破壊と剣の神玉を」


「三つ……」


「しかもその三つはレイドとの相性が凄くいい、ステータスの上がり幅が尋常じゃないはず……でも、シンなら勝てる可能性もある」


「そうですか? 私はクルス様に負けているのですが」


「被害を気にしなければの話、シンはクルスとの戦闘で力を制限していたでしょ?」


「………」




 シンは図星をつかれて沈黙してしまった。
 実際に、シンは本気を出せば天災級まで使うことができた、しかし天災級を使えばジュエリニアにも少なからずの影響が出ると考えたシンは力を制限していた。




「シンが本気でやればクルスよりも強い、ただしクルスが【神玉解放】を長時間使えるようになったら話が別」


「【神玉解放】ですか……」




 シンは【隕石メテオ】を破壊された時のことを思い出した。
 爆発的に力が上昇し、たったの一撃で魔法を相殺された事を。




「一年前のクルスは長時間使えなかったけど、今はどうかわからない」


「なら、私は勝てないようですね」


「そんなことはない、シンも【神玉解放】を使えるはずだよ」


「私がですか……?」




 シンは心の底から疑問を感じた。
【神玉解放】を使えるようになった変化などが感じられなかったからだ。




「シンは魔法の神玉をメインに使ってるでしょ? 魔法の神玉は魔力の操作が上手くなれば【神玉解放】を使えるはず、一年間ずっと練習していたシンが使えないはずが無い」


「本当でしょうか?」


「本当、本当、実際に使ってみれば?」


「え……? しかし、こんな都市の中で実験するわけには……」


「安心して、私が何とかするから」




 チャーラはそう言って椅子から立ち上がり壁に手を置いた。
 そして目を瞑ると、腕の模様が光り出す。




「[契約内容]神の力を通さない、[対価]二年……【契約】」




 チャーラがスキルを発動した瞬間、壁が光り出した。
 その光はすぐに収まり、見た目は普通の壁に戻った。




「これでシンが【神玉解放】を使っても外に影響はないよ」


「本当ですか?」


「私のこと信じてよ」




 チャーラが笑いながらそう言った。
 シンはそんなチャーラの目を見て嘘をついていないことを確信した。




「チャーラさんは大丈夫なんですか?」


「うん、私も一応神玉使いだからね」


「……お言葉に甘えて、試させてもらいます」




 胸を張って言ったチャーラのことを信頼してシンは目を瞑る。
 そして、体の中に押さえてある魔力を静かに外に出し始めた。




「落ち着いた魔力……粗ぶりが少しもない……」




 シンの洗練された魔力に驚き、感嘆のため息を零すチャーラ。




「【神玉解放】」




 シンの手の甲に巻いている布の間から光が漏れだす。
 それと同時にシンの魔力量が莫大に増える。




「本当に使えた……」




 シンがそう呟くと同時に【神玉解放】が解除した。
 長距離走をやったかのような疲労に襲われたシンは呼吸を乱した。




「疲れたでしょ? 普通【神玉解放】は長い時間使えないからね、解放率がさらに上がれば持久力も上がると思うよ、今でどのくらい使えそうだった?」


「およそ3~5分ですかね、限界まで使った場合は立つこともできなさそうです」


「そう……それで【神玉解放】を使えるようになったシンは戦争にどう干渉するの?」


「私は……」






 ◆






 シンは早速、風の国に変えるために庭に出ようとした。
 その瞬間、後ろに控えていたチャーラがシンを止めた。




「待って、シンは空間魔法を使えるんでしょ?」


「はい、ですが長距離の移動は魔力が足りないので」


「【神玉解放】を使えばいけない?」


「そうですね……ギリギリかと思います」


「ならやってみよう!」




 チャーラが笑顔でそう言うと、シンは頷きもう一度【神玉解放】を使った。
 そして魔力を全て腕に集め魔法を発動する。




「空間魔法【転移テレポート】」




 シンとチャーラは一瞬でその場所からいなくなった。
 そして次の瞬間、シンの目に映ったのはジュエリニアの街並みだった。

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