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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

英雄(シン編)

 
 ミカエルとグリードにシンが会ってから3ヶ月、シンはある都市に泊っていた。
 その都市は【聖都エクス】と言う都市で、悪魔や魔族の討伐に特化した宗教団体が国の軍隊として動いている。




「とりあえず……これはどういう状況だ?」




 槍を持った白い服を着た教徒に囲まれたシンは呟く。
 都市に入り馬車から下りるなり、教徒がいきなり現れ囲まれていた。




「あなたからは神の力を感じます! 一体何者ですか!?」




 シンの正面に立っている手の震えた若い男がシンに質問をした。
 その質問の答えをシンを囲んでいる教徒全てが静かに待っている。




「神の力だと? 何のことだがわからないんだが」


「嘘をつくな! 教皇様がおっしゃったんだ! もうバレているぞ!」


「毎回同じ質問と回答を繰り返せばいいんだ?」




 シンは都市に来てから、この質問と回答を10回以上していた。
 流石に面倒くさくなってきたシンは、敬語が崩れていた。




「あなたが正直なことを言わないからでしょう!」


「正直に言っている、本当に知らないんだよ」


「教皇様が嘘などつくはずありません! 教皇様を侮辱するのは許しませんよ!」


「してないだろ……」




 魔法で吹き飛ばすことができるが風の国の貴族として着ている以上、問題を起こすわけにはいかなかった。
 シンは退屈したように体を伸ばして欠伸をしていた。




「ふぁ……そろそろ通してもらえないか?」


「正直に言うのでしたらお通ししますよ」


「さっきから正直に言ってるはずなんだがな」




 シンが何度言っても、教徒たちは信じてくれなかった。
 時間の無駄だと感じたシンは都市に泊るのを諦めようとした瞬間、遠くから誰かが歩いてきた。




「衛兵から聞いたが何をしているんだ?」




 シンを囲んでいる教徒を押しのけてシンに近寄って来た。
 そいつは目がオッドアイで、短髪で綺麗な金色の髪、普通ではないオーラを纏っていた。




「アーサー様!」


「何をしてるかと思ったら、また一般人と問題を起こしているのか?」


「いえ、教皇様が神の力を持っている男が来ると言ったので……」


「神の力だと……」




 アーサーと呼ばれる男はシンの方に綺麗な目を向けた。
 シンは自分の内側を見られるような違和感を感じ、薄く隠蔽魔法をかけた。




「……俺が責任を持つ、お前らは他の仕事をしろ」


「し、しかし……」


「教皇には俺から話しておく、だから戻れ」


「わ、わかりました!」




 アーサーがそう指示を出すと教徒たちは一礼をしてからシンの近くからいなくなった。
 そしていなくなったことを確認したアーサーはシンに近寄り話しかけた。




「さて、俺についてきてもらっていいか?」


「一国の王子に頼まれたら仕方ないですね、ついて行きましょう」


「……なんで俺が教会の人間じゃないとわかった?」




 アーサーはエクスの王子、その事実は他の国には知られていない。
 王子の名前や顔は機密情報とされている。しかし、シンはトトからの情報で知っていた。




「オーラですよ、オーラ、気品溢れる佇まいからは王族を彷彿とさせますからね」


「……そう言うことにしといてやろう」




 アーサーは薄く笑ってシンに背を向け歩き出した。
 シンはそのアーサーの後ろについて行った。






 ◆






 エクスの中心にある王城に入ったシンとアーサーは広い部屋に入った。
 そして部屋に入るなり、アーサーは椅子に座り、シンにも座るように言った。
 シンがアーサーの目の前にある椅子に座ったのを確認して、話を始めた。




「自己紹介から始めようか、俺の名前はアーサー・ペンデュラム、聖都エクスの王子だ」


「私の名前はシン、戦争から逃げてきた貴族です」


「貴族なのに家名が無いんだな」


「戦争から逃げると言う泥を家に塗るわけにはいきませんから」


「そうか……建前は終わりでいいぞ、神玉使い」


「……」




 シンが笑顔で自己紹介をすると、手を叩いてアーサーが笑いながら言った。
 アーサーの言葉でシンは笑顔のまま無言になる。




「神玉とは一体……」


「とぼけるな、神玉を持っているというのはわかっている。手の甲に巻いている布で模様を隠しているんだろ?」


「一体何の話をしているのかわかりませ……」




 シンが笑顔のままそう言った瞬間、シンの手の甲に巻いてあった布が切れ、床に落ちた。
 露わになった手の甲には神玉使いの証とも言える、模様があった。




「これで言い訳はできないな、神玉持ち」


「……神玉についてどこまで知っているのですか?」


「大して知りはしないさ……ただ俺も持っているだけだ」




 アーサーが高級そうな上着を脱いで鎖骨の場所を見せる。
 そこには模様があり、シンにはそれが神玉の模様だと言うことがわかった。




「神玉を持つのは勇者だけとされているが、そんなことはない、才能があり神に認められれば持つことができる、普通は知らないがな」


「あなたには嘘は通じないようですね……神玉持ちが私に何の用ですか?」




 シンはいきなり戦闘が始まることを想定しながら質問をした。




「別に? 何も無いさ、ただ仲間と初めて会って話してみたかっただけだが」


「……戦いはしないんですね?」


「何で戦うんだ? 神玉持ち同士仲良くすればいいじゃないか」




 アーサーは敵意のない様子で当たり前のことを言うかのようにシンに言った。
 その嘘のない様子にシンは少しだけ警戒心を緩めた。




「知っているだろうが、この国は宗教国家だ、神を心から信じている者が大半を占める」




 アーサーの言う通り、エクスは宗教で成り立っている国家。
 エクスの国民の95%が同じ宗教に信仰しており、その宗教を信仰しない者は犯罪者と同様に扱われる。




「そんな国に神玉使いがいたら、敬われるか力を狙われるかの二択しかない。実際にお前は力を狙われただろう?」


「……」
(俺は狙われていたのか……何度説明しても通してくれないと思っていたが、力を奪おうとしていたわけか)


「この国は貴族よりも教皇の方が偉い、流石に王族は一番上の立場だがな……まぁ、せっかく見つけた仲間を手放したくなかったんでな、招待させてもらったわけだ」


「なるほど……事情はわかりました」




 シンはアーサーの目を見ながら話を聞いていた。
 目を見れば嘘をついているかわかるシンにとってアーサーは信頼できる人物になっていた。




「シンは何日ぐらい滞在するんだ?」


「明日の朝には出発します、少し急ぐ用事があるので」


「そうか……それは残念だ、もっとゆっくりして欲しかったんだがな」




 アーサーは心底残念そうにつぶやいた。




「……そうだ、シンって何の神玉を持っているんだ? ちなみに俺は英雄の神玉だ」


「私は魔法の神玉ですね」




 本当ならば隠す神玉の種類をシンはアーサーに伝えた。
 アーサーが最初に教えてきたことにより、シンは伝えても問題ないと判断していた。




「魔法……なら魔道具を作れるのか?」


「魔道具ですか……作った事はありませんが知識はあります」


「なら作ってみないか? 欲しい魔道具があってな」




 アーサーはそう言って棚から紫色の宝石が埋め込まれたイヤリングを取り出した。
 その紫の宝石からは魔力がかすかに感じられた。




「これは……?」


「魔石だ、これは紫だから二級魔石だな」


「これが魔石ですか、はじめて実物を見ました」




 魔石とは魔力の溜まった石のことを言う。魔道具を使う際に使用される。
 色によって品質が決まり、五級魔石から特級魔石まである。




「知ってはいるだろうが説明しておく。魔道具の作り方は魔石に付与をするだけだ。例えば、魔力が流されたときに魔道具を浮かすとかな」


「付与の仕方は確か、魔法陣魔法と同じ要領でしたよね」


「そうだ、魔法陣魔法は血や羽ペンやらで書くが、魔石に書くときには魔力で書く。これができるのが世界にあまりいなくてな天然物の魔道具しか無いんだ」




 魔道具には人工と天然がある。天然は魔力濃度が高い場所に魔石を入れることによってランダムに付与をすることができる。
 人工の魔道具は作れる者こそ少ないが、作りたい魔道具を意識的に製作可能な上に性能も優秀なので、人工者は価値が高い。




「神玉を持っている程なら作れるだろう? 魔石はたくさんある、失敗をしてもかまわない」


「……どんな魔道具を作ればいいのですか?」


「右耳に動体視力強化、左耳に身体能力強化で頼む」


「ちなみに報酬は?」


「そうだな……何が欲しい? 金か? 土地か?」




 シンがアーサーの目を見ながら質問をするとアーサーは笑いながら質問を質問で返した。
 その質問でシンは少し考えた後に返答した。




「確か光魔法の種類の一つ、災悪級の魔法の本がありますよね? それを見せて頂けませんか?」


「魔法か、見せるだけなら構わないが、詠唱は本一冊分だぞ? いいのか?」


「問題ありません、見せて頂ければ」




 シンがトトからもらった情報の中には光魔法の知識だけが異常に少なかった。
 そしてシンはスキルによって魔法を理解することができれば詠唱省略ができる。
 一瞬でも目に通せば覚えることのできるシンにとっては見ることができるだけでよかった。




「なら交渉成立だな、魔道具を作っていてくれ、俺は本を持ってくるとしよう」


「わかりました、ありがとうございます」




 アーサーは棚から多くの紫色の魔石を取り出して机の上に並べた。
 それだけシンが失敗すると思っていたからだ。机に並べたアーサーは本を取りに行くために退出した。




「魔道具の作成か、魔法陣を書く練習なら馬車の中でたくさんしてきたから大丈夫なはずだ……」




 シンは魔石を左手で握って目を瞑る。
 そして魔石の中に魔法陣をかくようなイメージをしながら魔力を送り出していった。




(魔力が集まっているせいか魔法陣が安定しやすいな、イメージしたとおりに魔法陣が作れる……)




 シンは魔力を魔法陣にしていき一つの魔石に頼まれた二つの付与を施そうとした。
 しかし、途中で魔力の供給ができなくなり魔法陣が中途半端になってしまった。




「うん……?」




 シンは魔力の供給が強制的に中止させられたことに疑問を感じた。




(そうか……付与できる魔力は限られているのか、一つづうつにしか付与ができなさそうだな)




 シンは糸つの魔道具に二つ付与するのを諦めて一つづつ確実に作った。
 少ししてアーサーが部屋に戻ってきた時には既に魔道具は作り終わっていた。




「随分と早いな、本当に初めてなのか?」




 アーサーができた魔道具のイヤリングを持ちながら声を漏らした。
 早速渡された本を読んでいるシンはアーサーに一つ質問をした。




「この魔道具が無くとも神玉があればいいと思うのですが、何故作らせたのですか?」


「今の俺の英雄の神玉は戦闘面では大した活躍が無い、カリスマ性や運が上がる程度だからな、生憎、俺は普通に闘えるから補助が必要だったわけだ」


「なるほど……それは戦争の為ですか?」




 シンが本をいったん閉じて真剣なまなざしを向けながら聞いた。
 アーサーは手に持っているイヤリングを机の上において返答をした。




「戦争か……本当ならば俺は同じ種族同士での戦争はしたくない、しかし、国を守るためにも戦う必要がある」


「その戦争は避けられないのですか?」




 シンは前世の知識で知っている。戦争がろくな結果を生まないことを。
 アーサーは経験で知っている。戦争が悲しみしか生まないことを。




「歴史は繰り返す、魔族を倒せば人間同士が争い、人間同士にケリがつけば次は亜族と戦う、戦争は終わらない」


「誰かが言っていました、歴史から学べるのは人間は歴史から何も学ばないってことだと」


「はっはっはっ……ユーモアの効いた人だな、その通り、人間は何も学ばない」




 シンとアーサーは話しあった、これから何が起こるのか、それの被害等を。
 その話し合いは朝まで続いた。二人ともどこか楽しそうだった。




「こんなに楽しいのは久しぶりだ、俺の家臣にしたい」


「それはたいへん光栄ですが、私には目的がありますので」


「そうか、実に残念、本当に残念だ」




 シンの勧誘に失敗したアーサーは残念そうに下を向いた。
 そして二人はやっと外が明るいことに気がついた。




「もう朝か、行ってしまうのか?」


「はい、急がなければ間に合わないかもしれないので」


「何が目的か……それを聞くのは野暮だな、目的を達成したらまた来てくれ、歓迎しよう」


「わかりました、できれば私もアーサー様の敵にはならないことを祈ります」




 戦争は誰が敵になってもおかしくない、もちろんシンとアーサーも。




「そうだな、俺もお前とは戦いたくない」


「……アーサー様とのお話、楽しかったです。またいつか……」


「本当に送っていかなくて大丈夫か?」


「アーサー様といると人ごみに巻き込まれてしまいそうですしね」




 アーサーはこの国の王子で人気が高い。その理由として会話の最中にも何人かの女性が部屋を訪ねていた。
 そんなアーサーといては人ごみに巻き込まれると考えたシンは見送りを遠慮した。




「では、お元気で」


「あぁ……それと最後にこれを持っていけ」




 一礼をして部屋から出て行こうとしたシンにアーサーが何かが入った袋を投げ渡した。
 その中をシンが見てみると、たくさんの種類の魔石が入っていた。




「三級魔石から少ないが一級魔石も入っている、話に付き合ってくれたお礼だ」


「ありがとうございます」


「じゃあな、また会おう」


「はい、アーサー様もお体に気をつけて」




 シンは再度一礼をして部屋から出て行った。
 部屋から出て行ったのを確認したアーサーは机の上のイヤリングを耳に付けた。




「シン……か、聖剣を使っても勝てなさそうなのは初めてだったな」




 アーサーは小さく一人で呟いた。

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