ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

龍族(シン編)

 
 村を出てから約二ヶ月、山岳地帯をシンを乗せた馬車は走っていた。
 未だにシンは馬車の中では魔力の練習をしていた。




「魔力の操作も慣れてきたな……」




 シンは体を伸ばしながらそんなことを考える。
 そして外を見ながら少し前のことを思い出す。




(ルージュに会ってからランクの低い魔物としか戦闘していないからな、サウスで戦闘が起きる可能性もないわけじゃない、俺も強くなったとはいえ魔法での話、近接もできないことはないが特化してるやつには手も出ないだろう……俺が勝つためには魔法を工夫するしかない)




 シン目を瞑りながら魔力を高めていく。
 高い魔力を自分の体に抑え込む練習をしているのだった




「……上級無属性魔法【障壁】!?」




 シンは外から感じた力に驚きながら、とっさに魔力の壁を作り出して防ぐ。
 馬を巻き込まないようにするために馬車の中から飛び出した。




「空間魔法【ゲート】」




 シンは外に出ると同時に空間魔法で馬を異空間にしまった。
 そして攻撃を放ってきた敵を見るために空を見た。




「予想以上の大物が釣れたな、ドラゴンか」




 空にいたのは三体の大きなドラゴンだった。
 シンが笑っているとドラゴンは口から一斉にブレスをシンに向けてはなった。




「ガギャァァァ!!」


「上級無属性魔法【障壁】」




 三体のドラゴンのブレスが混ざり凄まじい威力のブレスがシンを襲った。
 シンは人差し指を向けて魔力の壁を作り出しそのブレスを防いだ、シンが防いだ場所以外の地面は熱によって少し溶けた。




「さすがドラゴンって言うところか」




 シンが余裕を見せながらそんな事を小さく呟く。
 そんな事をしているなどわからないドラゴンはもう一度ブレスを吐く。




「ガアァァ!」


「中級水魔法【水壁ウォーターウォール】」




 シンが人差し指を向けて魔法を発動すると向けている方向に水の壁が出現しブレスを防いだ。
 ブレスの熱によって水が蒸発していくが、シンの魔法は蒸発のスピードを上回った。




「上級雷魔法【雷撃】」




 シンの人差し指から放たれた雷が正面にいるドラゴンの翼を貫いた。
 翼を貫かれた怒りによりドラゴンが口を大きく開きシンに噛みつきに行く。




「戦術級雷魔法【雷流サンダーフロー】」




 シンは向かってくるドラゴンを無視して左にいたドラゴンに雷の塊を放つ。
 凄まじい速度の雷にドラゴンは反応できずに直撃し、地面に落ちる。




「中級炎魔法【火槍ファイヤースピア】」




 シンは未だに向かってくるドラゴンを無視しながら振り返り二本指を向ける。
 凄まじい大きさの火の槍が出現し、ドラゴンの胴体に大きな穴をあけた。




「さて、予想通りだったな」




 シンの目の前まで来ているドラゴンに向かって笑いながら呟く。
 ドラゴンの口の中にシンが入る瞬間、最初に放った【雷撃】がドラゴンの頭を上から貫いた。




「知能のないドラゴン程度なら俺でも読める」




 シンがそう言って馬車を出そうとした瞬間、山から一体のドラゴンが飛んできた。
 そのドラゴン黒く、先ほどの三体と比べ凄まじい大きさだった。




「ドラゴン……いや、この大きさは龍族か?」


「お主か? 我の同胞を殺したのは」


「そっちから攻撃してきたんだ、恨まれる筋合いはないと思うが」


「恨んでなどおらん、龍は実力主義だからな、負ける奴が悪い」




 シンが質問してきた大きな龍族にそう言う。
 龍族は吐き捨てるように冷たい声でシンに言った。




「じゃあ何しに来た?」


「なに、簡単なことだ、暇つぶしだ」




 シンが質問をすると龍族は不敵な笑みを浮かべながら答える。
 それと同時に龍族は段々と小さくなり人の形になった。




「人化……龍族の中でも上位種のようだな、成龍か?」




 人化した龍族にシンが質問をする。
 龍族の中にはドラゴンと龍と成龍が存在する。右に行くほど力が強く知能が高いと言われている。




「成龍、惜しいな、我は邪龍の一人ヴァラーグと言う者だ」


「邪龍だと?」




 成龍の中には生まれつき力の高い存在が生まれることがある。
 その龍族は必ず闇か光の魔法適性が高い、闇の適性が高い龍を邪龍、光の場合は聖龍となる。




「お前からはそこまでの力は感じられないが?」


「……確かに我は邪龍の中では中途半端な存在だからな、しかし、人族ごとき倒すのには十分だ」




 ヴァラーグがそう言いながらシンに襲いかかる。
 シンはその攻撃を軽く避け人差し指を向ける。




「上級雷魔法【雷撃】」




 シンから放たれた雷はヴァラーグの硬い皮膚を貫くことはできなかった。
 しかし、全身に電撃をいきわたらせ少し痺れさせるほどの効果はあった。




「ぬぅ……」


「戦術級爆裂魔法【業爆】」




 シンの人差し指から大きな爆発が発生し、痺れていたヴァラーグを吹き飛ばした。
 その瞬間にシンは何かの違和感に気が付いた。




「……何のつもりだ?」


「げほっ…げほっ……何のことだ?」




 シンは爆発で肺の部分を押さえているヴァラーグに質問する。
 苦しそうに咳をしながらヴァラーグは答えた。




「とぼけるな、邪龍にしては弱すぎる。なぜ手加減をしている」


「手加減などしていない、少し当てた程度で調子に……「ごまかすな」」




 ヴァラーグの言葉の途中でシンが入って邪魔をする。
 シンの言葉で笑っていたヴァラーグの顔が真剣な表情になる。




「お前からは確かに闇の魔力を感じる、しかし、光の魔力も感じる……邪龍には光の適性はないはずだ、何を隠している」


「……お主は随分と優秀な魔法使いのようだな」


「質問に答えろ」




 話を変えようとしたヴァラーグだったがシンの強気な言葉で黙らされてしまう。
 ため息をついてヴァラーグは頭をかく。




「お主は邪龍になる条件を知っているか?」


「……闇の適性が高いことだろ?」


「そう、聖龍は光の適性が高ければいい」


「いきなりなんだ」




 ヴァラーグの質問を仕方ないと言った表情でシンは答えた。




「お主が言った通り我には光も闇も高い適性がある。我は神龍としての才能があった」


「神龍だと……?」




 神龍……龍の神のような圧倒的な力を持つ龍。邪龍や聖龍の上位の存在とされている。
 その神龍は何億年に一度だけ埋めれる存在で、生まれたときには世界の破滅か世界の維持を行う。




「しかし、神龍の才能があった我は邪龍によって何度も殺されかけた……邪龍にとっては上位の種族が生まれるのは許せなかったらしくてな、我は何度も死を体験した、神龍の力によって死にはしなかったが死んだ分だけ力を失った、今の我には神龍になることはできない、神龍の力も一時的には使えるが使うたびに魂を削る」


「力を隠している理由は分かった、なら何故、俺に勝負を仕掛けてきた?」


「……神龍は寿命じゃ死なない、何度も転生する。転生しても魂は元に戻らない、つまり神龍の力を使えるのは限られている」


「死にたがっているのか? ならば神龍の力を一人で使っていればいいだろ」


「我にも龍としての誇りがある。命をかけるに値する戦いで死にたい」




 ヴァラーグが真剣な眼差しをシンに向けながらそう言う。
 そんな眼差しを受け取ったシンはヴァラーグに質問をする。




「それで、俺は最後の戦いに認められたのか?」


「……人族だから可能性は低いと思っていたが、お主ほどの魔法使いならば良いのかもしれないな」


「それはありがたい」




 シンは苦笑いをしながらお礼をした。




(神龍か……今の俺が本気で相手して勝てる相手なのか? いくら力が弱くなったとはいえ神の力だ、勝てなさそうなら逃げさせてもらうがな……)




 シンの魔力が一気に増幅し、ヴァラーグも含めた近くの動物もシンの魔力を感じられるようになる、近くから動物が一気にいなくなった。
 それほどの魔力量を放つシンを見ながらヴァラーグの表情はどこか笑顔に見える。




「これほどとは……お主が最後の相手でよかった」


「さぁ、見せてくれよ、神龍の力を」


「よかろう、ふぅ……ふぅ……」




 ヴァラーグが返事をすると同時に激しい呼吸を始める。
 完全な人の状態から一部が龍の形に変わっていき、体から光が溢れ出る。




「【神竜化】」




 ヴァラーグがスキルを発動すると同時に凄まじい光が一気にあふれだす。
 シンはその光で目を少し隠して光の眩しさに耐えた。




「【能力看破ステータスチェック】」




 まぶしさに耐えながら光の中心にいるヴァラーグに【能力看破ステータスチェック】を発動した。
 シンの頭の中にヴァラーグの情報が流れる。




「なっ!? ここまでの強さがあるとは……」




 シンは額に汗を流しながら歯を食いしばった。
 予想以上の【神竜化】したヴァラーグの力にシンは少し焦っていた。




(俺に勝てるのか……ステータスを見る限り逃げるのも不可能か、何とかして勝つしかないようだな)




 シンも何かを決意したかのような目に変わる。
 それと同時にまだ残していた余裕をなくしてシンも全力を出すことにした。




「魔法の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」




 シンからあふれる魔力が一瞬、爆発的に増えるがすぐに体の中に納まる。
 それとほぼ同時にヴァラーグからあふれていた光も収まりヴァラーグの姿が露わになった。




「神玉を持っていたか、やはり我の目は間違っていなかったようだな」




 そう言いながら光から出てきたヴァラーグは腕に金色の鱗と鋭い目があった。
 そんなヴァラーグからは神々しい雰囲気が溢れ出ており、何か落ち着くような雰囲気があった。




「では行くぞ、勇者よ、【竜の咆哮】」




 ヴァラーグの口から放たれたレーザーのような攻撃がシンを襲う。
 シンは目を見開いて、五本指全てを広げた右手を攻撃に向けて魔法を放つ。




「戦術級錬金術魔法【鉄壁】」




 シンの目の前に凄まじい大きさの鉄の壁が出現する。
 ヴァラーグの攻撃は鉄をも溶かすが、溶けると同時に鉄を復活させ何とか攻撃を防いでいた。




(五本指でギリギリかよ……)




 シンがそんな事を考えているとヴァラーグはいつの間にかシンの目の前に移動していた。
 攻撃の直前に気が付いたシンは五本指で魔法を発動させる。




「【竜の拳ドラゴンブロー】」


「戦略級闇魔法【超重力】」




 ヴァラーグの放ってきた拳だけに魔法を放ち、威力を集中させる。
 威力を集中させたことによってヴァラーグの拳は地面に当たる。
 ヴァラーグの拳が当たると同時に地面に凄まじい大きさのクレーターができる。




「ふざけた威力しやがって、戦略級雷魔法【落雷】」




 シンが苦言を呟き、顔を濁しながら五本指で魔法を放つ。
 天からヴァラーグに向かって雷が落ち、凄まじい音と共にヴァラーグを攻撃した。




「【竜の爪】」




 ヴァラーグは空中にいながらも体を捻じって下から凄まじい早さで爪でシンを攻撃する。
 クレーターができたことによって空中をさまよっているシンは避けられないと感じ、魔法を横に発動させる。




「戦術級闇魔法【闇渦】」




 シンが魔法を発動させたことによって横に黒い渦が出現し、空中にいるシンの体を攻撃から避けさせた。
 ヴァラーグの攻撃が空ぶると、攻撃した方向にあった山に大きな爪のあとができる。




「【竜の咆哮】」


「戦術級雷魔法【雷流サンダーフロー】」




 まだ空中にいるシンの方向を向いてヴァラーグがブレスを放つ。
 シンは両手を広げて正面から攻撃をぶつけて何とか相殺した。




(両手でも相殺がやっとか、もっと強力な魔法で少しづつダメージを与えていくしかなさそうだが、俺の魔力だって無限じゃない……)




 シンがそんな事を考えながら両手を天に向ける。




「とはいえ攻撃しなきゃ始まらない、災悪級土魔法【隕石メテオ】」


「災悪級まで使えるのか……」




 シンの魔法名を聞いてヴァラーグは天から降ってくる大きな石を見る。
 その大きさは60m程の大きさだった。




「ここまでの大きさを出すとは凄まじい魔力だ、だが、神の力を舐めすぎないことだな、すぅ……」




 ヴァラーグが呟きながら大量の空気を肺に入れる。
 そして向かってくる隕石に向かって攻撃をする、




「【神竜の咆哮】」




 ヴァラーグが人の形から龍に戻り大きく口を開ける。
 その大きな口から放たれた強力なブレスはシンが作り出した隕石を包み込むほど大きかった。




「なんだとっ……!?」




 シンはたった一回の攻撃で本気の【隕石メテオ】を消滅させられたことに驚く。
 隕石が消滅したことを確認したヴァラーグは龍の姿から人の姿へと戻った。




「神竜の技を使うことになるとはな、予想以上だ」


「それはこっちの台詞だ、俺の全力の魔法を簡単に防がれるなんて思ってもいなかった」


「簡単ではない、神竜の技は使うたびに魂を削る……魂を削るに値る魔法だった、誇れ」




 ヴァラーグが腕を組ながら地面に膝をつき息苦しそうにしながら話すシンを見下しながら言う。




(あの魔法を魂を削る技とはいえ一発で壊されるとはな……もっと強力な魔法じゃなければ通じないか?)




 シンは息を整えがらそんな事を考える。
 そして腕使ってフラフラしながらシンは何とか立ち上がった。




「……人族の魔法使いよ、お主はまだ余力があるな?」


「はっ……こんなフラフラの俺を見て本当にそう思うのか?」


「普通の魔法使いなら魔法によって使う魔力は決まっている。しかし、お主はその魔力量をコントロールして細かい威力の調整をしている」


「それと何か関係あるのか?」




 ヴァラーグが質問をすると笑いながらシンは答えた。
 しかし、シンはどこか焦っているような雰囲気を醸し出していた。




「それだけ魔力をコントロールできる魔法使いだ、魔法使いでもない我に見えないように魔力を押さえこむなんてのは簡単だろう」


「……ばれてんのかよ」




 ヴァラーグが自信ありげに語るとシンは苦笑いをして額に汗を流して答えた。




「我も長い年月を生きている。お主のような魔法使いもいないことはなかった」


「年長者はやりずらいな……それで? ばれた俺には手が無いんだが」


「嘘をつけ、お主が災悪級程度が本気の魔法なわけがあるわけがないだろう」


「……どこまで知っていやがる」




 ヴァラーグが不敵な笑みを浮かべながらシンに問いかける。
 シンは歯を食いしばりながら苦言を零した。




「お主の奥の手を使ってみろ、我は避けないことを誓おう」


「そんなのを信じろっていうのか?」


「我にも中途半端とはいえ神竜の誇りがある、避けないと言ったら我は避けん」


「……」




 ヴァラーグの鋭い目をシンは正面から見る。
 その目から何かを感じ取ったのかシンは目を瞑りヴァラーグに呟く。




「我の事を信じてくれたか」


「……お前を信じるわけじゃない、俺の自分の目を信じさせてもらう」




 シンは呼吸を整えながらヴァラーグに話を続ける。




「……魔法は級が上がれば威力も上がる、魔法の威力は「使用魔力量×魔法の級」で決まる。魔法の級が上がれば詠唱通りの唱えた場合、使用魔力量も増える。必然的に前の級より強力になる」


「ふむ、面白い考え方だ」


「俺の最大の魔法を放って、残りの魔力を使いきって、お前に効かないならば何をしても俺の負けだ、受けてくれるってんなら、これ以上のチャンスはない」




 シンは体の中に隠していた魔力をゆっくりと解放し始めた。
 その魔力の量は【隕石メテオ】の時に使った魔力量と同じぐらいあった。




「先ほどの攻撃が半分だったというのか、面白い」




 シンの魔力量を見てヴァラーグは嬉しそうに呟いた。
 それとは裏腹にシンは真剣な表情で自分の体の中にある魔力を手にかき集めていた。




「耐えれるって言うなら耐えてみろ、天災級炎魔法【星の灯】」




 ヴァラーグを中心として、大きな魔法陣が東西南北、上と下に出現する。
 その魔法陣が回りだし、ヴァラーグがそれと同時に熱を感じ取る。




「避けはしないが防御はさせてもらうぞ、【神竜の守護】」




 ヴァラーグの背中から大きな翼が出現して自分を包み込んだ。
 神龍の翼は魔法からのダメージを三割に軽減で、物理的な攻撃にも強い。




「燃やしつくせ……」




 シンがそう呟いた瞬間、魔法陣から蒼い炎が出現しヴァラーグを包み込んだ。
 そして、その炎はヴァラーグを中心にして丸く集まり、ヴァラーグを燃やしつくそうとした。

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