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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

始まりの火(閑話)

 
「ベール兄様……」




 アルカは自分の家の庭の端に立ちながらベールを見る。
 ベールは何とか自分の力で椅子から立ち上がろうとする。




「……っ!」


「ベール兄様!」




 机の上に置いた手を震えさせながら立ちあがろうとしたがバランスを崩した。
 アルカは心配そうな顔をしながら、すぐにベールに近寄った。




「なんでだ……なんでだよ!」




 ベールは大声を出しながら机を叩く。
 本来ならばレイドと戦ったベールの筋力ならば机は壊れるだろうが、今のベールでは傷一つつくことはなかった。




「魔道具がなきゃ立ち上がることすらできないのか……!」




 ベールはレイドとの戦いによって精神を壊されていた。
 孤児院のウルも精神が壊されていたがベールはそれよりはマシだった。
 しかし、精神が壊れているというのは重傷であり、マシとはいえ大きな後遺症を患った。




(ベール兄様は筋力補正の魔道具を使わなければ歩くことはおろか立つこともできない……最初は回復も順調に見えましたがすぐに回復は止まりました)




 ベールは地面に座り頭を抱える。
 そんなベールの顔には涙が流れていた。




「うっ……うぅ……」


「ベール兄様……」




 泣いているベールを見てアルカは悲しそうな顔をする。
 ベールは昔から強い男になるために努力をしてきた、それをたった一回の敗北で水の泡になったのだ。
 ずっと妹として兄の努力を見てきたアルカも泣くベールを見て何とも言えない悲しい気持ちだった。




「俺はもう戦うのはおろか自分の力で生活もできやしない……」


「ベール兄様、少しお話があります」




 泣きながらベールが呟いているとアルカが話しかける。
 ベールはアルカの方を見る。そこには何か決意をした目を持ったアルカがいた。




「シンさんに少し聞いた話で可能性の問題ですが、戦闘能力を取り戻せるかもしれません」


「なに!? それは一体!」


「それは……神玉という物らしいです」




 アルカが治る可能性のある方法を今までベールに教えなかった理由はシンから話されたリスクがあったからだった。
 神玉は精神が強くない者が手にすれば命を失う物、精神を一回壊されたベールが神玉に耐えられる可能性は低い。
 そんなリスクがありながらも絶対治るとは言い切れない、という話をついにアルカはベールにした。




「……」


「……」




 二人の間に沈黙が流れる。




「ベール兄様?」




 その沈黙を破ったのはアルカの質問だった。
 質問をしたのは沈黙の中で笑っていたベールの姿を不思議に思ったからだった。




「その神玉ってのは何処にあるんだ?」


「まさか、ベール兄様!?」


「アルカが話したリスクなんてのはないのと一緒だ、今のままの体なら生きていようが死んでいようが大差はない」


「でも……」




 笑いながら語るベールを止めるように声をかける。




「親父も第三夫人の母さん乃入れには期待していないから家を出されたんだ、俺には戦いしかないんだ。昔から戦いしかないんだ」


「命を失ってしまっては……」


「それでもだ、俺にとって戦闘は命をかけるに値する。頼むアルカ、神玉について詳しく教えてくれ」


「……わかりました」




 その後、アルカはベールに知る限りの神玉の情報を教えた。
 アルカが知っている情報は少ない、シンに教わった神玉の情報はリスクと精神的な物を解決する可能性があると言った者だけだった。
 他の情報は自分で図書館に行き調べたあいまいな情報だった。




「なるほど、神の力に近い物か……場所はわからないのか?」


「シンさんに聞いても教えてくれませんでした、かかわると危険だって」


「そうか、ならシンに聞くのが早そうだな、シンの場所はわかるか?」


「シンさんは……」




 ベールにシンは南の国サウスに向かった事を伝えた。
 それを聞いたベールは顎に手を置いて少し考える。




(シンはまたどこかに行ってしまったのか、他に知っていそうなのは……神玉ってもの自体が初めて聞いたからな、知っている可能性があるのは賢者様ぐらいか)




 ベールが頭に浮かべた賢者様とはジュエリニアの東地区にいる世界的に有名な魔法使い。
 魔族の血が入っており長生きで、豊富な知識を持っていることから国から大事にされている。




「アルカ、賢者様の家に連れてってくれるか?」


「本当に行くんですか?」




 ベールは車椅子のような魔道具の椅子に座りアルカに行った。
 アルカはベールを見つめながら心配そうな声色でいう。




「……心配をかけているのはわかっている、だが俺はどうしても取り戻したい、自分の力を」


「わかりました……」




 ベールの強い意思にアルカはついに折れた。
 そして椅子の魔道具を使ってベールを賢者の家まで連れて行った。






 ◆






 アルカとベールは寂れた大きな屋敷の中に入る。
 この屋敷は賢者の家で、用事のあるものは勝手に入ってきていいことになっている。




「すみませんー!」




 アルカが家に入ると同時に大声で呼ぶ。
 返事は聞こえないが、二人は奥に向かう。




「いくら賢者様が強くて犯罪者が来ても追い返せるから入っていいって言ってたとしても声はかけた方がいいんじゃない?」


「問題ない、前に一回会った事があるが、声を返されるまで叫んだらむしろうるさいと怒られたからな」


「そ、それならいいんですが」




 二人が少し奥に進むと、大きな扉があった。
 その扉を開いて中を見ると、そこには大量の本だなと散らかった本があった。




「賢者様、お邪魔しています」




 ベールが部屋の中心にある椅子に座った老人に声をかけ、一礼する。
 アルカもベールに続いて本を見続ける老人に礼をした。




「なに用かな?」




 白いひげと髪の老人……賢者は本から目を話すことなく二人に質問した。




「神玉について何か知っている事はありませんか?」


「……神玉か、お主は何のためにそれを欲する?」


「私はレイドという青年と戦い精神体に大きなダメージを負い、意識を長く失っていました。今は知り合いの魔法使いによって意識を取り戻しましたが、大きな後遺症を患い、日常生活もままならない状態です。神玉を手に入れれば元に戻る可能性があると聞き、賢者様の知恵を貸して頂くために参った次第です」




 ベールは丁寧な言葉遣いで説明をする。
 老人は本を置きひげを触りながら感嘆の声を漏らす。




「精霊を使えるお主をボロボロにできるほどの相手、魔族幹部か何かか?」


「いえ、レイドは普通の人族でした」


「普通の人族ならば奇襲でもされたか」


「いえ、正面から戦い完敗しました」


「レイドか、それほどの強さを持った青年の名前を聞いたこともないとはのぉ、何か特徴はなかったか?」


「そうですね……力を出したときに目に変化がありました、瞳の中に模様がある感じの目に」


「……!?」




 老人は何か気が付いたかのように驚いた表情をしながら勢いよく立ちあがる。
 その突然の素早い動きに2人は少しだけ驚いた。




「すまぬ、取り乱した……そうか、神玉使いが相手だったか」


「神玉!?」


「そうだ、レイドとか言う青年はおそらく神玉を持っている人物のはず、お主が負けるのも頷ける」


「レイドが神玉使い……」




 賢者の言葉でレイドの強さの秘密がわかったベールは呟く。




「それで、神玉についてだったか?」


「はい、何か知っている事がありますでしょうか?」


「そうだな、神玉についてはわしもよくは知らん、しかし、手に入れたいというなら場所を教えるぞ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」




 ベールは深く頭を下げる。




「わしが知っているのはグツグツ火山にある火の神玉じゃ、そこにいるドラゴンが大事そうに持っているという」


「ドラゴンですか……」


「わしは諦めるのを勧める。今のお主の体ではドラゴンを倒すことは不可能だろう」


「……っ!」




 賢者の言葉を聞いたベールは自分の手を見る。力を入れ強く握ろうとするが拳にすることすらできない。
 自分の体が思い通りにならないことに悔しさを覚えたベールは目を瞑った。




「賢者様の知識でベール兄様を直すことはできませんか?」




 そんな悔しそうな顔をしているベールを見たアルカが賢者に質問する。
 賢者は目を大きく開け、ベールを少し見た後に首を横に振った。




「直したという魔法使いは腕が良い、完璧に近い治療だ、これで治らないのであればわしにも治せん」


「そんな……」




 賢者の言葉にアルカも悲しそうな顔をする。
 目を開いて振り返りアルカを見て、握れない拳を震えさせながら質問する。




「賢者様、ドラゴンの情報をください」


「お主、そんな体でドラゴンに挑むつもりか?」


「ベール兄様!?」




 ベールの目と質問から何かを感じ取った賢者は質問で返した。
 それによってアルカも気がつき、大声を出す。




「龍族と違い知能が無いとはいえ、上位種族であることに変わりはない、万全の状態でも怪しいというのに今のお主の体で倒せるわけが無かろう」


「それでも……それでも教えてください!」


「ベール兄様! 考え直してください!」




 冷たい声で忠告する賢者の言葉を聞いてもなおベールは頭を下げる。
 そんなベールを見たアルカはさらに大声を出す。




「自ら死にに行く愚かな者に知識を与えるつもりはない、帰れ」


「お願いします、お願いします!」


「ベール兄様……」




 帰れと強く命令されても一向に諦めないベール。
 その強い意思を心配そうに見つめるアルカも感じることができた。




「俺にはこれしかないんです、戦いしかないんです、それ以外に認めてもらえる物が無いんです……お願いします」


「……」


「お願いします……お願いします……」




 そっぽを向く賢者に深く深く頭を下げて頼みこむ。




「……火山にいるドラゴンは火に高い耐性を持つ。口から放たれるブレスは岩も溶かすほど高温。龍種特有の硬い皮膚も、もちろん持っている」


「賢者様……」


「これはただの独り言だ、聞くのもよし、聞かぬもよし」


「…っ! はい!」




 賢者の独り言をベールは脳内にしっかりメモした。






 ◆






「お主は本当に行くつもりか?」




 独り言を終えた賢者が最後にベールに質問をした。
 そんな賢者を見ながらベールは真剣な顔つきで返した。




「はい、ご協力していただきありがとうございました」


「……わしは独り言を言っただけだ」


「そうですね……では、私は帰ります」




 そう言ってベールとアルカは賢者に背を向けて部屋から出て行こうとする。
 そんな背中を見ながら賢者はアルカに質問をする。




「そっちの女よ」


「わ、私ですか?」




 アルカは振り返って返事をする。




「そやつはお主が連れていかなければドラゴンの場所も出行くことすらできん、お主は連れて行くのか?」


「……はい」


「そやつの親族なのだろう? いいのか?」


「……本当は言ってほしくないです。ですが、ベール兄様は三歳しか違わないのにもかかわらず私の面倒をずっと見てくれました。わがままを言ったこともあります。でもベール兄様はそれでも面倒を見続けてくれました。一度の我儘ぐらいは聞いてあげたいんです。今までの恩返しとして」


「その我儘でそやつが死ぬとしてもか?」


「はい、それでもです」




 髭を触りながら真剣に質問をする賢者にアルカは目を会わせ続ける。
 質問一つ一つに様々な感情を乗せながら返していった。




「お主らは愚かだな、実に愚かだ」


「わかっています」


「……愚かな者には説教をしたい性格でな、しかし、今から本を読むため後になってしまう。三日後必ずここに来い」


「賢者様……」


「早く行け」


「「……はい!」」




 二人は大きく返事をして部屋から出て行った。

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