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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

村(シン編)

 
 シンはルージュと戦った後、疲れを癒すために近くにあった村で休憩をしていた。
 三日しかない休憩のため使いたくはなかったようだが、疲れが思いのほか多いため仕方なく宿に止まっていた。




(この村の人が親切でよかった、いきなり来た俺を歓迎してくれるなんてな…貴族だと思われて、最初は委縮していたが隠すことは隠しながら説明したら理解してくれた)




 シンは村を観光するように歩いて回った。
 とはいえ、小さな村の為、観光する場所もなくすぐに終わってしまった。




「お兄ちゃん!」


「うん…?」




 宿に戻ろうとしていたシンの服の袖を引っ張って名前を呼ぶ。
 シンはその声に反応して振り返ると、そこには三人の子供がいた。




「どうしたんだ?」


「お兄ちゃんって商人さんなんでしょ? 家の中でもできる遊びない? お父さん達は畑で忙しいくて夜しか遊べないから……」




 袖をひっぱている子供は下を向きながら悲しそうな顔をする。
 シンが周りを見ると、確かに大人たちは畑で忙しそうだった。




(それもそうか…この村はノーム・イガウが納めるノーム国の領地にある。ノーム侯爵は納税に厳しいうえに税が多いからな、少しでも収穫量が減れば死人が多く出るんだろう)




 シンの予想は当たっていて、この村は税を払った場合、村人を食べさせるのがギリギリなのである。
 食料を渡すという条件で止めてもらったシンはその理由もあってか歓迎されている。




(この世界は家の中で行う遊びはない、基本的に泥遊びか鬼ごっこぐらいだろう……)




 さらに、シンは迷っていた。自分の頭の中にある子どもでもできる遊びはある。
 しかし、異世界の知識を無駄に与えてしまっていいものか? 何か影響があるのではないか? と。




「うーん…」


「お兄ちゃん、ダメ?」


「ガイ、止めなよ、お兄ちゃん困ってるって」


「そうだよ」


「でもさ…」




 袖を引っ張っている男の子…ガイは悲しそうな顔をした。
 それを見たシンは新しい遊びを教えることにした。




「よし、止めてくれたお礼もあるから教えるよ」


「本当!? やったぁ!」


「わーい! それでなんていう遊びなの?」


「オセロっていうんだ」






 ◆






 シンは村の子供たちと、興味ありげについてきた村人の前に座っている。




「上級土魔法【石操】」




 シンの手の上に大きな石と白と黒の二種類の石が出現し、グニャグニャと形が変わる。
 そして、その石はオセロの板とオセロの駒に変化した。




「魔法だー! 初めて見た!」


「見たことない物ですね……どうやって使うのですか?」


「ルールは簡単です。まず最初に、黒白 2 個ずつクロスさせ、黒が左手前になるように配置します。
 黒が先手で、つまり一手目を打つのは黒です。打った石と他の自分の色の石とで縦・横・斜めのいずれかの方向で挟んだ相手の色の石を裏返して自分の色に変えます。
 打てる場所がある限りは必ず打たなければなりません。もし、撃つ場所が無かった場合は相手のターンになります。
 最終的に自分の色が多いほうが勝ちとなります」




 オセロとはシンプルな遊びである。しかし、シンの頭の中のトトの情報にはオセロという物はなかった。
 初めて聞いた遊びに村人たちは少し困惑していた。




「言葉にすると難しく聞こえるかもしれませんが、やってみると簡単な遊びです。誰か最初にやってみたい方いますか?」


「はい!」




 シンがそう質問すると、ガイが勢いよく手を上げた。
 そして、その隣にいるガイの父親も手を上げていた。




「あまり息子と遊ぶ機会が無いので、よろしいでしょうか?」


「はい、息子さんも喜ぶと思いますよ」




 こうして親子対決は始まった。どちらも慣れていないとはいえ、思考力では大人が勝る。
 しかし、オセロは子供でも工夫しやすいゲーム。ガイも善戦はできた。




「お父さん、強ーい!」


「だろ? お父さんは強いんだ」




 ガイ親子のほほえましい様子に自然と和やかな空気ができていた。
 二人の楽しそうな様子を見た村人たちは「俺もやってみたい」「私も」とばかりに一個のオセロに集まった。




「もう少し作るか、魔力の練習にもなりそうだしな」




 シンは小さく呟きながら多くのオセロを作った。
 騒がしくなればさらに人が集まり、人が集まれば騒がしくなる。
 気が付くと、シンがいた家には村人の全員が集まっていた。




「お兄ちゃんはやらないの?」




 ガイのその優しい言葉にシンは反応する。
 シンは他の人たちと違いオセロの戦い方を知っている。
 もし、自分がやってしまったら楽しさが半減してしまうのではないかと考えていた。




「シンさんもやりましょうよ! 考案者の実力を見せてほしいです!」


「私も見てみたい!」


「俺も俺も!」


「……」




 村人のその言葉でシンの迷いは無くなった。
 椅子から立ち上がり、勝ち続けている賢そうな男性の前にある椅子に座る。




「こいつは村で一番頭が良くてな、知ったばかりなのに俺らじゃ相手にもなんないらしくてな」


「考案者ならば私より強いでしょう、お手並みを拝見させて頂きます」


「お手柔らかに」




 シンは笑いながら村一番の賢者とオセロを始める。
 結果は当然シンの勝利だった。8×8で64枚の駒は全てシンの色になった。




「……」


「……」




 シンの圧倒的な勝利を見た村人たちの中に静寂が訪れる。
 そんな様子を見てシンは頭を抱える。




(やってしまったな、久しぶりに前世のゲームをやって、そこそこ強かったからって楽しくなってしまった……これは失敗だな…)




 シンは改めて自分の周りを見る。そこには静寂の時がまだ続いていた。
 それを見たシンは深く、深くため息をついた。




「はぁ…」




 シンのため息と同時に近くにいた人の手がプルプルと震える。




「すげぇぇぇ!」


「神業だぁぁ!」


「ま、参りました…!」




 静寂というのは強すぎて飽きてしまったからではない。
 シンの実力を見てみんな驚きのあまり声が出せなかっただけである。




「お兄ちゃん、めっちゃ強い! お父さんなんて大したことなかったんだ!」


「シンさんと比べられちゃ、言いかえせねぇよ…」




 息子の言葉を聞いたガイの父親はがっくりを肩を落とす。
 それを見た村人たちの中では大きい笑い声が上がった。




「私も井の中の蛙だったのでしょうか?」


「その言葉をどこで…!?」




 シンは村一番の賢者から放たれた言葉に反応して質問する。
 賢者は上を少し見て言葉の出所を思い出す。




「そうですね、確か……昔にいた世渡人の方が言っていた言葉だと歴史い詳しい方が言っていた気がします」


「それは何年ぐらい前で誰が言ったかわかりますか?」


「えーと……おそらくですが、80万年前ぐらいですかね、名前は発音しにくい名前でした…そぉしぃみたいな名前だったかと」


「80万年…あ、ありがとうございます」




 シンは80万年という言葉を聞いて少し嬉しそうな顔をした。




(他の世渡人の情報がこんなところで手に入れられるとは……本にはあまり載ってないし、トトの情報にも無かったからな……それにしても嬉しい誤算だった、荘子ならば向こうの世界で約800年前の人物、それで80万年前だ、つまりこっちの世界は前世の1000倍のスピードで時が流れている事になる。帰ったとしても時が随分と流れてましたじゃ悲しいからな)




 シンにとって最終的な目標は神玉を全て集め家族を生き返らせ幸せに生きること。
 そのためにも向こうの時の流れを知ることは必須だった。




「シンさん、いきなり黙って大丈夫ですか?」


「あ、はい、少し嬉しいことがありましてね。今日はよく眠れそうです」


「それは良かった! 私たちもシンさんには楽しませていただきましたから。シンさんが良ければ住んでほしいですよ」


「そう言っていただけるとありがたいです」




 シンはお礼をしながら周りをきょろきょろと見る。
 その理由は何かの違和感に気が付いたからである。この村には女の子がいないのである。




「すみません…」




 シンは近くにいた村長の耳元で呟く。
 他の者たちはオセロで盛り上がっていて気が付いていない。




「この村では女子が見つからないのですが…」


「……」




 シンがそう言うと楽しそうだった村長の顔が一気に悲しい物に変わった。
 それに気が付いたシンはすぐに謝った。




「すみません、聞かれたくないことを詮索してしまい…」


「いえいえ、いいのですよ、シン殿には食料を頂いておりますので」




 シンは村に止まる際に追加で食料を渡していた。
 その理由は情報が必要な時に質問をすれば嘘偽りなく返してもらうためだった。
 そのため村一番の賢者に聞いたときに細かく説明してくれたのだ、しかし、聞きにくいことを教えさせようとはシンは考えてもいなかった。




「少し場所を移動しましょうか…」




 村長がそう言って外にシンを連れていった。
 それに気が付いた村一番の賢者も付いていく。




「話しにくいことならば…」


「大丈夫です。この近くの者は皆そうエスからいつかは知ることになりますし」




 村長が悲しそうな顔をしながらシンに語る。




「この村…いえ、ノーム様の領地である近辺の村は何の税を課せられているか知っていますか?」


「農作物の7割だと認識していますが」


「そうなのですが、農作物の7割など払えるわけがありません」


「……」
(それはそうだ、村の人数と畑の量を考えれば7割も納めるわけにはいかない)




 村長は悲しい顔から悔しそうな顔に変化させ言った。




「ノーム様は払えないのならば女の子供を差し出せと言ってきました…!」


「……」


「もし抵抗すれば私たちは反逆者として殺されてしまいます。毎年、未来のある小さき子どもを渡してきました…」




 シンは村長の眼から流れる涙に気が付いた。
 村長とその横にいる村一番の賢者も泣いてはいないものの拳を強く握っていた。




「なぜ大人の女性を要求しなかったのでしょうか?」




 性欲の発散が目的ならば大人の女性を要求するはずだとシンは考え質問をした。




「ノーム様の趣味が幼女だからだ、大きくなれば帰ってくる。この村にいる連れ去られた女性の中には帰って来た者もいる」


「者もいるということは…」


「ノーム様の好みは幼女ですが、性癖は暴行で苦しみを与えることです。帰らぬ者になった者がほとんどです」




 質問には村一番の賢者も応えた。
 シンがこの村を観光している時に何人か家にこもっている人間を見つけたのにも納得がいった。




「ですが、その地獄も終わりでしょう」


「何かあるのですか?」


「人族同士の戦争が始まります。人族同士の戦争が始まればノーム国は破れます。抵抗しなければ今の状況よりはマシになることでしょう」


「国を捨てるということですか…?」




 自分の国が負けるというのに嬉しそうに語る。
 そんな村長をシンは見ながら言った。




「そうですね、先代の王様にはとてもお世話になりましたが、既に愛国心はありません」


「それもそうですね…」


「ふぅ…こんな辛気臭い話を聞かせてしまい申し訳ありませんでした」


「貴族の印をつけている自分が国の使いだとは思わなかったのですか?」


「…その可能性もありましたが、シン殿が今のノーム国の貴族だとは少しも思えませんでした」




 ノーム国の貴族は平民を見下し、好き勝手にやっている貴族。
 村人と共に楽しく過ごすシンを村長の目には少し厄介な理由を持った商人に見えたのだろう。




「さて、おせろの騒ぎも静かになるころでしょう。帰りましょうか」


「そうですね…」






 ◆






 シンは帰った後、なぜか厨房にいた。
 その理由はオセロを考えられる人ならおいしい料理も知っているんじゃないかといった根拠もない理由からだった。




「どうしたものか…」




 シンは材料庫を見ながら真剣に考える。
 下手な物を作ってしまっては申し訳ないし、材料的に作れる者も限られてくる。




「この肉の名前とかも知らないからな…」




 シンはおいてある肉を手に持って呟く。
 トトから神がもらった情報は歴史や地理や魔法や神玉のことがほとんどで、食材などの知識は1ミリもない。




「この世界にはひき肉という物はなかったよな? ならあ《・》れ《・》もないだろ」




 シンは塩や湖沼ではない味付け用の調味料と油、パンと玉ねぎのような野菜と肉を近くに持ってきた。
 そしてシンは魔力の調整を行い、ごくわずかの魔力を使い、肉に魔法を使う。




「初級氷魔法【凍結】」




 シンの魔法により肉が氷漬けになる。
 そして次は凍った肉とパンと野菜を近くにおいて魔法を発動する。




「加減を間違えると大変なことになるからな…上級風魔法【風斬エアカッター】」




 シンは先ほどよりさらに少ない魔力で魔法を発動する。
 放たれた小さな風の魔法が食材を粉々にした。




「あ、忘れてたけど……これって魔物の卵とかじゃないよな?」




 シンは下にしまってあった普通の卵のように見える卵を見ながらつぶやく。
 この世界に来て鶏を見ていないシンは卵に対して不安を感じていた。




「まぁ…大丈夫だろう!」




 シンはそう言って切り刻んだ食材と卵を混ぜ始めた。
 そう、シンが作っているのはハンバーグだった。




(この世界に来てから感じたのはスープ以外は簡単な調理方法でしか作られていないということだ。スープには種類があるが他の料理は焼くか煮るか蒸すかぐらいだった…)




 シンのいう通りこの世界の料理はシンのいた前世と違い簡単な調理方法でしか作られていない。
 その理由としては¥ぢ館が掛かってしまう料理を日ごろから食べていると戦争時に食べる質素なご飯に耐えられないからというものだった。
 そんなことで変わるのかといわれればどうかわからないが、この世界はそう考えられていた。




「よし、できた!」




 シンは様々な魔法を使いながらハンバーグを無事に完成させた。
 そのいい匂いから近くにいた人たちは楽しみとばかりに椅子に行儀よく座っていた。




「お兄ちゃん! 早く!」


「お待ちどう様」




 シンがお皿に綺麗に盛り付けて机の上に出す。
 そのおいしそうな見た目と臭いから村人たちはきらきらと目を輝かせていた。




「おいしそ―! なんていうの?」


「ハンバーグっていう料理だ、このタレをかけて食べるんだ」




 シンは他の器に用意してるタレをハンバーグに掛けた。
 よりいい匂いになったハンバーグを見て大盛り上がりする。




「もう我慢できない!」




 ガイがそう言いながらハンバーグに手をつける。
 それと同時にしっも他の村人もハンバーグに手をつけた。




「美味しい! なんだこれ美味しすぎるだろ!」


「俺もこんな美味しい食べ物は初めて食った!」




 村人たちは新しい味に大興奮しながら手を動かす。
 そんな村人とは違い製作者のシンは微妙そうな顔をしていた。




(うーん、少し微妙だな……何が悪かったんだろうか? なにかこう、苦味があるというか…?)




 シンが原因を考えていると食べている村人が何かに気がつき声を上げる。




「これってブギーの卵が使われてるんじゃないか?」


「そうか! だからちょっと食べたことあるような味なんだ!」


「ブギー?」




 何か嫌な予感を感じ取ったシンは恐る恐るブギーの正体を村人に尋ねる。
 そんなシンを見た村一番の賢者は持ち歩いている本を開いてブギーの絵を見せる。




「ブギーとはこれです!」


「……!?」




 シンは絵を見た瞬間に口を押さえトイレに向かった。
 トイレからは何かを吐きだすような音が聞こえた。




「それにしてもブギーの卵でこんな美味しいのが作れるとはな」


「いつもは畑の葉っぱ食べつくす魔物だけど少しはいいことあるってもんだな!」




 村人たちは気にもしないかのように笑いながらハンバーグを食べ続ける。
 そんなことは目もくれずシンは口に入れたハンバーグを吐き続けた。






 ◆






 朝になるとシンは既に馬車の前にいた。
 すぐにでも南の町に向かうために。村人たちは残ってみないかと止めてみたがシンは断った。




「シンさん、昨日はとても楽しかったです。また機会がありましたらお会いしましょう」


「はい、次はもう少し滞在したいと思います」




 シンはそう言って馬車に乗り込んだ。
 村人たちは南に走っていくシンを見ながら手を振っていた。




「……しかし、ブギーとかいう魔物は見つけたら確実に殺さなければな、俺に不快な思いをさせたことを後悔させてやる」




 馬車の中でシンは一人でひそかに怒っていた。
 シンは前世から虫だけはどうも苦手だったらしい。

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